大豆の 高品質・多収を目指して 那須農業振興事務所 五月女敏範 大豆の収量 (単位:kg/10a、%) 栃木県 全国 17年産 (平年比) 188(全国第4位) (94) 168 (99) 16年産 (平年比) 167(全国第4位) (79) 119 (68) ※関東農政局栃木統計情報事務所調べ 大豆という作物(農家の皆さんに理解して欲しいこと) ○ 地域適応性が狭い作物 ○ 湿害に弱い作物(水にうるさい作物) ○ 地力を消耗する作物 ○ 品質は農家が決める作物 ○ 地域適応性が狭い 大豆は日長時間が短くなることによって開花が誘導される短日植物。 ただし、日長反応性が小さく温度によって開花が促進されるもの(どちら かといえば早生、高緯度の品種)から、日長反応性が大きく温度の影響 が小さいもの(〃晩生、低緯度)まで、様々。また、大豆は同じ品種でも 栽培する場所や土壌条件などによって収量や熟期等が変わる。 → 品種や地域に応じた最適な栽培法を実践すべし! → 土壌により管理が異なる(ex.培土は灰色低地土や土壌水 位の高い圃場で有効(必須)、黒ボク土では深耕や深層施肥 など根系を下層へ発達させることがポイント)。 【タチナガハという品種】 ・ 狭い播種適期 県北: 月 日~ 月 日(晩限6月下旬) ・ シスト線虫に弱く、連作の利かない品種 土壌型別地力窒素供給量 ○ 湿害に弱い(水にうるさい) 大豆は非常に水にうるさい作物。 ひとつは、昔から言われているように過湿を嫌う。出芽時に湿 害を受ける後々の収量まで影響を受け、収量が大きく減少する。 もうひとつは、水稲と同じくらい水を必要とする作物。 → その生理をよく理解し、安定多収を目指そう! ・ 湿害って? 収量に大きく影響を及ぼす湿害。 実は、湿害と言っても3つのパターンがある。 ① 播種直後の湿害・・・ 大豆種子の物理的な破壊。 ② 出芽時の湿害・・・ 酸欠による生育阻害。 ③ 生育期間中の湿害・・・ 根粒菌の活性低下。 (根の活性低下) ① 播種直後の湿害 播種直後に降雨などにより土壌水分が高くなると、大 豆種子は急激な吸水と種子の膨張が起こり、種子が物 理的な破壊を受ける。出芽率が著しく低下するだけでな く、出芽しても、植物体の生育が抑制される。含水率が 低い種子ほどこれらの障害は顕著。 → 苗立ち数の減少、生育阻害により減収。 【対策】 ・ 播種1~2日後に降雨が予想される時は播種しない。 ・ 種子水分を15%程度に高めて播種する。 水分調整方法: 大豆種子3~4kgを湿ったタオルな どで覆い、さらにビニール袋で密閉しておく。目安とし て1日で約1%程度上昇するので、播種の4~5日前 に処理を開始すればいい。確認は、軽く噛んで歯形 が残る程度が15%の目安である。種子を網袋に入 れ風呂場など湿度の高いところに放置する方法もある。 種子消毒は、処理後通常どおり実行。 (現代農業2001の7月号に載っているそうです)。 ② 出芽時の湿害 植物の出芽に必要なものは、水・空気(酸素)・温度。大豆が出芽時 に冠水などにより酸素不足になると、出芽は著しく悪くなる。その後、 通気性のよい条件で生育させても、生育が劣り、莢数も減少する。 → 莢数減少等により収量が大きく低下。 (→ 初期生育が劣ると雑草の発生も多くなる)。 【対策】 ・ ほ場の排水性をよくする。 ・ 気相の多い土づくり。 ・ (播種4~5日後に大雨が予想 される時は播種しない)。 ③ 生育期間中の湿害 大豆では、300kg/10aの収量を得るため必要な窒素量は約27kg/10a といわれている。そのうち、基肥窒素は2~3kg/10a。残りは「根粒菌に よる固定窒素」や「地力窒素」に由来する。 多収のポイントとなる根粒菌は呼吸しているため大量の酸素を必要と する。土壌水分が高いと、根粒菌の密度・活性が低下する。 また、過湿は根の活性を低下させ、植物体の活力を低下させる。 → 大豆生産の主役である根粒菌や植物体の活性低下による減収。 【対策】 ・ ほ場の排水性をよくする。 ・ 常に気相の多い土づくり。 ※ 根粒菌について知ろう! ○ 根粒菌は気難し屋 生育(着生)初期の窒素不足は厳禁。しかし、その後の 窒素(特に硝酸態窒素)は根粒形成を抑制。 → 低濃度の窒素が継続的に供給されるのがベスト。 (堆肥や有機物、石灰窒素(麦跡)の施用)。 ○ 根粒菌は大量の酸素を必要 → 過湿を防ぎ、通気性をよくする。但し、乾燥にも弱い。 → 培土により根粒の増大と土壌の通気性を改善する。 ○ 根粒菌はpHにうるさい(酸性に弱い、最適pH6.0-6.5) ○ 根粒菌は活動に石灰が必要 → アルカリ資材や石灰資材の施用。 ○ 開花期以降は窒素固定活性が低下 加えて、開花期以降に大豆は窒素吸収量の7割を吸収することや硝酸態 窒素吸収能力の低下。 → 開花期以降に継続的にアンモニア態窒素が供給されることがベスト。 (緩効性肥料の施用、開花期の窒素追肥) →→ 根粒菌の密度・活性を高める土づくりと開花期以降の高い地力が多収のポイント。 ※ 湿害対策って? ○ 排水良好なほ場を選ぶ。 ○ 隣接水田からの横浸透による湿害を防ぐ意味でも集団(団地)化。 ○ 細かい耕起は、播種精度、発芽・苗立、除草剤効果の向上につながるが、 過度の耕耘は土の団粒構造を破壊し、湿害・干害を起こしやすくなるので 避ける。 (← 湯津上注意!) ○ 本暗渠、弾丸暗渠の施工。 ○ 水田跡転換畑では心土層により水分 の地下浸透が悪いので、プラソイラー やプラウなどにより心土破壊を行い、 排水性を向上させる。この撹拌耕は、 深耕効果と土壌の活性化により、多収 効果も期待できる。 ○ 地表水早期排除のため、明渠を設置する。 ○ 畝立て栽培(右図参照)。 大豆は水を大量に必要とする 要水量は水稲並。乾燥(水不足)に弱く、特に開花期に水分が不足す ると落花や落莢により着莢数が低下する。 → 生育初期に土壌水分過剰により根が浅くならないよう湿害対策と、 開花盛期に干ばつに遭わないよう潅水処理が効果的。(落莢が多いと 青立ちの原因にもなる)。 ⇒ 「空気」も「水」も「肥料」もある土を目指そう。 ○ 地力を消耗する作物(1) 大豆は多量の窒素を必要とする作物(前スライド参考)。 作付け回数が増えると、地力窒素(土壌中の有機物から供給される 窒素)が減少し、収量の低下、小粒化。 収量(㎏/10a) → 収量を維持するためには、土壌中の窒素を減らさないための 土づくりが必要。 300 250 200 150 100 50 0 三要素区 80 84 88 92 大豆連作による収量の推移(3年間の移動平均値) (栃木県農業試験場土壌作物研データ) ○ 地力を消耗する作物(2) 地力窒素以外に、連作により物理性の悪化(土壌の硬化や通気性 の悪化)する。これにより、根粒菌の活性も落ち、相乗的に収量が低 下、小粒化する。 → 収量を維持するためには、土壌の物理性の適正化と根粒活性 の向上を図る土づくりが必要。 100 11.3 14.3 38.9 39.7 43.1 49.9 46.0 初作 初作 3年目 3年目 2~15㎝ 2~15㎝ 2~15㎝ 2~15㎝ 17.5 17.3 37.4 39.6 45.2 80 % 60 40 20 0 無施用 堆肥2t 無施用 堆肥2t 気相 液相 固相 ○ 地力を消耗する作物(3) 【対策】 ・ 有機物の施用・・・ 地力窒素が増加すると共に、土壌の物理性も 改善される。 ・ 深耕・・・ プラウやプラソイラー耕により、土の物理性の改善の他に、 土のバッファーも増えるので、地力低下を緩慢化させられる。 ・ 圧みつ防止・・・ 近年、大型トラクタ (kg/10a) の普及により圧みつ化し 350 ている。土の団粒構造を 300 壊さないようにすると共に 250 200 圧みつに注意する。 三要素区 150 堆肥区 ・ 湿害対策・・・ 根粒活性を維持し、 100 牛ふん区 固定窒素からの供給量を 50 豚ふん堆肥区 0 増やす。 80 84 88 92 96 ・不耕起栽培・・・ 過度の耕転をしないため。 収量の推移(農業試験場土壌作物研データ) ○ 品質は農家が決める 大豆は、品種により皮切れ粒やしわ粒の発生が異なることが知られて いる。タチナガハは共に発生の少ない品質の優れる品種とされている。 しかし、近年、しわ粒や皮切れ粒などの被害粒の発生により、品質が低 下が問題となっている。 大豆の場合、品質の低下の原因は気象条件以外に、管理に原因があ る場合が多い。 → 被害粒の発生原因を理解し、品質の向上に努める。 (大豆乾燥調製マニュアルhttp://www.maff.go.jp/soshiki/nousan/hatashin/daizu/kanso/ 参照) <被害粒> ① しわ粒・・・ ② 裂皮粒・・・ ③ 汚損粒・・・ ④ 腐敗粒・・・ ⑤ 紫斑粒・・・ (成熟期前後の降雨)、適期収穫しない、乾燥方法。 乾燥方法。 茎水分、雑草。 虫害・風害による莢の損傷、降雨 防除の不徹底、耐性菌。 ① しわ粒(1)、 ② 裂皮粒 大豆は乾燥が始まると、表面近くの水分が低く、粒中心部の水分が高い状 態になる。 表面の水分が低くなると、収縮しようとするが粒中心部の水分は 高い状態にあるので、粒表面(表皮)に引張応力が発生する。そして、表皮の 引張破壊限界を超えたときに「裂皮」が生じる。 乾燥が終了すると、中心部から表面に向かって水分移動が起こり、表皮は 水分が高くなり、逆に圧縮応力を受け「しわ」が発生する。 【対策】 乾燥初期の送風温度を低く抑えて、送風湿度を比較的高く 維持するなど、ゆっくりとした乾燥に努める。 図 大豆乾燥における被害粒発生機構 ① しわ粒(2) しわ粒の発生は、乾燥よりも収穫時期の遅れによるものが多い。収 穫が遅くなればなるほど、降雨により大豆の穀粒水分が上昇する。こ の水分の戻りにより、粒が肥大化し、また乾燥すると粒が縮む。これ によりしわ粒の発生が多くなり、しかもこの行程を繰り返すことにより より大きな(深い)しわが発生する。 【対策】 刈取り可能な水分になったら、速やかに収穫すること。 (ほ場での乾燥をできるだけやめる)。 カルシウムの施用(カルシウム不足により発生が多くなる)。 ③ 汚損粒 茎水分が高い大豆を収穫すると汚損粒が発生する。しかし、現場では茎水分の高 い大豆の収穫は行われていない。現状として多いのは、 (1) 青立ち株の発生(莢数が減少することにより発生)。 (2) 雑草の多発。 などが原因として考えられる。 【対策】 (1)-1 開花期に水分が不足すると落花や落莢により着莢数が低下するため、 開花期以降10 日以上降雨が無い場合やほ場全体の半分以上で葉が反転 している場合には(主に開花盛期)畦間潅水処理を行う。また、開花期時点 で地力の低下しているほ場や窒素供給量の低下しやすい灰色低地土では、 速効性肥料で窒素成分5~10kg/10a の追肥が効果的開花期~開花後。 (1)-2 虫害により莢数や莢内粒数が減少し、青立ちする場合がるため、開花期 15日後(莢伸長期)と同25日後(子実肥大初期)に害虫防除に努める。 (2) 初期生育の健全化(湿害対策)と薬剤による防除。発生時は抜き取りの徹底。 ④ 腐敗粒 腐敗粒は、雨などにより菌が繁殖し粒が腐敗し発生する。即ち、雨が発生を助長す るものの、無傷莢では腐敗粒の発生が急増しない知見から、腐敗粒の第一要因は、 莢に傷がつくことで、損傷を受けた後の降雨や高温などの好適な環境が、発病を助 長すると考えられる。また、大豆の生育時期と被害度との関係では、粒肥大盛の9月 上~中旬の莢損傷が、最も子実の被害が顕著となる。 【対策】 (前スライドに加えて)開花期40日後(子実肥大中期;9月上旬)および 開花期50日後(子実肥大後期;9月中旬)に害虫防除に努める。 表 接種による大豆腐敗粒の発生(富山農業技術センター) 大豆莢の付傷時期と腐敗粒の発生(富山農業技術センター) ⑤ 紫斑粒 平成17年産では紫斑粒が多発した。その原因は、トップジンMやベンレートに耐性 (=薬剤が効かない)を示す耐性菌によるもので、栃木県内全域で確認されています。 【対策】 紫斑病は種子伝染するため、種子更新を行うと共に、下記資料を参考に 種子消毒ならびに生育期に防除に努める。なお、同一系統の薬剤を連用する と耐性菌出現の可能性は高まるため、異なる系統の薬剤をローテーション散布する。 なお薬剤の使用にあたって は、農薬はラベルをよく読む だけでなく、使用基準の変更 がないかを確かめたうえで、 使用基準・方法を遵守して使 用すること! 収穫適期の判定法 コンバイン収穫適期は平均茎水分が40%程度で、目安はほ とんどの個体が黒変始めに達し、かつ剥皮率が40%程度に なった時期である。ただし降雨があると茎水分、子実水分とも 戻って高まるため1~2日待ってから後に判定して収穫する。 その後はできるだけ早く収穫することが基本。なお、収穫後一時貯 留する場合に湿度の高い場所に置くと水分が戻り、しわ粒が多くなる ことがあるので注意する。乾燥にあたっては、18%(子実にツメを立て ると少し跡が残る)以上の高水分大豆を30℃以上の高温・急速乾燥さ せるとしわ粒が発生ので、高水分大豆はまず送風からスタートし、 18%以下になってから 30℃以下で乾燥させる (温度より時間をかけて 乾燥させる)。 大豆を作るにあたって・・・ ○ 5月29日よりポジティブリスト制度がスタート → ドリフト(飛散)に注意して農薬を使用してください。 ○ 平成19年産から品目横断的経営安定対策がスタート → 過去の生産実績の基準期間が平成16~18年 産の平均に決定。19年産以降、多くの支払いを 受ける為には、18年産の増産が欠かせません。 →→ 品目横断的経営安定対策では、これまでの大豆交付金や 豆経(大豆作経営安定対策)とは異なり、対象者しか受給でき ません。対象者は「4ha以上の認定農業者」か「20ha以上の 一定要件を満たす集落営農組織」です。※特例もあります。 大豆の新しい技術(1) ○ 不耕起狭畦栽培 ※ 本年那須管内で展示ほを設置予定。 不耕起狭畦栽培は、耕起してないほ場に播種溝を切り、そこに播種するという方 法で行うため、耕起・整地作業が省略できる。また、耕起してないほ場に播種する ため排水性が良く、降雨があっても数日後には播種できる。更に、茎葉処理除草剤 と畦幅30㎝の狭畦により、倒伏防止と雑草防除を兼ねる中耕培土作業が省ける。 このため、省力化により規模拡大ができ所得向上が図れる。 大豆の新しい技術(2) ○ 耕耘同時畝立栽培 アップカットによる耕耘同時畦立て、畦に播種された 種子は圃場水位より高い位置にあるため、排水性も 良いため良好な発芽が得られやすい。大豆の発芽勢 向上とその後の生育改善に大きな効果を発揮し、発 芽の良い大豆は根系が良く発達し、水分を吸収して土 壌の乾燥を進め、それにより根粒活性も高まり、収量 の安定と向上が図れる。 大豆の新しい技術(3) ○ 平行棒式コンケーブ ※ 現在デモ交渉中。 軸流コンバインで、脱穀部シリンダ回転軸と平行に丸棒を配置した平行棒式コン ケーブの棒間隙を広くすることによって茎莢の通過性および子実の漏下性を向上、 汚粒および脱穀・選別損失を低減。 ○ 狭ピッチ刈刃 ※ 現在デモ交渉中。 普通コンバイン用切断部の刈刃の切断角を鋭角にし受刃ピッチを狭くして、切断 による茎の前方への飛び出しを抑えることにより、大豆の収穫ロスのを低減。
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