課題: 製品ライフサイクル管理の 可能性 IT 担当役員 CIO (Chief Information Officer) 向け PLM 戦略ガイド © Tech-Clarity, Inc. 2009 目次 目次............................................................................................... 2 概要............................................................................................... 3 機密性の高いデータの共有 ........................................................... 5 大規模、大容量のデータの管理 .................................................... 6 導入の拡大、コラボレーション、統合 ......................................... 7 リスク、導入リードタイム、コストの削減 .................................. 9 まとめ ......................................................................................... 10 推奨事項 ..................................................................................... 10 著者について .............................................................................. 11 2 © Tech-Clarity, Inc. 2009 概要 現在、製造企業の間では PLM(製品ライフサイクル管理)プロセスや関連ソフ トウェアの導入および利用が拡大しています。厳しい経済状況において特にその 価値を発揮する PLM は、収益を増加させながら、同時に製品開発や製品コスト を管理することで利幅を改善するチャンスを生むという、あまり類を見ないもの です。PLM は、製品イノベーション、製品開発、エンジニアリング能力の改善 を通して企業の高い製品収益性の実現を支援することによって、その達成が可能 です。現代の CIO は、PLM によって企業へもたらされる戦略的なメリットを十 分に活用できるように、その導入やサポートについての課題を理解して備えてお くべきでしょう。 アプリケーションは単なるエンジニアリングツールの組み合わせから、 エンタープライズクラスのシステムの統合製品群へと進化しています。 CIO はエンタープライズ規模の PLM インフラ基盤要件に対応する準備を 進めなければならないと言えます。 PLM は、元は CAD(コンピュータ支援設計)およびその他のエンジニアリング ツールから始まりましたが、PLM の利用が拡大されると、より多くの大規模な CAD ファイルを管理する必要が生じました。この必要を満たすために、PDM (製品データ管理)ソリューションが開発され、その後さらに広範な製品データ の管理やコラボレーションにも対応できるように拡張されました。現在も PLM の利用の成熟と拡大は続いており、製造企業の IT システム・エコシステムを支 える本格的な要素にまで発展しています(図 1 を参照)。現在 PLM は、アプリ ケーションは単なるエンジニアリングツールの組み合わせから、エンタープライ ズクラスのシステムの統合製品群へと進化しています。このため、CIO はエン タープライズ規模の PLM インフラ基盤要件に対応する準備を進めなければなら ないと言えます。 3 © Tech-Clarity, Inc. 2009 図 1:PLM の拡大と進化 製造企業によっては、CAD および CAE(コンピュータ支援エンジニアリング) などのエンジニアリングツールのためのアーキテクチャや技術的な環境を、エン ジニアリング IT 部門が支えてきました。しかし、ERP など他のエンタープライ ズレベルのシステムとの PLM の統合やエンタープライズクラスのサポートに関 連した問題など、CIO が関係する場面が増えています。これまで CIO の担当組 織は、エンタープライズレベルのシステムの実装、サポート、調整、維持管理に ついて責任を負ってきていることでしょう。これらの経験は、PLM の導入およ び製造システム・エコシステムの拡大を成功させるうえで大変重要です。さらに、 PLM のメリットを最大限活かすためには、PLM の性質上、CIO とそのチームが 認識しなければならないその他の考慮事項もあります。本書は、PLM 戦略のサ ポートに関連する特記事項や、実際の経験、およびベストプラクティスを共有 することを目的としています。 PLM の性質上、CIO とそのチームが認識しなければならないその他の 考慮事項もあります。 4 © Tech-Clarity, Inc. 2009 機密性の高いデータの共有 CIO が最初に取り組むべき考慮事項の 1 つは、データの保護です。製品に関連し た IP(知的財産)の管理とコントロールは非常に重要です。CIO は、これまで も財務データ、人事記録、コストなどの機密情報を保護してきました。しかし、 通常これらのデータは、企業のファイアウォールの内側で安全に保護することが できる情報です。しかし、PLM の管理では、ここで矛盾に取り組む必要が生じ ます。PLM データは非常に機密性が高い一方で、広く共有されることによって 価値が高まります。現在の製品開発およびエンジニアリング環境では、サード パーティの企業が参加する場合も尐なくありません。合弁事業、共同イノベー ション、委託設計、外注製造などはすべて、今日の製造企業において特別なこと ではありません。そして、このような場合、情報への容易なアクセスが必要とさ れるため、セキュリティ上の課題が生じることがあります。 PLM データは、非常に機密性が高い一方で、 広く共有されることによって価値が高まります。 このような複雑な課題に対応するため、PLM には非常に細やかで設定可能なセ キュリティモデルの導入が必要となります。他のエンタープライズシステムと同 じように、セキュリティをプロセスと組織ごとに管理する必要があるのです。加 えて、製品イノベーションやエンジニアリングでは、プログラム、プロジェクト、 さらには特定のサブアセンブリまたは部品ごとに、付加的なアクセス規則が必要 になるのが一般的です。監査要件を満たすため、特定のユーザのアクセス権限の 照会および特定の情報に対するアクセスの追跡が可能なセキュリティモデルも必 要になります。一部の国や業界ではこれらの要件が、国際武器取引規制(ITAR) などの規制に準じるために義務化されています。また、米国の食品医薬品局 (FDA)の 21 CFR Part 11 法など、電子署名による認証のような固有のセキュリ ティ機能を義務付けている業界もあります。先進的なユーザでは、セキュリティ モデルを活用して PLM ソリューションの利用を進めています。さらに、CIO の 皆様は、企業レベルで管理を統一して、アクセスを標準化し、エンタープライズ レベルの認証や一元管理化されたユーザ認証処理(SSO)も同時に実現したいと お考えになるかもしれません。 5 © Tech-Clarity, Inc. 2009 大規模、大容量のデータの管理 現在の CAD ファイルは、多くの情報を含めることができるようになった反面、 データ量が大規模になりやすい傾向があります。関連する CAE 調査の分析結果 やその他の製品データなど、関連付けることができるデータを追加して CAD ファイルを拡張していくと、データベースのサイズは急速に増大します。イノ ベーションとは反復プロセスなので、設計更新を重ねることによってデータ量が さらに増えていくことでしょう。CIO は大規模なデータベース管理に関する豊富 な経験があります。たとえば、ERP、その他のエンタープライズシステム、ド キュメント管理システム、およびデータウェアハウスの拡張などに関するノウハ ウを持っています。とはいえ、PLM データにはいくつか特有の課題があります。 エンジニアリングデータや製品開発データは、単なる転送可能で大規模 なデータとは異なります。 エンジニアリングデータや製品開発データは、単なる転送可能で大規模なデータ とは異なります。たとえば、ERP は通常、大量の小さなレコードで構成されて います。PLM データでは、1 つの CAD モデルに対する個々のファイルが非常に 大きい場合が尐なくありません。さらに、企業がグローバルな設計戦略を採って いる場合、サイズの大きいファイルをある場所から別の場所に移動させるケース もあるでしょう。また、CAD ファイルに対して同時にアクセスが行われること も頻繁にあります。このため、更新が重複しないように、チェックアウト/チェッ クインのようなアプローチの導入も必要です。アクセスおよび管理を一元化する ことが理想的ですが、大規模にグローバルに展開しているシステム環境ではうま く機能しない場合が尐なくありません。ファイルのサイズが大きく、ネットワー ク帯域幅が限られている中で、パフォーマンスを期待どおりに実現するためには、 同期を用いるというアプローチがよく採られます。ここで、さまざまな変更が並 行して行われる中でも、それらの変更が反映された状態でエンジニアが作業でき るよう、同期が適時行われる必要もあるのです。相互に影響しあう部品に対して 複数の設計者が作業することは尐なくはなく、可能な限りリアルタイムに近いタ イミングで、関連する設計のモックアップが得られることで大きなメリットが得 られます。 CIO とその担当組織は、PLM をサポートするために、大規模なファイルを 使用してコラボレートするときに起こる問題について認識し、理解して おくことが求められます。 6 © Tech-Clarity, Inc. 2009 ネットワークのスループットおよび遅延時間によっては、企業の目標、ネット ワークの性能、および CAD ファイルの性質に応じて異なる展開の選択をした方 がよいことがあります。CIO は、こうしたさまざまな選択肢や、設計を共有する ための代替手段について理解しておくことが必要です。たとえば、必ずしも常に、 完全な CAD モデルを基に設計情報を共有しなければならないわけではなく、目 的に応じて、精度の異なるデータを用いた方法を活用し、設計情報を共有する ことも考えられます。このようなアプローチは、前述の IP の保護という課題に 対しても、重要な役割を果たします。このように、CIO とその担当組織は、PLM をサポートするために、大規模なファイルを使用してコラボレートするときに 起こる問題について認識し、理解しておくことが求められます。 導入の拡大、コラボレーション、統合 CIO の担当組織の関与がますます必要になっているもう一つの理由として、現在 の PLM の導入範囲の拡大があります。図 1 に示すように、PLM の導入は次に挙 げるさまざまな次元で拡大を続けています。 7 人材 — ビジネスの内外を問わず、企業全体にわたって製品開発および製品 イノベーションに参加する人が増えています。 製品 — 1 つの「製品」は、研究開発やエンジニアリング仕様をはるかに超 えた、多くの事柄で構成されています。また「製品全体」を見るには、商 業的な考慮事項など、幅広い視野も必要になります。もちろん、機械部品、 電子部品、埋め込みソフトウェアの設計など、技術的な視野の範囲も拡大 しています。 ライフサイクル — 調達部門、製造部門、サービス部門など、かつてはこ の種の製品データにアクセスできなかった部門にも統合されたアクセスが 可能となるなど、以前は分断されていた業務間でも製品に関連するプロセ スの統合が進められています。 プロセス — これら 3 つの次元すべてにおいて、PLM プロセスの拡大およ び統合が進められています。PLM の利用価値を実際に高めているのは、 これらのプロセスおよび情報の拡大と統合です。プロセスがなければ、 他の 3 つはありえません。 © Tech-Clarity, Inc. 2009 ここでの教訓は、現在の導入状況を調べることではなく、新しい多くの ユーザを巻き込みながら、企業全体の広くにわたって行く、この戦略が 目指す最終的な状況に対応できるインフラ基盤を確立することと言えます。 多くの企業では、PDM などの PLM のサブセグメントから始めるか、特定の部署 や製品ラインに限定して導入することから始めるのが一般的です。一方、「PLM プログラム」のアプローチが採用されるケースも尐なくありません。このアプ ローチでは、長期的な PLM 戦略を策定し、それを実際に業務を進める一連の現 実的な小さなステップに分割して、目標を達成します。そうすることで、明確で 達成可能な ROI が設定された一連の短期プロジェクトを計画できます。結果、 一度にすべて導入するよりも優れた戦略的な PLM の導入が可能になります。仮 に、小規模な導入から始めたとしても、CIO は拡張に備えておくべきです。なぜ なら、PLM は導入後の時間が経つに従って、幅広く利用されるようになるため です。また、さらに高度な CAD、CAE、およびシミュレーションプロセスが採 用されれば、既に大きなファイルサイズはさらに劇的に膨らむことが予想されま す。ここでの教訓は、現在の導入状況を調べることではなく、新しい多くのユー ザを巻き込みながら、企業全体の広くにわたって行く、この戦略が目指す最終的 な状況に対応できるインフラ基盤を確立することと言えます。 さらに高度な CAD、CAE、およびシミュレーションプロセスが採用され れば、既に大きなファイルサイズは、さらに劇的に膨らむことが予想 されます。 CIO の担当組織は、PLM と製造システム・エコシステムの他の部分とを、 双方向でリアルタイムかつ頻繁な利用に対応できる形で統合することに ついて、考えておくべきと言えます。 8 © Tech-Clarity, Inc. 2009 PLM の利用が広がり、企業エコシステムにおける PLM の役割が拡大することに 伴って、もう 1 つ何かが起こります。それは、他のエンタープライズシステムと の統合です。最近の Tech-Clarity 社の調査レポート『The Evolving Roles of ERP and PLM: Integrating the Roles of Integration and Execution』(進化する ERP と PLM の役割:統合と実行の役割の統合)では、ERP システムと PLM システムの統合 が拡大および成熟しつつあることが報告されています。多くの企業では、PLM 情報をプロセスの後工程で共有するだけでなく、在庫やコストなどのデータを PLM 環境に取り込むために、処理のリアルタイム化を進めています。Tech-Clarity 社の調査レポート『Issue in Focus: Business Intelligence Extending PLM Value』 (課題:PLM の価値を高めるビジネス・インテリジェンス)によると、検索およ びビジネス・インテリジェンス(BI)の利用によって、より適切なビジネス上の 意思決定が行えるようになっただけでなく、PLM データ単独や他のシステムの データと組み合わせた PLM データへのアクセスに対する要求の幅も広がったと 報告されています。このように、CIO の担当組織は、PLM と製造システム・エ コシステムの他の部分とを、双方向でリアルタイムかつ頻繁な利用に対応できる 形で統合することについて考えておくべきと言えます。 検索およびビジネス・インテリジェンス(BI)の利用によって、より 適切なビジネス上の意思決定が行えるようになっただけでなく、PLM データ単独またはや他のシステムのデータと組み合わせた PLM データへ のアクセスに対する要求の幅も広がったと報告されています。 リスク、導入リードタイム、コストの削減 PLM ソリューションが立案されてから、これまでに、このような特殊なニーズ をサポートできるまでに PLM は進化しました。PLM 業界は、大規模な PLM の 導入事例からの教訓として、これらの課題対応テクノロジとベストプラクティス を開発して参りました。例を挙げると、PLM ソリューションを階層型のアーキ テクチャにすることで、拡張性が高く、さまざまな選択肢から導入形態を選ぶこ とを可能としました。さらに、サービス指向型アーキテクチャ(SOA)などの エンタープライズクラス・アーキテクチャ採用は、統合が容易であるだけでなく、 拡張性にも優れています。このように、PLM はその拡大した役割を担うだけの 準備ができているのです。 PLM 業界は、大規模な PLM の導入事例からの教訓を学びとして、これら の課題に対応するためのテクノロジとベストプラクティスを開発して 参りました。 9 © Tech-Clarity, Inc. 2009 並行して、エンタープライズ・インフラストラクチャも、より広範囲に統合され たコラボレーティブかつリアルタイムなビジネス環境に対応できるまでに進化し ました。CIO はこれら両方の分野、場合によっては、それらが重なる部分につい ても理解していなければならないでしょう。これらの知識武装で、CIO は企業が PLM プログラムを進め、製品イノベーション、製品開発、およびエンジニアリ ングに関係した現在のエンタープライズシステムのニーズに安心して対応できる ことでしょう。 まとめ PLM は、エンタープライズクラスのシステムへと進化し、CIO には特別な考慮 と判断が求められています。PLM の利用の拡大と成熟に伴い、次なる要件が生 まれてきます。機密性の高いデータ、サイズの大きなファイル、導入の拡大、コ ラボレーション、そして統合に関連した固有の課題について、CIO の担当組織は 十分に理解しておかなければなりません。また、現在の製造ビジネスにおいては、 PLM はより戦略的な位置付けを担っているため、CIO の担当組織はこれらの ニーズに対応する準備が求められることでしょう。アーキテクチャの優れた PLM ソリューションを活用し、PLM のベストプラクティスの採用を判断することで、 CIO は、PLM によるビジネス上のメリットを高め、将来に十分備えた PLM 導入 を進めることができるのです。 推奨事項 10 エンタープライズソフトウェアシステムの分野における経験と、製品イノ ベーション、製品開発、エンジニアリングプロセス、PLM ソリューショ ンの分野における経験とベストプラクティスを組み合わせることを検討し ましょう。 エンタープライズレベルの導入にも対応可能なアーキテクチャ上に構築さ れた、拡張性の高いソリューションを探しましょう。 ソフトウェアとサービスのソリューション・プロバイダを選ぶにあたって は、ベストプラクティスと最高のテクノロジを提供でき、現在の製造シス テム・エコシステムで成功するために必要不可欠なエンタープライズ・ス キルと PLM の両方に精通したソリューション・プロバイダを探しましょう。 PLM の拡大に伴って生じる、統合、BI、検索、コラボレーションなどの 拡張性を準備することが求められます。 © Tech-Clarity, Inc. 2009 著者について 独立系調査・コンサルティング会社である Tech-Clarity 社の社長を勤める Jim Brown 氏は、同社の創設者でもあります。Tech-Clarity 社は、ソフトウェア技術 やサービスの中にある真のビジネス価値を紹介することを専門としています。 Brown 氏は、製造業界のアプリケーションソフトウェアの分野において 20 年以 上のキャリアを持ちます。その幅広い経歴には、工業界、経営コンサルティング、 ソフトウェア産業界における役割、PLM や ERP、SCM など多岐にわたる企業ア プリケーションの研究などがあります。 Brown 氏は、経験豊富な研究者であると同時に、執筆や講演活動にも携わってい ます。同氏は、会議など、ソフトウェア技術を通じてビジネスパフォーマンスを 向上させることに情熱を持つ人が集まる所ならどこへでも足を運び、積極的に講 演を行っています。 Jim Brown 氏の連絡先は [email protected] となっています。Twitter アカ ウントは @jim_techclarity です。ブログ(www.tech-clarity.com/ClarityonPLM)も ご覧ください。 11 © Tech-Clarity, Inc. 2009
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