電子情報通信学会SANE研究会 Dec. 19, 2003 GPSによる電離層総電子数の観測 坂井 丈泰 (電子航法研究所) Todd Walter (Stanford University) Dec. 2003 Sakai, ENRI Introduction Page 1 • GPSは電離層遅延(~100m)の影響を受けるが、逆に電離 層の観測手段として利用されつつある。 • 複数周波数の信号により観測するため周波数間バイアスの 影響を受け、これを推定・除去する必要がある。 • 一般には適当な電離層モデルを仮定し、そのモデルパラメー タと周波数間バイアスを未知数として正規方程式を解く。 • 国土地理院などによるGPS観測ネットワークのデータを使用 して、日本上空における電離層遅延量の分布を調べ、あわせ てモデルによる周波数間バイアスの推定性能を比較した。 – 2層以上の電離層モデルが有効 – 仰角マスクは必ずしも高く設定しなくてよい Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 2 GPSの誤差要因 衛星クロック誤差 太陽光線 40.3 TEC c f2 遅延時間 T = 衛星軌道情報の誤差 電離層 電離層遅延(~100m) 周波数に依存 高度250~400km程度 対流圏遅延(~20m) 対流圏 マルチパス 高度7km程度まで Dec. 2003 Sakai, ENRI 電離層の観測 Page 3 電離層の一般的性質 • 高度250~400km付近に分布。 • 昼夜で高度や厚さが大きく変化する(昼は低くて厚い)。 • 支配的要因は地方時刻・磁気緯度。 • 一般には数1000kmにおよぶ空間相関がある。 • 磁気嵐発生時には活性化し、遅延量とそのばらつきが特に大きくなる。 電離層の観測方法 • 短波レーダやイオノゾンデなどによりピーク高度やプロファイルを測定。 • 国内では通信総合研究所が常時観測。 GPS観測の利点 • 連続的な観測ができる。 • 受信機がネットワーク化されており、空間的分布がわかる。 Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 4 電離層遅延の観測(バイアス補正前) Vertical Delay, m 20 Outlier Mag Lat Mitaka 51.3 26.6 10 Magadan 0 Ishigaki Satellite Bias 24 48 Local Time from 5/28/03 00:00, h • L1/L2周波数での搬送波位相観測データから算出。 • サイクルスリップ・整数アンビギュイティは除去済み。 14.5 Receiver Bias Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 5 周波数間バイアス 6 Receiver IFB, m Satellite IFB, m 3 2 1 0 1 10 20 Satellite PRN 30 3 0 Ishigaki -3 -6 10 Magadan Mitaka 20 30 40 50 Magnetic Latitude, deg • L1/L2周波数での観測データに含まれるバイアス誤差。 • 衛星/受信機それぞれについて求められる。 Dec. 2003 Sakai, ENRI バイアスの推定・除去 Page 6 周波数間バイアス(Inter-Frequency Bias)の性質 • GPS衛星・受信機のそれぞれについて含まれるオフセット成分。 – 主にハードウェアによる遅延の個体差 – 時定数は大きい:推定後は定数として扱える • 擬似距離と搬送波位相観測データの双方に同じだけ含まれる。 • L2測定値のL1測定値に対する差として取り扱う。 推定・除去方法 • 適当な電離層モデルを仮定して、最小二乗法あるいはカルマンフィルタで推 定する。 – ここでは、4次の球面調和関数による3層薄膜モデル(基底関数75個) • 推定後は定数とみなして、電離層遅延量の測定値から除く。 MeasuredDelay(t,i,j) = ModelDelay(a | t,i,j)+IFBi+IFBj : : : : Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 7 基底関数 Spherical Harmonics, Yk(q,l) Chapman Functions, Gl(h) Height, km 1000 q 800 600 400 q 200 0 ElectronDensity(h,q,l) = 3 25 l=1 k=1 SSa l l,k •Gl(h) •Yk(q,l) Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 8 バイアス推定処理 10 Receiver IFB, m Satellite IFB, m 10 0 -10 0 24 Time, h 48 0 -10 0 24 Time, h • カルマンフィルタで処理。 • 衛星や電離層は全部が見えるのに1日かかる。 48 Dec. 2003 Sakai, ENRI 電離層遅延(バイアス除去後) Page 9 Vertical Delay, m 20 Mag Lat 51.3 26.6 14.5 10 0 24 48 Local Time from 5/28/03 00:00, h • 周波数間バイアスは推定・除去。 • 異常値も除去済み。 Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 10 Satellite IFB, m 群遅延パラメータとの比較 推定値 群遅延パラメータ 1 0 -1 1 10 20 30 Satellite PRN • 衛星側IFBについては、物理的には航法メッセージ中の群遅 延パラメータと同じもの。 • 両者の差: RMS = 0.247m。 Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 11 観測点の配置 60 GEONET(国土地理院) IGSネットワーク Latitude, N 45 • GEONET 22地点に加えて、 45 周辺国のIGSサイト 6地点を利用。 30 • すべて2周波GPS受信機により、30 秒間隔で常時連続観測。 • 今回の調査には、2003年5月28~ 29日のデータを使用。 30 – 28日:通常の状態 15 120 135 150 Longitude, E – 29日:日中から磁気嵐が発生 165 • 磁気緯度は石垣島で14.5度。 Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 12 Kp指数の状況 調査期間 9 8 磁気嵐の発生 活発 Kp Index 7 6 5 4 3 2 静穏 1 0 26 27 28 29 30 31 UTC Day of May, 2003 • 地磁気活動の活発さを表す指数。範囲は0~9。 • 京都大学地磁気世界資料解析センターによる速報値。 Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 13 電離層遅延量(全観測局) Vertical Delay, m 20 Max/Min 1-sigma Average 10 0 12 24 36 48 Local Time past 5/28 00:00, h • GPSネットワークによる電離層遅延量観測値。 • 垂直遅延に換算して表示。 60 Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 14 電離層遅延の分布例(ピーク時) 50 5/29/2003 05:40UTC 20 18 16 14 Latitude, deg 40 10 8 30 6 4 2 20 120 130 Longitude, deg 140 150 0 Delay, m 12 Dec. 2003 Sakai, ENRI 空間相関(28日) • 任意の2地点の電離層遅 延量の差の頻度分布 Page 15 Dec. 2003 Sakai, ENRI 空間相関(29日) Page 16 Dec. 2003 Sakai, ENRI 電離層モデルの選択 Page 17 • バイアス推定値には群遅延パラメータ以外にチェックする手段 がない。 – ハードウェア的なキャリブレーションが必要。 – 群遅延パラメータ自体も、実際には同様な原理で計算され ている。 • バイアス推定に使用する電離層モデルの選択基準がない。 – 層数を増やすと本当に有利か? – 水平方向について、どの程度複雑な関数とすればよい か? – 仰角マスクは高いほうが良いか? • バイアス推定の精度を調べるため、故意に与えたバイアスを 推定・除去できるかどうか確かめてみる。 Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 18 Receiver IFB, m 故意にバイアスを与える 6 0 -6 Satellite IFB, m 0 10 Receiver ID 20 2 1 0 1 10 20 Satellite PRN 30 • バイアス推定に使用する電離層モデルの評価をしたい。 • バイアス推定(3層薄膜、4次球面調和)・除去後の観測データに故意に バイアスを加え、これを除去できるかどうかを調べる。 Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 19 電離層高度と推定精度(1) 受信機IFB 衛星IFB Estimation Accuracy, m 2 1 0 200 400 600 800 1000 Ionosphere Height, km • 単層薄膜モデルを利用したときの推定残差(RMS値)。 • 水平方向モデルは4次球面調和関数。未知パラメータ80個。 Dec. 2003 Sakai, ENRI 電離層高度と推定精度(2) Page 20 Estimation Accuracy, m 1 1層 2層 3層 0.5 • 2層以上で、比較的低め の電離層高度がよい。 0 # of Parameters 受信機IFB(薄膜) 受信機IFB(Chapman) 衛星IFB(薄膜) 衛星IFB(Chapman) 130 • Chapman関数のほうがよ い場合もある。 105 80 350 250 350 450 Ionosphere Height, 250 350 350 450 350 800 300 300 500 600 800 1000 km Dec. 2003 Sakai, ENRI 球面調和関数次数と推定精度 Page 21 # of Parameters Estimation Accuracy, m 2 受信機IFB(1層) 受信機IFB(2層) 受信機IFB(3層) 衛星IFB(1層) 衛星IFB(2層) 衛星IFB(3層) 1 0 200 1層 2層 3層 100 • 高い次数:複雑なモデル 0 1 2 3 4 5 Order of Spherical Harmonics 6 低い次数:少ないパラメータ • 2層以上で、3次程度のモデ ルがよい。 Dec. 2003 Sakai, ENRI Page 22 仰角マスクと推定精度 # of Measurements Estimation Accuracy, m 1 受信機IFB(1層) 受信機IFB(2層) 受信機IFB(3層) 衛星IFB(1層) 衛星IFB(2層) 衛星IFB(3層) 0.5 0 60000 • 30~35度など高めに 設定する例が多い。 40000 • 高マスク:ノイズ減少 低マスク:データ量多い 20000 0 10 20 30 Mask Angle, deg 40 • 15~20度程度がよい。 Dec. 2003 Sakai, ENRI Conclusion Page 23 • GPS受信機ネットワークにより電離層の空間的分布を観測で きる。 – 周波数間バイアスの推定方法 – 日本付近における観測例 • 周波数間バイアスの推定にあたり、使用する電離層モデルの 相対評価を試みた。 – 2層以上のモデルが有効 – 仰角マスクは必ずしも高くなくてよい • 今後の課題:他の時期における評価(静穏時・磁気嵐発生 時) IRIモデルによる評価
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