特集 研修医が身につけるべき 輸液の理論と実践のポイント 7-b 7-b. 具体例を通じて学ぶ輸液:糖尿病性ケトアシドーシス 脂肪細胞 脂肪分解促進 血漿 FFA 増加 はじめに TG 糖尿病の代表的な急性合併症に糖尿病性ケトアシドーシ 宮下真理 1) 仁科祐子 2) 林 道夫 3) 1)NTT 東日本関東病院 糖尿病・内分泌内科 2)NTT 東日本関東病院 糖尿病・内分泌内科 医長 3)NTT 東日本関東病院 糖尿病・内分泌内科 部長 相対的作用不足と(血管内)脱水が挙げられる.本章で は,2 つの病態の臨床像を比較し,とくに DKA の病態生理・ 臨床像・輸液を含めた治療法を解説する. 1. 糖尿病性ケトアシドーシスと 高浸透圧高血糖症候群の病態生理 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の 病態生理 DKA は,インスリンの絶対的欠乏により生じる代謝失 Point Point ❶ ❷ ❸ 糖尿病性ケトアシドーシスの治療 ができる. 症例に応じた適切な治療を選択で きる. 2015/7 Vol.8 No.7 クエン酸 回路 ケトン体増加 型糖尿病でもインスリン強化療法中の症例では,食事量が少 なくても持効型インスリンを休薬しないほうが安全である. 高浸透圧高血糖症候群(HHS)の病態生理 モンの分泌が亢進し,脂肪細胞での脂肪分解や肝臓でのケ 起こすが,ケトン体産生やアシドーシスは軽度で,むしろ トン体産生が亢進し,高ケトン血症(ケトーシス)を呈す 高血糖によって生じた浸透圧利尿による脱水が病態の中心 となる( 図 2 種々の要因 ・下痢・発熱 ・消化管障害 ・腎障害 ・他の脳障害 ・高齢 ・IVH 高血糖 ・不適切な糖尿病治療 ・中心静脈栄養(IVH) ・他疾患合併によるストレス増大 浸透圧利尿 多飲 脱水 ) . HHS は,感染症などの急性疾患,高カロリー輸液,ス ではあるが,通常の pH ではイオン化しており,過剰に蓄 テロイド治療を誘因として 2 型糖尿病患者に発症する.高 積されると血液の酸性化を引き起こす.この際の脳機能不 齢者は口渇中枢の機能低下により血漿浸透圧が上昇しても ADH 分泌亢進 →Na の希釈 全徴候として意識低下〜昏睡に至る.死亡率は先進国で5% 飲水行動を行うことができないことがあり,HHS を起こ 未満,発展途上国では 6 〜 24%とされている . しやすい. 主に,1 型糖尿病の発症時や,1 型糖尿病患者がインス 以前は高浸透圧非ケトン性昏睡と呼ばれていたが,ケ リン注射を中断した場合に発症する.内因性インスリン分 トーシスを伴うことがあることと,昏睡を伴わないことが 泌が枯渇した症例では,わずか 1 〜 2 日でも不用意に持効 あるため,高浸透圧高血糖症候群と称されることとなった. 口渇 循環虚脱 図2 高齢者 腎障害 高浸透圧血症 1) ロキシ酪酸がある.アセト酢酸,3- ヒドロキシ酪酸は弱酸 2) FFA: 遊 離 脂 肪 酸(free fatty acid) ,TG: 中 性 脂 肪 (triglyceride) 発症することがある(清涼飲料水ケトーシス→メモ 13)) .2 対的作用不足によって生じる状態である.著しい高血糖は .ケトン体にはアセト酢酸,アセトン,3- ヒド 1) 図 1 糖尿病ケトアシドーシスの病態生理(文献 より引用) 肝細胞 やコルチゾール,アドレナリンなどのインスリン拮抗ホル 脳実質脱水 高血糖・高浸透圧症候群の病態生理(文献 1)より引用) 生理的防御機構( )とその破綻(×) IVH:中心静脈栄養(intravenous hyperalimentation) ,ADH:抗利尿ホルモン (antidiuretic hormone) 型インスリンを中断すると DKA を生じることを理解する 必要がある.感染,脳血管障害,アルコール中毒,膵炎, 心筋梗塞などが契機となることもある.1 型糖尿病患者の 8.6%が発症するとも報告されているが,1 型糖尿病に特有 の病態ではなく,2型糖尿病でも内因性インスリン分泌が枯 渇した状態では起こりうる.また,比較的若年の肥満者な どで,2型糖尿病患者が清涼飲料水の多飲を続けた場合でも 58 レジデント アセトアセチル CoA 一方で,HHS は,インスリンの絶対的欠乏ではなく相 1) Point カルニチン 調状態である.極度のインスリン欠乏により,グルカゴン る( 図 1) 糖尿病性ケトアシドーシスと高浸 透圧高血糖症候群の違いを説明で き,糖尿病性ケトアシドーシスを 診断できる. アシル CoA アセチル CoA グルカゴン増加 共通する病態として,インスリンの絶対的欠乏あるいは, 糖尿病性 ケトアシドーシス FFA 増加 ス(diabetic ketoacidosis;DKA)と高浸透圧高血糖症候群 (hyperosmolar hyperglycemic syndrome;HHS)がある. 具体例を通じて学ぶ輸液: インスリン絶対欠乏 メモ 1 清涼飲料水ケトーシスについて インスリン非依存状態の糖尿病患者が,糖質を豊富に含有する清涼飲料水の過飲を契機にケトーシスを伴って糖尿病を発症することがある. 清涼飲料水で生じた高血糖による口渇に対し,さらに清涼飲料水を多飲するという悪循環が,高血糖をますます助長させる.一般に肥満し た若年男性に多く,著明な高血糖とケトーシス(場合によってはケトアシドーシス)を示す.ブドウ糖毒性による著明なインスリン分泌の 低下と高度なインスリン抵抗性が,清涼飲料水ケトーシスに共通した重要な病態生理であることが推測されている 3).インスリン治療によ り血糖コントロールが改善すると,多くの症例がインスリン治療から離脱できることが多い. レジデント 2015/7 Vol.8 No.7 59
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