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第10課:吸収線の形成
平成17年1月17日
講義のファイルは
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html
に置いてあります。
質問は
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へ。
最終授業は平成17年1月24日です。レポート提出が遅れる人は1月
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10.1.古典的双極子による吸収
固有振動数νoを持つ双極子モーメントp=-qzが密度Nで散らばる媒質を考える。
この媒質の誘電率をεとすると、 εE=E + 4πNp=(1 + 4πNα)E である。
この媒質を振動数νの電磁波Eが伝わる時、電磁波に起こる変化を求めよう。
入射電磁は真空中(屈折率m=1)で
E=Eo exp( i2πνt – ikx)、
媒質(屈折率m=n-iκ)中で
E=Eo exp( i2πνt – imkx)
= Eo exp( i2πνt – inkx-κkx)
媒質の屈折率mを求めることが重要である。
E=Eo exp( i2πνt – ikx)
E=Eo exp( i2πνt – imkx)
p
p
p
電荷qの運動は、
γ=g/m, ωo 2=K/m, と置くと、
mz”= -gz’ – Kz -qEo exp( iωt)
z” +γz’ +ωo 2z=-(qEo/m) exp( iωt)
固有振動数ωo 、抵抗係数γの振動子に強制振動ωを加えている。
z=A exp(iωt)とおいて、
(-ω2+iγω+ωo 2 ) A= -(qEo/m)
-q
双極子モーメントp=-qz
z
q
z=-(qEo/4π2m) exp( i2πνt)/(νo 2 –ν2 +iγν/2π)
Ωω=2πν、ωo= 2πνoである。
ν=νoで共振がおき、振幅が大きくなる。
双極子モーメントp=-qzは
p=qz=(q2Eo/4π2m) exp( i2πνt)/(νo 2 –ν2 + iγν/2π)
従って、p=αE, (α=感受率 susceptibility) とおくと、
α=(q2/4π2m) /(νo 2 –ν2 + iγν/2π)
次に、双極子モーメントpが密度Nで存在する媒質の誘電率εを求める。
εE=E + 4πNp=(1 + 4πNα)E
ε=誘電率(dielectric constant)
= 1+4πNα=1+4πN(q2/4π2m) /(νo 2 –ν2 + ν/2π)
=1+(Nq2/πm) /(νo 2 –ν2 + iγν/2π)
=1+(Nq2/πm) (νo 2 –ν2 -iγν/2π) /[(νo 2 –ν2 )2 +(γν/2π)2]
複素屈折率(complex refractivity)m=n-iκは、ε=(n-iκ)2 なので
n= 1+(Nq2/2πm)(νo 2 –ν2) /[(νo 2 –ν2 )2+(γ/2π)2ν2]
(νo 2 –ν2)=2ν(νo –ν)の近似を入れて
= 1+ (Nq2/4πmν)(νo –ν) /[(νo –ν)2+(γ/4π)2]
=1+(Nq2/mνγ) [(νo –ν)/(γ/4π)] / {1+[(νo –ν)/(γ/4π)] 2}
κ= (Nq2/2πm)ν(γ/2π) /[(νo2 –ν2 )2+(γ/2π)2ν2]
= (Nq2/4πmν) (γ/4π) /[(νo –ν)2+(γ/4π)2]
= (Nq2/mνoγ) / {1+[(νo –ν)/(γ/4π)] 2}
(同じ近似)
(Nq2/mνoγ)
κ
媒体の
複素屈折率
m=n-iκ
0
n-1
2(γ/4π)
0
-2(γ/4π)
(νo –ν)
E=Eo exp[ 2πi(νt – ikx)]
|E|2=Eo2
E=Eo exp[ 2πi(νt – nkx+iκkx)]
|E|2=Eo2exp( -4πκkx)
X
σ(ν)=双極子1個の吸収断面積 とすると、|E|2=Eo2 exp( -Nσ x) である。
前ページの|E|2=Eo2exp( -4πκkx)と比べると、
4πκ(ν)k(ν)=4πκ(ν)(ν/c)=Nσ(ν)
4π (ν/c)(Nq2/mνγ) / {1+[(νo –ν)/(γ/4π)] 2}=Nσ(ν)
σ(ν)=(q2/mc)(4π/γ) / {1+[(νo –ν)/(γ/4π)] 2}
量子力学的双極子による吸収断面積は
σ(ν)=(q2/mc) f (4π/Γ) / {1+[(νo –ν)/(Γ/4bπ)] 2}
f=oscillator strength またはf-値( f-value) と呼ばれる。
[復習] κとσの関係
σ=吸収断面積( m2 )n
=粒子の数密度 (m-3)
N=nSD= S×Dの筒内粒子数
透かして見ると、Sの内不透明
部分の面積X=Nσ = nSDσ
入射光線F=ISが距離Dを通過する間にX/S
が失われるから、
dI=-I(X/S)=-I(nSDσ) /S= I nσD=IκρD
D
S
10.2.吸収線強度
σ(ν)=(q2/mc) f (4π/Γ) / {1+[(νo –ν)/(Γ/4π)] 2} の双極子がn個/cm3分布する
媒質を考える。
I´(λ)
厚みLの媒質を通過した光の吸収線は、
=I(λ)exp(-nLσ(ν))
I(λ)
I(λ)-I´(λ)=I(λ)[1-exp(-nLσ(ν))]
弱吸収では、 [I(λ)-I´(λ)] / I(λ) = nLσ(ν)
Fc
等値巾 (Equivalent Width)
W=∫ [I(λ)-I´(λ)] / I(λ) dλ
Fλ
弱い吸収では上式より、
Wλ
W= ∫nLσ(ν)dλ
=nL∫σ(ν)dλ
F=0
λ
吸収断面積の積分
∫σ(ν)dν=∫(q2/mc)f(4π/γ) / {1+[(νo –ν)/(γ/4π)] 2} dν
=(q2/mc)f∫dx/(1+x2) = (πq2/mc)f
弱い吸収では、
W=nL∫σ(ν)dλ =nL∫σ(ν)dν(λ2/c) =nL(πq2/mc) (λ2/c) f
(πq2/mc)=π 4.8032E-20/(9.109E-28 x 2.998E10)=2.654E-2 (cm2 sec)
πa
σ(ν)2
3
f[2mc /(h γ /4π )]
(q2/mc)f(4π/γ)
σ(ν)
=
∫σ (ν )d ν
吸収断面積
σ(ν)
2
3
π a α 2 π fc/λ c
=( π q 2 /mc)f
積分値= (πq2/mc)f
はγに依らない。
ν o-2 γ /4π
o /4 ν o+ γ /4 π ν o+2 γ /4 π
ν o-γ /4π γ/2π
ν
2γ
π
νo-2γ/4π νo-γ/4π
νo
νo+γ/4π νo+2γ/4π
振動子強度の例
例1:Lα線
n=2 l=1 S=1/2 L=1
n=2 l=0 S=1/2 L=0
g=4
2P
3/2
g=2 2P
1/2
g=2 2S
1/2
n=1 l=0 S=1/2 L=0
g=2
2S
1/2
g (1s2S1/2) f(1s2S1/22p2P1/2)=0.2774,
f(1s2S1/22p2P1/2) =0.1387
g (1s2S1/2) f(1s2S1/22p2P3/2)=0.5547,
f(1s2S1/22p2P3/2) =0.2774
g (n=1) f(n=1n=2)=0.2774+0.5547=0.8321, f(n=1n=2) =0.4161
selection rules
Δl=±1
ΔS=0、ΔL=0、±1、 ΔJ=0、±1
(J=0J=0、 L=0L=0を除く)
例2:Hα
3d2D5/2
g=6
g=4
3d2D3/2
2p2P3/2
g=4
g=4
3p2P3/2
3p2P
2p2P1/2
1/2
g=2
3s2S
2s2S1/2
transition
gLfLU
gL
fLU
1/2
g=2
g=2
レベル間遷移(ライン)のf-値
g=2
ターム間遷移(マルチプレット)のf-値
transition
gLfLU
gL
fLU
2s2S1/23p2P1/2 0.2898
2
0.1449
2s3p
0.8694
2s2S1/23p2P3/2 0.5796
2
0.2898
2p3s
0.08151 6
0.01358
2p2P1/23s2S1/2 0.02717 2
0.01359
2p3d
4.1732
6
0.6955
2p2P3/23s2S1/2 0.05434 4
0.01359
2p2P1/23d2D3/2 1.391
2
0.696
Hα線のf-値
2p2P3/23d2D3/2 0.2782
4
0.0696
23
5.12411 8
0.6405
2p2P3/23d2D5/2 2.504
4
0.626
2
0.4347
10.3 線形大気での吸収線形成
吸収線形成を簡単なモデルで考えるために、次のような沢山の仮定をする。
(1) 局所平衡(LTE)
Sλ(τR)=Bλ[T(τR)]
(τR=ロスランド光学深さ)
(2) エディントンモデル
T(τR)4=(3/4)Te4 ( τR+2/3)
(3) 線形大気
Sλ(τR)=Aλ+ Bλ・τλ
生憎、(1)と(3)は厳密には両立しない。そこで、(1)をτR=0のまわりで一次式
で展開して近似的に(3)と考える。
dB
dT
B T  R   B T  R  0  

 R
dT T To d R  0
R
dB
 B To  
dT
 B To 
3 Te 4
  3  R
T To 16 To
3 dB
8 d ln T
 R  B To 
T To
3 dB
8 d ln T

T To
R
 

したがって、(3)において、
A  B To,
3 dB
B 
8 d ln T
R

T To  
と見なせば、(3)を(1)と両立させうる。
第6課6-1節の例2で見たように、線形大気S(τ)=A+Bτの大気表面からのフ
ラックスはF=π[A+B・(2/3)]=πS(τ=2/3)である。
したがって、
 
 
2 
2  R 
F    B T        B T  R   
3 
3   
 
 
または、

F   a  b


2
3 dB
   B To 

3
8 d ln T

 R 2
  
T To   3 
この式から分かるように、Fλ=α+β/τλの形をしていて、 τλが大きい所ではFλ
が小さくなる。これが、吸収係数が大きい波長で吸収線が現れる原因である。
もう少し物理的に考えると。
吸収係数が次の図のように、λ=λLで盛り上がっているとする。 λLでは吸収が強い
ので、浅いところでτL=2/3に達する。浅いためにそこの温度は低い。
κλ
浅いので温度
が低く、フラック
スが小さい。
深いので温度
が高く、フラック
スが大きい。
λL
τR= 0.0
大気表面
0.2
0.4
0.6
τλ=2/3
0.8
λ
吸収係数と吸収スペクトルの関係をもう少し調べてみよう。
λ= λLの付近で、κ= κC+κLとする。
R
R

1

 R
 C   L C 1  L
C
R R

 C

R
L
 
 1  L
 C



 L


 1
 C

κ(λ)
κC
 L


 1
 C

λL
λ
に注意して、前々頁のFの式を書き直すと、

1 dB
F    B To  
4 d ln T


1 dB
F    B To  
4 d ln T

R 
 
T To   

1 dB
   B To  
4 d ln T

R 
 
T To  L 

1 dB
 R
4 d ln T
T To  C
R L 
  
T To  C  C 
 L


 1
 C

 L


 1
 C

前頁の式を検討すると、まず、下から2行目に出てくる

1 dB
Fc    B To  
4 d ln T

R 
 
T To  C 
はλL付近での連続スペクトルとなっていることがわかる。
連続スペクトルの強さは、 κCとκRの強さの比で決まる。
κR< κC  Fo<Fe=πB(Te)
κR> κC  Fo>Fe=πB(Te)
次に下から2行目の最後の項
 dB
R L
 FA  
 
4 d ln T T To  C  C
は、吸収線を表す。吸収が弱い(κL<κC)場合、吸収の深さがκLに比例することがわ
かる。
最後の行の

1 dB
F    B To 
4 d ln T

R 
 dB
   Fo 
4 d ln T
T To  L 
R

T To  L
は吸収が強い場合には、大気の表面(T=To)しか見通せないことを示している。
図示すると以下のようである。
弱いライン
R  0
2 
R   R
3 C
2 R
3 C
2
R 
3
R  
大気表面T=To
 L 
1  
 C 
ライン波長で見通せる深さ
連続光波長で見通せる深さ
有効温度T=Teの深さ
強いライン
R  0
2 R
3 L
R  
2 R
3 C
2
R 
3
R  
大気表面(T=To)
≒ ライン波長で見通せる深さ
連続光波長で見通せる深さ
有効温度T=Teの深さ
ピュアな吸収の場合、強い吸収の極限はT=Toの大気表面からの輻射がスペ
クトルの底になる。
吸収線の強度につれての形の変化
Fc(λ)
F(λ)
κLと共に深くなる
κLが非常に強いと吸収線
の底が飽和する
Fo(λ)
λ
問題 10ーA
平成16年12月20日
提出 平成16年1月17日
問題9-AでやったA9型星の大気を考える。
(1) 波長λ=0.2,0.4,0.6,0.8,1.2,1.4,1.6,1.8,2.0,2.2,
2.4μmでの吸収係数k(λ)を使ってロスランド平均吸収係数kRを求めよ。
積分は階段積分でよい。
(2) 10-3節と同じモデルで、連続スペクトルを扱うと、
 
2 k R 
F    B T  R   
3 k 
 
で、星表面のスペクトルが表現されることが分かる。ここでは、
2

T  R    7500K
3

であることに注意して、問題9-Aで求めたkλを使って横軸λ、縦軸Fλで、
A9型星のスペクトルを描いてみよ。特にバルマー不連続の大きさに注
意すること。
問題10-B
問題9-Bでやった内からスペクトル型を一つ選び、10-Aと同じ
問いにこたえよ。