電子情報通信学会総合大会 March 23, 2004 SBAS電離層遅延補正の 日本付近における効果 坂井 丈泰、松永 圭左、星野尾 一明 (電子航法研究所) Todd Walter (Stanford University) March 2004 Sakai, ENRI Introduction Page 1 • GPSは電離層遅延(~100m)の影響を受けるため、これを補 正する必要がある。 • SBASでは、経緯度で5度毎の格子点における遅延量が放送 される。受信機は線形補間ののちに薄膜電離層を仮定して補 正量を求め、補正に使用する。 • この方式は主に北米大陸における観測データにもとづいて設 計されている。低磁気緯度に位置する日本付近では、所要の 補正が得られるか? • 日本上空における電離層遅延量データにより、SBAS補正方 式の性能を評価した。 March 2004 Sakai, ENRI Page 2 GPSの誤差要因 衛星クロック誤差 太陽光線 40.3 TEC c f2 遅延時間 T = 衛星軌道情報の誤差 電離層 電離層遅延(~100m) 周波数に依存 高度250~400km程度 対流圏遅延(~20m) 対流圏 マルチパス 高度7km程度まで March 2004 Sakai, ENRI 電離層遅延の補正 Page 3 電離層の一般的性質 • 高度250~400km付近に分布する(E層、F層)。 • 昼夜で高度や厚さ、密度が大きく変化する(昼は低くて濃い)。 • 支配的要因は地方時刻・磁気緯度で、一般には数1000kmにおよぶ空間相関 がある。 • 電波伝搬経路上の自由電子の総数により遅延量が決まる。 • 太陽フレアなどにより磁気嵐が発生すると活動が激しくなり、遅延量とそのばら つきが特に大きくなる。 電離層遅延の補正方法 (1) GPS単独測位:磁気緯度と地方時の関数として補正。 (2) LADGPS(狭域DGPS):近くにある基準局での実測値を使用。 (3) WADGPS(広域DGPS):電離層遅延量の分布を放送。 March 2004 Sakai, ENRI Page 4 SBASの電離層補正 60 Latitude, N 45 30 30 15 • 広域補強システム(WADGPS) では、大陸規模の広域にわた って有効な補正値が必要。 • 5度×5度の格子点(IGP)にお ける補正値が放送される。 • ユーザは、各衛星から到来す る測距信号の電離層通過点 (IPP)を求め、その位置の補正 値を内挿により求める。 • 補正精度は、モニタ局の配置に 依存する。 IGP 0 0 120 150 Longitude, E 180 IGP IPP March 2004 Sakai, ENRI Page 5 内挿法:平面モデル IGP2 IGP1 IPP ypp IGP3 IGP4 xpp DIPP = xppyppDIGP1+(1-xpp)yppDIGP2+(1-xpp)(1-ypp)DIGP3+xpp(1-ypp)DIGP4 • IPP位置における電離層遅延量は、周囲のIGPの垂直遅延 量から双一次補間により求める。 • 平面モデルにより電離層遅延量を推定していることになる。 March 2004 Sakai, ENRI Page 6 垂直→傾斜変換 6 Obliquity Factor H=100km 4 Slant delay H=350km Vertical delay 2 H=1000km 0 仰角 E 15 30 電離層 高度 H 45 Satellite Elevation, deg • SBASが放送するのは垂直遅延量なので、これを衛 星の仰角に基づいて視線方向の遅延量に換算する。 • 換算のための関数も規格で定められている。 傾斜係数 = slant / vertical March 2004 Sakai, ENRI Page 7 SBASメッセージ(1) プリアンブル 8ビット メッセージタイプ 6ビット データ領域 212ビット CRCコード 24ビット 250ビット メッセージ タイプ 内 容 更新間隔 (秒) メッセージ タイプ 6 17 GEOアルマナック 300 300 内 容 更新間隔 (秒) 0 テストモード(使用不可) 1 PRNマスク情報 120 18 IGPマスク情報 高速補正(FC+UDRE) 60 24 高速補正・長期補正 6 インテグリティ情報(UDRE) 6 25 長期補正 120 7 高速補正の劣化係数 120 26 電離層遅延補正(+GIVE) 300 9 GEO航法メッセージ 120 27 SBASサービスメッセージ 300 10 劣化係数 120 28 クロック・軌道情報共分散 120 12 SBAS時刻情報 300 63 NULLメッセージ 2~5 6 — March 2004 Sakai, ENRI Page 8 SBASメッセージ(2) 補正の種類 記 号 ビット数 分解能 補正範囲 高速補正 FC 12 0.125 m ±256 m 長期補正(衛星位置) δx, δy, δz 11 0.125 m ±128 m 長期補正(衛星速度) δx, δy, δz 8 2–11 m/s ±0.0625 m/s 電離層遅延補正 Vertical Delay Estimate 9 0.125 m 63.875 m ビット内容 FC劣化係数 UDRE GIVE URA(静止衛星) 0 0 mm/s2 0.0520 m2 0.0084 m2 2m 1 0.05 mm/s2 0.0924 m2 0.0333 m2 2.8 m 2 0.09 mm/s2 0.1444 m2 0.0749 m2 4m 3 0.12 mm/s2 0.2830 m2 0.1331 m2 5.7 m : : : : : 13 3.30 mm/s2 2078.695 m2 20.787 m2 2048 m 14 4.60 mm/s2 Not Monitored 187.0826 m2 4096 m 15 5.80 mm/s2 Don’t Use Not Monitored Don’t Use March 2004 Sakai, ENRI 補正残差の要因(1) Page 9 (1) 遅延量測定誤差 モニタ局における電離層遅延量の測定誤差。マルチパスお よびキャリアスムージングのほか、2周波受信機を利用するた め周波数間バイアスも問題。 (2) サンプル不足 ユーザ位置における電離層遅延の補正精度は、モニタ局ネ ットワークの密度に左右される。MSASの場合は国内6局。 (3) 薄膜近似による誤差 高度方向の分布がある電離層を厚さのない薄膜で近似して いることによる誤差。 March 2004 Sakai, ENRI 補正残差の要因(2) Page 10 (4) 電離層高度 SBASでは350kmに固定しているが、実際には季節や時間 帯によって大きく変化する。高度が違うとIPPの位置も変わる。 (5) 補間方式 現行方式は5度メッシュの平面補間。これ以上の細かい変動 は補正できない。 (6) 時間分解能 現状では、少なくとも5分以下の間隔で補正メッセージが放 送される。これより速い変動は補正できない。 (7) 量子化誤差 現行メッセージでは0.125m単位。 March 2004 Sakai, ENRI SBAS方式の評価 Page 11 • 現行SBAS方式による、日本付近における補正能力を評価し たい。 • GEONET(国土地理院)およびIGSの観測データ(合計28局) より、次の期間の電離層遅延量データを作成した。 (期間I) 電離層活動は静穏(2003年7月8~9日) (期間II) 強い磁気嵐が発生(2003年10月29~31日) • 観測データからMSASの6局分を抽出し、これに基づいて平面 フィッティングによる補正値を求め、実際の遅延量と比較して 残差を求める。 • 参考のため、補間次数は0~2次を試した。現行方式は1次。 March 2004 Sakai, ENRI Page 12 MSASのモニタ局配置 60 MSASモニタ局位置 他の観測地点 45 Latitude, N • GEONET 22地点に加えて、周辺 国のIGSサイト 6地点を利用。 45 30 30 120 135 150 Longitude, E • すべて2周波GPS受信機により、 30秒間隔で常時連続観測。 • MSASのモニタ局は、札幌・茨城 (常陸太田)・東京(所沢)・神戸・福 岡・那覇、の6地点。 • 作成した電離層遅延量データのう MLAT ち、これら6地点に近いGEONET 15 165 局によるものを抽出して使用した。 March 2004 Sakai, ENRI 評価方法:クロスバリデーション Top View IPP(Ionospheric Pierce Point) R ひとつのIPPを評価対象とする (パラメータ計算に使わない) 距離R以内のIPPを集め、 フィッティングパラメータを決める (評価対象IPPは除く) 2次曲面フィッティング (パラメータ6個) Side View 残差 電離層遅延 Page 13 平面フィッティング (パラメータ3個) • パラメータ推定の正当性検証のための一般的手法 • 全エポック、すべてのIPPについて評価し、RMS値を求める March 2004 Sakai, ENRI 静穏時:0次フィッティング 補正残差(時系列) Page 14 補正残差(相対度数分布) March 2004 Sakai, ENRI 静穏時:1次フィッティング 補正残差(時系列) Page 15 補正残差(相対度数分布) March 2004 Sakai, ENRI 静穏時:2次フィッティング 補正残差(時系列) Page 16 補正残差(相対度数分布) March 2004 Sakai, ENRI 磁気嵐時:0次フィッティング 補正残差(時系列) Page 17 補正残差(相対度数分布) March 2004 Sakai, ENRI 磁気嵐時:1次フィッティング 補正残差(時系列) Page 18 補正残差(相対度数分布) March 2004 Sakai, ENRI 磁気嵐時:2次フィッティング 補正残差(時系列) Page 19 補正残差(相対度数分布) March 2004 Sakai, ENRI Page 20 フィッティング残差 時期 静穏時 時期嵐時 RMS 残差 (m) 最小 最大 1 0.463 -2.143 1.415 1 3 0.411 -1.498 1.399 2 6 0.426 -1.705 1.392 0 1 0.909 -2.555 11.921 1 3 0.546 -3.531 6.777 2 6 0.525 -4.140 5.973 次数 パラメータ 個数 0 March 2004 Sakai, ENRI Conclusion Page 21 • 現行SBASの電離層遅延補正方式は主に北米大陸における 観測データにもとづいており、低磁気緯度地方に位置する日 本付近での有効性については検証を要する。 • GEONETおよびIGSによる観測データを用いて電離層遅延 量データを作成し、SBAS方式(MSASの6局を想定)の補正 能力を評価した。 – 電離層活動が静穏であれば、十分に補正できる。 – 磁気嵐の発生時には、補正しきれない場合がある。 • 今後の課題:他の補正方式の評価 補正残差の分布の詳細な分析(他の時期も) 時間的変動の検討
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