病歴・診察・頭の 中 - SQUARE - UMIN一般公開

診察の大盤解説の意義
ー対局風景の写真:私と
初診患者の置き換えー
検査前確率:初診時外来診断
~一般的な理解~
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検査の前に診断の見当をつける
病歴と診察だけが判断材料である
個人の経験に大きく影響される
優れた臨床医は,検査前確率を高める努力を惜
しまない
– 検査後確率を高め,正しい診断につなげる
– 無駄な検査(コスト,侵襲)を省く
検査前確率への不満
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検査する前に確率って出るの?
数字がないのに確率ってどういうこと?
得体が知れない指標である
大事なことは直感的にはわかるが
職人芸となると自分には縁がない
神経内科診断学
ー検査前確率を考えるー
プロはどうやって手筋を考えるか?
ブラックボックス,経験と諦める前に
まず,簡単な例から見ていこう
三手詰から
脳卒中はどちら?
• 昏睡
• 81歳男性
• 昏睡
• 18歳男性
脳卒中はどちら?
• 65歳男性
• 今朝起床時に
左の手足に力
が入らない
• 65歳男性
• 半年前から両手
に力が入らない
脳卒中は・・・
• 高齢者により多い
• 突然発症のことが多い
• 片麻痺で発症することが多い
いい加減?
そう,“いい加減”なんです!!
(あいまい,アナログ,ファジー)
鑑別診断は
“いい加減”の積み重ね!!
→だから,困っちゃう,教えにくい
→“職人芸”と諦める
諦めないために!!
脳卒中はどちら?
• 昏睡
• 81歳男性
• 昏睡
• 18歳男性
年齢という軸
脳卒中はどちら?
• 65歳男性
• 今朝起床時に
左の手足に力
が入らない
• 65歳男性
• 半年前から両手に
力が入らない
経過という軸
診断出発点の二つの時間軸
年齢&経過
検査前確率を鍛えることの重要性
• 必要な検査の感度・特異度を高める
→診断の誤りを防ぐ
• 効率的な検査計画
→コスト,患者負担減
→検査が検査を生むのを防ぐ
従来の検査前確率モデル
病歴+診察
ブラックボック
ス?
検査前確率
検査
検査後確率
でも,病歴・診察は
自然に沸いて出てく
るのではない
本来の検査前確率向上モデル
ー病歴・診察の質の向上ー
検査前確率
検査後確率
病歴・診察
確定診断
ここの
フィードバッ
ク!
検査前確率を鍛えるには
• 系統的な病歴聴取と診察
• では,“系統的”にするには?
– 経験を重ねればいいのか?診っ放しではだめ
– 確定診断を知る必要:道徳ではなく,教育!!
• “あれ,どうなった”,紹介状への返事
– 確定診断からのフィードバックを確実にする方法?
確定診断の日常的なフィードバック法
ー既存の方法はたくさんあるー
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あれ,どうなった:医局での日常会話
紹介状の返事
症例検討会:グループでの体験共有
症例報告
– 例:Clinical Problem Solving in NEJM
でも,きちんとフィードバックできて
る?
フィードバックの障害
• 医局での会話:個人の努力,執念の差
• 紹介状の返事:紹介しっぱなし,されっぱなし
• 症例検討会
– 検査・画像所見,こまごまとした鑑別ばかり議論
– 肝腎の病歴,身体所見は置いてきぼり
• 症例報告
– 症例検討会と同様の欠点
– 実体験の欠如
検査前確率の形成過程
具体例で見ていこう
ある電話相談
元産婦人科医で今は内科中心に
都内で開業している親友からの電話
30歳の男性が,全身がぴりぴりする
と言っているんだが,どんな病気が
考えられるかなあ?
頭の中に浮かんだことを書いてみよう
次にどんなやりとりをしたいか
お助けヒント
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次に聞きたいことを挙げる
病気の名前を羅列する
どんな患者さんか想像する
親友の話の信頼度,学生時代の
思い出
これだけ材料がある
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親友の医師:情報源の信頼性
都内:患者さんは都市生活者だろう
開業:歩いて通ってきて,状態は良好か
30歳の男性:中年以降の病気の可能性低
全身がぴりぴりしている
これだけで何を考えるか?神経疾患に限らなくてもいい
思いつくまま疾患を挙げてみよう
私の質問:名人芸なのか?
有機溶媒への暴露みたいに,職業上,あるいは家庭環境上
で,何かの化学物質や薬品に慢性に曝されている可能性は
ないかな?商売は?ラーメン屋の店長だからなあ,そんなこ
とはないと思うけど
見たところは元気そうなんだね?うん.
体重も減っていない?聞いていないけれど,最近痩せてきた
とか,太ってきたとかは,自分では言っていなかった.
全身がぴりぴりするって言うけど,手足も体幹もそうなの?
そう,全身.手足の先のほうが症状が強いようなことは?そ
れはそう言っている,手足の先のほうが症状が強い.
名人芸で片付けないために
どうやって検査前確率ができあがるのか
一緒に考えていきましょう
あなたにもできます!!
まずは診察の出発点から
もっとも原始的な検査前確率から考える
予診表
あるいは診察前確率
対局開始
ろれつがまわりにくい
50歳 男性
その時あなたの頭の中は?
その時あなたの頭の中はどっち?
この差は一体どこから来たのか?
“経験の差”で片付ける前に
構語障害の鑑別診断
ありがちで不親切な一次元表
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脳血管障害
多発性硬化症
重症筋無力症
脳腫瘍
脊髄小脳変性症
筋萎縮性側索硬化症
構語障害の鑑別診断
少しばかり気の利いた表
• 急性
– 脳血管障害
– 多発性硬化症
• 亜急性
– 重症筋無力症
– 脳腫瘍
まだ足りない!!
→二次元への展開
• 慢性
– 脊髄小脳変性症
– 筋萎縮性側索硬化症
時間軸は大切な要素
Table 1. Questions to be Addressed
Was the onset of symptoms acute, or chronic
What is the course of the illness ?
What was the pattern of involvement?
What are the associated symptoms and signs?
What associated medical conditions are?
Is this a hereditary or acquired disorder?
診断出発点の二つの時間軸
年齢&経過
構語障害の鑑別:予診表前の頭の中
80歳
急性
慢性
25歳
構語障害の鑑別:予診表後
80歳
急性
はみ出し
おかしい感じ
慢性
25歳
鑑別診断は二次元→三次元分布
• 予診表を前にした時のイメージ
– 主訴別に,時間軸と年齢軸の二次元.四象限分布
– これに性別で二通りあることも
– 既往歴,家族歴による修正
• Z軸も加えて体積→有病率か?
• どの疾患がどこに位置するか:立体である
年齢
経過
有病率,他疾患との重複度など
鑑別診断群像(仮名)I
• 診断の基本となる
• これがないと,問診,診察が成り立たない
– 何を聞いたらいいのか?何を診たらいいのか?
• 言葉では教えにくい:ファジー&アナログ
• 教科書を見ても,わからない
– 鑑別診断表はあるが,群像は描かれていない
• 実体験に基づいた手入れが常に必要
– 最終診断からのフィードバック
鑑別診断群像II
• X軸が経過
– 急性~慢性のアナログスケール
• Y軸が年齢層
– 実はやはりアナログスケール
• Z軸方向への拡がり
– 体積=診療母集団での有病率:これもアナログ
• 既往歴,家族歴による修正
• 診断は,“削ぎ落とし”の繰り返し
削ぎ落としとはどういうことか
• 武田信玄の埋蔵金探し
• ガラクタが混じっている砂場の中に落とした金貨
– 二種類の金属探知機を使って探していく
• 感度は高いが特異度の低い感知機
• 感度は低いが特異度の高い感知機
• アナログな作業過程:“見当をつける”
• ふるいにかけるのは最後!!
←いきなり検査をしない!!
すぐれた鑑別診断群像とは?
• 幾とおりもの群像カードの豊富さ
• 融通性,伸縮自在性
– 状況に合わせて打てるイチローのバッティング
正診と鑑別診断群像の関係
• 適切に形成された鑑別診断群像
• 削ぎ落としの繰り返しがうまくいく
応用問題
NEJM Clinical Problem Solving
Case 27-2004
79歳女性が,歩行困難と認知機能障害を主
訴に入院
これだけの情報で
• わかるわけないよ.頭真っ白
• アルツハイマー病,パーキンソン症候群を呈す
る疾患ていろいろあったよなあ・・・・
• 系統的に病名を挙げていくのがいいんだろうけ
ど,そもそもその系統的というのがわかんない
• 楽しみにして来たのに,はじめからこんな質問
じゃこの先が思いやられる
私の頭の中:何でもあり:横一線
ーわからないとは違うー
• 特殊な型の脳血管障害
• 脳腫瘍
• 変性疾患
• 栄養,代謝障害
私の頭の中:会津七口をすべ
てカバー
病歴
• 18ヶ月前から時々転ぶようになった
• めまい,痙攣はなし
• 物忘れがはじまり,彫刻家としての活動が困難
になった
• 12ヶ月前には継ぎ足歩行困難
• 夕食時にジンかウォッカを148ml:成人してから
ずっと
私の頭の中の変化
• 変性疾患:6割
• 栄養,代謝障害:2割
• 脳血管障害:1割
• 脳腫瘍:1割
神経学的所見
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•
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MMSE24点(30点満点)
Wide-based gait
Romberg徴候陽性
踝以下での振動覚と位置覚の低下
神経学的所見
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MMSE24点(30点満点)
Wide-based gait
Romberg徴候陽性
踝以下での振動覚と位置覚の低下
鑑別診断群像形成のために
ではどうしたらいいのか?
診断は最初ほど難しい
予診→病歴→診察→検査
鑑別診断群像の出来上がるまで
では,このようなイメージはどうやってでき
あがるのだろうか?
最初の原型から見ていこう
構語障害の鑑別:基本の表
経過
年齢層
CVD
急性
若年<高齢 多
MS
急性
若年
MG
亜急性~慢性 若年>高齢 少
脳腫瘍 亜急性~慢性
頻度
少
性別
危険因子 随伴症状
あり
女>男
片麻痺他
いろいろ
複視他
中??
いろいろ
SCD
年余
中年以降
少
ふらつき他
ALS
慢性進行性
中年以降
少
筋力低下
現実に行われていること
ー鑑別疾患群像形成のためにー
検査前確率
検査後確率
病歴・診察
確定診断
ここの
フィードバッ
ク!
学生のうちにできること
• 実習,疑似体験
– 診療所での体験(初診,診断未確定の症例)
– 症例報告・症例問題集での病歴・診察の項目に集中
• 従来の問題集を工夫して読む
• 病歴・診察だけで診断する事例集がほしい
– Clinical Problem Solving in NEJM
現在の教育・教材の問題点
• 写真や数字ばかりが出てくる
• 病歴や身体所見がいい加減
• だから勉強にならない
どんな教材が必要なのか
• 確定診断のフィードバックが生きる
– 病歴・身体所見の記載が適切
• 誤診例・否定型例の活用
• CT普及以前の教科書,症例報告
• 日常診療現場の中に生きた教材
年齢以外で予診表にある情報
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•
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•
•
性別
人種
書字
住所
既往歴
嗜好
鑑別疾患群像にどう影響するのか?
脳卒中診断の伸縮
DM, HT
既往歴
鑑別を絞った後:構語障害の場合
スコアリングによるオッズ比較
• 頭の中でスコアリング表を用意してある
• 慢性の場合なら
– ALSスコア vs SCDスコア
• 亜急性の場合には
– MGスコア・脳腫瘍スコア・MSスコア
• 急性の場合なら
– CVDスコア・MSスコア・脳炎スコア
スコア表の例
ALS
筋力低下
めまい・ふらつき
年余にわたる進行
方向転換苦手
筋萎縮
舌萎縮
眼振
筋緊張低下
腱反射亢進
バビンスキ徴候
病歴
病歴
病歴
病歴
診察
診察
診察
診察
診察
診察
SCD
40
10
10
10
40
50
0
10
30
30
10
40
40
40
10
0
50
40
20
20
スコア表の各項目は一様ではない
• 問診と診察
• 感度の高いものと特異度の高いもの
• 専門性を要求するものとそうでないもの
– プライマリケア医だけでも組めるスコア表が可能
か?→たとえばパーキンソン病を例にとってスコア表
の各項目をたくさん書き出して,そこからプライマリケ
ア医でもできるものを選び出して,スコア表を作り直
し,専門医用とパフォーマンスを比較する
Game Overとなる項目
• 特異性が非常に高い所見がとれた
– 筋萎縮性側索硬化症での舌萎縮
– パーキンソン病におけるpill rolling tremor
• 診療の能率がよくなる
• 特異性が高い症候であるとの知識をどこから得
るか?
Game Over項目の例
ALS
筋力低下
めまい・ふらつき
年余にわたる進行
方向転換苦手
筋萎縮
舌萎縮
眼振
筋緊張低下
腱反射亢進
バビンスキ徴候
病歴
病歴
病歴
病歴
診察
診察
診察
診察
診察
診察
SCD
40
10
10
10
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30
30
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40
40
10
0
50
40
20
20
見落とし事例と鑑別診断群像
誤診から分析する検査前確率
はみ出しとは?構語障害の鑑別で
80歳
急性
慢性
25歳
はみ出し部分の処理法
• 既知の鑑別診断の中に組み込む
• 未知の部分として残しておく
• 新たな疾患を持ってくる
失敗事例から検査前確率を分析する
見落としはどのレベルで起こりやすい?
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•
•
•
予診表:主訴の段階
病歴聴取
病歴聴取後診察前
診察中
診察後
外来誤診のパターン類型:段階別
• そもそも主訴の段階で上がってこない
• はじめは上がっても途中で落ちる
• 呼び起こし・敗者復活すべきものができない
– “はみ出し”を意識できるか
外来誤診のパターン:原因別
•
•
•
•
感度の高いものが得られない
特異度の高いライバルに蹴落とされる
個人的な経験の影響
時間的制約
外来誤診の科学
• 外来診断のどのレベルで誤診がおきやすいか
• 苦いカルテ外来版を更に発展させる
• どうやって間違うかがわかれば,どうやって考え
ているかがわかる
• 外来誤診のケーススタディで検査前確率の形成
過程が見えてくる
検査前確率向上モデル
ー病歴・診察の質の向上ー
検査前確率
検査後確率
病歴・診察
確定診断
ここの
フィードバッ
ク!
確定診断の日常的なフィードバック法
ー既存の方法はたくさんあるー
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あれ,どうなった:医局での日常会話
紹介状の返事
症例検討会:グループでの体験共有
症例報告
– 例:MGH Case Records & Clinical Problem
Solving in NEJM
検査前確率を鍛えるために
日常診療の中にこそ勉強材料
• 鑑別診断群像形成には経験が必要条件
• 経験の上にフィードバックの確保が必須
• Common Diseaseの経験は日常診療での経
験とフィードバックの繰り返し
• 一例一例,症例報告を大切に
鑑別診断群像の普遍性
• 疾患の診断だけではない
• Problem-Based Learningの出発点
– 問題点の抽出プロセス
– その問題点の原因を考えるプロセス
• 医療以外でも日常的にこの作業が行って
いる