注意すべき感染症と その対策 感染症の成立 よく問題となる感染症 <接触感染>*経口感染も含む 感染性胃腸炎(ノロウイルス、腸管出血性大腸菌等) 疥癬 MRSA <飛沫感染> インフルエンザ <空気感染> 結核 <血液を介した感染> HBV・HCV HIV 総合的な感染予防策 感染予防策の基本は標準予防策の徹底です! 接触予防策 飛沫予防策 標準予防策 空気予防策 標準予防策とは? すべての目視できる湿性の血液、体液、分泌物、創 傷のある皮膚・粘膜等は、感染の可能性があるもの として取り扱う。 具体的には・・・ 必要に応じ、手洗い・手袋・ガウン・マスク・ゴーグ ルの着用、針刺し事故防止対策、感染性リネン・感 染性廃棄物等の取り扱いをすべての対象者にすべ ての職員が適正に行う。 すべての湿性生体物質は感染性あり 血液 体液 HIV、B・C型肝炎ウイルスなど 喀痰 結核菌、インフルエンザウイルスなど 便 O157, ノロウイルスなど 膿 MRSA、緑膿菌など 尿 大腸菌、緑膿菌など 標準予防策の基本 日常及び定期的な清掃 手洗い/手指衛生の励行と手袋の着用 呼吸器の防護:マスクの着用 眼の防護:フェースシールド、ゴーグルの着用 ガウンや防護服、キャップの着用 ケアに用いられる器具 リネンや洗濯物の管理 皿、コップ、グラス、その他の食器の管理 手指衛生 「1ケア1手洗い」、「ケア前後の手洗い」 目的 ・患者を医療・介護従事者の手指を介した感染から守る。 ・医療・介護従事者を未同定の病原体から守る。 手指衛生 ・手洗い:普通石けんと流水による物理的な手洗い ・手指消毒:手指洗浄消毒液と流水で洗浄消毒する ことまたは、擦式手指消毒薬で消毒すること 手洗いと手指消毒の比較 手洗い方法 流水と石けん* 擦式消毒法 洗浄消毒法 洗浄消毒剤 界面活性剤 アルコール+消毒 剤 界面活性剤+消毒 剤 除菌又は殺菌機序 物理的洗浄 消毒剤の殺菌効果 物理的洗浄と消毒 剤による殺菌効果 汚れ・有機物の除 去 可能 不可能 可能 通過菌 物理的除去 殺菌作用 物理的除去と殺菌 作用 常在菌 除去されない 一部殺菌される 一部殺菌される *石けん:医薬部外品の薬用石けんや薬用ハンドソープを含む。 親指のまわり、指先、指のあいだは要注意! 日本環境感染学会監修 病院感染マニュアル(2001) 手洗いの順序 ① ② ③ 手掌を合わせて良く洗う 手掌で手の甲を洗う 指先・爪の間を入念に洗う ④ ⑤ ⑥ 指の間を入念に洗う 親指と手掌のねじり洗いを する 手首も忘れずに洗う 速乾性すり込み式手指消毒剤の正しい使用法 手が有機物で汚染されていない状態で使用する。原 則として、液体石けんと流水による手洗いの後、手 を十分に乾燥させた後に使用する。 十分な量(約3mL)を取り、摩擦熱が出るまでよくす り込む。 主な速乾性すり込み式手指消毒剤 主な販売名 ウェルパス 消毒剤 0.2%塩化ベンザルコニウムと消毒用エタノール ヒビソフト 0.2%グルコン酸クロルヘキシジンと消毒用エタノール イソジンパーム 0.5%ポピドンヨードと消毒用エタノール 手袋の使用と交換の目安 処置など 採血時 注射時 普通シリンジ+スピッツ管 必要 必ずしも必 要でない ○ 交換の目安 汚染時等 真空採血管へ直接 ○ - 通常の筋注・静注 ○ - エラスタ針・サーフロ針等 ○ 患者ごと 創の処置 ○ 患者ごと 口腔ケア・吸引 ○ 患者ごと 失禁患者の清拭 ○ 患者ごと 排便の 介助 ささえるだけ 排泄物に触れる可能性があるとき ○ - ○ 1回ごと 採尿パックの取り扱い ○ 1回ごと 清掃時、こぼれた血液・体液・排泄物の取り扱い ○ 清掃ごと ケア時の手袋の交換タイミング 原則は介護時、対象者ごとに交換する。 血液・体液・排泄物が付着し、他の部位を汚 染させる可能性があるときは処置ごとに交換 する。 処置中に手袋の破損に気づいたら交換する。 長時間使用し、手に汗をかいたときに交換す る。 手袋を外した後にも手を洗うのはなぜ? 汗をかいて、手袋内で微生物が増殖している 可能性がある。 手袋にピンホールがある可能性がある。 手袋を外すときに血液・体液・排泄物が手に つく可能性がある。 ノロウイルス <特徴> 幅広い年齢層に、感染性胃腸炎を起こすウイルス 年間を通じて発生するが、特に冬季に多発 10~100個という少量で感染が起こる。 (患者の便や嘔吐物には1グラムあたり100万か ら10億個もの大量のウイルスが含まれる。) ノロウイルスの流行 地方衛生研究所でノロウイルスが原因と確認されたもの 昨冬流行のノロ、新型ウイルス…国立感染症研究所 (2007年9月12日 読売新聞) 昨冬、全国で猛威をふるったノロウイルスは、過去に流行したタ イプに比べ、外殻の構造が大きく変化した新型ウイルスだったこ とを、国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターが突き 止めた。形を変えることで、同センターは「大流行の一因になった 可能性がある」としている。ノロウイルスは「G1」と「G2」に大別さ れ、さらに細かい型が30以上ある。2006年以降は、このうち「G 24」が流行の中心になっている。同センターは、昨年5月から今 年1月にかけて各地の地方衛生研究所が患者から採取したG24 のウイルス37株の遺伝子配列を詳細に解析した。その結果、同 じG24でも、国内で過去に検出報告があったタイプは1株だけ。 残りは、欧州や香港などで日本よりやや早くから流行していた 「ヨーロッパ2006b」が33株、「ヨーロッパ2006a」が3株だった。 「2006b」の外殻を作るたんぱく質の立体構造をコンピューター で推定すると、過去の流行株とは大幅に変わっていた。 ノロウイルスの感染経路 ① ノロウイルスを含有したカキなどの二枚貝を、十分 に加熱しないで食べることにより感染する。 ② ノロウイルスに感染した人が、十分に手洗いを行 わずウイルスが手についたまま調理をすると、食 品が汚染され、その食品を食べることにより感染 する。 ③ ノロウイルスに感染した人の便や嘔吐物を処理し た後、手についたウイルスや、不適切な処理で 残ったウイルスが、口から取り込まれ感染する。 ノロウイルスの感染サイクル 塵埃感染(dust infection)の可能性 1998年12月、あるレストランで発生した感染性胃 腸炎の集団発生。食事をしている一人がテーブルで 嘔吐し、同日同所で食事をしていた人126人中52 人が48時間以内に発症。嘔吐した人から離れた テーブルでも感染者が出ている一方、同じレストラン の別の部屋(区分けされた)で同じ日に食事をした 人は全く発症しなかった。嘔吐した人からかなり遠く に座っていた人も感染したこと、嘔吐した客が座って いた場所は他の利用客の動線上にはないこと、な どから、空気感染の経路が伝播経路として最も相応 しいことを示唆する。 Marks PJ らによる報告 ノロウイルス感染症の症状 潜伏期:24~48時間 症状:下痢、吐き気、嘔吐、腹痛、発熱などで、通常 3日以内に回復するが、ウイルスは感染してから1 週間程度(長い場合は1ヶ月)便中に排泄される。 *高齢者では、吐物が誤って気管に入り誤嚥性肺炎 を起こしたり、のどに詰まって窒息することがある。 *感染しても症状が出ない人もいるが、便中にはウイ ルスが排泄されている。 ノロウイルスの消毒方法 ① 他の微生物などと比べると熱に強く、85℃ で1分以上の加熱が必要。 ② 逆性石けん、アルコールの消毒効果は十分 ではない。塩素系漂白剤の次亜塩素酸ナト リウムは効果がある。 平常時のノロウイルス対策 標準予防策の実施! *正しい手洗いの実行が大切 (手袋を脱いだ後の手洗いも忘れずに) *入所者(通所者)の便や嘔吐物などを処理する ときは、使い捨て手袋を着用することが必要。 おむつの処理の場合も同様。手袋のほか、予 防衣、マスクをつける。 ノロウイルスへ発生時の対応 原則個室管理だが、同病者の集団隔離も検討。 次亜塩素酸ナトリウムを用いた消毒の徹底。 入所者・職員の健康管理。 保健所・医療機関への相談、対応検討。 リネン類を介した感染の防止。 面会者の制限。 入所者・家族への情報提供。 *どれだけ早く発見できるかが鍵。 日常の入所者・職員の健康管理の徹底を。 ノロウイルスは、少量でも発症するので排泄物 や嘔吐物は迅速かつ確実に処理してください! 排泄物や嘔吐物が付着した床、衣類、トイレなどを消毒する場合 ①感染しないよう、使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用する。 ②使い捨ての布等を使用し、0.1%次亜塩素酸ナトリウムで浸す ように拭く。 ③使用した布等は床に置かず、すぐにビニール袋に密閉して処分 する。 ④処置後、手袋を外して手洗いをおこなう。 直接手が触れる手すりやトイレのドアノブ等を消毒する場合 0.02%次亜塩素酸ナトリウム消毒液で清拭。 モニタリングの重要性 行政への報告 <報告が必要な場合> ア、 同一の感染症や食中毒による、またはそれらが 疑われる死亡者・重篤患者が1週間以内に2名以 上発生した場合。 イ、 同一の感染症や食中毒の患者、またはそれらが 疑われる者が10名以上又は全利用者の半数以上 発生した場合*。 *累積ではない。 ウ、 通常の発生動向を上回る感染症等の発生が疑 われ、特に施設長が報告を必要と認めた場合 厚生労働省通知 「社会福祉施設等における感染症等発生時に関わる報告について」 インフルエンザ (感染経路) 主に飛沫感染 (流行時期) 例年12月~3月下旬 (潜伏期間) 通常1~3日 (症状) 急激な発熱で発症。 呼吸器症状に加え、全身症状も強い。 (診断) 迅速診断キットが普及 (治療) 抗インフルエンザウイルス薬 (予防) ワクチンの接種 飛沫感染と飛沫核感染(空気感染) 飛沫感染 飛沫感染の原因となる粒子が5マイクロメートル以上と大きく 重い微粒子で、3feet(約1m)未満までしか到達しないものを いう。咳やくしゃみで放出された体液の飛沫が病原体を含ん でいて、これが他人の粘膜に付着することで感染が成立す る。インフルエンザ等がこの形式をとる。 飛沫核感染(空気感染) 飛沫として空気中に飛散した病原体が、空気中で飛沫の水 分が蒸発して5マイクロメートル以下の軽い微粒子(飛沫核) となっても病原性を保ったまま、単体で3feet以上浮遊するも の。 麻疹・結核等がこの形式で伝染する。 飛沫と飛沫核 飛沫 直径5μm以上 ● 水分 蒸発 飛沫核 直径5μm以下 ● 飛沫感染と飛沫核感染(空気感染) 飛沫 水分 サージカルマスク 飛沫核 N95マスク 咳、くしゃみ、会話に含まれる飛沫量 くしゃみ 1,940,000 個 咳 900,765 個1 5分間の会話でも、咳と同じ程度の飛沫を発 生させる。2 1Gerone PJ et al. Bacteriol Rev 1966;30:576-88 (taken from Viral Infections of Humans, and numbers in text were possibly wrong, but they make the point) 2Bates JH, Stead WW. Med Clin NA 1993;77:2105-17. インフルエンザ流行曲線 小児と高齢者への影響(インフルエンザ) 高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果 60 49.6 50 40 32.6 ワクチン接種 未接種 30 20 9.8 4.7 10 0 37.5度以上 死亡者数 65歳以上、および60-64歳で基礎疾患のある人は、 予防接種法による定期接種の対象 インフルエンザへの対応 【平常時の対応】 インフルエンザウイルスは感染力が非常に強いこ とから、できるだけウイルスが施設内に持ち込まれ ないようにすることが基本 *施設従事者が最も施設にウイルスを持ち込む可 能性が高い集団であり、かつ、高危険群にも密接に 接する集団であることを認識する インフルエンザ対策 【ウイルス施設内への持ち込み防止のポイント】 入所者・通所者の健康状態の把握 入所者・通所者へのワクチン接種及び一般的な予 防の実態 施設に出入りするヒトの把握と健康管理 施設の衛生の確保、加湿器等の整備 「インフルエンザ施設内感染予防の手引き」より *地域におけるインフルエンザ流行状況の把握を。 インフルエンザへの対応 【発生時の対応】 ① 原則個室管理。同病者の集団隔離とする場合も。 ② 隔離できないときは、ベッド間隔を2m以上あける。 カーテンなどの障壁 ③ 特殊な空調は必要ない。 ④ ケア時はマスク(外科用)を着用する。 ⑤ 手洗い・うがいの徹底。 *患者が高齢者等の高危険群である場合、肺炎等を合併した場合、 重症化する可能性があるので、施設内での治療とともに、状況に 応じて医療機関への入院も検討する。(関連医療機関の確保) 結核について 結核菌を吸い込む ことによってうつる 感染症 ・表面はロウ状の物質でできた 丈夫な膜で覆われている ・発育が遅い 1回の分裂に10~15時間かか る ・直射日光には弱いが、冷暗所で は3~4か月生存可能 0.3~0.6μm 1~4μm 結核菌 感染経路:空気感染(飛沫核感染) 感染予防上、問題となるのは肺結核が主。 症状 ①呼吸器症状:咳と痰、時に血痰 ②全身症状:発熱(微熱)、体重減少、倦怠感 *高齢者では、全身の衰弱、食欲不振などの症状 が主となり、呼吸器症状を示さない場合も多い。 *高齢者では過去に結核にかかったことがある者が、 結核を発病するケースが目立つ。 (体力・免疫力の低下による) 結核の世界と日本の状況 【世界の状況】 約20億人が感染 毎年880万人が新たに発症 【日本の状況】 日本は中蔓延国 (わが国最大の感染症) 全国 新規登録者(H17) 28,319人 福岡県 新規登録者(H17) 1,123人 ※原因のひとつとして結核は過去の病気と思いこみ症状が現れても 本人も医師も気づかず受診や診断が遅れるケースが多いためです。 結核登録者の年齢構成(管内の状況) 6% 12% 34% 24% 24% 30~39歳 50~59歳 60~69歳 70~79歳 80歳以上 H17 朝倉保健福祉事務所 感染と発病の違い *感染しても必ず発病するものではない。 結核菌に暴露 (200人) 非感染 (100人) ツベルクリン反応:感染の予測 胸部レントゲン:発病の有無の確認 感染 (100人) 非発病 (95人) 一次結核 晩期発病 (5人) 二次結核 発病 (5人) 一次結核(ほとんどが2年以内) <ある200人の群が結核菌に暴露した後にたどる経過の1例> 予防対策(皆さんができること) 感染源を見逃さない。 ・早期に結核を疑うことができるかが鍵 採用時健診・定期健康診断の徹底 (胸部X線検査、ツベルクリン反応) ・感染源にならないように ・接触者となった場合の的確な感染者の把握 感染対策委員会の設置。啓発教育。 結核菌感染症への対応 【平常時の対応】 ・対象者が結核でないことを確認する。年に1度は、 胸部レントゲン検査を行って、結核に感染していな いことを確認する。 【発生時の対応】 ・ 診断した医師は直ちに保健所へ届け出。 ・ 排菌者は、結核専門医療機関への入院が必要。 ・ 患者にはサージカルマスク、職員はN95マスクの 着用が必要。(個室へ隔離) * 保健所等からの指示に従った対応 結核を発病しやすい人 ★糖尿病の人 ★胃切除をした人 ★副腎皮質ホルモン剤の治療を受けている人 ★最近、感染を受けた人 ★人工透析を受けている人 ★悪性腫瘍がある人 「結核」を知ることが予防への第一歩です あと・・・ BCG予防接種は一生に一回だけの機会です。 生後6ヶ月までに受けさせましょう。 結核と感染症法 結核は2類感染症に分類(第6条) 診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長を経由して都道 府県知事へ届け出る(第12条) 勧告入院(第19条・20条) 入院患者(勧告・措置)の医療(第37条) 結核患者の医療(第37条の2) 病院の管理者は、結核患者が入院もしくは退院した場合に は7日以内に最寄りの保健所長に届け出る(第53条の11) 接触者検診(第17条) など 接触者検診 (ツベルクリン反応と胸部X線写真) 自覚症状発症から受診までの期間が長い排菌患者は、 周囲へ感染させた危険性が高い。 感染危険度数=最大ガフキー号数×咳の持続期間(月) 10以上:最重要 0.1~9.9:重要 0及び肺外結核:その他 *ランク、接触の程度、年齢等に応じた対応を保健所で検討 予防内服について ・結核に感染した者に対して、発病を防止する目的で抗 結核薬(通常INH単独投与)投与すること。 ・感染が明らかな者にINHを投与すると、投与中のみな らず、その後も結核発病を1/2~1/5程度に抑えること ができる。 QFT検査について (ツベルクリン反応の問題点) BCGや非結核性抗酸菌に含まれる抗原を含む ため、BCG接種や非結核性抗酸菌によっても陽性 となり、特異度が低い。 (QFT検査) ・結核菌には存在し、BCGには存在しない結核特異 抗原のESAT-6とCFP-10を用いた診断キット。 ・採取した血液にESAT-6とCFP-10などを添加し、 一晩培養した後、免疫細胞から産生されたIFN-γを 測定する。 BCGの影響を受けない
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