計量分析概論 稲葉 弘道 1 1.経済学における計量分析 経済理論+統計学(数学) 統計的手法の助けを借りて、経済変数 間の経済理論により導かれる量的関係 を見いだすことを目的とする。 2 1)計量経済学の課題 経済を分析する上での多種多様の問題提起 経済成長率の見通し 為替相場の動向 地域開発の見通し 農産物貿易のセーフガードの影響 景気対策の効果 消費税率上昇の影響 経済理論の検証 3 2)理論経済学との関係 理論経済学:経済理論を数式化し式の係数に 仮の数値を与えて経済変数間の係を解析する学問 ↓ ↓←統計的手法(統計学)、経済統計データ ↓ および コンピュータ 計量経済学:具体的数値を与える 無味乾燥なデータ→真実を語らせる 4 2.実証科学としての経済学 複雑な経済社会の実態を説明する仮説の提示 ↓ 仮説の実証力を検証する(統計学) ↓ 新しい理論の誕生 理論 ←→ 実証 フィードバック 5 経験的事実によって検証された理論モデ ルから因果序列 → 一般化(理論) 例)デュゼンベリーの相対所得仮説 個人の貯蓄率 ← 所得 ? 統計データによれば 貯蓄率はその属する社会集団に中にお ける、その人の所得順位によって決定 6 統計的事実 貯 蓄 率 → 新しい仮説 黒人 白人 所得 7 統計データを正しく読むためには、 経済理論及び現実経済の理解が必要 例)統計データだけでの物事の判断の危険性 1)自動車生産 1975~78年 694万台~927万台 33.5%/年↑ 1981年? 1238万台..従来の伸び率 1975~78年の生産増加は予想以上に好調 欧米諸国が自動車の輸出規制を求めてくる 8 3)輸出数量と大学卒業者 相関係数=0.944 密接な関係があるのか? 経済分析には必要 → 因果関係は? 経済成長 ↑ ↓ 所得増加 ←→ 輸出増加 見せかけの 相関? → 教育費増加 →大学卒業者数 ↑ ↑? 学歴偏重社会 人口 9 計量経済学の心構え 相関係数など数値にまどわされない 因果関係を見抜く グラフを書く→本質的関係を読み取る (パソコンの利用) 10 3.計量経済学の方法 1. 2. 3. 4. 計量経済モデルの定式化 理論変数と実際のデータの対応 モデルのパラメータの推定と検定 モデルによる予測やシミュレーション 11 1)計量経済モデルの定式化 例)需要関数 効用 U=(a1+q1)α(a2+q2)β を 予算制約式 y =p1q1+p2q2 のもとで 効用(関数)の最大化 q1=-βa1/(α+β)+α/(α+β)・(y/p1)+αa2/(α+β)・(p2/p1) q2=-αa2/(α+β)+β/(α+β)・(y/p2)+βa1/(α+β)・(p1/p2) 12 需要関数から ①所得と相対価格の関数 ②所得は実質所得 ③所得と価格に関して0次同次->貨幣錯覚無し ①全効用は正 ②限界効用は正 ③限界効用は逓減 から 0<α/(α+β)<1 , 0<β/(α+β)<1 など、パラメータの制約が得られる。 13 2)理論変数と実際のデータの対応 Q 確定モデル q1=β0+β1・(y/p1)+β2・(p2/p1) β1<0:理論 Q=β0+β1P いかにして β0,β1を定める か? P 14 3)モデルの推定と検定 確率モデル q1=β0+β1・(y/p1)+β2・(p2/p1)+u Q Q=β0+β1P+u * * * * β0,β1は 最小二乗法で求 める * * P 15 4)予測やシミュレーション 経済政策の判断のための基礎データを 提供する 経済の実態を速やかに判断して適切な 政策措置を取ることが 経済政策の実践的機能……実験不可能 16 政府経済見通し 予測+ 計画 前提条件の違いにより、予測結果は違ってくる 実験できない社会経済現象への模擬実験である 計量経済モデル C=50+0.7Y Y=C+I 内生変数:C,Y 外生変数:I 投資Iを与えれば、C,Yが求まる 17 4.計量経済モデル分析の歴史 単一方程式推定 ... 20世紀前半まで (最小二乗法) → 1方向の因果関係 コブ・ダグラス型生産関数 logQ=β0+β1logK+β2logL+ε 複雑な双方向の因果関係の経済社会現象を表せない ↓ 18 「計測なき理論」経済理論 ↑ 静態的均衡理論 ↓ 大量の非自発的失業 「理論なき計測」実証研究 ハーバード景気予測(1929年の失敗) 経済現象を統一的把握できず 経済政策の指針を引き出せない 「理論に裏打ちされた計測」を目指して エコノメトリック・ソサエティの発足 (1930年) 19 連立方程式へ 1)手法解決の時代 C=50+0.7Y Y=C+I 問題点:最小二乗法 ... ガウス 自然実験科学への適用...説明変数が制御実験可能 経済社会現象には実験は不可能 1940年代後半~60年代前半 コウルズ委員会による手法開発 20 2)計量モデル万能と思われた時代 L.R.クラインによる米国のマクロ経済モデル 10本にも満たない連立方程式モデル 1921年~41年(大恐慌を含む)をかなり な精度で推定 ケインズ政策をとればどの様な影響を及ぼす か? 統計資料の整備+コピュータの進展 ↓ モデルの大型・精緻化 ↓ 推定ないし予測精度の向上 21 3)挫折の時代 第1次世界石油危機 構造変化に対応しきれない←過去のデータ ケインズ経済学(計量経済モデル) ↓↑ マネタリスト(時系列分析) 22 計量モデル分析は無能か? 経済理論の検証 → 有効。 代わり得る手法はない。 予測について 過去の構造を前提としている →大きな構造変化には対応できない 時系列分析とは互いに補完的に使用すべき いずれにしても、理論をデータによって計測す るだけでなく、経済予測を、さらに政策効果 を数量的に分析する手法は計量モデル分析を おいて他にない。 23 5.計量経済モデル分析以外 の手法 1)時系列分析 自己の将来は過去の推移に隠されている 自己回帰モデル yt=β1yt-1+・・・+βkyt-k +・・+ut 経済現象 ...不確実な人間行動の結果 経済変動 系統的変動 ... 計量モデル分析 確率的変動 ... 時系列分析 24 2)産業連関分析 経済と産業の相互依存の網の目をどう解くか 1産業への刺激→直接効果→間接効 果・・・・ 例:東京湾横断橋(建設業への直接需要) 建設業→鉄鋼→自動車→タイヤ工業 ↓ ↑ ↓ │ セメント └ 工作機械 ←┘ 25 積み上げ計算では不可能 ↓ 産業間の究極的な波及効果を整合的に求め るには? ↓ 産業連関分析 26 例:機械部門に1億円の需要 鉄鋼 2298万円 その他鉱工業 3660 商業・運輸 1542 機械 14609 (4609万円の間接効果) 農林水産 307 : : ------------- 計 24955 27 計算手法:産業連関表 部門Ⅰ 部門Ⅱ 部門Ⅰ X11 X12 最終需 要 F1 部門Ⅱ X21 X22 F2 付加価値 V1 V2 生産 X1 X2 生産 X2 X1 28 x11+x12+F1=X1 x21+x22+F2=X2 aij=xij/Xj --> xij=aijXj a11X1+a12X2+F1=X1 a21X1+a22X2+F2=X2 (1-a11)X1- a12 X2=F1 -a21 X1+(1-a22)X2=F2 F1,F2 の最終需要を与えれば、 究極的な生産量X1,X2 が求まる。 29 付録 最大化問題 効用 U=q1α q2β を 予算制約式 y =p1q1+p2q2 のもとで効用の最 大 ラグランジェの未定乗数法で解こう。 L=q1α q2β+λ(y-p1q1-p2q2) Lをq1 , q2 , λで偏微分して0とおき、 Lq1=αq1α-1q2β -λp1 =0 Lq2=βq1α q2β-1 -λp2=0 Lλ= y -p1q1-p2q2=0 30 1番目2番目の式からLq1 とLq2の比を とると q2=(β p1/αp2)q1 になる。これを3番目の式に代入すると、 q1=α/(α+β)・(y/p1) q2=β/(α+β)・(y/p2) 31
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