時系列データを手掛かりに2つの偏光成分を分離する ~

時系列データを手掛かりに2つの偏
光成分を分離する
~ブレーザーへの応用~
植村誠(広島大学) 、他「かなた」チーム
ブレーザー可視偏光観測のこれまで
 偏光パラメータと光度
or色などとの相関関係
 だいたいは明らかな相
関なし、とされる
 Moore et al. (1982), Jones
et al. (1985, 1988), その他
たくさん
 「QU平面上をランダ
ムに動く」とされる
 “erratic” variation
BL Lacの1週間のQU平面上での動き
(Moore et al. 1982)
ブレーザー可視偏光観測のこれまで
 ただし、光度曲線や色と
相関する例もいくつか
 Smith et al., (1986), Tosti et al.
(1998), Efimov &
Shakhovskoy (1998), Fan et al.
(2000), Cellone et al. (2007)
 Random motionだけでなく、
系統的な変動がある、とい
う証拠
 現状の問題点
 特に数日~数週間というス
ケールの密な継続観測が少
ない
 本当にランダムなのか?
法則性が見落とされていな
いか?
偏光度と光度が相関した例
3C 345 (Smith et al. 1986)
「かなた」データの例
光度と偏光度が相関してる short flareもあれば、そうでないのもあり。。。
• AO 0235+164:相関してるのもあるが、多少タイムラグがあるものもあるような。
一方で全く相関してないのも。(笹田、他、天文学会)
• PKS 1749+096:同じような時期、同じような振幅のフレアで相関してるのと、して
ないのと。
光度と偏光度の相関関係
めちゃ
くちゃ
なぜ偏光の変動はめちゃくちゃなのか?
3つの仮説

多様性が圧倒的に大きい



無数の(ランダムな)細かいフレアの重ね合わせ



フレアが、磁場の揃った(or amplifyされた)ところで起こることもあれば、
揃ってないところで起こることもあるし、揃ってるところで起こったとして
も途中で磁場の向きが変わることもあれば、あまり変わらないこともある。
色や偏光を観測しても普遍的な描像には届かない。。。
→せっかく観測してきたのに、この結論は避けたい。。。
1つ1つのフレアは固有の偏光成分をもつ
Moore et al. (1982), Impey et al. (1988), Jones et al. (1985, 1988)
→まだマシだけど、「ランダム」だとたいていの観測結果は「たまたま」で
説明できてしまうので。。。
フレアに付随する偏光成分とそうでない成分の2成分があって、観測
値はその2つが重なって見えている


常に偏光度の大きいような天体だと明らかに重要
Long term成分の推定が問題
→もしこの可能性があるのなら、そのような解の推定には意味があるだろう。
例えば BL Lac の場合
かなたで撮られた BL LacのQU平面上の変化
(先本、他、日本天文学会2009、春季年会)
 原点から見て常
に一方向に集中
 長期成分と短期
フレア成分の2
つが存在?
2つの偏光成分に分離できないか?

1つは「光度曲線と相関して変動する
成分」

もう1つは「長期成分」

本質的に決定はできない

U
Long-term trend とフレア成分は観測では縮退
している。
Q
(Qobs ,U obs )  (Q0  Qflare,U 0  U flare )
 ベイズモデルの構築
p(Q0 , U 0 | f , Qobs , U obs ) 
L( f , Qobs ,U obs | Q0 , U 0 )   (Q0 ,U 0 )
C
残りの成分は
光度曲線と相
関するように
(尤度関数)
1つはゆっく
り変動するよ
うに
(事前分布)
Total flux
t
人工データを使って実験
ベイズ的に推定された長期成分(1)
うまくいってる場合
フレア頻度低い
フレアが重なってるところもまあまあOK
シミュレーションデータ
上:光度曲線(赤)と偏光度(緑)
下:QU平面
推定結果
上:光度曲線(赤)と補正された偏光度(青)
下:QU平面。緑が推定された長期変動成分。
仮定したものとほぼ一致。
ベイズ的に推定された長期成分(2)
(1)の場合よりもフレア頻度が高い場合。
フレアは重なってるがそれなりにうまくいってる。
相関関数も期待通りの結果に。
光度と偏光度の相関関数。シミュ
レーションデータのそのもの
(赤)と補正されたもの(青)。
補正した結果、正の強い相関が見
られて、期待通りの結果に。
観測データに応用してみると
OJ287の場合
 長期成分は一定の角度内を振動
 補正すれば偏光フラックスと光
度曲線はよく相関
 2成分モデルの理想的な例
S2 0109+224の場合
 2つの長期成分?
 光度曲線との相関は有意
に改善
偏光ベイズモデルの応用
 可視データ単独では「2
成分」の証明にはなら
ない
ブレーザーのVLBI偏光マップ
(Marscher ,et al. 2002)
 モデルを仮定して解を推
定しているだけ
 可視の偏光成分は電波
でも見えているかも
 可視で分離された short- or
long-term 成分と同じ時間
変動するものがVLBI偏光
マップで見えるかも
 VSOP-2に期待
1 mas
まとめ
 一見「めちゃくちゃ」な挙動をするブ
レーザーの偏光変動から、系統的な変動
を抽出したい。
 偏光と光度変動のデータから、偏光成分
を短時間変動と長時間変動に分離するベ
イズモデルを開発。
 いくつかのブレーザーでは「2成分モデ
ル」で系統的な変化が見られた。
Backup slides
「かなた」データの例(続)


BL Lacともあろうものが。。。
やはり、short flareには多少の反応がありそうだが。。。。。



というか、光度曲線に比べて偏光度がバタバタし過ぎ???
光度変化はさほどでもないのに、突然偏光度があがったり。
OJ49は数か月のトレンドに偏光度が相関してな
い。。。。。。。
Long-term trendをベイズ統計的に推定
 ベイズの定理
p ( | y ) 
L( y |  )   ( )
 L( y |  )   ( )
p ( | y ) :
L( y |  ) :
 ( )
:
事後分布
尤度関数
事前分布
• 今回の場合
p (Q0 ,U 0 | f , Qobs ,U obs ) 
L( f , Qobs ,U obs | Q0 ,U 0 )   (Q0 ,U 0 )
C
L( f , Qobs ,U obs | Q0 ,U 0 )
:尤度関数は、(正規化した)光度曲線を「モデル」
と考えて、(差分を取ってさらに正規化した)偏光フ
ラックスの値と観測誤差から計算する。
→光度曲線と偏光フラックスが(正の)相関するとき
に、尤度が最大になるイメージ。
 (Q0 ,U 0 )
:事前分布はQ0,U0が「滑らかな線」を描く時に確
率最大になるようにすることで、long-term trendを
表現する。具体的には1階階差が平均0、分散wの
正規分布を満たすように取る。すなわち、
 (Q0 )  
C
 (Q0,i  Q0,i 1 ) 2 
exp

2
2
2
w
2w


1
:積分項は定数。実際はマルコフ連鎖モンテカル
ロ (Markov-Chain Monte Carlo : MCMC)で解く。
MCMCの収束具合
 テストでは 10^7 ステップ計算。
 最初 2x10^5ステップは捨てて、以
降 100ステップ毎にサンプリング
 サンプルの中央値と68.3%信頼区間
を抽出
上図:尤度x事
前分布の対数
10^5ステップく
らいで収束
左図:ステップ
毎のQ,U。
ケース(3)の場合。
ベイズ的に推定されたlong-term tren(4)
Trendがなく、QU平面上でほぼrandom motionの場合。
解は(一応)収束するが、相関係数は低い。
良く相関するようtrendを決めると、trendがもはや long-termではなくなるし、
trendのsmoothnessを優先させると、相関係数はますます低くなる。
→ 「光度とPDは相関する」という仮説の検定手段として一応成り立っている
このベイズモデルの問題点
•
統計モデルとしての問題点
•
事前分布のハイパーパラメータ ”w” に結果が強く依存する
•
•
•
周辺尤度最大化でwを推定すると、長期変動成分が複雑な挙動を示し、もはや「ゆっくり動く成分」ではな
くなる
“w”は「短時間変動成分と比べて本当に『ゆっくり』動いているか」で制限をつけることにする
今回採択した事前分布は、おそらく真にふさわしいものではない
•
•
長期成分が存在しなくても、何かしらの解がでてくる
•
•
•
本来は「本当にゆっくり動いているか」まで含めた事前分布にすべき
収束しやすさ、複数サンプルでの収束具合、折れ曲がりの多い複雑な挙動、あたりが目安。
「2成分が存在」の「証拠」にはなり得ない。「このような2成分に分離して考えるとシンプルな描像で説
明できますね」がせいぜい。VSOP-2で高解像度の偏光マップが撮られれば、2成分見えるかも(?)
物理モデルとしての問題点
–
「ゆっくり変動成分(Q_0,U_0)」のtotal flux(I_0)の時間変動を無視している
•
つまり、偏光ベクトルは2成分に分けるが、光度曲線は分けていない
–
•
•
–
両方を同時に解くのは困難なので
解析上は、光度曲線も差分偏光成分も正規化しているので影響は薄いはず
ただし、得られた結果は常に「I_0一定のまま(Q_0,U_0)だけが変化する」ことを意味する
(Q/I, U/I)は分離できない
•
•
•
両成分の偏光度が小さいとは限らないため
なので、得られた解が「偏光度と光度曲線が相関する」ような解かどうかは決定できない
ただし、「偏光度」の観測値は 下式の左辺のようになり、今回の解析では(上記のように)I_0の時間変化を
無視しているので、右辺第二項の成分が光度曲線と相関するとして両成分を分離することはできる。
S5 0716+714の場合
 長期成分は抽出されるが、
erraticな変動
 光度曲線との相関は有意に
改善しない
ベイズ的に推定されたlong-term trend
(2)
(1)の場合で、観測頻度が5割の場合。
それなりにOK。
特定の関数に依存していないので、非均一サンプリングや端の点の推定には強
い。
QUの成分分離
OJ 287
S5 0716+714
 Wが大きいと(尤度を上げ
ようとして)長期成分は
複雑な挙動になる
S2 0109+224
W=0.10
W=0.25
W=0.50
Q/I,U/Iの成分分離
OJ 287
S5 0716+714
 Wが小さいと、(Q,U)の場
合と同様の挙動をする長
期成分が分離される
S2 0109+224
W=0.10
W=0.25
W=0.50
時系列で
OJ 287
S5 0716+714
S2 0109+224
光度曲線
偏光度(観測値)
偏光フラックス(観測値)
偏光方位角(観測値)
短時間変動成分の
偏光フラックス(推定値)
短時間変動成分の
偏光方位角(推定値)
長時間変動成分の
偏光フラックス(推定値)
長時間変動成分の
偏光方位角(推定値)
最近のトピックス:偏光ベクトルの回転
 Marsher et al. (2008) Nature
ブレーザーの偏光の挙動は何故
「めちゃくちゃ」なのか?
 偏光パラメータと光度or色など
との相関関係




だいたいは明らかな相関なし、とされる
Moore et al. (1982), Jones et al. (1985, 1988),
その他たくさん
「QU平面上をランダムに動く」とされ
る
“erratic” variation
 広島大学「かなた」望遠鏡によ
るブレーザーの集中観測(先の
池尻の講演)


研究史上最大規模のサンプル数×情報量
やっぱり「めちゃくちゃ」
 「めちゃくちゃ」な中に系統的
に変動する成分が隠れていない
か?
BL Lacの1週間のQU平面上での動き
(Moore et al. 1982)