まず 復習 水素原子の電子軌道、発光スペクトルとボーア模型 放電管に封入された水素に電圧をかけ放電すると、 2.5式に従った多くの輝線スペクトルが紫外~赤外 領域に観測された 実験結果 1 R( 1 n1 2 1 n2 2 ) 2.5式 図2.5 水素原子のスペクトル系列とエネルギー準位。 n = ∞より上のエネルギー準位からの光の放出は連 続スペクトルを与える。左縦軸はn = 1の準位からの エネルギー(V単位)、右縦軸はn = ∞の準位からの エネルギー準位(cm1単位)で、各系列の数字は波 長である(Å単位)。 自由電子状態 エネルギー E2 – E1 = hn O殻 n=5 N殻 n=4 M殻 n=3 E2 L殻 n=2 E2 電子励起 電子励起 E1 励起された電子が 下の軌道に落ち込 むとき光を出す K殻 n=1 水素 パッシェン系列 赤外部 バルマー系列 可視部 励起状態 E1 ライマン系列 紫外部 n K殻 1 L殻 2 M殻 3 N殻 4 副殻 s軌道 s軌道+p軌道(3個) s軌道+p軌道+d軌道(5個) s軌道+p軌道+d軌道+f軌道(7個) 主量子数:殻のエネルギー、 軌道の形を決定する量子数: 方位量子数 最も重要な電子の軌道 y y x s軌道 px軌道 py軌道 pz軌道 第1~第2周期元素 電子充填 BC NO F Ne Be Li H He 2s軌道 1s軌道 3重縮退 p軌道 イオン化ポテンシャル(イオン化電圧、Ip)、電子親和力(EA) 原子・分子をイオン化(Cation, Anion)するに必要なエネル ギー 電子が自由な状態にある時のエネルギーを基準(真空準位、図2.5の水素分子(下図左) での右側の尺度)としたHOMO軌道(分子の場合)のエネルギーで、このエネルギー以上 の光を分子に照射すると電子が外界に出る(下図右、赤矢印)。一方、LUMO軌道のエネ ルギーは電子親和力で示され(右図青矢印)、系に電子を入れると、EAに相当するエネル ギーが出る。 0 Ip EA E E=0 自由電子 E=-a/n2の関数 1 2 3 M殻(電子18個) 3s 2個, 3p 6個, 3d 10個 L殻(電子8個) 2s 2個 2p 6個 K殻(電子2個) 殻 K L M N 主量子数 n 1 2 3 4 半径∝n2 r1 4r1 9r1 16r1 電子数 2n2 エネルギー∝1/n2 2 E1 8 E1/4 18 E1/9 32 E1/16 電子を詰める(復習)パウリの排他律とフントの規則 電子の運動・・・軌道運動(n、ℓ、mℓ)+自転運動(スピン 運動) スピン運動を規定する量子数・・・スピン量子数 (s=+1/2, -1/2) アップスピン、ダウンスピン。磁場により エネルギーは2本に分裂する。 パウリの排他律 二つの電子は4つの量子数を同一にで きない・・・一つの軌道上の電子はアッ プとダウンの2個の電子 フントの規則 同一エネルギ-の縮退軌道には、同じ向 きのスピンを極大まで入れる 磁場ナシ O Be B F C 磁場アリ 2s軌道 1s軌道 3重縮退 p軌道 Ne N 閉殻構造、開殻構造:K,L,M,N,O殻に入る最大数の電子は 各々、2,8,18,32,50であり(下表、黄色部分)、それに満たない 電子数の原子は開殻(電子)構造を持つと言い、主に最外殻に ある電子(価電子)が反応に寄与して、不活性ガスのように満 杯の閉殻(電子)構造になろうとする性質をもつ。 n Sh l =n1, ・・・ m=0,1,••l ell 1 K 2 L 3 M 4 N 5 O 0 0 1s 0 2s 1 2p 0 3s 1 3p 2 3d 0 4s 1 4p 2 4d 3 4f 0 5s 1 5p 2 5d 3 5f 4 5g 0 0 1,0 0 1, 0 2, 1, 0 0 1, 0 2, 1, 0 3, 2, 1, 0 0 1, 0 2, 1, 0 3, 2, 1, 0 4, 3, 2, 1, 0 軌道数 2l+1 1 1 3 1 3 5 1 3 5 7 1 3 5 7 9 総軌道数 総電子数 n2 殻に入る総 電子数2n2 1 4 2 8 2 9 18 28 16 32 60 25 50 110 アルカリ金属元素とハロゲン元素のイオン化 イオン化 (ionization) s軌道 H, Li, v K, Na, Rb, Cs H, Li, v K, Na, Rb, Cs s軌道 – 水素、アルカリ金属元素 電子構造は不活性ガス型 電荷は +1価 陽イオン(cation) イオン化 F, Cl, Br, v I, At F, Cl, Br, v I, At + p軌道6e で満席 ハロゲン元素 p軌道 電子構造は不活性ガス型 電荷は –1価 陰イオン(anion) 電子式 例 L殻電子(n=2)の元素 s軌道、p軌道を考えず、元素記号の周囲に 8電子までを記す。一個の丸は不対電子を示し、2個揃うと電子対を形 成したとする(共有電子対、非共有電子対)。 Li Be O +2H B C N O Ne F H H + H OH H O H H O+ ヒドロキソ H2O 共有結合(covalent bond) N +3H H + H NH H NH3 3 ニウム 配位結合(coordination bond) H HNH H NH4+ アンモ ニウム 共有結合、配位結合は、結果として、等価である 2-2.2 HOMO, LUMO, Ip, Ea 縮退 閉殻、開殻 ベンゼンでは6個の炭素のp電子がベンゼン環中を動き回り、 孤立したp電子が持つエネルギー(図中の左の一本の横線、 縦軸は軌道エネルギーで下の方が安定)と、ベンゼン骨格 中でのエネルギー(右側の6本)を示す。 分子軌道(molecular orbital):炭素原子の集合でベンゼン分 子骨格ができ、孤立炭素原子のエネルギー準位よりも低い 電子軌道が生じ(電子がより大きな場を動くことによる安定 化)、そこに電子が入り込むことにより原子集合(分子)の電 子軌道が出来上がる。 6 4,5 1~6 2,3 1 HOMO(highest occupied molecular orbital): 電子が 入っている一番上の分子軌道(図右2,3の軌道)。ベン ゼンでは、軌道2と3が同一のエネルギーであり、二重縮 退(縮重)という。 LUMO(lowest unoccupied molecular orbital): 電子が 占めていない一番下の分子軌道(図右4,5の軌道、二 重に縮退している)。 2-2章 化学結合 目的: ●原子や分子を結びつける機構は何か ●結び付きを解き放つにはどうすれば良いのか ●解き放ったら何が起こるのか ●どの様に結びつけると、どの様な構造・機能が生じるのか は、化学の4命題「結合」、「反応」、「構造」、「機能」の視 点であり、原子や分子の中の電子が主役である。 これらの命題のうち 「原子や分子を結びつける機構は何か」を3章以降で説 明する。ここでは結合の分類と内容を概説する。 2-2.1.結合の種類 ●イオン結合: 硝酸 過塩素酸 石炭酸 フェノール アニリン 1)構成原子(H, Na, Cl)または分子(HNO3, HClO4, C6H5OH, C6H5NH2), が、電子(整数・・端数の場合は下記 の電荷移動力を参照)又はプロトンを授受し、 2)原子および注目している原子団(NO3, ClO4, C6H5O, C6H5NH3)やその原子が安定な希ガス型電子配置(また は分子軌道が閉殻安定電子構造)をとるように陽イオン (cation)または陰イオン(anion)となり、 3)反対イオン間のクーロン静電引力が働いて結合が安定 化する[Na+···Cl, Na+···NO3, Na+···ClO4, C6H5O···Na+, C6H5NH3+···Cl]、大きな分子イオン、巨 大なクラスターイオンのイオン結合もある 酸(acid)と塩基(base) NaOH + HNO3 NH3 + HCl C6H5NH2+ HCl 塩(salt) NaNO3 + H2O NH4Cl アンモニウムクロライド C6H5NH3Cl アニリニウムクロライド H+移動 CH3+移動 Mo6Br142 クラスター(Moは緑色、Brは内 部に8個(青)、外部に6個(赤)ある NaCl, CsClの結晶格子 NaCl CsCl ●ファンデルワールス(van der Waals)結合 構成原子または分子が接近して電子雲がある程度重なり 合い、結合力が発生する: 瞬間的電場の発生(分散効果)、 ダイポールモ-メントによる電子雲の分極(誘起効果、配向 効果)による 重原子間(I···I、S···S)、ヘテロ原子間(S···N)、p電 子間(p···p)なども、この結合に属す。水素、酸素、 窒素を冷却すると液化する。また、二酸化炭素炭 酸はドライアイスとなる。これらの液体・固体中の 分子間に働く力がファンデルワールス力である。 ヘテロ原子:炭素、水素以外の原子で一般に、酸素、窒素、リン、 硫黄、ハロゲン p電子:?????? レポート作成 ●水素結合 水素原子Hが電気陰性度の大きな原子Xと作る結合 H···X 分子内の原子Xが、電子を引き付ける強さは、原子の種類ごとの相対 的なものとして、その尺度を決めることができる。この尺度のことを 電 気陰性度と言う(表)。一般に周期表の左下に位置する元素ほど小さ く、右上ほど大きい。 電気陰性度の差が1.7以下の原子間の結合は共有結合性が支配的 であり、それ以上の場合はイオン結合性が支配的になる。表中の色 をつけた原子は、水素より電気陰性度が高く、水素結合を形成する。 他に、XH・・p電子, CH・・p電子, CH・・n電子なども水素結合である。 表 H Li Na K Rb Cs ポーリングによる原子の電気陰性度 2.20 0.98 0.93 0.82 0.82 0.79 Be 1.57 Mg 1.31 Ca 1.00 Sr 0.95 Ba 0.89 B 2.04 Al 1.61 Ga 1.81 In 1.78 Tl 2.04 C 2.55 Si 1.90 Ge 2.01 Sn 1.96 Pb 2.33 N 3.04 P 2.19 As 2.18 Sb 2.05 Bi 2.02 O 3.44 S 2.58 Se 2.55 Te 2.10 Po 2.00 F 3.98 Cl 3.16 Br 2.96 I 2.66 At 2.20 ●共有結合 原子同士で互いの電子を共有することによって生じる化学 結合。結合は非常に強い。単原子分子は除き分子は共有 結合によって形成される。配位結合も共有結合の一種 無機化合物に比べ有機化合物の種類は多く、無尽蔵に増え続 けている。2007年の段階で化合物は9300万種が知られ、その 90%は有機物である。この種類の多さは、炭素特有の共有結合 に起因するところが大きい(炭素骨格の長さ[メタン、エタンと炭素 数を増やしたCnH2n+2のアルカン系鎖状炭化水素に上限は ない。ただし、現在の技術での高分子は分子量の一定しない混 合物]、分岐の多様性、単結合、2重結合、 3重結合に関して 制限がない)。種々の元素(N, P, O, S, Se, F, Cl, Br, Iなど)が 炭素に結合し多様な官能基を形成する。ほとんど無限といって さしつかえのないほどの有機化合物の多様性は、生物の構成要 素としての化学物質に必要な性質である。 ●配位結合 結合を形成する2つの原子の一方からのみ結合電子が提供 される化学結合である。孤立電子対を持つ電子対供与体 (ルイス塩基)から電子対受容体(ルイス酸)となる原子へ、 電子対が供給される。 オクテット則を満たさない第13族元素(B, Al)の共有結合化合物は、 強いルイス酸であり配位結合により錯体を形成する。あるいは遷移金 属元素の多くは共有結合に利用される価電子の他に空のd軌道などを 持つ為、多くの種類の金属錯体が配位結合により形成される。NR3と BF3でできる化合物の窒素上の孤立電子対(2個の赤点)がBの空い ている軌道に入って配位結合をする。この時、配位結合を電子対供与 体から電子対受容体へ→で示すことがある。H3O+、NH4+は配位結 合でできるが、H3O+の3本の結合、NH4+の4本の結合はイオンの中 で等価(共有結合)である。 ●金属結合 金属原子(Naなど)の原子核が周期的な位置に固定され (熱振動している)結晶格子を作り、金属原子の最外殻の電 子が結晶中をほぼ自由に動き回ることに伴い、クーロン力と 量子力学的安定化(非局在化による安定エネルギー)によ り結晶ができる。 非局在化(delocalization): 例1)Naのs軌道の電子は、原子核から放出(イオン化)さ れて、Na++eーとなり、電子は特定の原子核に束縛され るのではなく、結晶全体を運動する。 例2)ベンゼンのパイ電子は、炭素原子に束縛されず、6 個の炭素原子が形成する六角形骨格を動き回る。 ●電荷移動化合物 配位結合は2電子、共有結合は1電子の授受で結合がで きるが、整数でない電子の授受による生じる化合物群が ある。電子供与体(D)から電子受容体(A)への電荷移動 により生じる電荷移動化合物で、構成成分とは異なる深い 色、電気伝導性、磁性を示す。 D + A → Dd+···Ad 電荷移動量(d)は0以上で本質的に上限はない。 d =0の場合、分子間 の相互作用は主にファンデアワールス力、水素結合である。 d =0.5以 上より不対電子(ラジカル電子)を含む成分が量子力学的に介在し、 結晶では高導電性、金属性、超伝導を示す錯体となる。結晶の安定化 は、ファンデアワールス力、水素結合、クーロン力、ラジカル電子が結 晶中を動くことによる量子力学的安定(金属結合)の混合である(これら を総合して電荷移動力という)。フラーレン C60の超伝導体 [(K3)3+··· (C60)3]、高導電性ポリアセチレン(Li ドープ)、Li2次電池、黒鉛層間化 合物C8Kなどで、 d =0.5以上の結晶はイオン結晶に分類されてよい。 2-2.1.結合の種類(まとめ) ●イオン結合 ●ファンデルワールス結合(分子性結合) 水素結合 ●共有結合 ●配位結合 ●金属結合 電荷移動(イオン結合+vdW結合+共 有+配位+金属) Chemical Abstract Service 1965 > 20 万 2002 > 3700万 2007 > 9300万
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