森税理士の 「ちょっと気になる税務のはなし」 アグリビジネス・ ソリューションズ株式会社 代表取締役 森 剛一氏 第84 回 税務相談窓口 事業推進課 経営指導相談係 ■問い合わせ先 TEL:0824-64-2072 Fax:0824-64-2233 ■酪農業を法人化する場合の選択肢 1.農業生産法人とは何か? ます。このため、農事組合法人の場合、本来、農作 業以外の作業を請け負うことができないなど、事 農業生産法人は、農地法の規定により、農地の所 業の発展に制約があります。また、畜産経営につ 有権を含めて農地の権利を取得することができる いては、農事組合法人としても法人事業税が非課 法人です。農地法に規定された農業生産法人の要件 税とはなりませんので、農事組合法人にするメリッ としては、 「組織形態要件」 「事業要件」 「構成員要件」 トはありません。 「業務執行役員要件」の4つがあります。組織形態要 家族経営を法人化する際には、株式会社が一般的 件では、農業生産法人の法人形態を株式会社(株式 ですが、税務上は農事組合法人の方が、有利な点 譲渡制限会社(公開会社でない)に限る)、農事組合 が多いので、家族経営を一戸一法人として農業の 法人(農業経営を営むいわゆる2号法人)、合名会 みを事業とする場合は、有力な選択肢になります。 社、合資会社、合同会社の5形態に限定しています。 しかし、数戸共同で法人化する場合には、農事組 また、事業要件では、直近3カ年の農業及び農 合法人はお勧めできません。なぜなら、農事組合 業関連事業の売上高が法人全体の売上高の過半を 法人の一人一票制が迅速な意思決定を妨げること 占めていることが条件です。構成員要件では、構 が多いからです。また、数戸共同の場合、設立当 成員(出資者)を原則として法人の農業常時従事者 初は経営目的などについて共通認識ができており、 と農地提供者に限っています。業務執行役員要件 参加意識も高いが、数年もすると構成員の間で協 では、常時従事する構成員が業務執行役員(取締役 業経営に対する温度差が生まれてきます。このと または理事)の過半を占め、さらにその過半が農作 き経営者が新しい事業展開などをしようとしても、 業に一定日数(原則 60 日以上)従事しなければなら 組合の意思決定としては保守的な判断になりがち ないとされています。これらの要件は、設立の時 です。更に資本充実のため、経営者が増資を引き に満たされるだけではなく、設立後も満たされて 受けようとしても、一人一票制のもとでは増資し いることが必要です。 ても経営のイニシアティブを取ることは難しいの が現実です。これに対して、家族経営を法人化す 2.法人形態は株式会社が基本 る場合、経営者が誰であるかは明確になっており、 農事組合法人にしたからといって意思決定が問題 酪農経営を法人化する場合には、株式会社とす になることはないでしょう。 るのが一般的です。設立時の経費が少ない点で農 農事組合法人として設立した場合であっても、株 事組合法人や合同会社にメリットがありますが、 式会社に組織変更することができ、組織変更に伴っ それ以外には大きなメリットはありません。なお、 て法人税がかかることはありません。一方、株式 農事組合法人には事業税非課税などの税制上のメ 会社は農事組合法人に組織変更することができな リットがありますが、酪農経営は対象になりませ いため、どうしても農事組合法人にしたい場合に ん。また、合同会社は認知度や信用度が低いのが は、新規に農事組合法人を設立する必要がありま デメリットと言えます。 す。この場合、旧経営体である株式会社は休眠さ 株式会社には、事業の制限がないのが大きなメ せるか解散することになりますが、解散した場合 リットです。これに対して、農事組合法人の場合、 には清算所得に課税されて法人税の負担が生ずる 実施できる事業は、農業及び農業関連事業に限られ 広島 19 2015年 (平成 27年)5月 〔№ 254〕 ことがあります。
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