低磁気緯度 地方における電離層活動のSBASへの影響

電子情報通信学会SANE研究会
Jan. 30, 2004
低磁気緯度地方における
電離層活動のSBASへの影響
坂井 丈泰、松永 圭左、星野尾 一明 (電子航法研究所)
Todd Walter (Stanford University)
Jan. 2004 Sakai, ENRI
Introduction
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• GPSは電離層遅延(~100m)の影響を受けるため、これを補
正する必要がある。
• SBASでは、経緯度で5度毎の格子点における遅延量を放送。
受信機は線形補間により補正量を求め、補正に使用する。
• この方式は主に北米大陸における観測データにもとづいて設
計されている。低磁気緯度に位置する日本付近では、所要の
補正が得られるか?
• 日本上空における電離層遅延量データにより、SBAS補正方
式の性能を評価した。
– 電離層活動が静穏であれば、十分に補正できる。
– 磁気嵐の発生時には、補正しきれない場合がある。
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GPSの誤差要因
衛星クロック誤差
太陽光線
40.3
TEC
c f2
遅延時間 T =
衛星軌道情報の誤差
電離層
電離層遅延(~100m)
周波数に依存
高度250~400km程度
対流圏遅延(~20m)
対流圏
マルチパス
高度7km程度まで
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電離層遅延の補正
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電離層の一般的性質
• 高度250~400km付近に分布する(E層、F層)。
• 昼夜で高度や厚さ、密度が大きく変化する(昼は低くて濃い)。
• 支配的要因は地方時刻・磁気緯度で、一般には数1000kmにおよぶ空間相関
がある。
• 電波伝搬経路上の自由電子の総数により遅延量が決まる。
• 太陽フレアなどにより磁気嵐が発生すると活動が激しくなり、遅延量とそのばら
つきが特に大きくなる。
電離層遅延の補正方法
(1) GPS単独測位:磁気緯度と地方時の関数として補正。
(2) LADGPS(狭域DGPS):近くにある基準局での実測値を使用。
(3) WADGPS(広域DGPS):電離層遅延量の分布を放送。
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ユーザ測位誤差の例(水平)
B地点
A地点
単独測位
A地点(那覇)
DGPS
A地点(那覇)
基準局:B地点
(奄美大島)
A-B間:300km
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ユーザ測位誤差の例(垂直)
B地点
A地点
単独測位
A地点(那覇)
DGPS
A地点(那覇)
基準局:B地点
(奄美大島)
A-B間:300km
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SBASの電離層補正
60
Latitude, N
45
30
30
15
• 広域補強システム(WADGPS)
では、大陸規模の広域にわた
って有効な補正値が必要。
• 5度×5度の格子点(IGP)にお
ける補正値が放送される。
• ユーザは、各衛星から到来す
る測距信号の電離層通過点
(IPP)を求め、その位置の補正
値を内挿により求める。
• 補正精度は、モニタ局の配置に
依存する。
IGP
0
0
120
150
Longitude, E
180
IGP
IPP
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内挿法:平面モデル
IGP2
IGP1
IPP
ypp
IGP3
IGP4
xpp
DIPP = xppyppDIGP1+(1-xpp)yppDIGP2+(1-xpp)(1-ypp)DIGP3+xpp(1-ypp)DIGP4
• IPP位置における電離層遅延量は、周囲のIGPの垂直遅延
量から双一次補間により求める。
• 平面モデルにより電離層遅延量を推定していることになる。
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垂直→傾斜変換
6
Obliquity Factor
H=100km
4
Slant delay
H=350km
Vertical
delay
2
H=1000km
0
仰角 E
15
30
電離層
高度 H
45
Satellite Elevation, deg
• SBASが放送するのは垂直遅延量なので、これを衛
星の仰角に基づいて視線方向の遅延量に換算する。
• 換算のための関数も規格で定められている。
傾斜係数 = slant / vertical
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SBASメッセージ(1)
プリアンブル
8ビット
メッセージタイプ
6ビット
データ領域
212ビット
CRCコード
24ビット
250ビット
メッセージ
タイプ
内 容
更新間隔
(秒)
メッセージ
タイプ
6
17
GEOアルマナック
300
300
内 容
更新間隔
(秒)
0
テストモード(使用不可)
1
PRNマスク情報
120
18
IGPマスク情報
高速補正(FC+UDRE)
60
24
高速補正・長期補正
6
インテグリティ情報(UDRE)
6
25
長期補正
120
7
高速補正の劣化係数
120
26
電離層遅延補正(+GIVE)
300
9
GEO航法メッセージ
120
27
SBASサービスメッセージ
300
10
劣化係数
120
28
クロック・軌道情報共分散
120
12
SBAS時刻情報
300
63
NULLメッセージ
2~5
6
—
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SBASメッセージ(2)
補正の種類
記 号
ビット数
分解能
補正範囲
高速補正
FC
12
0.125 m
±256 m
長期補正(衛星位置)
δx, δy, δz
11
0.125 m
±128 m
長期補正(衛星速度)
δx, δy, δz
8
2–11 m/s
±0.0625 m/s
電離層遅延補正
Vertical Delay Estimate
9
0.125 m
63.875 m
ビット内容
FC劣化係数
UDRE
GIVE
URA(静止衛星)
0
0 mm/s2
0.0520 m2
0.0084 m2
2m
1
0.05 mm/s2
0.0924 m2
0.0333 m2
2.8 m
2
0.09 mm/s2
0.1444 m2
0.0749 m2
4m
3
0.12 mm/s2
0.2830 m2
0.1331 m2
5.7 m
:
:
:
:
:
13
3.30 mm/s2
2078.695 m2
20.787 m2
2048 m
14
4.60 mm/s2
Not Monitored
187.0826 m2
4096 m
15
5.80 mm/s2
Don’t Use
Not Monitored
Don’t Use
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補正残差の要因(1)
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(1) 遅延量測定誤差
モニタ局における電離層遅延量の測定誤差。マルチパスお
よびキャリアスムージングのほか、2周波受信機を利用するた
め周波数間バイアスも問題。
(2) サンプル不足
ユーザ位置における電離層遅延の補正精度は、モニタ局ネ
ットワークの密度に左右される。MSASの場合は国内6局。
(3) 薄膜近似による誤差
高度方向の分布がある電離層を厚さのない薄膜で近似して
いることによる誤差。
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補正残差の要因(2)
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(4) 電離層高度
SBASでは350kmに固定しているが、実際には季節や時間
帯によって大きく変化する。高度が違うとIPPの位置も変わる。
(5) 補間方式
現行方式は5度メッシュの平面補間。これ以上の細かい変動
は補正できない。
(6) 時間分解能
現状では、少なくとも5分以下の間隔で補正メッセージが放
送される。これより速い変動は補正できない。
(7) 量子化誤差
現行メッセージでは0.125m単位。
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SBAS方式の評価
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• 現行SBAS方式による、日本付近における補正能力を評価し
たい。
• GEONET(国土地理院)およびIGSの観測データ(合計28局)
より、次の期間の電離層遅延量データを作成した。
(期間I) 電離層活動は静穏(2003年7月8~9日)
(期間II) 強い磁気嵐が発生(2003年10月29~31日)
• 観測データからMSASの6局分を抽出し、これに基づいて平面
フィッティングによる補正値を求め、実際の遅延量と比較して
残差を求める。
• 参考のため、補間次数は0~2次を試した。現行方式は1次。
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観測点の配置
60
GEONET(国土地理院)
IGSネットワーク
Latitude, N
45
• GEONET 22地点に加えて、
45
周辺国のIGSサイト 6地点を利用。
30
• すべて2周波GPS受信機により、30
秒間隔で常時連続観測。
• 磁気緯度は石垣島で14.5度。
30
• 28局を用いた理由:受信機の周波
数間バイアスをうまく推定するた
MLAT め。
15
120
135
150
Longitude, E
165
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空間相関(静穏時)
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空間相関(磁気嵐発生時)
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MSASのモニタ局配置
60
MSASモニタ局位置
他の観測地点
Latitude, N
45
• MSASのモニタ局は、札幌・茨城
(常陸太田)・東京(所沢)・神戸・福
岡・那覇、の6地点。
45
30
30
120
135
150
Longitude, E
• ハワイおよびオーストラリアにも標
定局があるが、電離層遅延推定で
は除外。
• 作成した電離層遅延量データのう
ち、これら6地点に近いGEONET
MLAT
局によるものを抽出して以下の評
15
165 価に使用した。
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評価手順
評価対象のIPPを決める
評価対象以外のIPPの垂直遅延量データに、
もっともよくフィットする平面を求める
評価対象IPPの位置での遅延量を推定する
推定値と実測値の差 → 残差
すべてのIPPを評価した?
すべてのエポックを調べた?
No
No
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評価方法:クロスバリデーション
Top View
IPP(Ionospheric Pierce Point)
R
ひとつのIPPを評価対象とする
(パラメータ計算に使わない)
距離R以内のIPPを集め、
フィッティングパラメータを決める
(評価対象IPPは除く)
2次曲面フィッティング
(パラメータ6個)
Side View
残差
電離層遅延
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平面フィッティング
(パラメータ3個)
• パラメータ推定の正当性検証のための一般的手法
• 全エポック、すべてのIPPについて評価し、RMS値を求める
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静穏時:0次フィッティング
補正残差(時系列)
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補正残差(相対度数分布)
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静穏時:1次フィッティング
補正残差(時系列)
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補正残差(相対度数分布)
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静穏時:2次フィッティング
補正残差(時系列)
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補正残差(相対度数分布)
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磁気嵐時:0次フィッティング
補正残差(時系列)
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補正残差(相対度数分布)
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磁気嵐時:1次フィッティング
補正残差(時系列)
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補正残差(相対度数分布)
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磁気嵐時:2次フィッティング
補正残差(時系列)
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補正残差(相対度数分布)
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フィッティング残差
時期
静穏時
時期嵐時
RMS
残差 (m)
最小
最大
1
0.463
-2.143
1.415
1
3
0.411
-1.498
1.399
2
6
0.426
-1.705
1.392
0
1
0.909
-2.555
11.921
1
3
0.546
-3.531
6.777
2
6
0.525
-4.140
5.973
次数
パラメータ
個数
0
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電離層のサンプル密度
MSASモニタ局(6局)
全局(28局)
• 10月末の磁気嵐の際のピーク時の電離層遅延量分布。
• 背景は全局分データを適当に補間したもの。
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Conclusion
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• 現行SBASの電離層遅延補正方式は主に北米大陸における
観測データにもとづいており、低磁気緯度地方に位置する日
本付近での有効性については検証を要する。
• GEONETおよびIGSによる観測データを用いて電離層遅延
量データを作成し、SBAS方式(MSASの6局を想定)の補正
能力を評価した。
– 電離層活動が静穏であれば、十分に補正できる。
– 磁気嵐の発生時には、補正しきれない場合がある。
• 今後の課題:他の補正方式の評価
補正残差の分布の検討
時間的変動の検討