第3章 (5)社会的認知 1.他者の理解 心の理論の理論 意図検出 視線検出

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1.他者の理解 第3章 (5)社会的認知
1.他者の理解 2.共感と社会的規範 「サリーとアンの誤信念課題」 (1) アンとサリーが一緒に遊んでいる (2) サリーはおはじきをバスケットに入れ、ふた
をして部屋から出て行く (3) アンはサリーがいない間におはじきを四角い
箱に移し、ふたをする (4) そこにサリーが戻ってくる 質問「サリーはまたおはじきで遊ぼうと思います。サ
リーはおはじきを取り出すためにバスケットと四角
い箱のどちらをあけようとするでしょうか?」 心の理論(Theory of Mind) 他者の中にも自分と同じように主観的な
世界があり、現実についての判断をお
こなっている、ということが理解でき
る能力。 霊長類研究の大御所のプリマックが使い
始めた用語。 心の理論の理論
•  バロン・コーエンによる 心の理論を成
立させるメカニズム 意図の検出
注意共有 心の理論メカニズム 視線の検出 出典 「自閉症とマインド・ブラインドネス」 長野敬、長畑正道、今野義孝 訳 青土社 2002年 意図検出 •  対象=自分で運動するものすべて
(人間、蝶、ビリヤードのボール、猫、雲、手)
•  運動の原因を目的や欲求で説明する。
「蝶が雨で寒がっている」
「アニミズム(汎心論)」的な解釈
*適応上の重要性=行為体の意志を認
識する。
視線検出 •  自分の外部に「目」
が存在するか?
•  あればそれは自分
を見ているか?
•  それとも何か別のも
のをみているか?
視線=行為者の意図
を知る有力な情報
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視線検出 • 幼児は視線に非常に強い関心を示す。
•  生後3ヶ月で大人の視線移動の方向が
わかる(Hains and Muir, 1996)
•  生後1年で大人の視線移動を追う(Corkum
and Moor,1995)
視線による注意の奪取
視線検出
•  他者の目は、非常
に小さなものである。
•  なのに我々はどこ
を見ているか一発
でわかる。
•  これは高度に進化
した特殊機能である。
注意の共有(共同注意) 他者が何を見ているかを検知することに
よって他者の意図を読み取る機能 出典 Friesen, C.K. and Kingstone, A. (1998). The eyes have it! Reflexive
orienting is triggered by nonpredictive gaze. Psychonomic Bulletin &
Review,5 (3), 490-495.
注意の共有(共同注意)
「あいつがあれを見ている」ということの理解
注意の共有(共同注意)
赤ちゃんは、見慣れ
ないものを示され
ると、まず母親の
顔を見る。微笑ん
でいればそれに接近
し、そうでなければ
回避する。
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社会的知能の本質
• 心の理論は「社会的な知能」の基本 •  他者の心を読むことによってはじめて
協力行動が可能になる •  他者の心を読むのは、他者を欺き、だ
まし、自分の有利になるように誘導す
るのにも必須=「マキャベリ的知性」 • チンパンジーの「あざむき行動」 • 「進化心理学」 心を読むことと社会的知能
「進化心理学」の視点
•  なぜ心を読むことが必要なのか?
•  それは他者と付き合っていく必要がある
から。
•  それは「社会的な知能」の基本である。
•  社会的知能こそがヒトにおいて特異的に
進化した能力である。
心を読むことと社会的知能
心を読むことと社会的知能
「進化心理学」の視点
「進化心理学」の視点
•  ヒトは集団行動す
る種である。
•  他のメンバーの視
点を推論しなくては
生存できない。
•  協力するにも、だ
ますにも。
•  チンパンジーで
も「あざむき行動
」が観察される
(Byrne,1995)
•  他人にエサをと
られないように、
わざと見つけた
エサから視線を
そらせる。
心を読むことと社会的知能
心の理論に関わる
神経ネットワーク
「進化心理学」の視点
•  Tomasello(2008)の実験
•  序列の高い個体と低い個体を相対させる。
•  序列の低い個体にしか見えないエサを
真ん中に置く。
•  どちらにも見えるエサも置く。
•  檻をあけるとどうなるか?
眼窩前頭皮質
(社会性と人格)
扁桃体
上側頭溝
(視線の移動と方向弁別)
(情動的情報や顔表情の処理)
出典 「自閉症とマインド・ブラインドネス」 長
野敬、長畑正道、今野義孝 訳 青土社 2002年 3
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fMRI実験
前頭前皮質内側部と
右半球の側頭-頭頂接合部 ・前頭前皮質内側部:他者の性格につい
て推論する「印象形成課題」で強く活性。 ・右半球の側頭-頭頂接合部:誤信念課
題を遂行中に強く活性。他者についての
情報処理一般ではなく、「心的状態」に
関する情報処理に特異的に反応する。 前頭前皮質内側部
側頭ー頭頂接合部
(この図では左半球)
右半球の側頭-頭頂接合部 と注意の移動 ポズナー・パラダイム+fMRIの注意実験: 手がかりと標的が一致しない条件で右半球
の側頭-頭頂接合部が活性。 不一致条件では、一度手がかりに向いた注
意を標的に対して向け直さなくてはならな
い。 心の理論と自閉症 自閉症:社会行動に深刻な問題を示す発達障害。 ・言語能力の発達の遅れ ・他人との感情的交流における困難 ・興味の対象が極端に狭い ・機械的な反復行動 個々の症例は「自閉症スペクトラム」の上に位置づけら
れる。 自閉症の人は、「誤信念課題」が非常に苦手。 自閉症の基盤は心の理論の障害? =「心の盲 Mindblindness」 Gazzaniga,, M.S., Ivry, R.B., and Mangun, G.R.
(2009). The Cognitive Neurosciences 3rd Ed.
MIT Press. P70の図を改編 右半球の側頭-頭頂接合部 と注意の移動 誤信念課題において他者の視点を推
測する場合、現実から他者へと「
視点」を向け直さなくてはならない。
つまりこの領域は、他者の視点を推
測するのに不可欠な「視点の向け
直し」の機能と関わり、その結果と
して心の理論の機能に関与? 自閉症は謎だらけ ・論理的な構造はオリジナルの誤信念課題と全く
同一で、「サリーの主観」が「写真」に代わると
多くの自閉症児は正解することができる。 ・実際に、「他者の主観」とは「他者の頭の中の
写真」であるという指導をすることが、自閉症児
の療育上きわめて効果的。 4
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2.共感と社会的規範 共感:ヒトのfMRI実験 「共感」:心の理論から一歩進んで、他者の主観
を理解するだけでなく「情動的に共振」する能力。 「ミラー・ニューロン」の発見(マカクザル) ・下前頭回と上頭頂葉: 実際に行動する時と他者の行動を観察する時の両
方で活性化する。 ・島皮質: 不快感を経験するときと不快感を表現している表
情写真を見たときの両方で活性化する。 ・前帯状皮質: 自分が痛みを感じるときと他人が痛みを感じてい
る映像を見るときの両方で活性化する。 実験者がエサを拾い上げたのを見た時と、サル自身がエサ
を拾い上げる時の両方に活性するニューロン。 つまり自身の運動と観察した運動の両方で反応する。 他者の行動を理解し共感する能力の基盤となる神経システ
ム? 共感:「恋人実験」 恋人が電気ショックを受ける映像を見た条
件と、自分が電気ショックを受けた条件の
両方で、島皮質と前帯状皮質が活性。
社会的規範 ヒトの社会性の本質 自己の欲望と社会的規範の間の折り合いをつけ、
社会的常識に従って行動すること。 共感:「プロの仕事」 ・鍼灸師群と統制群を比較。 ・痛くない画像と、痛い画像(針を刺す)を呈示。 ・統制群:「共感システム」の活性が、痛い画像
条件>痛くない画像条件。 ・鍼灸師:「共感システム」の活性は、画像条件
間で差がない。 しかし「心の理論システム」の活性が痛い画像条
件>痛くない画像条件。 ・職業的訓練によって他者の痛みを理解しつつ動
揺はしない、ということ。 ダマジオの
「ソマティック・マーカー仮説」
眼窩前頭皮質と、感情と社会的意志決定の関わり。 報酬と罰に対する感受性に関連した行動計画を制
御? 「ソマティック・マーカー」=感情による身体への
生理学的「刻印づけ」 5
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ダマジオの
「ソマティック・マーカー仮説」 ダマジオの 「ソマティック・マーカー仮説」
ある意志決定が悪い結果をもたらすと、苦痛
を感じる。 ・眼窩前頭皮質のソマティック・マーカーの
システムが「苦痛」という印を身体に刻印す
る。 ・次に同じような意志決定をする状況で、刻
印された「苦痛」が生理学的に瞬時に再現さ
れ、同じ意志決定を迅速に回避する。 アイオワ・ギャンブリング課題 カード・ゲームの一種で、短期的には得に見える選
択が、長期的には損になる。
眼窩前頭皮質の損傷者:目の前の利益にとらわれ、
損をする選択肢をずっと選び続ける。 損をしたときにストレス反応が生じない。 お金を失う「苦痛」が身体に刻印されていない! 反社会的人格障害 アントニオ・ダマジオとハンナ・ダマアジオ。USCにヘッドハン
ティングされた。「 脳科学センター作ってあげるから」誘ったと
いう。 ・躊躇なく社会的ルールを破り、他者に暴言を吐き、
暴力をふるい、嘘をつき、衝動的な行動をする。 ・刑務所での受刑者の50%以上が該当するといわ
れる。 PET研究:眼窩前頭皮質におけるグルコース代謝が
健常者よりも低下している!=社会的規範のシステ
ムが障害? こうした研究は、深刻な社会的意義を持つ。 6