平成18年度 構造有機化学 講義スライド 復習:混成軌道 軌道のs性とその応用 奥野 恒久 混成軌道について 混成軌道を作成する上での注意点 ・混成軌道の向いている方向 ・エネルギーが等しくなるように作成する。 混成軌道内においてs軌道、p軌道の寄与は等しい ・規格直交系であること 混成軌道として規格化されていること 混成軌道間の重なり積分が零であること sp混成軌道 ・2s軌道と2pzとを混成させる + + sp混成軌道 2s軌道 2s軌道の波動関数:Φs 2pz軌道の波動関数:Φpz sp混成軌道:ψ1sp, ψ2sp 2pz軌道 sp混成軌道 ・2s軌道と2pzとを混成させる sp ψ1 = a Φs + b Φpz sp ψ2 = a Φs - b Φpz 2s軌道(球対称)の寄与は等価 sp混成軌道の方向:(1, 0) と(-1, 0) a2 + b2 = 1 (規格化) a2 - b2 = 0 (直交) ψ1sp = 1/√2 (Φs + Φpz) ψ2sp = 1/√2 (Φs - Φpz) a = b = 1/√2 sp2混成軌道 ・2s軌道と2px, 2py を混成させる + sp2混成軌道 2s軌道 + + + + 2px軌道 2py軌道 sp2混成軌道 -- 幾何学的に算出する方法 -- y 1.混成軌道を描き、軌道の先端方向にベクトルを 与える。(大きさは問わない、今の場合は単位円) (-1/2, √3/2) 2.s軌道の寄与は均等にし、p軌道の寄与はこの ベクトルに比例させる。 x (1,0) (-1/2, -√3/2) ψ1sp2 = aΦs + b(1×Φpx+ 0×Φpy) ψ2sp2 = aΦs + b(-1/2×Φpx +√3/2×Φpy ) ψ3sp2 = aΦs + b(-1/2×Φpx -√3/2×Φpy ) 3.規格化条件等により 係数を決定する。 a2 + b2 = 1 a2 - b2/2= 1 a = 1/√3 b = 2/√3 sp2混成軌道 ψ1sp2 = 1 / √3 Φs + √(2 / 3) Φpx ψ2sp2 = 1 / √3 Φs - 1 / √6 Φpx + 1 / √2 Φpy ψ3sp2 = 1 / √3 Φs - 1 / √6 Φpx - 1 / √2 Φpy sp3混成軌道 -- 幾何学的に算出 -- ・一辺2の立方体を考え、その中心を原点にとる。 z (-1,-1,1) (-1,1,1) (1,-1,1) (1,1,1) y x (-1,1,-1) (-1,-1,-1) (1,-1,-1) (1,1,-1) sp3混成軌道 -- 幾何学的に算出 -- ・一辺2の立方体を考え、その中心を原点にとる。 ・4つの頂点を結ぶと正四面体になる。 z (-1,-1,1) (1,-1,1) (-1,1,1) (1,1,1) y (-1,1,-1) (-1,-1,-1) x (1,-1,-1) (1,1,-1) sp3混成軌道 ・4つの頂点を結ぶと正四面体になる z ψ1sp3= aΦs +b(+Φpx+Φpy+Φpz ) ψ2sp3= aΦs +b(-Φpx+Φpy-Φpz ) (-1,1,1) (-1,-1,1) (1,-1,1) ψ3sp3= aΦs +b(-Φpx-Φpy+Φpz ) (1,1,1) ψ4sp3= aΦs +b(+Φpx-Φpy-Φpz ) y x (-1,-1,-1) (1,-1,-1) (1,1,-1) (-1,1,-1) a2 + 3b2= 1 a2 - b2= 0 a = 1/2 b = 1/2 sp3混成軌道 ψ1sp3= 1/2(Φs +Φpx+Φpy+Φpz ) ψ2sp3= 1/2(Φs -Φpx+Φpy-Φpz ) ψ3sp3= 1/2(Φs -Φpx-Φpy+Φpz ) ψ4sp3= 1/2(Φs +Φpx-Φpy-Φpz ) S性とは ψ = a Φs + b Φp と表わせる場合、 S = a2 / (a2 + b2) をS性として定義する 混成軌道は一般にsa2pb2となる sp混成軌道ではS性0.5 あるいは50 % sp2混成軌道ではS性0.33 あるいは33 % sp3混成軌道ではS性0.25 あるいは25 % S性は不連続?それとも連続?? X X C X C X h1 = Φpx cos(/2)+Φpysin(/2) h2 = Φpx cos(/2)-Φpysin(/2) 規格化はされているが、両者が直交していない! ∫h1h2dt =∫{Φpx2cos2(/2)}dt- ∫{Φpy2sin2(/2)}dt = cos2(/2)-sin2(/2) = cos X h1 = Φpx cos(/2)+Φpysin(/2) C X h2 = Φpx cos(/2)-Φpysin(/2) s軌道の寄与を加え、両者を直交させる! ψ1 = a Φs + b h1 ψ2 = a Φs + b h2 a2 + b2 = 1 (規格化) a2+b2cos = 0 ∫ψ1ψ2dt =∫(aΦs + b h1)( aΦs + b h2)dt = 0 a2∫Φs2dt + ab∫Φs h1dt+ ab∫Φsh2dt+b2cos = 0 a2+(1-a2)cos = 0 a2(1-cos) = -cos a2 = cos/(cos-1) 軌道のS性 軌道のS性= a2 cos = cos - 1 0.5 S character 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 100 140 120 160 180 シクロプロパン環の場合 H 問題:C-H及びC-C結合を形成している 軌道の混成状態について答えなさい。 H H H H H 114.5º 方針:C-H結合を形成する軌道のs性 を求めた後に、C-C結合を形成してい る軌道のs性を求めていく。 a2 = cos/(cos-1) だから a2 = cos114.5º/(cos114.5º-1) a2 = -0.4147/-1.4147 = 0.2931 C-H結合のs性 29 %より s0.29p0.71 C-H結合: C-C結合: s0.21p0.79 1 - 0.29 = 0.71 (1 - 0.29 X 2) / 2 = 0.21 1 – 0.21 = 0.79 シクロプロパン環の場合 H 問題:2つのC-C結合のなす角度を求めよ。 H H H 方針:C-C結合を形成している軌道の s性からなす角度を求めていく。 a2 = cos/(cos-1) だから H H 114.5º 0.21 = cos/(cos-1) -0.21 = 0.79cos cos = 105.4° 2つのC-C結合のなす角度は105.4°?? シクロプロパン環の場合 2つのC-C結合のなす角度は105.4 º?? H H H H 105.4º H H 114.5º C-C結合を形成している軌道は 原子間を直線で結んだ直線から 約22.7 º外側に張り出している。 バナナボンド S性 S軌道の電子はp軌道の電子よりも 原子核に近い領域に存在する S性が大きい 電子は相対的に原子核に近い 領域に高い存在確率をもつ 電気陰性度が大きい ことに相当する s性がもたらす物理的影響 n 3 4 5 6 C-H/Å 1.083 1.093 1.114 1.110 C-C/Å ∠HCH/º C-H/s 1.501 114.5 0.30 1.552 106.0 0.27 1.546 0.25 1.534 105 0.25 C-C/s Hc/n Δ(kJmol-1) 歪み 0.20 0.23 0.25 0.25 697.1 686.2 664.0 658.6 38.5 27.6 5.4 0 115.5 110.5 27.2 0 pKaの復習 HA + H2O A- + H3O+ [Aー][H3O+] = Ka’[H2O] = Ka [HA] pKa = -log Ka S性を利用して何が説明されるか? pKa H H C H H 49 C H H H H C H H C 44 C H C H 25 電気陰性度で議論して はいけない場合もある 酸 pKa HF 3.2 HCl -7.4 HBr -9.5 HI -10 結合エネルギーが大きく異なる場合には、 先程の議論は使えない S性を利用して何が説明されるか? NMRのJ値 H 1 H C H H 124.9 C H H H H C H H C JC-H (Hz) C 156.4 H C H 1J C-H (Hz) 249.0 = 500×S NMRデータによる炭素原子のs性を求める ・1J(13C, 1H)からs性を求める アルカンの場合 Compound methane ethane propane -CH3 propane -CH22-methylpropane -CH3 2,2-dimethylpropane -CH3 シクロアルカンの場合 1 J(C,H)/Hz 125.0 124.9 124.4 125.4 124.0 123.3 混成による違い Compound ethane ethylene acetylene 1 J/Hz = 500×a J(C,H)/Hz 124.9 156.4 249.0 Compound cyclopropane cyclobutane cyclopentane cyclohexane cycloheptane cyclooctane cyclononane cyclodecane 1 J(C,H)/Hz 160.3 133.6 128.5 125.1 123.6 124.5 124.0 124.3 フェルミコンタクト相互作用 s軌道は核からの距離0でも存在確 率を有する。 距離0での核と電子との相互作用を フェルミコンタクト相互作用と呼ぶ 演習:d軌道を含む混成軌道 正八面体構造(6配位) 例:Co(NH3)6 3+ L L M L 27Co: 1s22s22p63s23p63d74s2 d x 2-y2, d z2 d xy , d yz, d xz L L L d2sp3 混成 3d 4s 4p d軌道 x dxy, dyz, dxz z y y x dx2-y2 dz2 d2sp3混成軌道 L L M L L L x y ψ1= (1/√6)s+(1/√2) px+a1dx2-y2+b1dz2 ψ2= (1/√6)s-(1/√2) px+a2dx2-y2+b2dz2 ψ3= (1/√6)s+(1/√2) py+a3dx2-y2+b3dz2 ψ4= (1/√6)s-(1/√2) py+a4dx2-y2+b4dz2 z L ψ5= (1/√6)s+(1/√2) pz+a5dx2-y2+b5dz2 ψ6= (1/√6)s-(1/√2) pz+a6dx2-y2+b6dz2 条件 dx2-y2の寄与を考えると、 ψ1~ψ4 の規格直交の条件 a5 = a6 = 0 2 2 2 a1 = a2 = a3 = a42 a1a2, a3a4 は同符号、 両者間は異符号 = 1/4 ψ5 ,ψ6 に規格直交の条件 b52 = b62 = 1-1/6-1/2 = 1/3 b5b6 = 1/3, ∴ b5 = b6 = ±1/√3 = 1/√3 dz2の寄与を考えると、 異符号(重なり積分から) b1 = b2 = b3 = b4 = ±1/√12 = - 1/√12 d2sp3混成軌道 ψ1= (1/√6)s+(1/√2) px+1/2dx2-y2-1/√12dz2 ψ2= (1/√6)s-(1/√2) px+1/2dx2-y2-1/√12dz2 ψ3= (1/√6)s+(1/√2) py-1/2dx2-y2-1/√12dz2 ψ4= (1/√6)s-(1/√2) py-1/2dx2-y2-1/√12dz2 ψ5= (1/√6)s+(1/√2) pz +1/√3dz2 ψ6= (1/√6)s-(1/√2) pz +1/√3dz2
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