6章 金属結合 12/21、1/11 復習と目的 ●典型金属元素(アルカリ、アルカリ土類、Al 他)、遷移元 素(金、銀、銅、鉄、Cr, Mn, Ni 他)とその性質、金属結合 の特性と金属物質の性質を概説する。 ●電子が結晶の中を動きやすい状態にあり、金属の種類 によって柔らかさや融点に大きな幅がある。 ●BiやTeのような半金属は金属と共有結合結晶の中間で ある。 元素質量比 太陽系:水素70.7% He27.4% Li-U 1.9% 地殻 順 元素名 1 酸素 oxygen 2 ケイ素 silicon 3 アルミニウム aluminum 4 鉄 iron 5 カルシウム calcium 6 ナトリウム sodium 7 カリウム potassium 8 マグネシウム magnesium 9 水素 hydrogen 10 チタン titanium クラーク数 49.50% 25.80 7.56 4.70 3.39 2.63 2.40 1.93 0.83 0.46 元素(典型元素+遷移元素) 遷移元素:「完全に満たされていない(閉殻していない)d軌 道を持つ元素、あるいは完全に満たされていないd軌道を 持ったイオンを生成する元素」 ●典型金属元素(典型元素の中の金属元素) 1族 アルカリ(Li, Na, K, Rb, Cs, Fr) 2族 アルカリ土類(Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Ra) 12族 Zn (3d104s2), Cd(4d105s2), Hg(5d106s2) 13族 Al, Ga, In, Tl 14族 Ge, Sn, Pb 15族 Bi 16族 Po 第12族元素(亜鉛族元素)は化学的性質が典型元素の金 属に似ており、またイオン化してもd軌道が10電子で満たさ れ閉殻していることから日本では一般に典型元素に分類さ れるが、遷移元素に分類される例も多く見られる。 金属結合 金属原子Mはn個の電子を出し金属イオンMn+となり、放 出された電子は自由電子として、結晶格子中を動き廻る。 金属結晶中 M → Mn+ + ne- - + 抵抗 金属の特性 ●展性・延性 1gの金 2800m ●金属光沢 ●金属的伝導性 伝導度(s = 1/r r:比抵抗)の温度依存性 半導体・絶縁体、金属、超伝導 超伝導体 温度 アルカリ金属の特性 ●s軌道に一個の電子・・・+1価にイオン化 ●水と爆発的に反応し、水酸化物+H2+熱・・・水素爆発 アルカリ金属をオイル(灯油)中で保存 水酸化物・・・塩基性 ●金属塩の炎色反応・・・アルカリ金属やアルカリ土類金属、 銅などの塩を炎の中に入れると各金属元素特有の色を示 す。金属の定性分析や、花火の着色に利用される 色 深紅 橙 黄 緑 青 藍 紫 Li Ca Na Cu, B As In Cs, K Na Ca Li Cu B As アルカリ金属(alkali metal) Li(lithium) ●銀白色 柔らか 延性に劣る ●水との反応はアルカリ金属中最も穏やか ●酸素と反応 Li2O ●アルカリ金属中Liのみが窒素と反応・・赤黒色(Li3N) 3Li + N2 → 2Li3N ●リチウム電池: 酸化還元電位(-3.040V)が低く、原子量が小 さいため、電池電極とすれば起電力が高くエネルギー密度 の大きい電池ができる。通常3 V出力の一次電池(リチウム 電池、負極に使用)、二次電池(リチウムイオン二次電池、リ チウムイオンを使用)として利用される ●うつ病治療薬(最適治療量と中毒量が近い) ●最も軽い金属元素なので、地球的な長時間のうちに海 水中と地殻上部を循環し続け、乾いた塩湖の底には必 ず豊富なリチウム資源が存在する。量的には全く枯渇す る心配はないが、単一産地で需要のほとんどを生産する という、偏在性(チリ)と独占的供給による、商業的な需要 ギャップが懸念される。 ●現在、確認埋蔵量で一、二を争うボリビアの資源は全 く開発されていない ●重要課題 海水中には2300億トンのリチウムが溶けて おり、事実上無限の埋蔵量を有する。海水リチウムを抽 出するプラントが日本を中心に稼動しており、現状よりさ らに低コストで採集できるようになれば、リチウムを国内 自給できる可能性がある Na(sodium) ●銀白色 柔らか 延性あり ●水との反応は爆発的 2Na + H2O →2NaOH + H2↑ ナトリウムランプ ●酸素と反応 Na2O ●トンネル内の照明 ナトリウムランプ 589nm オレンジ色 ●熱伝導率がよく、高温でも液体で存在するため、高速増殖 炉の冷却材として用いられる(放水で大爆発を起こす) ●生体にとっては重要な電解質のひとつであり、ヒトではそ の大部分が細胞外液に分布している。神経細胞や心筋細胞 などの電気的興奮性細胞の興奮には、細胞内外のナトリウ ムイオン濃度差が不可欠である(ナトリウムチャネル)。 ●ナトリウムイオンの過剰摂取は、高血圧の大きな原因 K(potassium) ●銀白色 柔らか 延性あり ● Li, Naより反応性が高い ●カリウムは人体で8番目もしくは9番目に多く含まれる元素 であり、体重のおよそ0.2%を占める。カリウムは人体に不可 欠の電解質であり、脳および神経などにおけるニューロンの 情報伝達に重要な役割を果たしている(カリウムチャネル) ●硝酸カリウム(KNO3、硝石)は、火薬(黒色火薬)において 酸化剤として働き、また肥料としても重要である ●シアン化カリウム(KCN、青酸カリ)は銅や貴金属(特に金 や銀)と錯体を形成し、錯体が溶解し易いのを利用して、そ れらの金属の電鋳や電解めっき、金鉱山の採掘に用いられ る。 Rb(rubidium) ●銀白色 柔らか 延性あり ● Li, Naより反応性が高い ●炭酸ルビジウム (Rb2CO3) を原料に混ぜたガラスは丈夫で 電気絶縁性に優れ、ブラウン管用ガラスとして用いられる。 ●Rbは土壌中において非常に低濃度である反面、植物に よって吸収されやすく、Kに似た挙動を示す。このため、ト レーサとして既知濃度のRb水溶液を土壌に注入、一定期間 後に植物体を収獲しRb濃度を測定することで、その時点に おける根の活性を推定できる(ルビジウムトレーサ法)。また、 農作物害虫の生態調査における標識として用いられた事例 もある。 Cs(cesium) ●Cs: 銀黄色 柔らか 融点28℃、常温で液体の金属 ● Li, Naより反応性が高い ●Uの代表的な核分裂生成物として、90Srと共に135Cs、137Cs が、また原子炉内の反応により134Csが生成される。この中で 137Csは比較的多量に発生しb線を出し半減期も約30年と長く、 放射性Cs(放射性同位体)として、核兵器の使用による死の 灰(黒い雨)や原発事故時の「放射能の雨」などの放射性降 下物として環境中の存在や残留が問題となる。 ●133Cs(安定同位体)の発光スペクトルの比振動数が国際 単位系の秒の定義に選ばれ、以降原子時計として使われる。 ●重要課題:放射性Cs+の吸着剤の開発(吸脱着可能な) Fr(francium) ●安定同位体は存在せず、最も半減期が長い223Frでも22分 しかないため、化学的、物理的性質は良く分かっていないが、 原子価は+1価である事が確認されている。 アルカリ土類金属(alkaline-earth metal) ●+2価の陽イオン ●アルカリ金属より穏やかに水や酸素と反応する Be(beryllium) 有毒 ●緑柱石などの鉱物から産出。これらの鉱物はアクアマリン やエメラルドなどの宝石にも用いられる. ●硬く、常温では脆いが、高温になると展延性が増す。両性 で酸にもアルカリにも溶解する。 Be(OH)2+ 2HCl→BeCl2+2H2O, Be(OH)2+2NaOH→Na2Be(OH)4 ●合金の硬化剤(Be-Cu)、熱的安定性、高い熱伝導率、金属 としては比較的低い密度で、高速航空機、ミサイル、宇宙船、 通信衛星などの軍事産業や航空宇宙産業において構造部 材として用いられる。 ●低密度かつ原子量が小さいためX線やその他電離放射線 に対して透過性を示し、X線透過窓として用いられる。 Mg(magnesium) ●ヒトを含む動物や植物の代表的なミネラル(必須元素)で あり、植物の光合成に必要なクロロフィルで配位結合の中心 ●酸素と結合しやすく強い還元作用を持つ。空気中で放置 すると、表面が酸化され灰色を帯びる。二酸化炭素、水、亜 硫酸とも反応するが、不動態皮膜となるためアルカリ金属や Caと異なり腐食は進行せず、鉱油中で保存する必要はない ●空気中で加熱すると炎と強い光を発して燃焼する。 さらに N2やCO2中でも燃焼し、それぞれ窒化マグネシウム (Mg3N2)、 酸化マグネシウム(MgO)となる CO2 + 2Mg → 2MgO + C ●熱水や塩水、薄い酸には容易に溶解し水素を発生する。 2H2O + Mg → Mg(OH)2 + H2 ●非常に軽い軽合金材料、Al, Cuとの合金:ジュラルミン(金 属疲労に弱く、腐食しやすいのが欠点) ●潮のにがり:MgCl , MgSO Ca(calcium) ●非常に柔らかい金属, 空気中で放置すると酸素・水・二酸 化炭素と反応して腐食するため、鉱油中で保存。 2Ca + O2 → 2CaO(生石灰)、 Ca + 2H2O → Ca(OH)2 + H2 水酸化カルシウム(消石灰)溶液を石灰水という。石灰水に 二酸化炭素を通すと炭酸カルシウムが沈殿するが、加熱す ると元に戻る。 Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O ●セメント・モルタルなど、建設・建築用資材として多用 ●骨や歯の成分:リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2, CaCO3) ●炭化カルシウム(Ca2+(CC)2-、カルシウムカーバイド) アセチレンランプ CaC2 + 2 H2O → C2H2(アセチレン) + Ca(OH)2 Sr(strontium), Ba(barium), Ra(radium) 有毒 ●Sr:軟らかく銀白色のアルカリ土類金属で、化学反応性が 高い。空気にさらされると、表面が黄味を帯びる。花火や発 煙筒の炎の赤い色の発生には塩化ストロンチウムなどが用 いられる。人工放射性90Srは骨に吸収され、放射線(b)を長 期間出し続けるので危険。 ●Ba:銀白色の軟らかい金属。Ca, Srよりも反応性が高 い。炭酸バリウムが殺鼠剤として用いられるようにBa2+イ オンは毒性を有している。硫酸塩(X線造影剤)は水に対 する溶解度が非常に低いために問題とならないが、その 他のバリウム化合物の用途は特定の分野に見られるの みで、人体に危険 ●Ra:ラジウムそのものの崩壊ではアルファ線しか放出 されないが、その後の娘核種の崩壊でベータ線やガン マ線なども放出される(危険) 12族(亜鉛族Zn, Cd, Hg) 2価陽イオン(2族に似る) ●亜鉛(zinc): 青味を帯びた銀白色の金属。湿った空気中で 錆び易く、灰白色の塩基性炭酸亜鉛で覆われる。トタン:鉄 板に亜鉛メッキ、真鍮:Cuとの合金 生体では鉄の次に多い必須微量元素で細胞分裂を活性化 (酵素の構造形成および維持に必須で、それらの酵素の生 理的役割は、免疫機構の補助、創傷治癒、精子形成、味覚 感知、胎発生、小児の成長など多岐にわたる)。 ●カドミウム(cadmium):青色を帯びた展性のある銀白色金 属。ニッケル・カドミウム電池(ニッカド電池)。中性子を吸収 する性質から、原子炉の制御用材料。 毒性:人体にとって有害(腎臓機能に障害が生じ、それによ り骨が侵される)で、Cdによる環境汚染で発生したイタイイタ イ病(富山県)が問題となった。Cdとその化合物は発癌性が ある ●水銀(mercury、汞): 常温常圧で液体の金属、比重13.6 (重い)、温度計、水銀灯、蛍光灯、アマルガム(白金、マン ガン、鉄、コバルト、ニッケル、タングステンとは合金を形成し ないので、水銀の保存には鉄の容器が用いられる) 歯の治療:銀やPdのアマルガム 大仏:金アマルガムを塗り、加熱して金メッキとする 毒性:古代においては、水銀や辰砂(鮮血色をしている)はそ の特性や外見から不死の薬として珍重されてきた。特に中 国の皇帝に愛用され、不老不死の薬、「仙丹」の原料と信じ られていた(錬丹術)。それが日本に伝わり飛鳥時代の持統 天皇も若さと美しさを保つために飲んでいたとされる。しかし 毒を飲んでいるに等しく、始皇帝を始め多くの権力者が命を 落としたといわれている。中世期以降、水銀は毒として認知 されるようになった。メチル水銀Me2Hgの中枢神経系(脳)に 対する毒性は強力(熊本 水俣病、新潟 第2水俣病) 13族(ホウ素族) B以外は金属(Al, Ga, In, Tl) ●Al(aluminum, aluminium)銀白色金属。良い熱伝導性・電 気伝導性を持ち、軽量(比重2.7)で加工性が良 く、広く用いられる。空気中では表面にできた Al2O3酸化膜により内部が保護される(不動態、 ボーキサイト アルマイト)。鉱物のボーキサイトを水酸化ナトリ ウムで処理し、アルミナ(酸化アルミニウム)を取 り出した後、氷晶石(ヘキサフルオロアルミン酸ナ トリウム、Na3AlF6)と共に溶融し電気分解を行う。 アルミニウム Alを作るには大量の電力が消費されることから 「電気の缶詰」と呼ばれることもある。粉末Alは可 燃物であり、粉塵爆発を起こす。スペースシャトル の固体燃料補助ロケットでも燃料として使用された。 ルビー ルビーやサファイアはAl2O3に少量の不純物を含む 宝石 スターサファイア ●Ga(garium)青みがかった金属光沢がある柔らかな金属。 融点は 29.8 ℃ と低いが、一方、沸点は 2403 ℃(異なる実験 値あり)と非常に高い。水と同じように、液体の方が固体より も体積が小さい異常液体である。Gaを高温でアンモニアと反 応させると青色発光ダイオードの素材として知られる窒化ガ リウム GaN が得られる。P, As, Sbとも反応して二元化合物 GaP、GaAs、GaSb を形成する。これらの化合物は閃亜鉛鉱 型構造を取り、GaAsは半導体材料、GaPは発光ダイオードの 材料として利用される。 ●In(indium)銀白色の柔らかい金属。常温では空気中で安 定である。酸には溶けるが、塩基や水とは反応しない。 ITO (Indium Tin Oxide) と略称される酸化インジウムスズは、 導電性があるのに透明であることから液晶やプラズマと いったフラットパネルディスプレイの電極(透明導電膜)に使 われている。 ●重要課題:Inを用いない透明電極の開発 ●Tl(thallium)銀白色の柔らかい金属 猛毒 重金属の中でも特に強い毒性を持ち、摂取すると神経障害 を起こす。強力な脱毛作用。重い物質の比重を測定するの に蟻酸タリウムがもちいられていた。 KGB は、放射性Tlを毒殺用の毒物として使用していた。有名 な例では、元 KGB 工作員のニコライ・ホフロフ が1957年に放 射性Tlを盛られ、瀕死の重態となったが一命を取り留めた例 がある(ホフロフは2007年に死去)。これは、初めて公式に確 認された KGB の放射性元素による殺人(未遂)事件である (二番目が2006年にPoを盛られて死亡したアレクサンドル・リ トヴィネンコ)。
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