文化」の意味空間分析 - 慶應義塾大学 湘南

2001年度秋学期 テクスト意味空間分析法
「文化」の意味空間分析
総合政策学部3年
環境情報学部1年
森本 俊
余語 振一郎
本研究のテーマ
①「文化」という抽象概念を,人々はどのように
表象しているのであろうか.スクリプト分析を
通して明らかにする.
②「文化」と「文明」はどのように違うのであろう
か.
両者の類似点・相違点を明らかにする.
スクリプトの析出
□Asahi Digital New Archivesを利用して,
「文化」に関するスクリプトを析出.
■検索対象は1993年から2001年10月.
□スクリプトは,使用頻度が2回以上のものを
対象とした.
■「文明」についても同様にスクリプトを析出.
□分析対象の助詞は「は」「が」「を」「に」に
限定した.
年代別・助詞別 「文化」カウント
1993年
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
総数
103
116
105
97
86
75
177
315
228
は
が
3
2
0
2
0
2
3
4
1
を
3
5
3
3
2
1
2
5
5
6
10
7
5
10
11
18
26
16
に
1
7
2
4
2
2
7
11
10
2001年
2000年
1999年
1998年
1997年
1996年
1995年
1994年
1993年
年代別 「文化」カウント
総数
400
300
200
100
0
スクリプト総件数の推移からの示唆
□総件数
93年から98年はほぼ横ばい.
⇒99年には前年の2倍
⇒2000年には最大の315件
☆急激な増加の背景には種々の要因.
「文化」に関する関心の高まりを反映!?
は
が
を
に
2001年
2000年
1999年
1998年
1997年
1996年
1995年
1994年
1993年
助詞別 「文化」カウント
助詞別カウント
30
25
20
15
10
5
0
助詞別件数の推移からの示唆
□「は」「が」に対して「を」「に」の数が多い.
■「を」の推移は総件数を最も反映している.
□「を」の件数はいずれの年度においても,
他よりも多い.
☆助詞「は」「が」が少ない原因として,助詞の
操作子機能の違いが考えられる.
スクリプト分析結果
文化
は
なる
2
文化
が
ある
7
文化
を
持つ
伝える
する
学ぶ
知る
守る
築く
反映する
6
6
5
4
4
2
2
2
文化
に
触れる
7
助詞「は」の考察
□「文化は なる」の1件のみが抽出された.
例)…ゲームや文章などの文化は非常に
流動的になるだろう.
⇒文化は「変化」するものである.
※「何に/どう」なるのかをセンテンスに戻って考察する必要あ
り.
助詞「が」の考察
□「文化が ある」
⇒抽象概念である文化が,心理的な実体
として存在していることを示す.
※1件のスクリプト
「文化が 異なる」
⇒文化には同質なものと異質なものがある.
「文化が 溶け込む」
⇒文化は流動性をもつ.
助詞「に」の考察
□「文化に 触れる」の1件のみが抽出
「触れる」のような身体性を持つ動詞
⇒文化の造形化作用(実体化)
c.f. 「文化に直面する」(1件)
「触れる」対象
⇒“自分の文化”と“異文化”
助詞「を」の考察①
□スクリプトを3種類に分類
1)内⇒外へのベクトル
例)伝える,理解する
2)外⇒内へのベクトル
例)学ぶ,知る,取り入れる
3)自らへのベクトル
例)理解する,学ぶ,伝える,継承する,
担う,築く
助詞「を」の考察②
自
文
化
異
文
化
助詞「を」の考察③
□「内から外」のベクトル
⇒「伝える」「理解する」
∴自分の文化を「伝える」ことは「相互理
解」
を促進する.
□「外から内」のベクトル
⇒文化は「学び」「知り」「取り入れる」
対象である. 【知識のメタファー】
助詞「を」の考察④とまとめ
□「自らへの」ベクトル
⇒文化は「理解し」「学ぶ」対象であると同
時に,後世へ「継承し」「伝え」「担っていく」
ものである.
抽出されたスクリプトから,「文化」がどのよ
うな性質を持ち,言説空間の中でどのよう
に語られているかを捉えるすることができた.
文化と文明の違いを探る
☆スクリプト数の比較
350
300
250
200
150
100
50
0
2001年
2000年
1999年
1998年
1997年
1996年
1995年
1994年
1993年
文化
文明
文化と文明の違いを探る(2)

スクリプト数
-文化と比較すると,文明は極端に少な
く,ほぼ横ばいの推移をしている.

データソースが投書欄であることを勘案する
と,
文明はテーマとして取り扱われない傾向が
あるのではないだろうか.
文明のスクリプト
文明
が
栄える
進む
3
2
*発達する,進歩する
文明
は
文明
を
文明
に
☆2件以上抽出されたのは,文明が「栄える」「進む」のみ
であった!
文明スクリプトからの示唆(1)

「文明が進む」
⇒時間的な推移を伴うもの.
⇒より高度な状態に向けて進む.

「文明が栄える」
⇒文明は栄枯盛衰を経る.
☆「文化が進む」「文化が栄える」というスクリプトは抽出されず.
しかし,そのような表現は可能である.
文明スクリプトからの示唆(2)



文明「は」「を」「に」で,2度以上現れたスクリ
プトは1件もなかった.
⇒絶対数の不足影響していると考えられる.
特に「文明を」が少ないのが特徴的.
⇒1件のみのもの:「追う」「つなぐ」
「文明に」
⇒1件のみのもの:「取り残される」
文化と文明の比較ーまとめー



文明は文化と比較して,より速い時間的推
移を伴う.
c.f.「栄える」「進む」「追う」「取り残される」
文化・文明ともに栄枯盛衰を経る点では
共通している.
しかし文明には進歩や発達ばかりが目立ち、
文化のように「守る」対象にはなっていない。
文化と文明の比較ーまとめー



また、文明は文化のように「学ぶ」「知る」対象
にもならない。
「伝える」「触れる」などの交流もあまりないこと
と併せると、文明は文化よりも人類にとって共
通のものであるといえる(現代)。
文明についてのより大きなスクリプトを収集
する必要がある.
本研究からの問題提起(1)
☆「文化を伝える」や「学ぶ」「理解する」という
スクリプトは定着しているが,果たして「何を」
伝え,学び,理解するのかについての議論は
なされているのであろうか.
⇒助詞「を」の数が多い理由との関連
☆助詞「を」は「は」「が」と比べて,文化の属性
を記述せずに対象化することが可能である.
⇒文化とは何かを記述しない.
本研究からの問題提起(2)
☆なぜ,文化の内実を深めるような議論が
なされてこなかったのだろう.
↓
文化が人間の生の営みそのものを反映するも
ので,一義的に定義できる性質を持っていな
いからだと考えられる.
田中・深谷(1998)の議論
「中略…文化空間は,ただそこにある空間では
なく,不断の生の営みが行われる場所である」.
 「コミュニケーションと異文化との関係を考察する
際に必要なのは「そこにある異文化」ではなく,
「直面する異文化」という視点である」(『意味づ
け論の展開』p.253)
☆「直面する異文化」という視点を採りいれる
重要性.

今後の展望
□異文化理解や異文化コミュニケーションを
を議論する素地として,文化とは「何か」に
ついて積極的な議論が展開される必要がある.
■SD法や連想実験などの手法で,今回のスク
リプト分析の結果を補完し,文化の更なる
分析が必要となる.