GPS/GNSSシンポジウム2006 東京海洋大学 Nov. 15, 2006 GPS/GNSSシンポジウム2006 チュートリアル 広域DGPSとMSAS 電子航法研究所 坂井 丈泰 Nov. 2006 Sakai, ENRI Introduction SLIDE 1 • ディファレンシャルGPS(differential GPS)方式: – GPSの測位誤差を補正することで精度を向上させる手法。 – 補正情報を基準局で生成し、リアルタイムデータリンクにより移動局に伝 送する。 – 狭い範囲(100km以内程度)を対象とする狭域DGPSと、サービスエリア の広い広域DGPSがある。いわゆるDGPSは狭域DGPSを指す。 – 広域DGPSでは、補正情報を静止衛星から放送するサービスが有効。 • 本チュートリアルでは、DGPSについて基本的な知識を解説: (1) DGPSの原理 (2) 狭域DGPS方式 (3) 広域DGPS方式 (4) 広域補強システムMSAS (5) 広域補強プロトタイプシステム Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 2 (1)DGPSの原理 • 測位誤差の要因 • 衛星配置と測距精度 • DGPSによる補正 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 3 測位誤差の例(DGPSなし) 東西, m -20 -20 0 20 測位誤差(東方向), m 東京都調布市 2001年10月19日 南北, m 0 高度, m 測位誤差 測位誤差(北方向), m 20 10 5 0 -5 -10 15 10 5 0 -5 20 10 0 -10 1 2 3 経過時間, h 4 5 Nov. 2006 Sakai, ENRI GPSにおける測位誤差の要因 SLIDE 4 衛星クロック誤差 太陽光線 衛星軌道情報の誤差 電離層 電離層遅延(~100m) 周波数に依存 高度250~400km程度 対流圏遅延(~20m) 対流圏 マルチパス 高度7km程度まで Nov. 2006 Sakai, ENRI 測位精度を決めるもの:衛星配置 SLIDE 5 • ユーザが利用可能な衛星の数および配置(geometry)により、 測位精度が変わってくる。 – 一般的には、低仰角にまんべんなく衛星が分布し、高仰角にも衛星があ るような配置が好ましい。 – 測位に利用する衛星の視線方向の単位ベクトルが張る立体の体積が大 きいほどよいといわれる。 • 衛星配置の良し悪し:DOP – 衛星配置の良し悪しを表す指標としてDOP(dilution of precision)が使 われる。DOPが小さいほど良好な配置を意味する。 – DOPは上に述べた立体の体積に関係があるが、直接比例・反比例の関 係にあるわけではない。 • DGPSでは、一般にDOPは悪化する。 – 基準局と共通に見えている衛星しか使えないから。 Nov. 2006 Sakai, ENRI 測位精度を決めるもの:測距精度 SLIDE 6 • 擬似距離の測定精度により、測位精度が変わってくる。 – 衛星クロック・衛星位置・電離層遅延・対流圏遅延・マルチパス・受信機 クロックなど、多くの誤差要因がある。 – 測位精度は、測距精度とDOPの積におおむね比例。 測位精度 = DOP × 測距精度 • 仰角マスクの適用: – 大気遅延やマルチパスによる影響は低仰角ほど大きい。 – 仰角マスク以下の仰角にある衛星は、測位に利用しないこととする。 – 仰角マスクを高くすると測位精度は向上するが、高くしすぎると衛星数が 減少して精度が悪くなるか、測位そのものができなくなる。 • DGPSでは、バイアス性の誤差を補正する。 – DGPSで補正されるのは、測距誤差のうちの、基準局と共通なバイアス 性の誤差。ランダム誤差は補正できない。 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 7 低仰角衛星による影響 N 測位誤差(北方向), m 20 0o 30o 29 14 60o 0 -20 -20 W 25 05 90o E 30 21 18 0 20 測位誤差(東方向), m S 仰角の低い衛星が悪影響を及ぼしている 09 06 23 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 8 測距精度の仰角依存性 • 測距精度は、衛星の仰角が低くなると 悪化する。 40 対策(1):低仰角の衛星は使わない(仰 角マスク)。 対策(2):仰角に依存して重みをつけて 測位に使用する(衛星数>4の 場合)。 測距誤差, m 30 20 • 仰角マスクは、測量等では15度以上、 移動体航法では5~10度程度が普通。 • 仰角マスクを超える衛星について、重 みをつけて計算するのが一般的。 10 0 0 30 60 90 衛星仰角, deg 仰角 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 9 測位精度の見積り 測位誤差モデルの例(やや控えめ) 誤差要因 衛星軌道 衛星クロック 電離層遅延 対流圏遅延 マルチパス 受信機・その他 測距誤差 バイアス成分(m) 2.1 2.0 4.0 0.5 1.0 0.5 ランダム成分(m) 0.0 0.7 0.5 0.5 1.0 0.2 5.1 水平測位誤差(HDOP=2.0) 垂直測位誤差(VDOP=2.5) 1.4 合計(m) 2.1 2.1 4.0 0.7 1.4 0.5 5.3 10.6 13.3 米軍による規定(民間用標準測位サービス) 全世界平均(95%) 最悪(95%) 水平方向 13 m 36 m 垂直方向 22 m 77 m Nov. 2006 Sakai, ENRI ディファレンシャルGPS SLIDE 10 • GPSの誤差要因の多くは空間的な相関 があるから、離れた地点間でも測距誤差 は似ている。 • 位置がわかっている基準局で測距誤差 を求め、この誤差情報を移動局に送信、 移動局側で補正する。 基準局と同じ 測定誤差 移動局 測定誤差 基準局から誤差情報を送信 誤差要因 衛星軌道 衛星クロック 電離層遅延 対流圏遅延 マルチパス 受信機雑音 • ディファレンシャル補正の精度は移動局 ―基準局間の距離(基線長)に依存。 基準局 補正の可否 ○ ◎ ○ △ × × • 基準局受信機に加え、無線リンクなどが 必要。 備考 長基線では精度低下 よく補正できる 活動が激しいと精度低下 高度差に注意 むしろ増加 むしろ増加 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 11 ディファレンシャルGPSの効果 20 測位誤差(北方向), m 測位誤差(北方向), m 20 0 -20 -20 0 測位誤差(東方向), m 1周波・2周波受信機による測位結果例 20 0 -20 -20 0 20 測位誤差(東方向), m ディファレンシャル処理した結果(1周波) Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 12 (2)狭域DGPS方式 • 狭域DGPS方式 • DGPSのシステム構成 • 標準フォーマット Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 13 GPSの測位方式 単独測位 • GPS信号のみ GPS DGPS 搬送波位相DGPS 搬送波位相を利用 スタティック測位 • 静止点測量 RTK-GPS • 移動体測位 ネットワークRTK • VRS • 補正情報を利用 コードDGPS PPP • 精密単独測位 • PPP用の情報が必要 (狭域)DGPS 広域DGPS 擬似距離を利用 • RTCMフォーマット • 中波ビーコン • SBAS/MSAS Nov. 2006 Sakai, ENRI (狭域)ディファレンシャルGPS SLIDE 14 • 単一の基準局によりディファレンシャル補正情報を生成。 – 通常、単にDGPSといえばコードDGPSで、狭域ディファレンシャルGPS (Local-Area Differential GPS: LADGPS)方式を指す。 – 基準局からの距離(基線長)が長くなると補正性能が劣化する。大気遅 延の状況(主に電離層の活発さ)にもよるが、おおむね数十km~100km 以上で有効。 – 通常はリアルタイムに処理するが、移動局・基準局の測定データを保存 しておいて後処理することも可能。GEONETやIGSを使えば自前の基準 局設備は不要となる。 • 補正情報の伝送形式はRTCMフォーマットが標準的。 – コードDGPSの補正情報伝送フォーマットとして広く普及。ハンディ受信 機でも対応しているものが多い。 – 海上保安庁のDGPSビーコン(ITU規格)もRTCMフォーマット。 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 15 DGPSのシステム構成 GPS衛星 基準局 基準局と同じ 測定誤差 移動局 複数の移動局 測定誤差 補正情報を送信 移動局受信機は複数あってもよい。 RTCMフォーマット CMRフォーマット RINEXファイル(後処理) : 伝送フォーマット 無線モデム 無線LAN 携帯電話 衛星通信 : 伝送媒体 • 補正値の平均化 →受信機雑音低減 • 複数アンテナの利用 →マルチパス低減 • 異機種の受信機 →マルチパス・受信機雑音低減 Nov. 2006 Sakai, ENRI RTCMフォーマット SLIDE 16 • RTCM(米国海上無線技術委員会)SC-104が狭域ディファレン シャルGPSの補正情報伝送用に制定した規格。 – – – – 初版1985年、実用されている最新版はVersion 2.3(2003年)。 基準局受信機から移動局受信機への補正データ伝送用。 50bps以上の通信速度が推奨されている。 バイナリデータ。GPS航法メッセージと同様に30ビットで1ワードを構成 し、パリティも同じ方式が採用されている。 – シリアル伝送回線(RS-232C)で伝送する場合のビットレベルのフォー マットまで規定。0x40~0x7Fの64文字のみで伝送、標準のビットレート は4800bpsとされている。受信機とのインターフェースで問題が生じな い。 • 基本的な補正情報はメッセージタイプ1または9。 – 擬似距離の補正値とIODE(衛星軌道情報の発行番号)を含む。 – 基準局位置をタイプ3で送信。 Nov. 2006 Sakai, ENRI RTCMメッセージタイプ SLIDE 17 RTCM-SC104 バージョン 2.2 Type 1 DGPS補正値 確定 Type 15 電離層パラメータ 仮 2 デルタ補正値 確定 16 特別メッセージ 確定 3 基準局座標 確定 17 精密軌道情報 仮 4 基準局データ 仮 18 RTK搬送波位相(補正前) 確定 5 衛星健康状態 確定 19 RTK擬似距離(補正前) 確定 6 ゼロフレーム 確定 20 RTK搬送波位相(補正値) 仮 7 無線施設アルマナック 確定 21 RTK擬似距離(補正値) 仮 8 擬似衛星アルマナック 仮 22 高精度な基準局位置 仮 9 DGPS高速補正値 確定 23~30 未定義 10 L2 P/Yコード補正値 保留 31~36 GLONASS用 仮 11 L2 C/Aコード補正値 保留 37 GNSS時刻オフセット 仮 12 擬似衛星パラメータ 保留 38~58 未定義 13 送信パラメータ 仮 59 所有者メッセージ 確定 14 時刻データ 仮 60~63 多目的に利用 保留 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 18 (3)広域DGPS方式 • 広域DGPS方式 • 広域補正情報 Nov. 2006 Sakai, ENRI 広域ディファレンシャルGPS SLIDE 19 • 狭域DGPS方式は、すべての誤差要因を区別せずにまとめてひとつ の補正値をつくる。 – 基準局から遠く離れると補正性能が劣化する(大気遅延、共通衛星の減 少)。 – ネットワーク化しても、線形補間ではうまくいかない場合がある。 • 広い範囲で有効な補正情報とするには、誤差要因別にすればよい。 – 誤差の要因により、地理的な相関関係が異なる。 – 誤差要因別に補正値をつくり(ベクトル方式) 、それぞれ適切な(移動局位置 の)関数で補間する。 – 大陸規模の広い範囲で有効。 • 広域DGPS(Wide-Area Differential GPS:WADGPS)方式: – サービスエリア内では、単一の補正情報でどこでも補正が可能。 – 所要データレートは、100~数100bps程度。 Nov. 2006 Sakai, ENRI 狭域DGPS測位誤差の例(水平) B地点 A地点 単独測位 A地点(那覇) DGPS A地点(那覇) 基準局:B地点 (奄美大島) A-B間:300km SLIDE 20 Nov. 2006 Sakai, ENRI 狭域DGPS測位誤差の例(垂直) B地点 A地点 単独測位 A地点(那覇) DGPS A地点(那覇) 基準局:B地点 (奄美大島) A-B間:300km SLIDE 21 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 22 誤差要因別の補正 衛星クロック誤差 電離層遅延(~100m) • ユーザ位置の関数 • 垂直構造は薄膜で近似 など 電離層 • ユーザ位置の関数ではない • すべてのユーザに対して 同じ寄与 • SA ONなら速い変動 衛星軌道情報の誤差 • ユーザ位置の関数ではない • 寄与の程度はユーザ位置による (視線方向成分が問題) • 変動の周期は数10分以上 対流圏遅延(~20m) 対流圏 • ユーザ位置(特に高度)の関数 • モデルによる補正が有効 Nov. 2006 Sakai, ENRI 広域補正情報の内容(SBASの例) SLIDE 23 • 衛星クロック補正:エフェメリスから得た衛星クロックに対する 補正量。 • 衛星軌道補正:エフェメリスから得た衛星のECEF直交座標値 に対する補正量。Δx、Δy、Δzの3成分。 • 電離層遅延補正:経緯度で5度毎に設定された格子点(IGP) における垂直遅延量として放送。 – ユーザ側ではあらかじめ決められた内挿法(双一次線形補間) により必要な位置(IPP)における遅延量を得る。 – 垂直構造は薄膜で近似。衛星の仰角により垂直→傾斜変換。 • 対流圏遅延補正:モデルにより遅延量を計算する。 – SBAS規格でモデルを規定。 – 衛星の仰角により垂直→傾斜変換する。 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 24 クロック/軌道誤差分離 • 対流圏遅延・電離層遅延を除いた測距誤差は、衛星クロック 誤差と軌道情報の誤差の線形結合。 • クロックと軌道誤差の性質の違いを利用して、これらを分離: – 衛星クロック誤差:すべての基準局に一様な誤差となる。 – 軌道誤差:基準局位置によって影響が異なる。それぞれの基準 局にとっての視線方向成分が誤差として現れる。 衛星位置の誤差 基準局2にとっ ての軌道誤差 エフェメリスによる位置 基準局1にとっ ての軌道誤差 基準局1 真の位置 基準局2 Nov. 2006 Sakai, ENRI 電離層遅延補正方式(SBASの例) 60 Latitude, N 45 30 30 15 SLIDE 25 • 広域補強システム(WADGPS) では、大陸規模の広域にわ たって有効な補正値が必要。 • 5度×5度の格子点(IGP)にお ける補正値が放送される。 • ユーザは、各衛星から到来す る測距信号の電離層通過点 (IPP)を求め、その位置の補正 値を内挿により求める。 • 補正精度は、モニタ局の配置に 依存する。 IGP 0 0 120 150 Longitude, E 180 IGP IPP Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 26 (4)広域補強システムMSAS • 補強システム • MSASの構成 • インテグリティ • MSASの性能評価 Nov. 2006 Sakai, ENRI 補強システム SLIDE 27 • コアシステム(GPS/GLONASS)のみではアプリケーションが必要と する測位精度あるいは信頼性を得られない場合に、補強システム (augmentation system)を追加してこれを補う。 • 補うのは、測位精度あるいは信頼性。 • 一般的な構成は: (1) 地上基地局で測距精度や信頼性を監視 (2) 補強情報を作成してユーザに伝送 (3) ユーザ受信機で処理、測位精度や信頼性を向上させる • ディファレンシャルGPSによる補強はすでに普及 – ディファレンシャルGPS基準局+無線データリンク – 公共サービス:中波ビーコン、FM多重放送など Nov. 2006 Sakai, ENRI MSAS/SBASとは SLIDE 28 • ICAO(国際民間航空機関)が規格化した広域ディファレンシャル GPS方式による補強システム: – 補正(補強)情報は静止衛星から放送。 – 大陸規模の広い地域で有効な補正情報。 – GPSと同一のアンテナ・受信回路でディファレンシャル補正情報やインテグリ ティ情報が得られる。 • 開発/運用中のSBAS: – 米国WAAS – 欧州EGNOS – 日本MSAS – カナダCWAAS – インドGAGAN 2003年7月より運用中。 2005年7月より試験運用中。 MTSAT-1R/2(ひまわり6/7号)を使用して試験中。 2007年春頃より運用開始予定。 WAASをカナダにも拡張する計画。 開発中。PRN番号は割当て済み。 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 29 ICAO GNSS GPS GLONASS WAAS GBAS ICAO GNSS 地上基地局 MSAS EGNOS ABAS 機上装置によるインテグリティ確保 あるいはハイブリッド航法 SBAS SBAS: Satellite-Based Augmentation System 静止衛星による広域補強システム GBAS: Ground-Based Augmentation System 地上基地局による狭域補強システム ABAS: Airborne-Based Augmentation System 機上装置による補強システム Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 30 SBASの概念 静止衛星 GPS衛星 ユーザ モニタ局ネットワーク アップリンク局 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 31 MSASの全体構成 GPS Constellation MTSAT • 2 GEO • 2 MCS • 2 MRS • 4 GMS Sapporo GMS NTT 64Kbps User Kobe MCS L-band K-band 1Mbps Fukuoka GMS Ground Link Tokyo GMS Hitachiota MCS KDD 64Kbps MCS Master Control Station MRS Monitor and Ranging Station GMS Ground Monitor Station Hawaii MRS Naha GMS Australia MRS Nov. 2006 Sakai, ENRI SBASの機能 インテグリティ・チャネル ディファレンシャル補正 (いわゆるDGPSはこれのみ) 測距信号 SLIDE 32 • 航法出力のインテグリティ(完全性)を確保する機 能。 • プロテクションレベル(測位誤差の信頼限界;危険率 10–7)を計算するための情報。実際の測位誤差がプ ロテクションレベルを超える確率は10–7以下。 • 航法モードにより、プロテクションレベルの上限が決 まる。 • 航法出力の位置情報精度を向上させる機能。 • 広域ディファレンシャル方式:GPS衛星の軌道・ク ロック誤差や電離層遅延量を補正するための情報 を放送する。 • 航法システムのアベイラビリティ(有効性)を改善す る機能。 • SBAS衛星からGPSと同様の測距信号を放送する ことで、利用可能な航法衛星を増加させる。 Nov. 2006 Sakai, ENRI インテグリティ SLIDE 33 • 完全性(integrity):航法システムが出力する位置情報の正し さ。「GPSが出力している経緯度は果たして正しいか?」 – 実際に異常な位置を出力する例がある。 • 万が一、位置情報に誤りがあると危険な応用(safety-of-life application)がある: – 交通機関(特に航空機)の航法・測位、衝突防止。 – 精密農業等、工作機械の自動運転。 – 犯罪捜査や事故記録関係。 • GPSはインテグリティを保証していない。 – 精度や信頼性の規定はあるが、インテグリティについては規定なし。 – GPSだけでは安全性を確保できない。 – 航空分野では、国の責任でインテグリティ確保の仕組みを整備 (MSAS)。 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 34 異常測位の実例 3時間半 100km • 2004年1月2日(JST)明け方にPRN23衛星が故障。位置出力で100kmの誤差。 • 3時間半後にようやくPRN23衛星が使用不可とされ、復旧した。 • 受信機によって反応が異なる:ディファレンシャル処理では補正できない → 正しい対処にはインテグリティ情報が必要 Nov. 2006 Sakai, ENRI インテグリティ方式 SLIDE 35 • 第一段階:フラグ方式。 – GPS信号をモニタし、異常があればユーザに通知する。 – GPS航法メッセージにはhealth(健康状態)フラグがあり、異常衛星を 使用させない仕組みはある。 – しかし、異常発生からフラグへの反映までに数時間以上かかる例があ る:リアルタイム応用では致命的。 – 単純なON/OFFだけでは、航空機応用などで必要な精度が出せなくな る:アベイラビリティ(有効性)を確保できない。 • 第二段階:プロテクションレベル方式。 – プロテクションレベル(保護レベル)=測位誤差の信頼限界。 – 応用環境によりあらかじめ決めてある測位誤差の上限(アラートリミッ ト)とプロテクションレベルを比較し、危険があるならば利用をやめる。 – 航空機航法の場合:危険率10–7以下を要求。 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 36 インテグリティ情報 • プロテクションレベル方式:ユーザ測位誤差の信頼限界(航空機航法では 危険率10–7以下)をプロテクションレベルと呼び、これを計算するためのパ ラメータをユーザに放送する。 • ユーザ受信機側では、与えられたパラメータから自己の位置におけるプロ テクションレベルを求めることで、測位誤差の信頼限界がわかる。 95%測位精度 • パラメータ:測距誤差・電離層遅延 危険率 補正残差の不確実性など • 信頼限界を超える確率(危険率) 測位誤差 =インテグリティリスク プロテクションレベル×2 Nov. 2006 Sakai, ENRI プロテクションレベルの使い方 航法モード 垂直誘導付進入 APV-I 垂直誘導付進入 APV-II 精密進入 CAT-I 垂直AL(VAL) 50 m 20 m → プロテクションレベル • ユーザ測位誤差の信頼限界(危険率10–7 )。 • 水平方向:HPL、垂直方向:VPL • PLと警報限界(Alert Limit)を比較し、 AL<PLなら利用不可とする: ユーザ測位誤差はALを超えない。 • プロテクションレベルの計算に 必要なパラメータがインテグリティ AL 情報として放送される。 インテグ リティ インテグリティOK 使用不可(警報) 正常動作 通常の 分布 インテ グリティ リスク 利用不可 利用可 HMI (危険情報) 0 0 10~15 m トライアングルチャート SLIDE 37 AL → ユーザ測位誤差 アベイラ ビリティ Nov. 2006 Sakai, ENRI MSAS試験信号の評価 SLIDE 38 • MSAS試験信号により放送された補強メッセージを収集: – – – – 収集時期: 2005年11月14~16日(PRN129) Kp指数 = 0+ ~ 3+ 電子航法研究所(東京都調布市)屋上アンテナ NovAtel MiLLennium-STD受信機を使用 • SBAS受信機シミュレータを使用して、ユーザ測位誤差を評価 する: – 国土地理院GEONETをユーザ局として利用(30秒サンプル) – 男鹿、御前崎、高山、高知、佐多、父島の6地点で評価 – メッセージタイプ0(SBASが試験中であることを意味する)は、メッセー ジタイプ2に読み替えて利用 • 衛星軌道補正情報および電離層補正情報についても、IGS精 密軌道暦などをもとに評価する。 Nov. 2006 Sakai, ENRI モニタ局とユーザ局の位置関係 SLIDE 39 MSASモニタ局 評価用ユーザ局 Nov. 2006 Sakai, ENRI ユーザ測位誤差の例(高山) GPS単独 GPS単独 MSAS MSAS SLIDE 40 Nov. 2006 Sakai, ENRI ユーザ測位精度評価結果 システム SLIDE 41 単位 [m] 男鹿 水平 垂直 御前崎 水平 垂直 高山 水平 垂直 GPS単独測位 RMS 最大 1.300 3.579 3.708 8.450 1.372 3.631 5.129 8.761 1.394 3.627 4.702 10.93 MSAS RMS 最大 0.381 0.631 1.659 2.405 0.433 0.671 2.039 3.596 0.502 0.728 4.873 3.700 高知 水平 垂直 佐多 水平 垂直 父島 水平 垂直 GPS単独測位 RMS 最大 1.504 3.716 5.635 11.84 1.772 3.404 8.596 9.531 2.444 3.094 7.949 9.312 MSAS RMS 最大 0.637 0.881 8.517 9.396 0.640 0.730 3.012 2.680 0.982 1.014 6.267 6.614 システム (一周波、30秒サンプル、キャリアスムージングあり) Nov. 2006 Sakai, ENRI 衛星軌道補正後の残差 SLIDE 42 • 衛星軌道補正後のIGS精密軌道暦との差の、東京から見た視線方向成分。 • 衛星クロックも含めた正味の視線方向成分。 • 航法メッセージよりばらつきが小さい:一日周期の変動は電離層? Nov. 2006 Sakai, ENRI 電離層遅延補正残差(対IONEX) • 各IGPにおける電離層垂直遅延量の、IONEXとの差。各IGPにおける電離 層垂直遅延量を重ねて表示。 • 若干の負のバイアスがあるが、RMSでは半減。 SLIDE 43 Nov. 2006 Sakai, ENRI プロテクションレベルの例 SLIDE 44 プロテクションレベル 電離層による成分 ユーザ測位誤差 • 佐多(950491)におけるユー ザ測位誤差とプロテクション レベル。 • 大きなマージンをもってユー ザ測位誤差をバウンド。 • プロテクションレベルの大部 分は電離層による成分。 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 45 プロテクションレベルの評価 GEONET 3011(川越) 06/5/20 00:41-08:06 PRN129 (MTSAT-1R) Test Signal APV-I mode HAL = 40m VAL = 50m All combinations • 4衛星以上のすべての組合せを評価。 • インテグリティの検証に利用。アベイラビリティは現実的ではない。 00 01 01 19 01 28 01 34 00 3 01 0 70 01 79 02 14 30 11 31 01 02 32 02 49 02 52 00 58 00 7 51 0 13 03 56 03 84 00 83 00 85 00 87 01 00 04 56 04 62 04 7 04 0 80 04 91 04 94 04 97 04 98 04 99 06 03 06 05 06 40 06 7 07 8 26 07 29 07 35 07 49 20 03 Error / Protection Level Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 46 誤差/プロテクションレベルの最大値 0.12 06/5/19 0.1 0.08 0.06 0.04 0.02 0 水平方向 垂直方向 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 47 (5)広域補強プロトタイプシステム • プロトタイプの試作 • 補強情報の提供 Nov. 2006 Sakai, ENRI 広域補強プロトタイプシステム SLIDE 48 • 電子航法研究所では広域補強プロトタイプシステムを試作: – MSASあるいはQZSSの研究開発用テストベッド。 – 国土地理院GEONETのデータを利用して、オフラインモードで試験: 良好な測位精度(0.3~1m程度)。 – 2006年4月より、標準的なパラメータにて定常運用中。 • 後処理用広域補強情報としての利用: – 定常運用により生成された広域補強情報は、日本全国で後処理ディ ファレンシャルGPS用に利用可能。 – インターネットを利用して一般に提供中。処理プログラム(ユーザ受信 機シミュレータ)も提供。 • データ提供状況: – GEONETからのデータ取得のため、数日遅れで補強情報を生成。 – 7月3日以降分をHPに掲載。9月30日まで全日あり。 Nov. 2006 Sakai, ENRI SLIDE 49 補強情報の提供 2006/7/3 (day #184)~ 毎日のデータを掲載 1ファイル/1日 ファイルネーム: ppwad_06ddd.log.gz URL http://www.enri.go.jp/sat/pro/data/ppwad にてデータを提供 Nov. 2006 Sakai, ENRI ユーザ測位誤差(川越) SLIDE 50 GEONET 3011(川越) 06/6/1 – 06/9/30 PPWAD PT/6+S 2006年6月~9月 Nov. 2006 Sakai, ENRI Conclusion SLIDE 51 • ディファレンシャルGPS方式について解説した。 – (狭域)DGPS方式:単一の基準局による補正方式。RTCMフォーマットが 標準的に利用されている。 – 広域DGPS方式:広い範囲で有効な補正方式。補正情報は誤差要因別。 • 広域補強システムMSAS: – 我が国が整備中の広域補強システム。補強=DGPS+インテグリティ。 – 静止衛星MTSAT-1R/2(ひまわり6/7号)からGPS L1周波数で補正情報を 放送する。アンテナやRF回路はGPSと共用できる。 – 試験信号の評価結果を紹介。2007年春からの正式運用を予定。 • 広域補強プロトタイプシステム(電子航法研究所): – 定常運用により生成された広域補強情報を、インターネットを利用して一般 に提供中。処理プログラム(ユーザ受信機シミュレータ)も提供。
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