建築材料科学

建築材料科学
野口貴文
1.建築材料の各種性質
雨
柱
台風
建築物
地震
微細構造
材料科学
1.建築材料の各種性質

建築物の性能














構造安全性
火災安全性
日常安全性
水密性・気密性
温熱・乾湿特性
空気清浄性
音特性
視覚性
触覚性
動的特性
衛生性
空間適合性
耐久性
経済性
1.建築材料の各種性質

性能に関連する外力・作用





機械的作用
電磁気的作用
熱作用
化学的作用
生物的作用
1.建築材料の各種性質

構造安全性に対応する建築材料の性質









圧縮強度
引張強度
せん断強度
衝撃強度
疲労強度
破壊エネルギー
弾性係数
クリープ係数
密度
1.建築材料の各種性質

火災安全性に対応する建築材料の性質






比熱
熱伝導率
引火温度
発火温度
融点
転移点
1.建築材料の各種性質

耐久性に対応する建築材料の性質








酸化反応速度
自然電位
分極抵抗
炭酸化反応速度
溶出・溶脱性
凍結融解抵抗性
紫外線劣化抵抗性
オゾン劣化抵抗性
1.建築材料の各種性質

機械的作用

重力


強制変形、拘束力


凍結圧、熱膨張・吸水膨張、地盤沈下、収縮、クリープ変形
熱力学的作用


積雪荷重、地圧・水圧、積載荷重
風、砂嵐、地震、摩耗
振動・騒音

風・爆発・交通による騒音、交通振動、電気器具の騒音
1.建築材料の各種性質

電磁気的作用

放射線


電気


稲妻、迷走電流、静電気
磁気


太陽光線、放射線
磁場
熱作用

熱、霜、地熱、潜熱、たばこ
1.建築材料の各種性質

化学的作用

水・溶媒


酸化剤


石灰、水酸化ナトリウム、セメント
塩


炭酸、硫酸、酢、クエン酸
塩基


硫化物、アンモニア
酸


酸素、オゾン、窒素酸化物、殺菌剤、漂白剤
還元剤


湿度、水滴、降水、地下水、洗剤、アルコール、廃水、漏水
硝酸塩、リン酸塩、塩化物、硫酸塩、
中性物質

塵・埃、石灰岩、油脂、インク
1.建築材料の各種性質

生物的作用

野菜・微生物


バクテリア、種、かび、菌、根、植物
動物

昆虫、鳥、シロアリ、虫、家畜
2.建築材料の構造・組織

結合

一次結合

イオン結合
 正に荷電した原子と負に荷電した原子とのCoulomb引力による結
合
 水溶液中でイオンに解離

共有結合
 2個の原子が最外殻の電子を共有する結合
 関与する電子数が多いほど強い
 非電解質

金属結合
 金属格子(陽イオンの規則正しく配列した格子)の隙間の振動する
自由電子を介したCoulomb引力による結合
 自由電子の影響により、熱伝導度・電気伝導度が大きく塑性変形を
示す
イオン結合
共有結合
金属結合
2.建築材料の構造・組織

結合

二次結合


van der Waals力(分子間に作用する結合力)を介した結合
分子分極(水素結合はその一種)
 一分子内の正電荷の中心と負電荷の中心が不一致(双極子)であ
るため、正負の引力により結合

分散効果
 対称な分子および不活性ガス原子内に生じる電子の偏在による瞬
間的な分極によって生じる弱い引力による結合
 不活性ガスの低温凝縮、有機化合物の分子間結合、活性炭の吸着
分子分極
2.建築材料の構造・組織

結合

結合の種類
結合力
二次結合
結合エネルギー(kcal/mol)
NaCl
KCl
NaF
Lil
184.6
168.6
217.5
178.1
共有結合
H2
HF
ダイヤモンド
水晶
114.6
135.6
170
406
金属結合
Na
Au
Fe
W
25.9
68.0
94
120
van der
Waals結合
He
Ne
H2
O2
0.052
0.52
2.44
1.74
イオン結合
一次結合
物質
2.建築材料の構造・組織

結合

結合と性質
性質
金属結合
van der
Waals結合
イオン結合
共有結合
機械的
強固、硬度大
強固、硬度大
一様でない
弱い、軟質
熱的
高融点、低膨
張性
高融点、低膨
張性
溶融点種々、
高熱伝導性
低融点、高膨
張性
電気的
概して非伝導
性
非伝導性
良伝導性
非伝導性
光学的
種々
高屈折率
不透明
透明
構造的
高配位、密度
中間
低配位、低密
度
非常に高配
位、高密度
金属に類似
配位:一個の原子をとり囲んで、複数個の原子・分子・イオンが配列すること
2.建築材料の構造・組織

結合

原子間距離と作用力



2原子間の距離:r
引力:F1、斥力:F2、合力:F=F1+F2
F=0のとき
 原子間の安定な平衡距離:r=d0
 原子間ポテンシャルエネルギー最小
2.建築材料の構造・組織

物質の構造

結晶構造

原子または原子団が規則正しく周期的な型に配列

等軸晶系
 3軸が相互に直交、軸の長さが等しい

正方晶系
 互いに直交する軸のうち2軸の長さが等しく1軸の長さが異なる

三方晶系
 3軸の長さが等しく、2軸が直交し、他の1軸が斜交

斜方晶系
 互いに直交する3軸の長さが全て異なる

単斜晶系
 3軸の長さが全て異なり、2軸が直交し、他の1軸が斜交

三斜晶系
 3軸の長さが全て異なり、3軸とも互いに斜交

六斜晶系
 等しい長さの3軸が1面中で互いに60°で交差し、長さの異なる1軸がこれに直交
結晶系
2.建築材料の構造・組織

物質の構造

無定形構造(非結晶質)


明確な結晶構造をとらない
アスファルト、タール、プラスティック、ガラス
2.構造・組織

材料の構成

溶体



液溶体


2種類以上の原子あるいは分子が溶け合った状態
原子あるいは分子の均一混合物で、化合物ではない
溶媒物質が液体で、溶質が溶け込む場合
固溶体(合金、セラミック)


溶媒物質が固体で、溶質が溶け込む場合
置換型固溶体
 A物質の結晶格子中の原子をB物質の原子で置換
 A原子の大きさ≒B原子の大きさ

侵入型固溶体
 A物質の結晶格子の隙間にB物質の原子が侵入
 B原子の大きさ≪A原子の大きさ
 炭素・窒素の原子を金属表面から侵入→表面硬化
固溶体
2.構造・組織

金属

結晶構造

体心立方構造
 常温の鉄、クロム、タングステン

面心立方構造
 常温のニッケル、アルミニウム、銅、鉛、銀、金、910~1400℃の
鉄

稠密立方構造
 常温のチタン、マグネシウム、亜鉛

ダイヤモンド構造
 ダイヤモンド、シリコン、ゲルマニウムなどの半金属
体心立方構造
面心立方構造
稠密六方構造
ダイヤモンド構造
2.構造・組織

金属

合金の構造

固溶体
 置換型固溶体
 母相金属と添加金属の結晶構造が等しく、原子半径がほぼ等
しい
 原子半径の差が大きくなるほど固溶度は小さい
 銅とニッケル、銅と金
 侵入型固溶体
 固溶度は自ずから限界あり
 常温の鉄に対する炭素の最大固溶度:約0.02%
固溶体
固溶金属原子の大きさと最大固溶度
2.構造・組織

金属

合金の性質


母相金属の性質と合金の組成で決まる
寸法の異なる原子が共存
→格子にひずみが生じる
→変形を相互に拘束し合う
→結晶粒間の破壊を生じやすい
→硬くもろくなる
→自由電子の運動が制限される
→延展性が小さく硬くなる
→電気伝導率が小さくなる
2.構造・組織

無機物

地殻構成成分
火成岩の平均化学成分
SiO2 Al2O3
CaO
Na2O
FeO
MgO
K2O
Fe2O3
H2 O
TiO2
P2O5
CO2
59.12 15.34 5.08
3.84
3.80
3.49
3.13
3.08
1.15
1.05 0.299 0.102
火成岩の主要元素の平均値
順位
1
2
3
4
5
6
7
元素
O
Si
Al
Fe
Ca
Na
K
含有量
46.59%
27.72
8.13
5.01
3.63
2.85
2.60
順位
8
9
10
11
12
13
14
元素
Mg
Ti
P
H
Mn
S
Ba
含有量
2.09
0.63
0.13
0.13
0.10
0.052
0.050
順位
15
16
17
18
19
20
元素
Cl
Cr
C
F
Zr
Ni
含有量
0.048
0.037
0.032
0.030
0.026
0.020
2.構造・組織

無機物

構造

ダイヤモンド構造
 結合力は強固で極めて硬く、空気中で加熱しても710~900℃まで
耐える

けい酸塩構造
 SiとOの結合:共有結合とイオン結合の交互

鎖状構造
 SiO4四面体が1個の酸素を共有しながら鎖状に連なる
 石綿繊維
 鎖の結合よりも繊維間の結合力小→解繊が容易
SiO4の四面体
SiO4の結合
2.構造・組織

無機物

構造

層状構造
 SiO4を主骨組として平板状に広がり、かつ層をなす
 層間の結合はvan der Waals結合のため弱く、劈開を生じやすい
 Mg(OH)2、Al2(OH)3

網状構造
 SiO4構造が3次元的に結合
 比較的硬い
 網状構造の破壊:Si-O結合の切断

ガラス構造
 規則性あり
 多様なパターン
 結合:共有結合、イオン結合
珪酸塩の網状構造(高温の場合)
珪酸塩の板状構造
ガラス構造
2.構造・組織

無機物

性質




自由電子の数が少ないため、電気伝導性・熱伝導性が小さい
結合力が大きいため硬く、圧縮強度は大きい
変形能が小さいため、引張応力が作用したとき、欠陥部分に応
力集中が生じるため、引張強度は小さい
全般に融点が高く、耐熱性、耐候性、耐薬品性が大きい
2.構造・組織

有機物

単量体

飽和炭化水素(CnH2n+2)
 炭素数nの増加
 直線上に連なる長い分子
 原子間の拘束大→高融点
 原子間の結合は共有結合
 分子間の結合はvan der Waals力

不飽和炭化水素(CnH2n-1)
 炭素と炭素の間に、二重結合・三重結合
 二重結合が一つ=オレフィン類

エチレン型分子( CnH4-XYx)
 エチレンのHをCl、F、OH、CNなどで置換
 多くの樹脂の出発分子
2.構造・組織

有機物

重合体

付加重合体
 単量体の二重結合の一つを開裂させて、次々と付加的に鎖状の高
分子を作ったもの
 エチレン型分子は全て付加重合体を生成可能
 反応開始剤:付加重合を開始・終了するため端に結合する原子団
 耐水性を高めるためには、疎水性の反応開始剤

縮合重合体
 2種類以上の有機化合物が水などの小さな分子の離脱を伴って化
学反応して作られた高分子
 フェノール+ホルムアルデヒド→フェノール樹脂

共重合体
 2種類以上の単量体が一定の繰返しによって結合された重合物
 結晶における固溶体に相当
2.構造・組織

有機物

構造

高分子物質の大きさ
 分子の重合度で表す
 重合度
 1個の分子を構成する単量体の数
 高分子の分子量/単量体の分子量
 重合程度の進行:ガス状→低粘度の液状→高粘度の液状→
軟らかい固体→強固な固体
 分子量大→引張強度大
2.構造・組織

有機物

構造

マクロ構造
 線状構造(鎖状構造)
 線状分子相互間のずれを生じやすい
→自由度が高い、可撓性に富む、繊維を作りやすい
 ビニル樹脂、ナイロン
 網状構造
 分子の自由度が小さい
 強度は大きいが硬くもろい
 メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂
 結晶構造
 ガラス状構造の内部に結晶化している部分を含む
 ポリエチレンは結晶性良
 結晶部分の分子は規則的な配列
線状構造
フェノール樹脂の網状構造
2.構造・組織

材料の組織
構造・組織
ミクロ組織
主要構成物質
結晶組織
集合組織
金属・無機・有機物質
非結晶組織
集合組織
金属・有機物質
稠密組織
単一組織
マクロ組織
複合組織
集合組織
金属・有機物質
繊維組織
金属・有機物質(鎖状高分
子)
線維集合組織
無機・有機線維の集合体
(+空気)
多孔組織
無機・有機物質+空気
複合集合組織 無機・有機物の複合集合体
積層組織
2種以上の材料積層
2.構造・組織

材料の組織

単一組織

稠密組織
 外見上も構造上も稠密な組織

繊維組織
 繊維の分類
 無機繊維、有機繊維
 天然繊維、人工繊維
 引張強度
 同一物質からなる棒状供試体の数倍から数十倍
 直径が小さい→配向性が高くなる→高引張強度
 高温→低強度、低温→高強度・脆性化
2.構造・組織
 伸び・たわみ性
 植物繊維:細胞組織→たわみ大
 人工繊維:断面緻密→たわみ小
 弾性係数
 有機繊維<無機繊維
 吸湿性
 動植物繊維:吸湿率大
 人工繊維:断面が緻密、円形、周長/断面積が小→吸湿率小
2.構造・組織

材料の組織

複合組織

繊維集合組織
 繊維相互が自由か、緩く結合された状態で存在
 組織の中にかなりの量の空隙
 耐熱性・耐火性
 有機繊維:熱分解・炭化、有毒ガス発生
 セラミック繊維:不燃材料
 金属繊維:不燃性、耐火性なし
 熱伝導率
 乾燥状態において大きな熱伝導抵抗
 吸音性
 良好
2.構造・組織

材料の組織

複合組織

多孔組織
 無機・有機物質中に独立または連続した気孔が均等に含まれる
 気孔の種類
 連続気孔:気孔が連続、火山砂利
 独立気孔:隔壁が密で各気孔が独立、発泡ガラス
 不完全独立気孔:気孔が独立、隔壁が粗、透気性・透水性あり、
ALC
 独立気泡塊の集合:多数の気孔が塊的に集合、ポリスチレン
フォーム
 性質
 同一質量で大きな見掛け容積
 密度が小さい→熱伝導率・熱容量が小さい
 透気性・透水性・吸水性が大きい
 独立気孔で隔壁が不透気性構造の場合、透気性・透水性極小
気孔の種類
2.構造・組織

材料の組織

複合組織

複合集合組織







構成:骨材、結合材
必要に応じて繊維などによる補強
原料調合を調整して強度・比重などの性質を調整
無機骨材+無機結合材:強度・耐久性が大きい
有機骨材・繊維+少量の有機結合材:強度・耐久性が小さい
結合材の結合力大→強度大
無機骨材の場合の耐水性:結合材の耐水性で決まる
複合集合組織
2.構造・組織

材料の組織

複合組織

積層組織
 種類
同種材料を積層(合板、集成材)
 異種材料を積層(石こうボード、アスファルト防水層)
 特殊な心材と表面材を一体結合した軽量サンドイッチ構造
 埋込み積層(FRP、鉄筋コンクリート)
 性質
 軽量で曲げ剛性大
 大型材・曲面材の製造可
 熱伝導率の小さい心材→高断熱性
 耐食性・耐摩耗性・耐火性:表面材の性質に依存
 耐水性・耐熱性:接着剤の性質に依存

積層構造