第47回宇宙科学技術連合講演会 3G2 (Nov. 19, 2003) 日本付近の電離層によるGPSへの影響 坂井 丈泰 (電子航法研究所) Todd Walter (Stanford University) Nov. 2003 Sakai, ENRI Introduction Page 1 • GPSをはじめ衛星航法システムでは、電離層遅延(~100m) の補正が必須。 • 複数周波数の信号で補正可能だが、実用化されつつあるシス テムは単一周波数。 • 高精度な測位のためには、ディファレンシャルGPS方式で空 間相関のある誤差を補正する:電離層遅延の空間相関は? • 国土地理院などによるGPS観測ネットワークのデータ(2周波) を使用して、日本上空における電離層遅延量の分布を調べた。 – 日によっては、10m/500km以上の遅延差がある: ディファレンシャルGPSに影響 – 電離圏環境の観測にも有効 Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 2 GPSの誤差要因 衛星クロック誤差 太陽光線 衛星軌道情報の誤差 電離層 電離層遅延(~100m) 周波数に依存 高度250~400km程度 対流圏遅延(~20m) 対流圏 マルチパス 高度7km程度まで Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 3 電離層遅延補正 (1)1周波受信機(普通の受信機) • コサインモデルで補正(ピークは14:00LT、夜間は5ns。 • 補正精度はそれほど良くない(RMS誤差で半減程度)。 (2)2周波受信機(科学観測・測量用) 5ns • 電離層遅延量の周波数依存性を利用して直接補正。 • よく補正できる。受信機の周波数間バイアスが問題。 遅延時間 T = ∫ 40.3 c f2 N dl = 14:00 40.3 TEC c f2 (3)ディファレンシャルGPS(移動体応用) 電離層 • 基準局における測定値により補正。 • よく補正できる。基準局が遠いと精度低下。 ユーザ 基準局 Nov. 2003 Sakai, ENRI 電離層の観測 Page 4 電離層の一般的性質 • 高度250~400km付近に分布。 • 昼夜で高度や厚さが大きく変化する(昼は低くて厚い)。 • 支配的要因は地方時刻・磁気緯度。 • 一般には数1000kmにおよぶ空間相関がある。 • 磁気嵐発生時には活性化し、遅延量とそのばらつきが特に大きくなる。 電離層の観測方法 • 短波レーダなどによりピーク高度やプロファイルを測定。 • 国内では通信総合研究所が常時観測。 GPS観測の利点 • 連続的な観測ができる。 • 受信機がネットワーク化されており、空間的分布がわかる。 Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 5 観測点の配置 60 GEONET(国土地理院) IGSネットワーク Latitude, N 45 • GEONET 22地点に加えて、 45 周辺国のIGSサイト 6地点を利用。 30 • すべて2周波GPS受信機により、30 秒間隔で常時連続観測。 • 今回の調査には、2003年5月28~ 29日のデータを使用。 30 – 28日:通常の状態 15 120 135 150 Longitude, E – 29日:日中から磁気嵐が発生 165 • 磁気緯度は石垣島で14.5度。 Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 6 Kp指数の状況 調査期間 9 8 磁気嵐の発生 活発 Kp Index 7 6 5 4 3 2 静穏 1 0 26 27 28 29 30 31 UTC Day of May, 2003 • 地磁気活動の活発さを表す指数。範囲は0~9。 • 京都大学地磁気世界資料解析センターによる速報値。 Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 7 電離層遅延量(処理前) Vertical Delay, m 20 Outlier Mag Lat Mitaka 51.3 26.6 10 Magadan 0 Ishigaki Satellite Bias 14.5 Receiver Bias 24 48 Local Time from 5/28/03 00:00, h • L1/L2周波数での搬送波位相観測データから算出(垂直遅延に換算)。 • サイクルスリップ・整数アンビギュイティは除去済み。 Nov. 2003 Sakai, ENRI バイアスの推定・除去 Page 8 周波数間バイアス(Inter-Frequency Bias)の性質 • GPS衛星・受信機のそれぞれについて含まれるオフセット成分。 – 主にハードウェアによる遅延の個体差 – 時定数は大きい:推定後は定数として扱える • 擬似距離と搬送波位相観測データの双方に同じだけ含まれる。 • L2測定値のL1測定値に対する差として取り扱う。 推定・除去方法 • 適当な電離層モデルを仮定して、最小二乗法あるいはカルマンフィルタで推 定する。 – ここでは、4次の球面調和関数による3層薄膜モデル(基底関数75個) • 推定後は定数とみなして、電離層遅延量の測定値から除く。 MeasuredDelay(t,i,j) = OF(t,i,j)·IonoModel(a | t,i,j)+IFBi+IFBj : : : : Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 9 バイアス推定処理 10 Receiver IFB, m Satellite IFB, m 10 0 -10 0 24 Time, h 48 0 -10 0 24 Time, h • カルマンフィルタで処理。 • 衛星や電離層は全部が見えるのに1日かかる。 48 Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 10 バイアス推定例 6 Receiver IFB, m Satellite IFB, m 3 2 1 0 1 10 20 Satellite PRN 30 3 0 Ishigaki -3 -6 10 Magadan Mitaka 20 30 40 50 Magnetic Latitude, deg • L1/L2周波数での観測データに含まれるバイアス誤差。 • 衛星/受信機それぞれについて求められる。 Nov. 2003 Sakai, ENRI 電離層遅延量(処理後) Page 11 Vertical Delay, m 20 Mag Lat 51.3 26.6 14.5 10 0 24 48 Local Time from 5/28/03 00:00, h • 周波数間バイアスは推定・除去。 • 異常値も除去済み。 Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 12 電離層遅延量(全観測局) Vertical Delay, m 20 Max/Min 2nd Max/Min Average 10 0 12 24 36 48 60 Local Time since 5/28 00:00, h • GPSネットワークによる電離層遅延量観測値。 • 垂直遅延に換算して表示。 Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 13 電離層遅延の分布例(ピーク時) 50 5/29/2003 05:40UTC 20 18 16 14 Latitude, deg 40 10 8 30 6 4 2 20 120 130 Longitude, deg 140 150 0 Delay, m 12 Nov. 2003 Sakai, ENRI ユーザ測位誤差(水平) B地点 A地点 単独測位 A地点(那覇) DGPS A地点(那覇) 基準局:B地点 (奄美大島) A-B間:300km Page 14 Nov. 2003 Sakai, ENRI ユーザ測位誤差(垂直) B地点 A地点 単独測位 A地点(那覇) DGPS A地点(那覇) 基準局:B地点 (奄美大島) A-B間:300km Page 15 Nov. 2003 Sakai, ENRI 空間相関(28日) • 任意の2地点の電離層遅 延量の差の頻度分布 Page 16 Nov. 2003 Sakai, ENRI 空間相関(29日) Page 17 Nov. 2003 Sakai, ENRI 空間相関(全体) Page 18 Nov. 2003 Sakai, ENRI 空間相関(29日:高緯度) Page 19 Nov. 2003 Sakai, ENRI 空間相関(29日:低緯度) Page 20 Nov. 2003 Sakai, ENRI Page 21 DGPSの電離層補正 電離層 ユーザ 基準局 • 基準局における測定値により補正する。 • 空間相関による影響を直接受ける。 Nov. 2003 Sakai, ENRI 広域補強システムの電離層補正 • 広域補強システム(WADGPS) では、大陸規模の広域にわた って有効な補正値が必要。 • 5度×5度の格子点(IGP)にお ける補正値が放送される。 • ユーザは、各衛星から到来す る測距信号の電離層通過点 (IPP)を求め、その位置の補正 値を内挿により求める。 • 補正精度は、モニタ局の配置に 依存する。 Latitude, deg 60 30 5度 0 -180 Page 22 5度 -150 IGP -120 -90 Longitude, deg -60 IGP IPP Nov. 2003 Sakai, ENRI Conclusion Page 23 • 衛星航法システムに大きな影響を及ぼす電離層について、 GPS受信機ネットワークによる観測を試みた。 – 空間的な分布が、細かい時間分解能で得られる – 電離圏環境の観測にも有効 • 磁気嵐の発生している時期について、日本上空における電離 層遅延量の分布を調べた。 – ディファレンシャルGPSにも影響:単独測位より影響が大 きくなる場合がある(基線長300km) – 広域補強システムも例外ではない – 日によっては、10m/500km以上の遅延差がある • 今後の課題:他の時期の解析、空間分解能の向上
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