粒子線治療における線量測定の 高度化に向けた検出器開発計画 放射線医学総合研究所 加速器物理工学部 吉本 光男 ‹#› 1.粒子線治療の特徴 ワブラ電磁石 と散乱体 横方向に拡大 リッジフィルタ 拡大ブラッグ ピーク形成 ボーラス ビーム停止位置を がん形状に合わせる ・(荷電)粒子線はブラッグピークと呼ばれ る飛程近傍に限局した線量分布を持つ ・病巣への線量集中性に優れる一方、 照射には高い信頼性が要求される ‹#› 重粒子線照射装置 2.粒子線治療における線量測定の目的 1.治療ビームの品質管理 治療用ビームの線量分布が計画通り である事を実測により確認し、誤照射 を防止する 2.線量モニタの校正 治療照射時に照射したビームの 線量をモニターする線量モニタの出 力と、患者校正深(拡大ブラッグピー ク中央)における水吸収線量の比の 測定により線量モニタを校正する 拡大ブラッグピーク (SOBP) 病巣の幅に合わせ て停止範囲を拡大 ‹#› 3.現在の線量測定 (1)測定方法 ● Co線源で校正されているリファレンス線量計に より校正された「多層電離箱」により、横方向 の強度分布が「平坦」なビームの深さ方向の線 量分布64点(水等価深27cm)を一度に測定する。 測定結果の例 多層電離箱(図は試作機) ‹#› 3.現在の線量測定 (2)問題点 ● ● ● 現在の測定では「平坦」な線量分布の測定の み実施している。 一方、実際の治療では病巣の形状に合わせて ビームを止めるために、「ボーラス」と呼ば れるポリエチレンブロックにより残飛程を調 整しており、線量分布は3次元的に非一様と なる。 現状の測定方法では、実際 の治療で用いられる3次元 的に非一様な線量分布の測 定が出来ない。 ‹#› 4.今後の線量測定の目標 ● – – 粒子線治療の信頼性向上のために、従来測定 が困難であった、短時間での3次元線量分布 測定を可能にする技術を開発する。 上記目標達成のために、横方向の線量分布を一度に 測定できる2次元位置敏感型線量計を開発する。 2次元位置敏感型線量計と、厚さ可変のエネルギー 吸収体の組み合わせにより、短時間での3次元線量 分布測定(横方向2次元+深さ方向1次元)を実現す る。 ‹#› 5.2次元線量測定方式の候補 1.従来検討していた方式 CCD+スクリーン システム」 検出媒体:プラスチックシンチレータ 信号読出:冷却CCDカメラ 2.現在検討中の方式(1) 「ピクセルセグメント型電離箱」 平行平板型電離箱をピクセル状に 並べたもの 3.現在検討中の方式(2) 「GEMシンチレーション検出器」 検出媒体:GEM+ガスシンチレータ 信号読出:冷却CCDカメラ ‹#› 「 重粒子線 5-1.CCD+スクリーン システム (考案:KVI,Groningen, 従来検討していた方式) 深さ方向のシンチレーション光の 分布をCCDカメラで測定し、2次 元の残飛程分布を測定する。 シンチレータの特徴 利点:横方向の2次元の測定が可能 欠点:線量に対する応答が非線形 CCD camera compensator patient collimator degrader (binary filters) scintillator シンチレーション光 mirror シンチレータの発光量と エネルギー付与の関係 ‹#› 実験装置の概略 5-1(2)重粒子線の飛程推定方法 光量分布のピーク位置から線量分布のピーク位置を推定する d(xw0)=d(xw0+dw) xw0 xw0+dw 線量分布ピーク=光量分布ピーク+シンチ厚 ‹#› 5-1(3)平坦な単色ビームの飛程確認 ROI(155,139)-(232,216) の平均光量分布 実験方法 3次元光量分布 ・一様な照射野の3次元光量分布 を測定 ・光量分布ピーク位置から予想 される線量分布ピーク位置 を実測値と比較 ‹#› 5-1(3)平坦な単色ビームの飛程確認 実験結果(C140単色ビーム,シンチレータ水等価厚1.02mm) 12 2.0 10 C 140MeV/u Monoenergy Beam -3 measurement(PPIC) calculation(HIBRAC) ピーク 実測位置 37.93mm Dose [Gy/count] 1.5 10-3 1.0 10-3 5.0 10-4 0.0 100 0 10 20 30 40 50 60 Depth [mmWE] 深部線量分布測定結果 (平行平板電離箱) ピーク推定位置 38.22mm ・線量分布ピーク実測位置 ・線量分布ピーク推定位置 ・推定位置の誤差 ‹#› 37.93mm 38.22mm +0.29mm 誤差1mm以内で 飛程を推定できた 5-1(4)平坦なSOBPビームの飛程確認 ROI(155,139)-(232,216) の平均光量分布 ・SOBP(拡大ブラッグピーク) 3次元光量分布 の場合、ピーク領域下流では高dE/dx のビームの寄与が多くなり、クェンチング による光量の減少が顕著になり、最 下流位置での分布形状がなまる ・さらに光学系の点広がり効果の影響 を受けると、非一様線量分布での 最下流位置の検出は困難になる。 ‹#› 5-1(5)非一様な単色ビームの測定 4種類の異なる厚さを持つファントム材(ルサイト)による 非一様照射野の3次元光量分布を測定 depth-light distributions 0.3 0 11.6 relative dose 0mm 11.6mm 23.2mm 34.8mm 11.6mm shift 23.2mm shift 34.8mm shift 0.25 light output/count, relative dose 34.8 23.2 0.2 0.15 0.1 0.05 0 0 左上領域の位置推定結果 ピーク推定位置 37.30 ピーク実測位置 37.93 誤差 -0.63 10 20 30 40 depth[mmWE] 各領域の光量分布 (ROI 400pixの平均) その他の領域では測定点間隔が長過ぎた( 約3cm)ため、十分な精度での推定が出来て いない 3次元光量分布 ‹#› 50 5-1(6)問題点 ● ● ● 治療に用いられるSOBPビームではSOBP領域 の下流でdE/dx依存の非線形応答が顕著にな り、最下流位置の検出が難しい 光学レンズ系による点広がり効果により、約イン パルス入力が直径約2mm程度に広がってしまう ため、残飛程の変化が急激な場所の近傍では 光が混合して正確な飛程の測定が難しい。 シンチレータの非線形応答のため、線量自体の 測定は困難 ‹#› 5-2 ピクセルセグメント型電離箱(PXC) 開発主体:イタリア国立核物理研究所(INFN) TERA Torino Group http://www.to.infn.it/activities/experiments/tera/ ● ● ● イタリアの粒子線治療施設建設計画(TERA Project)で採用が予定されている 平行平板型電離箱をピクセル状に配置する事 により2次元の線量分布測定が可能 検出方式は従来の線量測定にも使用されてい る電離箱で、信頼性と安定性に優れている ‹#› 5-2 (2) 電離箱本体の仕様(1/2) • 測定可能な照射野 最大24×24cm2 • チャンネル数 32×32 = 1024ch • 測定点間隔 7.5mm • HV: -400V • 全体の大きさ 650×650mm2, 奥行20mm • 全体の材質 プレクシグラス pixel-segmented ionization chamber (PXC) 5-2(2)電離箱本体の仕様(2/2) • 陽極 ガラスエポキシ基板、銅 (片面が電極面、反対面 の信号線でreadoutに接続) • 陰極 アルミナイズドマイラー • ギャップ: holed layer 直径4mm, ギャップの幅5.5mm 有感領域体積 0.07cm3 Exploded view of the PXC. 5-2(3)信号の変換とデータ収集 • 信号をパルスに変換(I/F変換) 100fC~800fC/pulse (可変) • 各ピクセルのパルス出力を16bitカウンタに入力 • 64ch分のデータをVLSIチップに まとめて記録 • 測定中は常時、全ピクセルのデ ータをラッチ、記録可能 • 測定データはバスを通してPCI カードからPCに取り込まれる。 (読込み時間500μs) Computer display during a typical data acquisition session. (LabVIEW) 5-2(4)測定結果の再現性 • 測定1 60Co照射施設で1ヶ月間、毎日測定した →測定結果のばらつきは0.5%以内(1σ)だった • 測定2 7ヶ月間の期間中に、3つの病院のそれぞれ異なるリ ニアック(6MV)で校正を行った結果、ばらつきは 1.3%(1σ)だった 5-2(5)リファレンス線量計との比較 (6MV X線) TMR(組織最大線量比):深さ方向の相対線量分布 TMR(d,A)=D(d,A)/Ddmax(A) リファレンス線量計 とのずれ0.4%以内 測定の誤差(0.5%)の範囲内で一致 TMR data obtained with a 12×12 cm2 field of a 6 MV x-ray beam, using a Farmer chamber(△) and the PXC(○). 5-2(6)ビームプロファイルの比較 10×10cm2の照射野では直径4mmのPXCで十分な精度の測定がで きた。今後は小照射野での性能評価を行う必要がある。 テール領域での結果が 水カラム測定とよく一致している ことから多チャンネル読出しの クロストークがない事が分かる Comparison of beam profiles measured with an ionization chamber in a water phantom (-) and with the PXC (○). The irradiations were performed in a MV x-ray beam at dmax and 10×10 cm2 field size. The results are normalized to the central beam axis. 5-2(7)PXCのまとめと検討課題 まとめ ・大照射野(24cm×24cm)測定用ピクセルセグメント型 電離箱(PXC)が開発された。 ・出力の線量や線量率に対する線形性(説明省略)、感 度の安定性に優れている。 ・リファレンス線量計と比較により、治療用線量計として 十分な精度の測定が可能である事が確かめらた。 検討課題 ・小照射野(3cm×3cm)の位置敏感型線量測定を 行うためには測定点間隔をさらに小さくする必要があ る。 ・大量の信号読出し素子(I/F変換回路)を使用するた め、高コストになる可能性がある(未調査)。 ・中性子線やγ線によるDAQ系の誤動作や故障など が懸念される。 5-3 GEMシンチレーション検出器 開発主体:オランダGroningen大学 KVI http://www.kvi.nl • 従来開発していた CCD+スクリーンシステムでは無機 シンチレータ(Gd2O2S:Tb)の応答が線質(エネルギー付 与スペクトル)に依存するため、線量自体の測定は困難 であった。 • この欠点を改善するため、dE/dxに対する応答の線形 性に優れた気体シンチレータを採用した。 • 気体シンチレータは発光量が少ないため、GEMで電子 雪崩を発生させる事により収量を増加させた。 • 信号読出しには、従来CCD+スクリーンシステムで採用 していた冷却CCDカメラを採用した。 5-3(2) GEMシンチレ ーション検出器 ブラッグピークの測定 シンチスクリーン:7%のクェンチング GEMシンチ :2%のオーバー シュート GEMシンチではdE/dxに対する線形 成が向上し、治療に必要な線量測 定の精度(3%)を満たしている。 J.H. Timmer et al, Nucl. Instr. and Meth. A478(2002)98 T.C. Delvigne, et al, KVI Annual Report 2003, p.83 ‹#› 5-3(3) GEMシンチレ ーション検出器 光収量の比較 位置毎の感度のばらつき Ar-CO2混合ガス使用、平坦な線量 Ar-CH4混合ガス使用 GEMの印加電圧350Vでシンチスク 分布を測定 リーンと同程度の収量が得られた →最大10%の感度(ガス増幅率)の ばらつきがみられた(GEM固有で再 現性がある) ‹#› 5-3(4)GEMシンチのまとめと検討課題 まとめ ・GEMを用いたガスシンチレータによる2次元線量計が 開発された。 ・従来のシンチスクリーンに比べて応答の線形性が向 上した。 検討課題 ・GEMの位置毎の感度のばらつきの補正方法を検討 する必要がある ・光学レンズ系や雪崩電子の拡散による位置分解能の 劣化の評価と補正方法を検討する必要がある ・ビームの強度の増加に伴って、GEM電極の電流量 が増加し、分割抵抗での電圧降下により、ガス増幅 率が低下する事が指摘されている。そのため、印加 電圧を安定化するための工夫が必要 6.今後の予定 ピクセル型電離箱 ・測定間隔の改善の可能性の検討 ・読出し素子の調達コストの調査 GEMシンチ検出器 ・試験項目の検討 ・ガス組成とCCD素子の選定 ・収量の見積もり ・実証機の基本仕様の決定 ・基本設計 ・詳細設計、製作(メーカーに発注) ・GEMガスシンチチェンバー単体試験 ・GEMシンチ+CCDでビーム測定試験実施 ・実用化の見込みがある場合は測定の自動化 ‹#›
© Copyright 2024 ExpyDoc