びぶろす-Biblos - 国立国会図書館デジタルコレクション

びぶろす-Biblos
電子化51号(2011年2月)
発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library)
ISSN:1344-8412
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1.世界図書館情報会議(WLIC):第76回IFLA 資料保存関係会議参加報告
中村規子
世界図書館情報会議(WLIC)第76回国際図書館連盟(IFLA注1)年次大会に参加し、主に資
料保存関係会議に出席した。また、ウプサラで開催されたサテライトミーティングに参加した。
これについて、以下のとおり報告する。
第76回 IFLA年次大会
第76回IFLA年次大会は2010年8月10日から15日までの間、スウェーデンのヨーテボリで開
催された。121カ国から3,300名以上の参加者があり、日本からは国立国会図書館代表団7名
を含む25名以上が参加した。今回のテーマは「知識へのオープンアクセス−持続的な発展の
促進に向けて」であり、このテーマのもとに約160のオープンセッション、約80機関が出展した
展示会、200点を展示したポスターセッション等が行われた。また、IFLAの理事会、総会、各
分科会の常任委員会などの会議が開かれた。大会の前後には、スウェーデンの各地や近隣
の国で各分科会のサテライトミーティングが開かれた。
(会議場であるスウェーデン・エキシビション&コングレスセンター)
ヨーテボリ
ヨーテボリはスウェーデン第二の都市であるが、高層建築はIFLA年次大会の会議場となっ
たスウェーデン・エキシビション&コングレスセンターだけで、レンガ色を基調とした建物が並
ぶ落ちついた街であった。ボルボの本社があることでも知られるが、道路の中央にはトラムが
走り、専用レーンで自転車をこぐ人たちも見かけた。人々の対応は親切で真面目であり、ま
た、子ども連れの人たち、それも3人の子ども連れをよく見かけた。夕方になると、オープンエ
アなどのお洒落なカフェに人が集まり、明るい夜をいつまでも楽しんでいた。サマーバケーシ
ョンの時期だったので、博物館の前で毎晩、ライブ演奏が行われていた。
ヨーテボリの街
開会式 (8月11日)
開会式はギターの演奏で始まった。最初にWLIC2010組織委員長のアグネッタ・オルソン
(Agneta Olsson)氏の挨拶があり、安全で、フレンドリーで、緑の多いヨーテボリでの大会参
加に歓迎の意を表した。IFLA会長のエレン・タイス(Ellen Tise)氏は、まずスウェーデンでの開
催について謝意を述べた。これはスウェーデンのIFLA年次大会開催が4回目という最多開催
国であること、また、今回は当初オーストラリアのブリスベンで開催予定だったところ経済危機
による理由から1年前に開催地をヨーテボリに変更することが決定され、開催に至ったことに
よる。
「知識へのオープンアクセス」というテーマについて、タイス氏は、知識は使っても減らない
素晴らしいものであると述べた。また、ヨーテボリ出身の第60回国連総会議長のヤン・エリア
ソン(Jan Eliasson)氏は、知識は発展のための最も強力なエンジンであり、発展により平和や
人権尊重をもたらすものである、だが、近年、地球上にあるコンピュータの数について考える
と格差が拡大している側面もあることを指摘し、図書館員に対する敬意を表してスピーチを結
んだ。
開会挨拶が終わると、男性2人女性2人のグループにより、ABBA(1970年代のスウェーデン
のポップ・ミュージック・グループ)の「ダンシング・クイーン」などのライブ演奏が始まった。参
加者は立ちあがって、歌い、踊り、興奮さめやらぬうちに開会式は終了した。
開会式に先立って、10日にIFLA戦略計画が公表され、IFLA/PACビジネスミーティングや第
1回目の資料保存分科会常任委員会が開かれた。
IFLA戦略計画
今回、2010年から2015年における戦略計画が公表された。これは、IFLAの全組織におい
て、(1)情報への平等なアクセス、(2)IFLAの機能向上、(3)専門職制の変革と地位の向上、(4)
IFLAメンバーである図書館及び類縁機関、さらに、その利益者の利益代表者となる、という4
点を目標とし、それに基づいて実施すべき行動計画を策定したものである。
IFLA/PAC ビジネスミーティング (8月10日)
IFLA/PAC注2ビジネスミーティングとは、IFLA/PACの地域センター長と諮問委員会との合
同会議である。今後の活動について、「IFLA戦略計画 2010−2015」に基づいて進めていく方
向で議論がなされた。PAC国際センター長のクリスチーアネ・バリラ(Christiane Baryla)氏から
は、資料保存に関する意識喚起や情報共有を一層推進するために、PACの機関紙であ
る"International Preservation News"の目次を各地域の言語に翻訳注3するなど、各地域セン
ターではホームページを作成し充実させるよう指示があった。また、米国では5月に全国的な
保存週間を設け、コミュニティや家族の写真等を保存するなど記録の保存をアピールする活
動を行っていることが紹介され、各国での実施について提案があった。
また、PACの重要課題のひとつであり、近年、災害が増えつつあることから、災害がとりあ
げられた。2010年1月に起きたハイチ大地震注4については、ブルーシールド国際委員会注5が
ハイチの状況を把握するために4月に2名を派遣し、6月にハイチ政府、ブルーシールド国際
委員会、同国内委員会の間でハイチの資料救済とアーカイブの設立に関する協定が結ばれ
たことが報告された。また、2010年4月に発生した中国青海省大震災注6については被災状況
の映像が示され、170余の公的文化機関が被災したこと、図書館の被害の救済には北京大
学図書館の司書などのボランティアが集まったことなどが報告された。
資料保存分科会常任委員会 (8月10日、14日)
資料保存分科会注7の常任委員会は例年同様、IFLA年次大会の期間中、2回、開催され
た。2011年に開催するIFLA年次大会のオープンセッションのテーマについて議論し、音楽映
像及びマルチメディア分科会との共催で音楽映像資料の保存をテーマとするなどの提案があ
った。また、資料保存分科会について広く周知するために各国の言語でパンフレットを作成
し、ホームページにも掲載することを決め、早速、各国の常任委員が作業を始めることとし
た。
資料保存分科会、PAC、環境の持続可能性と図書館SIGの合同オープンセッション
(8月12日)
「資料保存と持続可能性」をテーマとする6件の報告があった。報告テーマは、石油燃料の
枯渇と図書館経済、英国図書館の新書庫、図書館のエネルギー効率と環境への影響の減少
との関係、ポーランド国立図書館における図書館資料のマイクロバイオロジーによる管理、ク
ロアチアの図書館の内戦経験により資料保存・防災について何を学んだかという調査報告、
ミラノ市立公文書館とロンバルディア州立図書館の資料防災経験を基にした資料防災計画策
定に関する提言などで、いずれも興味深いものであった。
とくに興味深かった英国図書館からの報告について紹介する。英国図書館の資料保存部
門長であるデボラ・ノボトニー(Deborah Novotny)氏は「英国図書館の新書庫」と題し以下の
報告を行った。英国図書館には蔵書数の増大、保管環境の整備、防災などのへの対応とい
った課題があり、一方で、公的機関として国の政策に従って省エネルギーを進めなければな
らない。こうした相矛盾する課題に対応するために、ボストン・スパの新書庫については集密・
自動書庫、低酸素環境(酸素15%)、照明は非常灯のみとした。低酸素書庫であっても、自動
書庫なので人間が書庫内で出納作業をするわけではないなど、人間にとっての環境も考慮し
た。さらに、利用頻度の低い資料を配置するという方針についても報告された。
ハイチに関するアップデート・セッション (8月14日)
ハイチ国立図書館長フランソワーズ・ボーリュ-シィブル(Francoise Beaulieu-Thybull)氏が
壇上に上がると盛大な拍手があった。最初に、ハイチ国立図書館の数箇所に設置された防
犯カメラが捉えた、ハイチ地震発生時に書架が倒れ、塀が倒壊する映像が映し出された注8。
そして、ブルーシールド国際委員会のダニエル・ミンショー氏(Danielle Mincio FLA常任理事会
理事)からハイチ政府とブルーシールド国際委員会及び同国内委員会との間で交わした支援
協定により、ハイチの文書遺産を救済し手当を行う臨時センターを設置するため、修復作業
を行うボランティアの募集を行うことが報告された。また、可能な方法での支援が呼びかけら
れ、会場からは多数の参加者から支援の意思表明があった。
(ハイチに関するアップデート・セッション)
筆者は上記のIFLA年次大会の資料保存関係会議その他の会議に出席し、16日から資料
保存分科会と貴重書及び写本分科会共催のサテライトミーティングに参加するため、15日の
閉会式には出席せずに、ヨーテボリからウプサラに向かった。
サテライトミーティング (8月16日〜18日)
サテライトミ−ティングは資料保存分科会と貴重書及び写本分科会の共催により、「古い資
料のための新しい技術−保存と本の歴史のための科学的検証−」をテーマとし、ウプサラ大学
注9で開催された。参加者は60名余であり、その大半はスウェーデンからの参加者であった。
(ウプサラ大学メインホール)
16日はこの大学内のカロリナ・レディヴィヴァ(Carelina Rediviva)という名の図書館注10(展
示室も含む)と修復部署を見学した。カロリナ・レディヴィヴァは、17世紀末に制定された納本
制度によって収集された資料のほか、国王などからの寄贈や、戦争の際に奪ってきた資料で
構成され、手稿本については書架にして3500メートル分を所蔵する。戦争の際、スウェーデン
軍隊は、特に高価な貴重書を所蔵するイエズス会の教会を狙ったそうである。古い資料は大
変良い状態で保存されていたので、保管環境の管理方法を聞いたところ、古い建物であるの
で空調設備などは無い、窓の開け閉めだけだということであった。そして、膨大な数の古い資
料の検索ツールは多数の冊子体の目録であり、書誌情報のデジタル化やオンラインでの提
供は今後の課題であるという。そういう状況なので、貴重な資料が盗まれなくてよい、というジ
ョークまじりの説明があった。
この図書館には展示室があり、その特別室には『シルバー・バイブル』と称する6世紀の、銀
製の表紙の聖書 "Codex Argenteus"が展示されていた。保存のために展示室を真っ暗にし
てあったため、あまりよく見えなかった。修復部署も見学した。スタッフは3名で、ウプサラ大学
の図書館全体の破損・劣化資料のなかから、極めて選択的に修復を行っている。わずかな破
損の補修作業は資料の出納担当の職員が行うそうである。チーフ・コンサバターによれば、
「本当はあと3名ほしい。」ということであった。筆者が日本人であるため、和紙や日本の製本
道具を使っていることを示してくださった。
ワークショップでは、「古い資料のための新しい技術−保存と本の歴史のための科学的検証
−」に関する9件の報告があった。とくに興味深かった報告を紹介する。
(1) DNA分析に関する報告
近年、犯罪捜査にDNA鑑定が行われるが、古い資料の刊行年やその歴史についての調査
にDNA分析を活用するという事例報告があった。ウプサラ大学ではコペルニクスの蔵書を所
蔵するが、その中に毛髪が挟まっていたことから、こうした調査が始まった。同大学のマリー・
アレン(Marie Allen)氏から、古い資料の中には奪ってきた資料もあるので、毛髪のDNA分析
を基に、書誌情報等と合わせて、元の所蔵者・所蔵機関を推定する調査を行っているという
報告があった。
また、同大学のアンデルス・ゲテルストレーム(Anders Gotherstrom)氏からは、手稿本の羊
皮紙についてDNA分析を行い、何の動物の皮かを調査し、動物の進化の歴史や生息場所を
確認の上、書かれた時期や場所等を判断する、という方法について報告があった。
(2) 保存及び保存科学に用いられる最新機器に関する報告
スウェーデン国立公文書館のヨナス・パルム(Jonas Palm)氏から、「SurveNIR」という、保存
科学に必要な基材の物理的性質やpHなどの化学的状態に関するデータを非破壊的に瞬時
に得られる光学検査機器についての紹介があった。これは欧州委員会の支援プロジェクトと
してヨーロッパの主要図書館や文書館と保存科学研究機関が協力して開発したものである。
また、オランダ王立図書館のクレメンス・ノイデッカー(Clemens Neudeccker)氏からは、ヨーロ
ッパの文書遺産へのアクセスを向上させるためにデジタル化を行う、IMPACT(Improving
Access to Text)という、欧州委員会によるプロジェクトにおいて、古い資料をデジタル化する
際に昔の字体を認識することが困難であるため、OCRの改良により解決しようとしていること
などが報告された。
サテライトミーティングで報告された、古い資料を保存するための最新技術については、大
半の参加者にとっては全く聞いたことがない話だったようである。「絶えず、新しい技術に追い
ついていかなければならないのは大変だ。」と話す研究者もいた。だが、保存の領域におい
て、こうした最新技術が用いられているという情報を世界の図書館・文書館の保存関係者が
共有したことは大変有意義であった。
以上のように、ヨーテボリでのIFLA年次大会に参加し、最初に、開会式がとてもシンプルで
効果的であったという印象を得た。次に、PACビジネスミーティングにおいて、IFLA全体が
「IFLA戦略計画2010-2015」に基づき、より明確な目標をもって組織的に活動を進めていこうと
していることが認識された。資料保存関係会議においては想像以上に災害が大きな関心事と
なっているのを実感した。サテライトミーティングでは、古い資料の保存に最新技術が活用さ
れていることについて若干の驚きもあり、よい勉強になった。
また、資料保存関係会議のほか、アジア・オセアニア分科会のオープンセッション等にも参
加したが、アジア諸国の活動の進展が著しいことには驚嘆した。
今回のIFLA年次大会への参加によって得た知識や人とのつながりは、今後の業務に生か
すとともに共有していきたい。
注1 IFLAは、International Federation of Library Associations and Institutionsの略。1927年に
創設された図書館及び情報サービスに関する世界的な非政府組織。特に重要とする6つのコ
ア活動や40以上のテーマ別の分科会等のグループにより、世界の図書館界の様々な課題に
取り組んでいる。
注2 IFLA/PACは、IFLA Core Activity on Preservation and Conservationの略。IFLAが世界
の図書館に関わる重要な課題として取り組んでいる6つのコア活動のひとつである。1986年、
ウィーンにおいて国立図書館長会議が、IFLAとユネスコの協力を得て開催した「図書館資料
の保存に関する会議」の際に正式に発足した。現在、国際センター(フランス国立図書館)を
中心に、世界各地の国立図書館等に置かれた14の地域センターが地域性や得意分野を生
かして資料保存の世界的な協力に取り組んでいる。
注3 PACの機関紙である"International Preservation News"の目次の日本語訳は既に、
IFLA/PACアジア地域センターのホームページに掲載している。
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/iflapac/ipnindex.html
注4 ハイチ大地震は、2010年1月12日、ハイチ共和国で発生したマグニチュード7.0の地震。
注5 ブルーシールド国際委員会(International Committee of the Blue Shield)は、武力紛争や
自然災害などの災害から文化遺産を保護することを目的とした団体で、IFLAなどの文化財保
護に関する5つの非政府機関により構成される。
注6 中国青海省大地震は、2010年4月14日、中国青海省に玉樹チベット族自治州玉樹県で発
生したマグニチュード7.1の地震。
注7 IFLAの資料保存関係組織には、IFLA/PACのほかに資料保存分科会がある。IFLA/PAC
のメンバーが国際センター長と14の地域の国立図書館等に置かれた地域センター長で構成
されるのに対し、資料保存分科会は個人参加に基づき、常任委員は選挙によって選ばれる。
IFLA/PACと資料保存分科会とは協力関係にあり、昨年からは「環境の持続可能性と図書館
SIG」(Special Interest Group)と
注8この映像は、 IFLAのウェブサイトで見ることができる。
http://www.ifla.org/en/haiti-earthquake-2010#security-camera-footage
注9 ウプサラ大学は、1477年に創立された、スカンジナヴィア最古の大学。出身者には博物
学者、生物学者、植物学者のカール・フォン・リンネや第二代国連事務総長のダグ・ハマーシ
ョルドがいる。
注10 ウプサラ大学の図書館は、スウェーデン王グスタフ・アドルフ2世が1620年に設立し、設
立時に多数の資料を寄贈した。
(収集書誌部司書監)
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2.IFLA2010ヨーテボリ大会に参加して
木藤淳子
2010年の世界図書館情報会議(第76回国際図書館連盟(IFLA)大会)は、スウェーデンのヨ
ーテボリで開催された。ヨーテボリはスカンジナビア最大の港湾を擁する、首都ストックホルム
に次ぐスウェーデン第二の都市で、大会開催中は8月という季節がら、夏休みで訪れた旅行
者も多く見られ、野外コンサートなど様々な夏らしいイベントが行われていた。元々2010年の
大会はオーストラリアのブリスベンで開催される予定であったが財政的な問題等で撤退、代
替地としてヨーテボリが名乗りをあげ、通常よりも準備期間が短い中で実施にこぎつけたとい
うことだった。筆者がIFLA大会に参加するのは今回が初めてだったため、他の大会との比較
ができないが、よくコーディネートされているという印象を受けた。
今大会は2010年8月10日から15日にかけて開催され、「知識へのオープンアクセス―持続
的な発展の促進に向けて」というテーマの下、121か国から3,300名以上が参加した。筆者は
特定の委員会等には属さず、今回多様なセッション等を聴講したが、その中から筆者が所属
する国立国会図書館にとっても大きな課題である"デジタル化"に関わるものを幾つか紹介し
たい。
(主会場のスウェーデンエキシビション&コングレスセンター入口)
国立図書館分科会セッション
8月14日に著作権及び法的諸問題に関する委員会と共同で開かれたセッションでは、デジタ
ル化が進む環境下でのオープンアクセスに関わる課題について、オランダ、カナダ、韓国、中
国及びスウェーデンの5か国が報告した。
特に印象に残ったのは、「国立図書館にとってのオープンアクセスの諸課題」と題するオラ
ンダ国立図書館の報告と、韓国国立中央図書館の「知識社会における国立図書館の新しい
役割」という報告であった。
オランダは自国内に国際的な大規模学術出版社を擁し、国立図書館でも出版社と連携する
などして、電子図書館の分野や電子化の進む学術雑誌の取扱いについて、早くから先進的
な取組を続けてきたが、現在取り組んでいるオープンアクセスの仕組みについては、「これは
新しいビジネスモデルであって、出版社に敵対するものではない。」と語っていたのが、オラン
ダでも図書館の動きに対する出版業界の警戒心が高いことを逆に伺わせ、興味深かった。
デジタル状況への取組を精力的に進めていると見られる韓国の発表では、1990年代の財
政危機が却って契機となって、ナレッジマネジメントの重要性が認識され、知識社会(ナレッジ
ソサエティ)のための整備が進んだというのが印象的であった。出版社から提供されたデジタ
ルファイルを点訳して視覚障害者に供する取組も紹介され、多角的なサービスの充実に目を
見張った。
デジタル戦略のためのIFLA/CDNL同盟(ICADS)会議
8月15日に情報技術分科会と共同で電子化蔵書の長期保存のためのシステムに関するセ
ッションが行われ、英国、オランダ、フランス、米国での取組について報告があった。 このう
ちオランダの報告は、国立図書館による電子納本(e-Depot)のストレージについてのもので
あった。オランダは2003年にe-Depotを始めたが、大容量化やフォーマットの多様化(将来的
な可用性の確保も含め)等への対応を迫られている。2012年中に現在のストレージの保守契
約が終了するため、更新に向けて2010年から2011年にかけて調達・開発を行うが、増大する
データ量や財政状況などを勘案して、すべてを同じレベルで保存するのではなく、資料群ごと
の評価に基づき計画をたて、校正、付与するメタデータ、保存方法などについて優先順位を
設けていることなどが紹介された。
米国の報告は、米国の有力な調査研究図書館が共同で取り組んでいるHathiTrust電子図
書館についてのものであった。HathiTrust電子図書館は、参加機関の保有電子化コレクショ
ンを共有してアーカイブするもので、2008年に始まった。(報告時点で)既に500万冊分以上の
デジタルデータを保有しており、2010年中に800万冊、2012年には1400万冊規模になる見込
みという極めて大規模なものである。デジタルデータは、参加機関によって、グーグル社やイ
ンターネット・アーカイヴ社が電子化したものであったり、独自に電子化したものであったりと
様々で、そういうことにとらわれず、共同で網羅性の高い仕組みを作っているということ、現在
でもパブリックドメインのものが100万冊分以上あるということで、単に保存目的にとどまらず
アクセスのオープン性も目指していることが刺激的であった。
IFLA大会では世界中の国の参加者から報告が行われるので、"デジタル化"への取組は、
国によって大きな格差があることを改めて感じた。本稿では、日本と共通点の多い先進国の
事例を紹介したが、ICT環境が未整備な国では、インターネット接続PCを配備するなど情報化
の拠点としていわばネットカフェ的に図書館を活用する例なども報告され、ICT・デジタル化・
ネットワーク化への対応が、各国・地域それぞれの状況に応じてであるが、世界の図書館共
通の課題となっていることが実感された。
(国立国会図書館総務部管理課長)
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3.支部消費者庁図書館の紹介
中根 一平
支部消費者庁図書館は平成22年4月7日設置、同年12月15日開館の最も新しい支部図書
館です。
消費者庁設立当初から、占有面積の削減による内部の引越しが行われていたこともあり、
庁設置から1年3ヵ月後の開館となりました。
この文章の執筆時は、開館してまだ1ヶ月も経っておらず、不慣れな業務に四苦八苦してい
る状況で、掲載時の平成23年2月も、まだまだそのような状況かと思われます。
現有する書籍については、経験豊富な司書の手による分類・表示で、利用者に使いやすい
よう配置されています。ただ、開館初年度であり、書架には空白が目立つ状況です。
(書架の様子)
(図書館の様子)
そのため書籍の充実が急務ではありますが、予算面の制約及び庁全体の占有面積の縮小
に伴う図書館の占有面積の縮小を鑑み、業務に必要な書籍の効率的な収集を心掛けていま
す。
当面の間、消費者行政に関する書籍は高輪の国民生活センター情報資料館に、業務に必
要な一般的な書籍は国立国会図書館及び他の支部図書館にご協力をお願いすることになる
と思われます。
書籍の充実とともに、職員の図書館関連の知識の充実が、現在の課題となっています。国
立国会図書館蔵書検索・申込システム(NDL-OPAC)、国立国会図書館中央館・支部図書館
分散型総合目録データベースシステムの効率的な使用方法等を、職員に周知することで業
務の効率的な遂行に役立てることができるよう、研修や庁内電子掲示板への説明文の掲載
等を行っていく予定です。
ゼロからの設立ということで苦労する面も多々ありますが、逆に全てを最初から作っていけ
るということにやりがいを感じているこの頃でもあります。消費者庁職員及び他省庁等の方々
の業務に役立つ図書館にしていきたいと思いますので、今後ともよろしくご協力いただければ
幸いです。
(支部消費者庁図書館)
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4.国立国会図書館長と行政・司法各部門支部図書館長との懇談会
平成22年12月7日、国立国会図書館(東京本館)において、標記懇談会が実施された。長尾
国立国会図書館長のあいさつの後、中央館から1件、支部図書館から1件の報告を行い、休
憩をはさんで特別講演、その後懇談を行った。
中央館からは、「電子図書館事業の進捗状況について」と題して、武藤総務部副部長から、
国・独立行政法人・地方公共団体等のインターネット資料の制度的収集、近代デジタルライブ
ラリーなどによるデジタル化資料の提供サービス、所蔵資料の大規模デジタル化等の取組と
課題について報告した。
(武藤総務部副部長の報告の様子)
支部財務省図書館からは、「財務省図書館の沿革と概要」と題して、葛見支部財務省図書
館長から、明治4年の大蔵省記録寮記録部設置に遡る沿革と現在の図書館の概要が報告さ
れ、吹塵録等の蔵書や石渡荘太郎記念文庫など特別コレクションの紹介があった。また、省
職員へのニーズ調査実施や職員向けメールマガジンの刊行など、業務・サービス改善への
取組が報告された。
(葛見支部財務省図書館長の報告の様子)
特別講演では、マイケル・ハフ米国大使館情報資料担当官から、米国国務省に属し世界各
国の米国大使館・領事館に置かれているレファレンス資料室(Information Resource Center,
IRC)について、日本における活動を中心に報告があった。ハフ氏の担当は、世界各地にいる
情報資料担当官の1人として、日本の東京、札幌、名古屋、大阪、福岡のIRCのほか、韓国、
ニュージーランド、フィジー、サモア、トンガのIRCに対する監督指導を行っている。IRCの主要
な任務はパブリック・ディプロマシーであり、日本国民を対象としたサービス・プログラムを一
義的に行っているが、在日米国大使館、本国の国務省ほか連邦省庁にも奉仕していることが
説明された。提供されているサービスには、レファレンス、メール配信サービスU.S.
Information Alert(最新の米国政策情報)、米国政府刊行物の翻訳、OPACや商業データベー
ス等の提供、シンポジウム開催などがある。短時間で回答可能なクイックレファレンスの件数
が減少傾向にある等の利用動向が紹介され、今後は、電子書籍の収集、ソーシャルメディア
の活用が重要であることも述べられた。
(マイケル・ハフ米国大使館情報資料担当官の報告の様子)
懇談では、中央館の報告に対し、デジタルアーカイブの入口であるPORTAに関する質疑が
なされ、財務省図書館の報告に対し、最近の取組みに関する質疑が行われた。ハフ氏の講
演に対しては、限られた人数のIRCの職員(東京は6名)に対する本国国務省、議会図書館ほ
か首都ワシントン周辺の図書館のサポート体制について質疑が行われ、米国国務省図書館
の特色、レファレンスライブラリアンの人材育成等について意見交換が行われた。
(懇談会の様子)
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5.第96回全国図書館大会(奈良大会)に参加して
橋本 吉弘
平成22年9月16日より17日の2日間にかけて開催された、全国図書館大会奈良大会に参加
させて頂きました。日頃より図書館に勤務している関係で、時折は他省庁との意見交換程度
の交流はあるのですが、県や市が運営する図書館などとは全くと言っていい程接する機会も
ないため、この大会を通じて様々な図書館の特徴や取り組み、抱えている問題点などを知る
ことができればという思いと、私自身、奈良県に行く事が初めてという事で期待の面持ちで今
大会に臨ませて頂きました。
最初の会場である「なら100年会館」にて、開会式などの全体会が開催されました。その中
の基調講演にて、私もとても関心がありました官製ワーキングプアの講話がありました。全国
的にも非正規雇用の図書館勤務者は約6割という状況にも関わらず、生活保護水準以下の
賃金で働いている労働者がいるというのは、図書館が官製プアの温床とならぬように改善し
ていかなければならない喫緊の課題ではないのかと感じました。
2日目は、公共図書館に関する分科会に参加させて頂きました。ここでは市民と図書館との
関係に関する今後の課題や目標についての講演でした。その中で、図書館にて行っている独
自の取り組みとして一例を教えて頂いたのですが、私が想像していた以上に一般利用者との
関わりが多く、様々な工夫を凝らしている様子がよく分かりました。室内のレイアウトはもちろ
んの事、学生が多く利用する参考書は特設コーナーを設けたり、「仕事の合間に資格を取ろ
う」と銘打った、様々な資格取得に役立つ図書を並べるという様に実に多様でした。
そうした各図書館の状況に応じた独自の工夫が功を奏し、図書館の利用者が増えたという
お話を聞き、利用者の方々との繋がりが深まっていく様子が想像でき、現在の当館における
状況と照らし合わせるいい機会となりました。
平成22年は、著作権法の改正、過疎地域自立促進特別措置法に図書館が明記されるなど
様々な動きがあった年になりました。これに乗じて、図書の電子化や障害者の方に対するサ
ービスの拡大が出来たり、過疎債を利用して市長村に新たな図書館に設置するなど、これか
らの図書館は、今まで以上に様々な可能性を秘めているのではないかと思います。
また、私は図書館において、利用者との繋がりは一番重みを置くべき所だと思っています。
利用者一人一人の要望は異なりますし、応えていく上で避けられない問題点は必然的に発
生します。しかし、それを解消するための方法を思案したり、実行に移すための障害を取り除
くという行為は、大小様々でありますが大変な労力を要すると思います。それは全ての図書
館が抱えているものですが、内容は一概に一括りにできるものでもなく、周囲の状況などによ
って実に多様化します。私の勤務する図書館でも同様に、様々な要望や意見が飛び交ってい
ます。それに答える上で行き詰まりそうな時に、他の図書館が行っているサービスなどはとて
も参考となり、今後よりよい打開策を打ち出す事が出来るのではないかと感じ、非常に有意
義な大会となりました。
最後に、今大会の運営に尽力されました関係者皆様方に、厚く御礼申し上げます。
(全国図書館大会(奈良)会場)
(支部林野庁図書館)
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びぶろす-Biblos
電子化51号(2011年2月)
発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library)
ISSN:1344-8412
最新号の目次
バックナンバー
支部図書館に関する記事一覧
6. 日 誌(平成22年11月〜平成23年1月)
平成22年
行政・司法各部門支部図書館職員特別研修「農林水産関係試験研究機
11月9日 関総合目録のと電子化への取組」
10館12名
11月16日 平成22年度第2回兼任司書会議
11月19日
行政・司法各部門支部図書館職員特別研修「図書館資料の保存」
17館22名
11月24日
第12回図書館総合展
〜26日
12月7日 国立国会図書館長と行政・司法各部門支部図書館長との懇談会
行政・司法各部門支部図書館職員特別研修「図書館広報をもっと魅力的
12月10日 に!―少人数職場ならではの即効変身術―」
16館24名
平成23年
1月1日
支部図書館長の異動
人事院図書館長 埓 昭一郎 (前 吉沢 晋市)
1月11日
支部図書館長の異動
法務図書館長 関 一穂 (前 小山 太士)
1月18日
支部図書館長の異動
気象庁図書館長 関田 康雄 (前 橋田 俊彦)
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電子化51号(2011年2月)
発行:国立国会図書館総務部
(National Diet Library)
ISSN:1344-8412
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支部図書館に関する記事一覧
7. 【国立国会図書館 刊行物紹介】
当館HPに公開されている刊行物の中から、平成22年11月〜平成23年1月の間に公開され
た記事の一部を紹介します。
● 『国立国会図書館月報』
国立国会図書館の蔵書や各種サービスについて総合的に紹介する広報誌です。2004年4
月以降はPDF形式でご覧いただけます。
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「<NEWS>平成22年度国立国会図書館長と行政・司法各部門支部図書館長との懇
談会」p.27(598号(2011年1月))
「走れ! 収集ロボット インターネット資料収集のしくみ」p.11-17(597号(2010年12
月))
「帝国議会の歴史をひもとく 帝国議会会議録検索システム」p.18-21(596号(2010年
11月))
・・・他
平成22年刊行分一覧
● 『調査と情報』−ISSUE BRIEF−
国政上の重要課題について、その背景・経緯・問題点等を簡潔にとりまとめた雑誌です。
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No.694「国家公務員制度改革をめぐる近年の動向」(2011.1.27)
No.693「地上デジタル放送の現状と課題【第2版】 」(2010.12.2)
・・・他
平成23年刊行分一覧
平成22年刊行分一覧
● 『外国の立法』
諸外国の立法動向を簡潔にまとめており、季刊版と月刊版があります。
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「【アメリカ】2010 年度情報機関授権法成立」(No.246-1(2011年1月:月刊版 立法情
報)
「【EU】建物のエネルギー性能に関するEUの指令―ゼロ・エネルギーをめざして―」
(No.246 (2010年12月:季刊版)主要立法(翻訳・解説))
「【アメリカ】ブッシュ減税の延長問題」(No.245-2(2010年11月:月刊版 立法情報)
・・・他
また、月刊版では、各国の立法情報をコンパクトにまとめた短信も掲載しています。
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2011年1月:月刊版 短信
2010年11月:月刊版 短信
平成22年刊行分一覧
●参考書誌研究
図書館員のレファレンス業務や研究者の調査研究に役立つ専門書誌、資料研究等、国立国会
図書館が取り組んでいる主題情報の発信に関わる記事を幅広く掲載しています。
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最新号(73号(2010年11月))の目次
*最新号の記事はHP上で見ることはできません。*
「「政治・法律・行政」─議会官庁資料室のコンテンツ─」 特集:リサーチ・ナビ―調べも
のに役立つWebサービス― その2(72号(2010年3月))
「アジア諸国の情報をさがす」 特集:リサーチ・ナビ―調べものに役立つWebサービス―
その2(72号(2010年3月))
・・・他
(バックナンバー)
● 『カレントアウェアネス』
図書館及び図書館情報学における、国内外の近年の動向及びトピックスを解説・レビューする
情報誌です。
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「動向レビュー:ウェブアーカイブの課題と課以外の取組み」(No.306 (CA1729-CA17)
2010.12.20)
・・・他
2010年刊行分一覧
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