2001年度秋学期 田中研究会 「平和」の意味空間分析 環境情報学部4年 総合政策学部3年 環境情報学部3年 研究員 向井みちよ 森本 俊 藤田 延也 佐藤 芳明 本研究の目的 「平和」という抽象概念を,どのように人々は 表象しているのであろうか.意味空間分析の手 法を用いて接近を試みる. 1)「平和」について,どのようなスクリプトが形成されているのか. 2)「平和」はどのようなメタファーを通して語られているのか. 3)「平和」と類似概念「自由」「幸せ」「平穏」の相違は何か. 4)助詞「は」「が」の操作子機能についての試論 プレゼンの流れ □概論(森本) ■SD法の結果と考察(向井) □言語使用分析・枠付連想実験の結果と考察 (藤田) ■助詞「は」と「が」についての考察(佐藤) □まとめ(森本) 分析の手法① ■言語使用分析■ ①深谷研が開発したプログラムを利用し,Asahi Digital New Archivesから「平和」のスクリプトを抽出. ②このデータベースは,朝日新聞の「声」の欄の記事が もとになっている. ③抽出するスクリプトは使用頻度が2回以上のもの. ④検索対象年は1993年から2001年10月. 分析の手法② ■SD法■ ①被験者: 記号修辞論受講生 N=47 ②刺激語: 「平和」「自由」「幸せ」「平穏」 ③被験者は,4刺激語のうちランダムに割り当てられた 1語について回答. ④形容詞は「人に関するもの」「質量・空間」「評価」の 3カテゴリーに分類される. 分析の手法③ ■枠付連想実験■ ①被験者: 田中研究会,英語Ⅲの受講生 ②形式 : 「平和とかけてXととく,その心はY」 ③被験者は,XとYに当てはまる語を1つずつ回答. SD法の目的 「平和」の意味空間をその類縁概念と比較 することで浮き彫りにする ・平穏・・・「平和」が戦争と関係なく定義されるの であれば、それは「平穏」とどう異なるのか ・幸せ・・・「平和」=「幸せ」なのか ・自由・・・自己実現を妨げられる状態≠平和である のなら、「自由」=「平和」なのか 「平和」と「幸せ」 無口 利他的 外向的 薄い 遠い 秩序のある 複雑 うれしい 1.82 良い 1.55 おしゃべり 利己的 内向的 厚い 近い 混沌とした 単純 2.21 2.14 「平和」と「自由」 無口 感情的 優しい 鈍感 利他的 保守的 弱い 重い 古い 秩序のある おしゃべり 理性的 恐い 敏感 利己的 革新的 強い 軽い 新しい 混沌とした 良い 1.55 0.82 「平和」と「平穏」 頼りない 利他的 高い 薄い 難しい 複雑 依存的 頼もしい 利己的 低い 厚い 易しい 単純 0.91 0.09 考察 「平和」よりも「平穏」の方が「幸せ」に近い →「平和」は(「平穏」に比べ)自己の幸せには結び つかない? 「平和」は「依存的」で「利他的」 →「平和」は個人的に追求するものではない 「平和」は「弱く」「難しい」 →「自由」「幸せ」に比べそのものの獲得方法が不明瞭で あるため? 「平和」が一番「明るい」 →「戦争」という「闇」あってこそ存在価値を確認 できるもの? 言語使用分析の目的 語られた言説からどのような概念空間が浮か び上がってくるのかを新聞のデータベースからス クリプトを抽出し、「平和」の性質、特徴を明 らかにする。 性質 新聞の言説 平和の概念空間 特徴 助詞「は」の考察 「平和は ある」の1件のみ ⇒抽象概念である平和が心理的実体と して人々の心の中に存在する. 「は」のスクリプトが極端に少ない理由 1)メタファーの定着度 2)助詞「は」の操作子機能 助詞「が」「の」の考察 平和が「続く」「戻る」「訪れる」 ⇒“時間的継続性” “移動の主体” 「平和の」に続く名詞を分析 ⇒殆どが「尊さ」「素晴らしさ」 平和の尊さを… 「訴える」「伝える」⇒外向きのベクトル 「かみしめる」「認識する」「知る」 ⇒内向きのベクトル 助詞「を」の考察 ☆現状維持型: 守る,維持する,残す,保つ,営む ・平和は時間軸と共に変化するもの,平和がもつ性質 ☆積極的未来志向型: 築く,訴える,もたらす,実現する,作り出す,目指す ・「人間が作り出すもの」という視点が強い ⇒メタファーとの 関連性 ・積極的・具体的な行動を伴う. ☆受動的未来志向型: 願う,考える,祈る,希求する,求める,祈念する ・平和が訪れること,もたらされることを待つ,望む 言語使用分析の考察 使用分析から明らかになった「平和」の性質 非日常 依存的 構築物 もろい 努力の対価 受動的 枠付き連想実験の目的 「平和とかけてXととく,その心はY」という問い から我々に近い年齢のSFC生の平和の概念 空間を抽出する。 年齢による平和の概念空間の差はあるか? 枠付連想実験の考察 枠付連想実験から明らかになった「平和」の性質 (配布資料参照) 静的 認識困難 もろい 緩慢 非平和状態との相対関係 2つの実験を通じての考察 「平和」とは? もろく、認識が困難で、持続させるには努力 が不可欠であり、努力をしなければ認識する ことができないもの。多くの場合、非平和状態 との相対比較にもとづく。 「勝ち取る」、「獲得する」という言説が登場しないのは、 なぜか?→日本が敗戦国だから? →受け取るニュアンスのスクリプト(「~を拝受する」など) が多数あるのも、ここに関係するのか? 助詞「は」「が」の分析 「平和は」「平和が」のスクリプトは,「を」「に」 と比較すると極端に少なかった.何故か? ⇒助詞の操作子機能に注目する. ※操作子機能とは… 「xを(が,は,に,で,等)」の体言表現にお いて<xをこれこれしかじかに取り扱えよ> と いう操作を要請する助詞の働きのこと. 助詞「が」「は」の分析 「xが」 xをコト図式内の被述定項として焦点に据えよ. 「xは」 xをコト図式外の被述定項として焦点に据えよ. ※コト図式 動詞の図式から導出されるコト内容. 例)割る…<誰が,何を,(割る)> 助詞「は」「が」の分析 「xは」 (対比) (記述・定義・隠喩) 「xが」 本研究のまとめと示唆(1) 平和は多くの場合,「戦争」との相対概念とし て語られている.⇒積極的定義が必要! 平和は自由(幸福)追求の基盤を提供すると 同時に,その行き過ぎを抑制するもの. 新たなメタファー構築の必要性 “人間が作り出すもの”⇒育むもの,生態系 新たなメタファーの連鎖的伝播 ⇒人間の行動にも影響 本研究のまとめと示唆(2) スクリプト分析,SD法,連想実験を組み合わ せることにより,人々が「平和」をいかに捉えてい るのかを明らかにすることができた. これらのデータは議論にとって相互補完的なデ ータを提供してくれた. 助詞「は」「が」の操作子機能についての議論 を更に深めることができた. 本研究のまとめと示唆(3) ☆今後の可能性 1)スクリプト,メタファーの世代別調査. 2)同様の手法で戦争について分析. 3)調査範囲の拡大と背景の調査.
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