第三章 製品と工程の歴史分析 「大量生産方式」とは何であったか 本章の流れ • 「製品工程ライフサイクル」の考え方 • 19世紀の「アメリカ的製造システム」から20世 紀の「大量生産方式」へ • 「テイラー主義」 • 「日本型=トヨタ生産システム」の台頭と欧米 の反応 製品・工程ライフサイクルとは① • ある製品と、その生産工程の誕生から成熟 化までの技術発展史に、一定のパターンが 当てはまるというもの 図3,2 製品・工程ライフサイクルとは② • 「製品工程ライフサイクル」説 ①「製品革新期」:大きな製品イノベーションが頻繁に 起きる ↓ ②「ドミナントデザイン」をきっかけに「工程革新期」へ と移行 ↓ ③最後の「標準化期」に、製品・工程ともに標準化・効 率化が進む反面、技術革新が減少するという意味 でシステムが硬直化していく 製品・工程ライフサイクルとは③ • 製品と生産工程の相互作用という視点が、 「製 品・工程ライフサイクル」には含まれている 〈補足〉 • 「プロダクト・ライフサイクル説」 所与の製品カテゴリーのライフサイクルが、導入期・ 成長期・競争期・成熟期・衰退期の五段階に分けら れる。 「製品・工程ライフサイクル」はこれを補う。 アバナシー(ハーバード大学、『プロダ クティビティ・ジレンマ』著)によると・・・ • ライフサイクルの初期 • 標準化の段階に進むに における生産工程 従い・・・ ↓ ↓ 柔軟だが効率の悪いシ 全体として工程の効率 ステムとなりがち 化と硬直化が進む (製品設計の大きな変動 (生産設備の専門家・自 にも対応できるように、 動化、部品・原材料の 汎用機械、汎用原材料、 専用化と内製化、作業 熟練工を機能別に配置 者の単能化と脱熟練化 するため) が進むため) アバナシーによると・・・ • アバナシー自身は、こうした製品・工程ライフサイク ル説がよく当てはまるのは、 ・加工組立型のシステム製品 ・市場の要求属性が多様化・変化し、製品改 良の余地の大きい製品 と、応用範囲を限定している。 注意して使えば役に立つ、強力なフレームワークで ある。 例えばアメリカの自動車産業では・・・・・・ 製品ライフサイクルの一例 1920~30年代くらいまでのアメリカ自動車 産業 ・T型フォード以前(1908年以前)の自動車創成 期・・・・「製品革新期」 ・T型フォード・・・・「ドミナントデザイン」 ・フォード生産方式の確立期・・・・「工程革新期」 ・リバールージュ工場以降の徹底した自動化、 量産化、垂直統合化期・・・・「標準化期」 ドミナントデザインの出現 「製品・工程ライフサイクル」の進行において決定的に 重要なのは・・・ 「ドミナントデザイン」の出現 本命なき群雄割拠の時代(19世紀末は、ガソリ ン・電気・蒸気自動車が拮抗した時代) ↓急速に安定化 企業が安心して効率のよい専用設備に投資でき るようになる時代(例、フォード生産方式の出現) 工程革新を加速化する傾向がある 「製品・工程ライフサイクル説」から導かれ る概念① ・ 「プロダクティビティ(生産性)ジレンマ」 :ライフサイクルが標準化へ向かうにしたがい、工程 は特定の製品モデルに特化し、結果、学習効果の 累積などにより生産性を高めるが、同時に製品設計 の変化に対するフレキシビリティを失ってしまう、と いうジレンマ。 例、GMのフルライン戦略に直面したT型モデ ルの末期 「製品・工程ライフサイクル説」から導かれ る概念② • 「脱成熟化」(dematurity)・・・一方向的な従来の ライフサイクル仮説の限界を指摘し、ライフサイクル の逆転ないし再出発の可能性を含めた、より応用性 の高いモデル (アバナシー) 例、機械式からクオーツ式への腕時計の転換 しかし、世界自動車産業において本格的な「脱成熟 化」は起こらなかった 「アメリカ式製造システム」① • 定義:「専用工作機械」を連ねた加工プロセス による「互換性部品」の生産 例、任意に取り出された、別々に大量に作られ たボルトとナットが組み合わさる精度 これに対して・・・ 「大量生産システム」:上記のものに加え「同一形状 の製品・部品を大量に繰り返し生産すること」と、そ れによる「製造コスト・製品単価の大幅な低減」を特 徴とする 「アメリカ式製造システム」② 技術と経済性により・・・ 19世紀のアメリカで「互換性部品」により「アメ リカ式製造システム」を実現していた工場も、 それをコスト低減と生産拡大には結び付けて いなかった。(ハウンシェル、技術史家) 例、19世紀前半のスプリングフィールド 国営工廠におけるマスケット銃の生産など ミシンのシンガー社など・・・製品政策やマーケ ティング面での成功で地位を確立 大量生産に至る「もの造り」コンセプト の歴史 「製造における部品互換性」の視点(ハウンシェル) 「設計における共通化」の視点(アバナシー) ↓組み合わせて 19~20世紀のアメリカの設計・生産方式をたどる 表3,5 ・互換性コンセプトの確立 ・社内モデル間の部品共通化 ・モデルチェンジ ・部品の共通化(専門部品企業の発達) フォード生産方式 フォード生産方式の骨子 ・専用工作機械の加工精度向上による真の 「部品互換性」の達成 ・プレス工程の内製化による成形部品の高速 製造 ・「移動組立方式」の導入 フォード生産システムの形成 図3,3 T型フォードの行きづまり しかしフレキシビリティの欠如から、T型フォー ドは「プロダクティビティ・ジレンマ」に陥る。 (システムの完成とともに「守り」に入り、極端な量産追 求、垂直統合、設備の専門化、労働者の単能化・脱 熟練化 → 全体が硬直化に向かった) 「過度の分業化」、「管理層の現場からの遊離」 ↓結果 GM「フレキシブル・マスプロダクション」に敗北 テイラーシステム① テイラーシステムの要素 ・工具の改良、レイアウト改善 ・タイムスタディ ・機能別フォアマン制 ・生産計画部の設置 ・差別的出来高給制 ・「科学的管理」の原則 図3.5 テイラーシステム② • 機械そのもので労働の内容とペースを規制しようと したフォードに対し、 ↓ テイラーは、機械のフィクション、つまり組織をあたか も機械のように統制することによって、労働者をコン トロールしようとした。 紙(標準作業)とカネによるコントロール 1913年以降、フォード社は労働問題直面をきっかけ に、テイラー・システムに接近。「一日5ドル制」など 「フォード主義とテイラー主義の融合」 日本型システムの台頭① • 20世紀後半、大量生産工程のもつ弱点が顕 在化 「フレキシビリティ不足」「過剰な専門 化による生産性や品質の停滞」など ↑これに対して 大量生産のパラダイムを継承しつつ「生産性 のジレンマ」を克服、フレキシビリティ・生産 性・スピード・品質を高いレベルで両立 『トヨタ生産方式』、『全社的品質管理』(TQC) 日本型システムの台頭② • 「圧縮されたライフサイクル」という仮説 図3.6 生産システムの進化が前倒しに行われている という意味で「圧縮されたライフサイクル」 トヨタは作業の標準化(第2段階への移行)と、 標準化を前提としたフレキシブルなシステム の構築(第3への移行)とを、早い時期に同時 並行的に進めた。 日本型システムの台頭③ • フォードの生産規模 T型フォードの「1モデル大量生産」のみによっ て、年間5万台→200万台にまで成長 • トヨタの場合 あくまでも多くのモデルの生産量を積み重ね るパターン、「製品多様化をともなう量的成 長」によって年間200万台を達成していく アメリカにおける「大量生産システム」 批判と対応① • 20世紀後半、MIT報告書(1989年) ①アメリカ製造業のパフォーマンスが特に日 本に対して落ちてきていること ②原因が、アメリカ的大量生産システムその ものに内在する問題であること なぜアメリカ製造業は全体として国際競争力 を失っていたのか? アメリカにおける「大量生産システム」 批判と対応② アメリカ製造業が国際競争力を失っていたとされる 理由 ①もの造り能力の累進進化説(アバナシー) サボり ②革命的変化説(スキナー) 「古いパラダイム」から「新しいパラダイム」へ ③リーン・プロダクション仮説 「リーン生産方式」の生産だけでなく、開発・購 買・販売までを含む総体として分析 表3,6 90年代アメリカ製造業の復活とその 要因 ①新情報通信技術とオープン・アーキテクチャ を核とする「得意分野の急拡大」 ②従来やや苦手としてきた分野(特にインテグ ラル・アーキテクチャ)における、組織間・組織 内コミュニケーションの改善成果 ↑ これらが組み合わさった結果といえる
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