参考例題(3-3) 洪水調節後水位低下時のゲート操作の実際

参考例題(3-3)
洪水調節後水位低下時のゲート操作の実際
ダム操作規則には、洪水調節後に水位が制限水位または常時満水位を超えているときは、
速やかに水位をこれらの水位に低下させるために放流を行うことが規定されます。
この規定の「速やかに」のみに着目すれば、放流量を計画最大放流量とし、水位がこれ
らの水位まで低下した時点で、ゲートを瞬間的に所定のゲート開度まで閉操作することが
できれば、この要求を実現することが可能になります。しかし、規定では、放流量は洪水
調節時の最大放流量を限度とすること、および放流量の減少の方法が下流に急激な水位の
変動を生じないように行うことが付帯条件とされます。
通常は、貯水位が最高となった時の放流量が洪水調節時の最大放流量となりますが、洪
水調節の方法が特殊ですと洪水調節途中で最大放流量が生ずる場合があります。この場合
には、規定の「速やかに」を実現するためには、水位低下時に放流量を増加させることが
必要となります。しかし、この必要となる放流量を増加させる方法については、現行の「放
流の原則」には規定が示されていませんので、下流に支障を及ぼさない限度について、ダ
ム毎に考えることが必要になります。
ここでは、前述の通常の事例のみを取り扱います。
付帯条件である放流量の減少の方法については、放流量が無害流量(洪水調節開始流量)
を超える場合は、下流に支障を及ぼさない限度をダム毎に検討して求め、この基準値を予
め準備しておく必要があります。
放流量が無害流量より小さい場合については、放流量の増加の方法の基準を準用するこ
とが標準設計仕様には示されますが、増加と減少とでは規制の主旨が全く異なりますから、
これもダム毎に独自に検討しておく必要があります。
ここでは、これらの付帯条件が与えられていることを前提として、洪水調節後のゲート
操作の実際を考えることとします。
ここで取り扱う手法の基本は、現行の水位偏差方式で行う定水位制御の水位ステップ幅
とこれに基づく水位偏差を用いて行う手法と同じ方法を流量と水位の両者に適用して行う
方法と言うことができます。
流量についてはステップ幅をΔQs とし、無害流量( Qn )以下についてはΔQsn 、それ以上
についてはΔQsf として、それぞれ一定の値とします。
水位の場合の水位偏差に対応する値を、ここでは流量ステップ Qs と呼び、次式を用いて
算出します。
無害流量以下
Qs = int ( Q ΔQsn + 0.5 )
それ以上
Qs = int ( ( Q + Cq ) ΔQsf + 0.5 )
ここに、int は整数演算子であり、Cq は無害流量前後においてステップ値を滑らかに連続
させるために導入された定数で、次式を満たす値として得られます。
参考例題(3-3) 1/4
Qn
Qn + Cq
=
より、
ΔQsn
ΔQsf
⎛ ΔQsf
⎞
Cq = ⎜
− 1 ⎟ Qn
⎝ ΔQsn
⎠
次に、水位については、現行の水位偏差方式による定水位制御と同様に制限水位もしく
は常時満水位を基準水位と呼び、これより操作水位幅をとった低い水位を開始水位とし、
この開始水位を基準面とする水位をここで用いる水位( H r )と定義します。
水位のステップ幅ΔH rs(現行はΔhs )は、定水位制御で用いるΔH rsn と水位低下時に使用
するΔH rsf の 2 種とします。
この水位低下時のステップ幅ΔH rsf については、ここでは一定値とする場合と可変とする
場合の 2 つの方法について考えます。
ΔH rsf を一定値とする場合の水位ステップ H rs は次式で算出されます。
定水位制御時
H rs = int ( H r ΔH rsn + 0.5 )
水位低下時
H rs = int { ( H r + Ch ) ΔH rsf + 0.5 }
ここに、 Ch は定数で、水位が基準水位( H r = H ro )である場合、両者が等しくなることを
条件として次式で得られます。
H ro
H ro + Ch
=
より、
ΔH rsn
ΔH rsf
⎛ ΔH rsf
⎞
Ch = ⎜
− 1 ⎟ H ro
⎝ ΔH rsn
⎠
洪水調節後水位低下時のゲート操作のための目標放流量( Qob )は、目標放流量ステップ
( Qobs )として次式で与えられます。
Qobs = Qis + H rs
ここに、 Qis は流量 Q として流入量 Qi を与えて得られる流入量ステップ値です。
なお、この目標放流量ステップ Qobs より目標放流量 Qob は次のように得られます。
無害流量 Qn のステップ値を Qns として、
Qobs > Qns では、 Qob = QobsΔQsf − Cq
Qobs ≦ Qns では、 Qob = QobsΔQsn
と算出されます。
なお、放流量 Qo を与えて得られる放流量ステップ値を Qos とし、最大放流量 Qom を与えて
得られるステップ値を Qoms とします。
水位低下時の水位ステップ幅ΔH rsf を一定値とする場合の水位低下過程は、次の 5 つの段
階に区分できます。
第 1 段階:洪水調節時の放流量を継続させる定量放流、あるいは洪水調節時のゲート開度
を継続させる定開度放流を行う段階
いずれを行うかは操作員の選択によります。定量放流では、目標放流量ステップ Qobs が
洪水調節時の最大放流量ステップ Qoms より大きいこと( Qobs > Qoms )が要件で、この場合
には Qobs = Qoms として、水位の低下による放流量の減少を補正するゲートの開操作が必要
参考例題(3-3) 2/4
になります。なお、定量放流であっても Qobs と Qoms の差が小さくなった場合には開度を一
定に保つ放流に移行させることとします。
定開度放流では、Qobs > Qos が要件で、この場合には Qobs = Qos として定開度を継続します。
第 2 段階:放流量を減少させて無害流量に達するまでの段階
ゲートの閉操作を行い、放流量を無害流量まで減少させます。ただし、第 1 段階で定開
度放流を行う場合には、第 1 段階で無害流量まで減少することがあり、第 2 段階を経ない
場合も生じます。
第 3 段階:無害流量に達した時点のゲート開度を維持する定開度放流を行う段階
この段階で水位ステップ幅ΔH s を水位低下時のΔH rsf から定水位制御時のΔH rsn に切り
替えます。その結果、目標放流量ステップ Qobs は、当然 Qobs > Qos となります。したがっ
て、この状態が継続する間は、ゲート開度を一定に保つ定開度放流を行います。
なお、水位低下時と定水位制御時の水位ステップ幅が等しい場合には、この段階を経るこ
とはありません。
第 4 段階:水位が基準水位に低下するまでの段階
目標放流量ステップを Qobs として、ゲートの閉操作を主とする水位低下のためのゲート
操作を行います。なお、この段階での目標放流量ステップの上限は無害流量ステップとな
ります。
第 5 段階:水位も基準水位以下まで低下したことにより、洪水調節後の水位低下のための
ゲート操作は終了し、通常の定水位制御を行う段階。
したがって、この段階は、洪水調節後の水位低下時のゲート操作には含まれません。
洪水調節後水位低下時の水位ステップ幅ΔH rsf を一定とする場合には、水位低下はこの過
程を経ることになります。
次に、水位低下時の水位ステップ幅ΔH rsf を可変とする場合について考えてみます。
ここで、貯留方程式 Qi − Qo = Ar dH dt について、湛水面積 Ar を一定と仮定して時間 t で
微分すれば、次式が得られます。
d ( Qi − Qo
)
dt = Ar d 2 H dt 2
ここでは、この関係式に着目して、水位ステップ幅ΔH s について次式を考えます。
ΔH rsf − ΔH rsn
Qo − Qon
= Cs
Δt
Ar
ここに、 Cs は所与の係数で、Δt 時間の水位変化量に対する比例係数と考えることができま
す。Δt は操作間隔で、ここではΔt =600sec とします。
ΔH s の単位を cm、 Q を m3/s、Δt を sec、 Ar を m2 としますと、 Cs は無次元ですから、水
位低下時の水位ステップ幅ΔH rsf の算定式は次のように与えられます。
ΔH rsf = 100C s
Δt
Ar
( Qo
− Qon ) + ΔH rsn
ΔH rsf を上式で与えますと、水位ステップ幅は水位低下時から定水位制御時まで不連続とな
参考例題(3-3) 3/4
ることはありませんから、前述の第 3 段階となることはなく、第 2 段階から第 4 段階に直
ちに移行することになります。
添付のプログラムは、これらに具体的に数値を与えて、洪水調節後の水位低下時のゲー
ト操作を再現するプログラムです。
使用する放流設備は、開始水位より 20m 低い位置に設置された放流管 4 条で、ゲートは
高さ 3.0m、幅 3.0m、出口断面積は 9m2 です。
前述の例題で用いたゲート開度ステップ Gs は開度 250cm までは 10cm 間隔、それ以上は
9cm 間隔で、流水制御における全開は高さ 3.0m より 5cm 低い開度 295cm としています。
したがって、ゲート開度ステップ Gs は Gs =0 が全門全閉、 Gs =120 が全門全開(開度
295cm)となります。
この放流管部分開放時の流量係数は、実ダムの実験結果を変換して用いています。
ΔQsf =5m3/s としています。
無害流量 Qon は 200m3/s とし、流量ステップ幅はΔQsn =2m3/s、
したがって、 Cq の値は 300m3/s となります。
水位ステップ幅は、定水位制御時はΔH rsn =2cm とし、水位低下時のΔH rsf についてはそ
れぞれ 3 種の値を自動的に設定することとしています。
再現実験では、洪水調節時の最大放流量(m3/s)、 Cs の値と湛水面積( Ar = A + B ⋅ H r )
算定式の A (m2)と B (m2/cm)の値を入力してください。
最大放流量は、無害流量を 200m3/s としていますから、300m3/s 以上で 800m3/s 程度以下
としてください。
最大放流量をこれ以上としますと、定量放流の途中で全開となることがあります。
再現実験は、入力された湛水面積の場合と、この 1/2 の場合、及び 1/4 の場合の 3 ケース
について、それぞれ定量放流と定開度放流の 2 種、全 6 ケースについて行います。
再現実験の結果は、水位ステップ幅 ΔH rsf ごとに表にまとめて示されます。表中、
f { Ar ( H r ) , Qo } かΔH rsf が可変の場合です。実験結果は次の項目について示されます。
(1) Time (min)( H r ) :水位が基準水位に低下するまでに要した時間(分)
( )内はゲートの閉操作を行った時間(分)
(2) Time (min)( Qo ) :流量が無害流量に減少するまでに要した時間(分)
( )内はゲートの閉操作を行った時間(分)
(3) H r (cm) & Gs ( G ):定量もしくは定開度放流からゲートの閉操作を開始した時の水位(cm)
( )内はその時のゲート開度ステップ
(4) dGs & dQo (max):ゲートの閉操作で生じた 10 分間で最大のステップの減少値
( )内は 10 分間で生じた最大の流量減(m3/s)
(5) H r (cm) & Gs (b) :流量が無害流量に達した時の水位(cm)
( )内はその時のゲート開度ステップ
この再現実験の結果より、水位ステップ幅ΔH rsf あるいは可変とする場合の Cs の値と dGs 、
dQo の関係を整理すれば、採用できる方法を設定することができます。
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