第5回講義 マクロ経済学初級I 白井義昌 5.長期における生産性、 総生産、雇用 長期における生産性、 総生産、雇用の講義の目的 • 生産関数を説明し、何が総生産の主要な 決定要因かを理解する。 • 労働の需要と供給の決定要因を理解する。 • 古典派の労働市場均衡モデルを理解する。 • 雇用に関する若干の概念を習得する。 講義項目 • 5.1 生産関数:経済はどれだけの生産 物を産出できるか? • 5.2 労働需要 • 5.3 労働供給 • 5.4 労働市場の均衡 • 5.5 雇用と失業 • 5.6 生産水準と失業の関係:オークンの 法則 5.1 生産関数 生産要素 • 資本 • 労働力 • その他(資源、土地、エネルギー) • 生産要素の生産性は技術と生産活動の経 営に依存して決まる. 生産関数 • Y=A・F(K, N) K:資本投入量 N:労働投入量 Y:総生産量 A:総生産性(Total Factor Productivity) を表す外生変数(パラメター) コブ-ダグラス型生産関数 Y=A・K0.7 N0.3 生産関数の形状 • 資本の限界生産力(marginal product of capital: MPK) ⊿Y/⊿K • 労働の限界生産力(marginal product of labor: MPN) ⊿Y/⊿N 仮定 • 限界生産力は正である。 • 限界生産力は逓減する。 生産関数: 資本投入量と生産量の関係 資本の限界生産力 生産関数: 労働投入量と生産量の関係 供給ショック • 供給ショックは、一定量の生産要素投入の もとでの生産量を変化させる。 • 正のショック(生産量を増大する)と負の ショック(生産量を減少させる)がある。 • 正のショック:発明、良い天候など。 • 負のショック:悪天候、災害、石油などの天 然資源価格の上昇、規制の導入など。 労働の限界生産力を低下させる負の供給ショック 5.2 労働需要 問い:企業はどれだけの労働力 を雇いたいか? • 仮定 • 資本の投入量は一定とする。(短期の分 析) • 労働者は皆同様の行動をとるとする。 • 労働市場は競争的である • 企業は利潤最大化する。 答え • 労働の限界生産力が実質賃金に等しくな るまで労働力を雇う。[限界原理] • W=P・MPN MPN=W/P P;生産物価格(名目) W:名目賃金 W/P:実質賃金 労働需要量の決定 総労働需要 • 総労働需要は企業の労働需要を全ての企 業についてたしあわせたものである。 • 労働の限界生産力に影響をあたえる供給 ショックが総労働需要に影響をあたえる。 5.3 労働供給 労働供給は労働者個人が決定 する。 • そして、総労働供給は個人の労働供給量 を全ての労働者についてたしあげたもので ある。 • 労働者供給量は個人の労働と余暇の時間 配分として決定される。 労働と余暇のトレードオフ • 労働者の効用(満足度)は労働時間と余暇 時間の双方に依存する。 • 追加的にもう一単位時間働くことの費用 (苦痛)と便益(賃金収入獲得)を比較して 働くかどうかを決める。 • [限界原理] 労働の限界便益(実質賃金) が労働の限界不効用(苦痛)と等しくなると ころまで働く(労働を供給する)。 実質賃金と労働供給の関係 • 実質賃金の上昇は労働供給に対して 代替効果と 所得効果をもたらす。 • 代替効果:実質賃金の上昇は労働の余暇 に対する相対価格の上昇であるので、個 人は余暇を減らし、労働供給量を増やす 誘因を持つ。 • 所得効果:実質賃金の上昇は個人に対し て所得の増大をもたらす。所得が増大す れば個人は労働時間をへらし、余暇を増 やす。⇒労働供給量の減少。 • 実質賃金の上昇があったとき、 [ケース1] 代替効果が所得効果を上回るな らば労働供給量は増える。 [ケース2] 所得効果が代替効果を上回るな らば労働供給量は減る。 純粋な代替効果 • 一時的な実質賃金の増大: 個人にとって、恒常的な所得の増大をもた らすものではない、したがって、所得効果 ははたらかず、代替効果だけがはたらく。 個人は一時的な実質賃金の増大によって、 そのときの稼ぎを増やそうとして労働供給 を増やす。 純粋な所得効果 • 宝くじにあたる: 宝くじにあたった個人は、所得がふえること になる。実質賃金は変化しなくても、これに よってこの個人は労働時間を減らす。 長期的な実質賃金の上昇と 労働供給 • 長期的な実質賃金の上昇は代替効果として 労働供給量を増大させる働きをもつが、同 時に所得増大にもつながるので、所得効果 として労働供給量を減少させる効果をもつ。 • 実質賃金が上昇が見込まれる期間がなが ければながいほど所得効果は大きい。⇒労 働供給量が減少する可能性がある。 実際の労働供給の観察結果 • 一時的な実質賃金の上昇に対して、労働 供給は増える。 • 恒常的な実質賃金の上昇は、労働供給を 減らす。 労働者の労働供給曲線 The workweek and real GDP per person in 36 countries 総労働供給曲線 • 個人の労働供給量を全ての個人について たしあわせたものが総労働供給量である。 実質賃金とその実質賃金のもとでの総労 働供給量のくみあわせが総労働供給曲線 である。 5.4 労働市場均衡 均衡:労働供給量と需要量が一 致すること • 均衡において労働需給量が完全雇用の雇 用水準となる。 (Nf で表すことにする) また均衡実質賃金が定まる。 (w*で表すことにする) 実質賃金 総労働供給曲線 均衡実質 賃金 w* 総労働需要曲線 Nf 完全雇用雇用水準 完全雇用生産水準 • Yf=A・F(K, Nf) • 完全雇用労働量が投入されているときの 総生産量を完全雇用生産水準という。 ( Yfであらわす) 以上のモデルの欠点 • 失業の問題を考えることができない。 5.5 雇用と失業 失業の測定 • 人々の状態: 就業状態(就業者) Employed、 失業状態(失業者) Unemployed、 労働力にはなっていない状態(非労働力) Not in the labor force. • 労働力人口(Labor force)= 就業者数+ 失業者数 • 失業率=失業者数/労働力人口 アメリカにおける一ヶ月間の労働力人口の流れ なぜ常に失業者が存在するの か? • 摩擦的失業 – 企業も労働者も各主体は特性が異なるため、お 互いに適した相手を探す活動(サーチ活動)を 行う。 – 企業と労働者のマッチングには時間がかかる。 • 構造的失業 – 長期的、慢性的失業 – 考えうる原因:労働者側の能力不足、衰退しつ つある産業または地域から労働者の再配置 自然失業率 • 自然失業率 un:完全雇用状態にあるとき の失業率 • 自然失業者数=摩擦的失業者数+構造 的失業者数 • 循環的失業(cyclical unemployment) =現実の失業率-自然失業率= u- un 5.6 生産と失業の関係 オークン法則 オークン法則(Okun’s Law) • 総生産と循環的失業の間にある経験則 Yf -Y n) =2.5(u-u Yf Y- Yf n) =-2.5(u-u Yf 現実の生産量の潜在生産力からの乖離率 =-2.5×循環的失業 Okun’s law in the United States: 1954-1998
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