腱反射神話を巡って - SQUARE - UMIN一般公開

検査前確率の形成過程
予診表から診察の組み立てまで
“大学のポリクリ”でよく聞く言葉
“神経学的診察を一通りやるように”
“一通り”って???
全部使え??
2週間合宿?
“漏れなく診察”幻想
• 漏れなく診察って何?
– 何と何をやれば“漏れなく”なのか
• “漏れなく”やることが何の役に立つのか?
– 時間以前のアウトカム(事前確率)の問題
– 発熱,喉の痛みで来院した25歳男性に膝踵試
験をやるか
素朴な疑問の数々
• 漏れなくやる⇔時間がない
• 体系的な診察とは?
• 考えながらやるって?
実際にはどうしているの?
神経内科医の頭の中を覗いてみよう
問診前確率
又の名を予診表
三手詰
脳卒中はどちら?
• 昏睡
• 81歳男性
• 昏睡
• 18歳男性
脳卒中はどちら?
• 65歳男性
• 今朝起床時に
左の手足に力
が入らない
• 65歳男性
• 半年前から両手
に力が入らない
脳卒中はどちら?
• 昏睡
• 81歳男性
• 昏睡
• 18歳男性
年齢・性別という患者軸
脳卒中はどちら?
• 65歳男性
• 65歳男性
•
半年前から両手
• 今朝起床時
に力が入らない
に左の手足に
力が入らない
経過という疾患軸
5年前から
歩くとふらつく
64歳男性
その時あなたの頭の中はどっ
ち?
診断出発点の二つの軸
年齢・性別(うらしまたろう軸)
&経過(うさぎとかめ軸)
歩行障害の鑑別:予診表前の頭の中
80歳
急性
慢性
25歳
5年前から
歩くとふらつく
64歳男性
予診表後
80歳
急性
慢性
25歳
歩くときふらつく,ろれつが回らない
64歳男性(運転手→事務職)
• 59歳:歩いていて体を“持っていかれる”
• 60歳:凸凹道を歩いていると足を取られる
• 61歳:酔っ払ったようなしゃべり方,テレビ
の字幕,トラックの車体の文字が追いにくく
• 62歳:階段を降りるのが怖くなる
• 63歳:書類の枠から字がはみ出る
• 母方叔父・叔母に同様の症状
問診と診察の関係
• 問診:感度の高い項目で除外を積み重ね
ることが中心 (SnNout)→診断の絞込み→
診察前確率を高める
• 診察:特異度の高い項目で確実にRule in
することが中心 (SpPin)→診察後確率をさ
らに高める
• 上級者の問診では, SpPinもしばしば行わ
れる
診察前の診断は?その確率は
その理由・根拠は?
“考えて診察をする”とは・・
今日は外来がひどく込んでいます.診
察はなるべく手短に終わらせたいと思
います.これだけは押さえておきたいと
いう診察項目は何ですか?
はずせない神経学的診察
(仮称コア・バッテリ)
•
•
•
•
•
•
•
眼球運動:眼振
構音障害
上下肢の協調運動
筋緊張
起立,歩行
腱反射,バビンスキー徴候
起立性低血圧
各診察の多様な意義
• 陽性の確認・陽性所見が出るはず
– 特異度が高く診察後確率を高める (SpPin)
• 中立:陽性か陰性どちらもあり
– 陽性でも,陰性でも病型鑑別に役立つ
– 診察前確率の低い他疾患の除外 (SnNout)
• 陰性の確認:余裕のある時に
– 除外診断をより確実に(ALSを疑った際の眼球
運動障害)
• その他大勢
“その他大勢”の診察
診察をやらなかった理由は?
•
•
•
•
認知症のスクリーニング質問
失語・失行・失認検査
徒手筋力テスト
詳しい感覚障害の検査
診察省略の根拠は様々
• “やるだけ無駄”の意味は?(確信犯)
– 高い可能性で診察前に結果が予想できる
– その結果が診察後確率を変えない
• “面倒だ”の意味はどれ?
– 結果はわかっているし,時間もかかるから?
– 結果がどう出るかわからない?自信がない?
– どのような結果の時に診察後確率がどう変わ
るか自信がない
今時の教育:絨毯爆撃検査禁止
• これまで→なぜ,この検査をやっていない?
• これから→なぜ,この検査をするのか?
–
–
–
–
事前確率は?
事後確率は?
治療方針が変わるのか?
患者さんに利益があるのか?
• 偽陽性,偽陰性がもたらす問題
– 医療経済的問題は?
絨毯爆撃診察はいいの?
(とくに外来診療の場合)
• これまで→なぜ,この診察をやっていない?
• こらから→なぜ,この診察をするのか?
–
–
–
–
事前確率は?
事後確率は?
診断が変わるのか?
患者さんに利益があるのか?
• 偽陽性,偽陰性がもたらす問題
– (医療経済的問題は?)→時間の制約問題
しびれ:76歳女性
76歳の女性が下肢のしびれと痛みを主訴に来院.
6年前から右のつま先に時々しびれがあったが,
徐々に両足に広がり,範囲も下腿まで上行してきた.
痛みは夜に強く,焼けるような感じで,両膝以下に
あり,時に殿部まで広がることがある.
痛みの程度は,10段階評価で6.その他,針で刺さ
れるような痛みが下肢にあるという.会陰部の感覚
が鈍い感じはあるが,歩行には問題がなく,膀胱直
腸障害もない.
この患者さんで
腱反射はどうなると思いますか?
それぞれの部位でどうなるでしょう
か?
また,なぜそう思うのですか?
上肢:亢進,正常,低下
下肢:亢進,正常,低下
腱反射をする前に必要な答え
•
•
•
•
鑑別診断のトップは何か?
その事前確率は20%か,50%か,80%か?
それ以外の疾患は何か?
下肢の腱反射をどう予想するか
– 亢進(○○%),減弱(○○%),消失(○○%)
– それぞれの場合,事後確率はどう変化するか
– それぞれの場合,他に必要なのはどんな診察か
神経症候の判定
• 個人差があり,検査値のような客観的基準
はない
• 検者の判断の結果である
– 相対的判断:個人の中で,対照と比較する
• 上肢と下肢
• 右と左
• 他の所見との総合的判断:筋萎縮・筋力低下があ
るのに腱反射がはっきり見える
初級者の診察の問題点
• 問診で診断の絞込みができない
→診察前に事前確率を十分高くできない
• 診察を問診代わり絞込みをやろうとする
• 事前確率が低い診察項目が多い→事後確
率を高くできない→診察効率の極端な低下
→臨床への興味の低下
確定診断のフィードバックによる
問診,診察の効果の検証
検査前確率
検査後確率
問診・診察
確定診断
ここの
フィードバッ
ク!
では,問診→診察戦略を
どう教育していくか?
“職人芸,Art”で逃げないために
実際に診療しているのだから,説明できる.
要はbrain stormingがどこまでできるか
→教育につながる
問診・診察組み立ての基本戦略例
ーいろいろなパターンがあるー
• 予診あるいは問診の早期に思いついた事
前確率の高い疾患にこだわる
– 例えばパーキンソン病
• 患者さんの障害のある部位にこだわる
– 例えば下肢・上肢の筋力低下
• 見逃したくない疾患の除外にこだわる
– 例えばめまいの場合の小脳・脳幹障害
診察手技の選択・組み立て例
• 感度,特異度による選択
– 完全麻痺にバレーはやらない
– 筋力低下がある時,協調運動の評価は困難
• 疾患,伝導路の体系づけ
– 上肢のバレー,下肢のバレー
– 錐体路徴候
• 筋萎縮,痙性,腱反射,バビンスキ
問診・診察教育基本方針
• 予診表の段階から戦略を明らかに
– 事前確率をいかに高めるか
– 事後確率を高める問診・診察の組み立て
• 主な訴えの時の診断戦略を明らかに
– めまい,しびれ,頭痛,意識障害
– ボトムラインを明確に示す