加速器超伝導磁石技術の現状と展望 高エネルギー研 山本 明 連続運転にあっても、超伝導線のロードライン 1. はじめに 比で 80 %に達する高水準での安定した性能が 高エネルギー粒子加速器では、装置の高エネ 求められる。[1, 2] ルギー化、大型化に伴い、超伝導磁石が不可欠 な基盤技術となっている。加速器分野における 超伝導磁石技術の進展と今後の展望を紹介す る。 2. 加速器における超伝導磁石技術の現状 米国・フェルミ国立加速器研究所(FNAL)にお いて、1985 年にはじめて実用化された超伝導 加速器の完成以来、20 年を経過した現在、国 際的に、3つの大型粒子加速器が超伝導磁石を 主要構成要素として稼働している。また、2007 年完成を目標に、欧州原子核共同研究機関 (CERN)にけるラージハドロンコライダー(LHC) 加速器の建設が進んでいる(表1、図1)。 LHC 計画では、NbTi 超伝導体の性能を最大限に引 図 1. 加速器用超伝導磁石 き出すため、超流動ヘリウム冷却によって、9T 級超伝導磁石を実用的に用いる。超伝導磁石の 3. LHC 加速器計画における国際協力 設計にあたって、超伝導体内での臨界電流密度 LHC 計画では、ヨーロッパの各国はもとより、 への要求は~ 3kA @ 8 T, 1.9 K となり、長期 表 1. アメリカ、日本、ロシア等が LHC 計画に対する 加速器名 超伝導技術による高エネルギー粒子加速器の発展 TEVATRON HERA RHIC LHC 研究所(国) 粒子エネルギー 加速器周長 加速リング数 双極磁石磁束密度 コイル内径 長さ 個数 FNAL (USA) 0.98 6.3 1 4.4 76 6.1 774 DESY (G) 0.82 6.3 1 (+1) 4.7 75 8.8 422 BNL (USA) 0.1/amu 3.8 1 3.5 80 9.7 288 CERN (Int.) 7 26.7 2 8.3 56 15 1232(x2) NbTi (4.2 K) 300 K 1985 NbTi (4.2 K) 4.2 K 1990 NbTi (4.2 K) 4.2 K 1998 NbTi (1.9 K) 1.9 K (2007) (TeV) (km) (T) (mm) (m) 超伝導体 (温度)((K) 鉄ヨーク温度 完成年(予定) 38 準メンバー国として協力をしている。 日本は、 4. 将来計画、高磁場磁石開発にむけて LHC 加速器における4カ所のビーム衝突点(図 今後、CERN/LHC 加速器の完成後、さらなる高 2)におけるビーム収束用四極超伝導磁石(表 輝度(高頻度衝突)化、エネルギーアップグレ 2、図3)の開発を分担し、約5年間に亘る、 ードをめざした開発が求められている。10~15T 基礎開発と、3年間に亘る実機製作、低温での 領域における加速器用・精密磁場高磁場超伝導 性能試験期間を経て、昨年度、計画を完了した。 磁石の開発が求められ、 A15 系超伝導体(Nb3Sn, [3, 4] Nb3Al)等を用いた磁石技術への取り組みが今 後の重要な課題となる(図 4 参照) 。超伝導線 CMS 材への要求は、臨界電流密度 2000 A/mm2 @ 12 Spare Dump T, 4.2 K が大きな目標となる。[1, 3] 5 4 Cleaning 6 3 Cleaning 7 2 LOADING / SURVEY FLAT LAMINATED IRON YOKE COIL 8 1 SPACERCOLLAR ALICE LHC-B KEY A TLA S Low-β Quadrupoles Inner Triplet Inner Triplet HELIUM PASSAG 図2.LHC 加速器、衝突点、実験のレイアウト。 HELIUM VESSEL ELECTRICAL BUS 図3.衝突点用四極電磁石断面図(KEK)。 表 2. 衝突点四極磁石のパラメータ(KEK) 4000 (T/m) (mm) (mm) (m) (T) (A) 215 35 235 6.37 8.63 7149 0.80 (mH) 87.9 (MJ) 2.24 (MN/m) 1.19(rad) 1.37 (az) NbTi(4.2K) NbTi(1.9K) (NbTa)3Sn(PIT) Nb3Sn(RRP) Nb3Al(RHQT) Nb3Al(RHQT) 3500 3000 2500 Jc (A/mm2) Field gradient Coil inner radius Yoke outer radius Magnetic length Peak field in coil Excitation current Superconductor load line ratio Inductance Stored energy Magnetic force / octant 2000 1500 1000 500 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 B(T) 図 4.NbTi, Nb3Al, Nb3Sn の臨界電流密度の比較。 39 5. 加速器における超伝導高周波技術 粒子加速の為の高周波(DF)空洞の超伝導化 は、高エネルギー研・トリスタン計画における 超伝導空洞の実用化、長期連続運転以来、国際 的な流れとなり、超伝導技術による『高電界、 省電力』化が進展している。今後、国際リニア コラーダ計画、また、放射光加速器施設におけ る、Energy Recovery Linac (ERL)等での超伝 導加速空洞の大規模な開発が期待される。最近、 これらの基礎開発で、加速電界、50 MV/m が KEK において達成された。 1. まとめ 高エネルギー加速器の分野では、加速器用超 伝導磁石および加速空洞技術が不可欠な基盤 技術となっている。超伝導磁石においては、 NbTi を 1.9K で用いて 9T 級の磁石が実用化さ れようとしている。 ま た 今 後 は 、 Nb3Sn, Nb3Al 等を活用した 12~15T 級の磁石開発が進 む。 超伝導加速空洞では、Nb を用い形状、 表面処理技術の向上により、50MV/m の加速電 界記録が達成されている、今後、国際リニアコ ライダー計画の進展により、さらに超伝導技術 の進展が期待される。 文献 1) A. Yamamoto, “Advances of superconducting magnets in particle physics”, IEEE Trans. Applied Superconductivity, Vol. 14, No. 2, (2004) pp.477 – 485. 2) 新冨孝和,“大型超伝導加速器の現状と展望”、応用 物理、66 巻、4 号 (1997) pp.365 – 368. 3) 山本 明、”CERN との国際協力-LHC 加速器用超伝 導自社 k うの開発協力“、加速器、Vol. 2, No. 2, (2005) pp.263-269. 4) http://lhc-new-homepage.web.cern.ch/ 40
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