記述対象と書誌記述 -最近における国際的な目録研究およ び規則改訂動向をふまえて- 整理技術研究グループ 吉田暁史、田窪直規、堀池博巳 1.電子資料の出現にともなう 目録規則の変化 (1)ISBD(ER)の刊行 ・ローカルアクセスとリモートアクセスとに分け る ・リモートアクセスにおいては、形態的記述エ リアを使用しない ・第3エリアとしてType and Extent of Resource Area(電子資料の特性に関するエリア)を設 けた ISBD(ER)第3エリアの記載例 3. Type and extent of resource 3.1 Designation of resource e.g. Electronic numeric data Electronic text data 3.2 Extent of resource (optional) e.g. Electronic document (1 file) Electronic utility programs (3 files) ISBD(ER)第3エリアの問題点 • 3.1(designation of resource)に記載される numeric dataやtext dataなどは、電子資料 に特有か • 3.2(extent of resource)は数量と大きさを表 すが、これも電子資料に特有であろうか • 物理的・外形的な種類や数量に対して、内 容的な種類や数量を表すと思われる (2)ISBD(CR) • CR:Continuing Resources 継続資料 • ISBD(S)(逐次刊行物)の発展的改訂 • 逐次刊行物のほか、継続統合資料 (ongoing integrating resources)をも含む • 継続統合資料とは、ルーズリーフや更新 中のWebサイトのように、1つのまとまりに はなっているが、完結しない資料をいう CR(continuing resources)となるまでの経過 (1) CRとなるまでの経過(2) CRとなるまでの経過(3) CRとなるまでの経過(4) この議論の経過は何か • 逐次刊行物とは、「物」しての刊行が完結 しないということ • 継続統合資料とは、「内容」が完結しないと いうこと • 両者は別次元のことであり、明確に区分す べきであるが、混同されたまま扱われるこ とになった 2.FRBRの分析 (FRBR:「書誌的記録の機能要件」と題するIFLA の報告書) • 発見、識別、選択、入手といった目録利用 者の行動を分析し、それぞれにふさわしい データ要素は何か、データ間の関係性は どのように把握すべきかといった観点が出 発点となっている • E-R分析(entity-relationship)手法を用いて 分析し、実体、属性、関係という要素に分 けて、記述対象の把握を行っている 記述対象としての実体の種類 • work(著作) 『ハムレット』の諸版のような抽象的な集合体 • expression(表現形) 著作を具体的に表現したもの • manifestation(実現形) 表現形を、特定の物的な出版物等に固定したもの • item(個別資料) 複数部作成された実現形中の1つの物的存在 実体の分析結果が示唆するもの • 現行の目録規則類では、事実上実現形が記述 の対象となっている • ディジタル資料の出現により、同じ内容の資料が さまざまな物的現れをとることが容易になり、こ れらを一括して把握する必要が起こってきた • 実現形と著作の間に、表現形が設けられている ので、このレベルで記述を作成すれば、同じ内容 の異なった容器の資料を把握しやすくなる 表現形による記述作成例 (CC:DAによる提言) A.L.A. The Committee on Cataloging: Description and Access 4つの実現形の問題点 • 表現形と実現形を分離することにより、内 容が同じで、容器の異なる出版物等を統 合して表現できる面は一応評価できる • しかし著作-表現形-実現形-個別資料 というように1次元的な分析しか行ってい ない 3.NCRにおける記述対象の把握 • 書誌単位の定義 同一の書誌レベルに属する、固有のタイト ルから始まる一連の書誌的事項の集合 • 基礎書誌単位の定義 物的に独立した最小の書誌単位 NCRにおける書誌単位の 問題点(1) • 書誌単位は、固有のタイトルの存在によっ て定義づけられており、一応内容を表す単 位と考えられる • 書誌単位には、本来大小の相対的な階層 関係だけがあり、絶対的な基準は存在しな いはず • しかし基礎書誌単位は、「物」と関係づけら れ、これが書誌単位の基本となっている 書誌単位の問題点(2) • 物と関係づけることにより、以下のような問 題が起こる • 「物」としての側面を把握しがたいネット ワーク情報資源には適用が困難 • 2冊の図書のうち、1冊ともう1冊の半分に Aという作品がまたがっており、残り半分に Bという作品が入っているようなケースで は、「物として独立した最小の書誌単位」の 把握が不可能 書誌単位の問題点(3) • なぜこのような問題が起こるのか 本来内容の単位である書誌単位に、物的 な要素を混在させることから起こった 内容の単位:語→句→文→段落→節→章 →作品→より大きな作品 物としての単位:文字→行→ページ→冊→ より大きな物的な集まり 書誌単位の問題点(4) • 内容と容器をどのように捉えればよい か 一つの記録で両者を扱おうとするから問題が 起こる • 両者を並行して扱うという発想が必要 整合的に扱おうとするならば、両者を分離し て内容と容器を、2つの記録として扱う以外 に方法はないであろう 4.著作の関係性の把握 • パリ原則における了解 1.特定図書の検索 2.ある著者のすべての著作の検索 3.ある著作のさまざまな版の検索 • 3の機能を果たすことが重要とされる • superworkやsuperrecordの提唱 古典的著作のスーパーレコードの例 Shakespeare, William, 1564-1616 Hamlet This work includes the following editions/manifestations, etc., available in/through this catalogue Editions(by date; by editor) Translations(by language) Versions(by physical form) Adaptations and arrangements(by type of modifications) Changes of genre(music performance, operas, novelisation, etc.) 関係著作の把握方法(1) • superworkでは統一著者名と統一タイトル の組み合わせで、関係著作を括る手法を 用いている • しかしこの方法では、関係著作の範囲が 恣意的であり、関係性の種類が必ずしも明 確ではない 関連著作の把握方法(2) • 著作の関係性には、関係の種類と原著作 からの段階の2つの軸がある • これら両軸を組み合わせて表現するのが 望ましい • すなわち関係性の種類、原著作からの距 離という2軸、つまりベクトル値として表現 することになろう 5.まとめ (1)内容と容器 その1 • 内容(メッセージ)にかかわるもの 記録の種類(テキスト、音声、静止画像、動画、 マルチメディア、...) 記録の様式(文字コード、ファイル形式、アナログ、 ディジタル、...) • 容器(キャリア)にかかわるもの 印刷物、マイクロ資料、点字資料、... • 内容と容器それぞれに階層関係がある 5.まとめ (1)内容と容器 その2 • 刊行の継続性 容器としての継続性→逐次刊行物 内容の継続性→継続統合資料 5.まとめ (1)内容と容器 その3 • 従来の目録は、内容優先か容器優先かと いうジレンマに陥っていた • ISBD(ER), ISBD(CR), FRBRでもやはりそ の残滓がある • 内容と容器を、2つのレコードで表す以外 に根本的な解決方法はないように思われ る 5.まとめ (2)実体間の関係性 -著作の把握- • 関係性の種類と、原著作からの段階(距 離)というベクトル値で表さざるを得ない • FRBRにおける著作という実体は、把握す ることがほとんど不可能であり、実体とせ ずに、関係性の集合として捉えるべきで あった 参考文献 (1) 古川肇 『英米目録規則』に関する改訂の動向-一つの展望- 『資料組織化 研究』 43号 p.15-29, 2000.7 (2) Functional Requirements for Bibliographic records : Final Report / IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. -- Munchen : K. G. Saur,1998. http://www.ifla.org/VII/s13/frbr/frbr.htm (3) Ramat Fattahi's Ph.D Thesis: The Relevance of cataloguing Principles to the Online Environment : An Historical and Analytical Study (4) A.パトリック・ウィルソン 目録の第2番目の目的 『整理技術研究』 29,p.4152.(1991.12) (5) 田窪直規 メディア概念から図書館情報システムと博物館情報システムを解 読する 『人文学と情報処理』 4, 1994.5, p.9-15
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