企業システムの進化と多様性 清水耕一

企業システムの進化と多様性
清水耕一
第9講
労働の危機と生産システムの進化
9-1 労働の危機に対する経営側の対応
 労働力不足に対して
 移民労働者の雇用
 1960~70年代のドイツとフランスの自動車メーカー
 自動化の推進




1980年代末の日本の自動車メーカー
トヨタの田原第4工場(クラウン、セルシオ):
日産の福岡県苅田町の九州第2工場(「夢工場」)
マツダの防府工場
 労働の人間化
 ボルボ:カルマル工場⇒ウッデエヴァラ工場
 トヨタ:トヨタ自動車九州宮田工場⇒他工場に横展開
 労使紛争に対して




1937年大争議後のGM、1950年代争議後のトヨタ⇒労使関係の安定化政策
1970年代にかけてのルノー⇒人間的開花は労働の外で
1980年代のフィアット⇒労働組合の影響力を排除した生産システム作
1980年代以降のGM⇒非決定
9-2
労働の人間化(1)
ボルボのケース:脱フォード・システム戦略
 1960年代末の労働力不足:労働市場の逼迫と「流れ作業」への抵抗
 ⇒組立ラインの廃止による「労働の人間化」
 1974年カルマル工場建設(組立工程のみ)
 コンベアーの廃止⇒チルト付AGV(Automatic Guided Vehicle)
 AGVは組立ポストで一定時間停止
 作業員は複数工程の作業を順番に行うロング・サイクル・タイム
 1988年ウッデヴァラ工場建設(組立工程のみ)
 組立ラインの完全廃止⇒固定組立方式
 4〜8人の作業班で1台の車をすべて組み立てる
 リフレクティブ・プロダクション(レナート・ニールセン)
 作業員が組立作業を通じて組立作業の全体を学習していく
 単純協業⇒生産性が高くても量産には向かない
 1993、1994年に両工場は閉鎖
 主工場(トルシュランダ、ゲント)はフォード・システム
 ウッデバラは1995年にTWAとの合弁企業オートノバとして再生
9-3
労働の人間化(2)
トヨタ自動車のケース
 1980年代末の労働力不足とバブル経済
 労働力不足
 出生率の低下+大学進学率の上昇=労働力供給の減少
 若者の3K職場離れ
 バブル経済による需要の拡大と製品の多様化
 対策としての期間従業員の大量雇用⇒職場の混乱
 人的資源管理と働き方の見直しを決定
 3K職場の追放、高卒女子や40歳以上の従業員でも働ける職場環境と
組立工程づくりの必要性
 技能系職場魅力アップ委員会による検討




歩合・予算管理(生産手当てと能率管理)の見直し
技能系の職位と職能訓練制度の見直し
職場作業環境の改善
組立工程のあり方
 「組立のあり方ヴィジョン実践プロジェクト」(1990年)
 自己完結工程:田原第4(4人単位)⇒トヨタ九州(組単位)
 トヨタ自動車九州の宮田工場の建設(1992年完成)
9-3
労働の人間化(2続)
トヨタ自動車のケース
 宮田工場における新機軸
 労働の人間化
 エルゴノミーを重視
 マン・コンベアー、幅広台車等を使用:作業員は台車に乗って作業す
るため、作業中は歩行、とくに後ずさり作業をする必要がない
 作業負荷を科学的に測定(TVAL)⇒一定限度を超えた作業を無くす=
作業の軽減化
 セグメント間にバッファーを認める
 作業時間中に「計画停止」が可能⇒ミーティングや改善活動
 労務管理制度




生産性給(能率管理)を廃止
賃金=基本給+職能給
(1年間は変化なし)
連続2交替勤務のため残業労働はほとんど無し
改善活動の成果は第2ボーナスとして半年ごとに支給(PIT:パフォー
マンス・インセンティブ・オブ・トヨタ)
 労働の人間化の手段・方法は全社方針として他工場に横展開さ
れていく。ただし工場の建屋や予算の制約のもとで。
9-4
労働者の「人間的開花」は労働の外?
ルノー、1970年代
 1968~77年の労使紛争
 テーラー主義的労働管理、流れ作業に対する労働者の抵抗
 とくにOS( ouvrier specialisé=CAPを持たない労働者)の抵抗
 欠勤率、退職率の上昇と、山猫スト
 ⇒生産の低下と不良品の増加
 解決の試み
 賃上げ、労働時間の短縮、職能訓練、
 ライン労働者の格上げ:OS⇒P1
 ジョブローテーション、半自律的作業班の局地的試み
 社長P.ドレフュスの方針
 労働内容・労働組織の変更によっては労働問題を解決できない。
唯一の解決法は、労働時間を短縮し、労働の外の生活における諸
個人の文化的社会的開花を促進することである。
 自動化戦略(プログラム可能なオートメーション)の追究
 自動化による重労働、反復作業の追放を意図
9-5
労働組合の影響力を排除した生産システム
フィアット、1970〜80年代
 長期にわたる労使紛争
 1969年の「暑い秋」以来10年間の労使紛争
 物価上昇、南部イタリアからの不熟練労働者の大量流入による社会的緊張の増大
に対する不満
 1972年以降:労働組合幹部と経営陣に対するテロ
 対策
 1969年:インデクセーション賃金(物価上昇率⇒賃金上昇)の導入
 1971年:労働編成・作業配置・作業速度に対する労働組合の介入を認める⇒賃金
コストの上昇と生産効率の低下
 1973年秋の石油ショック⇒販売不振
 危機の解決策
 自動化戦略
 品質と生産性の向上
 労働者の不満の原因である危険な重労働の解消⇒紛争の原因を除去
 労働に対する労働組合の統制を無力化⇒労働社に対する労働組合の影響力の低下
 自動化=労働組合の影響力を排除した生産システム