学校における感染症の予防 2014年6月6日 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 微生物学分野 (鹿児島大学病院感染制御部門) 西 順一郎 1 アウトライン • • • • インフルエンザ 嘔吐下痢症 麻疹、風疹、結核、HBV 感染症予防の基本 子どもたちの感染を防ぐ みなさん(教職員)の感染を防ぐ インフルエンザA型 臨床症状 ウイルス排出量 発熱 ボランティアの感染実験 ウイルス排出は発症1日前から7日後 Carrat F, et al. Am J Epidemiol. 2008;167(7):775-85 3 インフルエンザウイルス感染症 高熱、咽頭痛、咳、 鼻汁、頭痛、筋肉痛、 関節痛、強い全身倦 怠感 日ごろの対策手指衛生 手洗い、マスク 咳エチケット 多い インフルエンザ 普通のかぜ様の軽症者 不顕性感染 病原体診断ではなく症状をもとにした予防策が重要 近距離の浮遊粒子感染 • 大飛沫が直接気道に入る可能性は低い – 小児ではよく起こる • 浮遊するエアロゾル粒子を吸入 • 遠距離ではおこらない 西村秀一先生 国立病院機構仙台医療センター 西村秀一 日本医事新報 4477:102-103, 2010 西村秀一 矯正医学 60:46-71, 2012 5 インフルエンザウイルスの感染経路 空気感染 近距離の浮遊粒子感染 飛沫感染 接触感染 西村秀一 日本医事新報 4477:102-103, 2010 6 近距離の浮遊粒子感染とマスク すきまからエアロゾル を吸入してしまう マスクを過信しない しっかりと着用する 7 マスク • 症状のある人のマスク着用は推奨される • 感染していない健康な人が、不織布製マスク で飛沫を完全に吸い込まないようにすること はできない(→守りに弱い) • マスクを過信しない • 使用する場合は、すきまがないようしっかりと 着用することが重要 • 常時着用の意義は疑問 – めりはりのある着用を 新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方 新型インフルエンザ専門家会議 平成20年11月20日 8 インフルエンザウイルスの環境中での生存時間 エンベロープ+ 環境 環境表面での生存時間 手を介して伝播する時間 表面平滑で堅いもの 24-48時間 2-8時間 表面が粗いもの <8-12時間 数分間 手の表面上での生存時間は5分間 接触感染の可能性は少ない 環境に触れてすぐに 口や鼻に手をやらない Bean B, et al. J Infect Dis. 1982 Jul;146(1):47-51. 9 インフルエンザウイルスの感染経路の遮断 予防法 距離 隔離(ケアする場合は無理) 咳エチケット 咳のある人のマスク着用が有用 予防用マスク 守りに弱い、めりはりのある使用を 環境消毒 手指衛生 高頻度接触表面の清掃・アルコール消毒 うがい 日本の風習、感冒予防のエビデンスあり、インフル エンザでは? 湿度 (50%程度) 超音波式加湿器のリスク(微生物噴出)、フィルター 気化式ではフィルタ-、蒸気式では水槽の管理 空気清浄器 HEPAフィルターは有効、プラズマクラスターイオン、 ナノイー、フラッシュ・ストリーマなど新技術は無効 普通感冒を予防(ライノウイルスはエンベロープな し)、途上国では肺炎予防効果 インフルエンザの出席停止期間 • 発症した後5日,かつ解熱した後2日(幼児は 3日)を経過するまで – 抗インフルエンザ薬で早く解熱しても登校しない 0 1 2 3 4 5 6 発熱 解熱 解熱 • 感染力は症状に依存する – 咳が激しい場合は周囲に広げやすい 7 インフルエンザ迅速検査 • 発症初期には陰性になることがある • 陰性でもウイルスがいないとは限らない – 迅速診断キットを過信しない • 状況から検査は不必要な場合もある • 「すぐに病院へ行って検査を」という指示は医 療の混乱を招く • インフルエンザは基本的に自然に治る病気 インフルエンザ迅速抗原検査の感度 H1N1pdm クイックナビ-Flu(デンカ生研) PCRとの比較 100% 90% 80% 86% 70% 60% 50% 67% 75% 38/44 6-12h 12-24h 92% 12/13 6/8 10/15 40% 30% 20% 10% 0% <6h 24-48h 三田村敬子他 インフルエンザ 11(3):245-252, 2010 13 ノイラミニダーゼ阻害薬 オセルタミビル(タミフル)内服 1日2回5日間 ザナミビル(リレンザ)吸入 1日2回5日間 ラニナミビル(イナビル)吸入1回 ペラミミビル(ラピアクタ)注射 1日1回1~2日間 ノイラミニダーゼの作用 ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル)+ 畠山修司ほか:化学療法の領域21(12), 1721-1728, 2005 ウイルスをすぐに消滅させる薬ではない。 15 インフルエンザワクチンの効果 対象 結果指標 有効率(%) 相対危険 乳幼児 発病 50~70 0.3~0.5 学童 発病 60~80 0.2~0.4 65歳未満健常者 発病 70~90 0.1~0.3 老人施設入所者 発病 30~40 0.6~0.7 死亡 80 0.2 有効率70%とは 接種群 3% 30% 非接種群 70% 10% 発病者 (Hirota Y, et al. Int J Epidemiol 1992;21:574-582) (Sugaya N. et al. JAMA 1994;272:1122-6) 16 (CDC:MMWR, 2006;55(RR-10):1-42) インフルエンザワクチン学童集団接種と超過死亡 高齢者 Reichert TA, et al. N Engl J Med. 2001;344(12):889-96. 幼児(1~4歳) Sugaya N, et al. Clin Infect Dis. 2005;41(7):939-4717 総合的なリスク軽減を イ ン フ ル エ ン ザ ウ イ ル ス 咳エチケット ワクチン 手洗い マスク うがい 抗ウイル 消毒 ス薬 18 さまざまな診断名 感染性(胃)腸炎 (流行性)嘔吐下痢症 ウイルス性下痢症 ノロウイルス ロタウイルス 細菌性腸炎 カンピロバクター、サルモネラ 腸管出血性大腸菌 19 流行性嘔吐下痢症 • • • • • • ノロウイルス サポウイルス ロタウイルス アデノウイルス エンテロウイルス アストロウイルス 迅速検査は3歳未満・高齢者のみ 11月~2月ごろ成人とともに流行 1月~5月に乳幼児に流行 迅速検査、ワクチン 原因ウイルスは1種類だけではない。 迅速検査陰性でも否定はできない 病原体の名前にこだわるよりも症状に応じた対策を 20 ノロウイルス エンベロープがないので アルコールが効きにくい エンベロープ(脂質二重層) アルコールが分解 流水と石けんによる手洗い 次亜塩素酸による環境消毒 インフルエンザウイルス 潜伏期:12~48時間 接触感染 感染期間:急性期と下痢消失2~3日後、ウイルス排泄は約4週間 21 環境の汚染 7日間生存 D'Souza DH, et al. Int J Food Microbiol. 2006;108(1):84-91 職員用エレベーターのボタン トイレの手すり ベッド柵 食堂のテーブル Wu HM, et al. Infect Control Hosp Epidemiol. 2005;26(10):802-10. 改訂ノロウイルス現場対 策 丸山務、幸書房 22 嘔吐物の処理が重要 手袋をはずしたあと、 流水と石鹸で手洗い。 紙で外から内に向け静かに拭き、汚物はビニール袋に入れる。 汚染区域全体を0.05-0.1%次亜塩素酸でふきとり消毒する。 次亜塩素酸の保存期間:0.1%では14日間、それ未満では1日 23 下痢症の訴えのない従業員からノロウイルスを検出 従業者1名からノロウイルス 手袋せず配送準備 症状の訴えなし トイレのスリッパおよび従業者 3/16名からノロウイルス 症状の訴えなし 24 ノロウイルスの生活環 ふん便、吐物1g中に 100万個~10億個 カキは1時間に10L以上 の海水を取り込む 消化管(中腸腺)に蓄積 4年間の検出率4~33%(19%) (大阪市国産生食用パックカキ) (三重県伊勢保健所) 残留塩素1ppm (ノロウイルスは生存) 合流式では大雨後 直接糞便が海へ 分流式 (鹿児島市水道局) 25 麻疹は空気感染 ワクチン未接種者 2回目の接種が必要 一次性ワクチン不全 抗体上昇がみられない 5% 2回目の接種が必要 上昇した抗体が減衰 二次性ワクチン不全 麻疹患者と接触がなく再刺激がなかったため 麻疹は1000人に1人が死亡する 乳幼児は肺炎、成人は脳炎 修飾麻疹 症状は軽いが感染力はある 26 2014年の麻疹報告数 27 2014年麻疹 都道府県別報告数 28 2014年麻疹 年齢別報告数 29 鹿児島県のMR(麻しん・風しん)ワクチン接種率 平成24年度 1期 (1歳~) 2期 (就学前) 3期 (中学1年) 4期 (高校3年) 全国平均 97.5% 93.7% 88.8% 83.2% 鹿児島県 94.9% (全国44位) 89.9% (全国47位) 80.3% (全国46位) 85.7% (全国30位) 鹿児島市 97.4% 88.0% 75.7% 86.1% (対象者数は10月1日時点で計算) 平成25年度(9月現在) 1期 (1歳~) 2期 (就学前) 全国平均 59.1% 鹿児島県 61.7% 国立感染症研究所HP 宮崎の麻疹アウトブレイク(2012年) 8/12~15 タイ旅行 女性中学校教諭(30歳代) 帰国後高熱と咳 8月28日始業式に出席 その後発疹みられ麻疹の診断 学校は臨時休校 8人すべて遺伝子型D8 文科省からの麻疹に関する通知(2012年9月19日) 国立感染症研究所 学校職員 ワクチン2回接種 もしくは抗体陽性の確認 風疹は飛沫感染 発熱 発疹 リンパ節の腫れ 不顕性感染40~50% 33 先天性風しん症候群 妊娠初期の感染で新生児に先天異常 妊娠1か月>50%、2か月20~30%、3か月5% 白内障、心疾患、難聴 子宮内発育遅延,網膜症,小頭症,髄膜炎,発達遅滞 感染症情報センターHP Wikipedia 34 先天性風しん症候群の報告数 母親の風しんワクチン接種歴 あり なし 不明 21% 母親の妊娠中の風しん罹患 あり なし 不明 19% 38% 13% 41% 68% 35 鹿児島県の妊婦の風疹抗体価 妊婦の38%は風疹ウイルスに感染し、 児が先天性風疹症候群になる可能性がある 鹿児島県感染症情報2014年4月 36 肺結核 • • • • 結核菌 排菌患者からの空気感染 感染から発病まで 数か月~数年 – 2年以内が80% • 2週間以上の咳、微熱、倦怠感、寝汗 • BCGを接種していても感染する 37 学校における結核集団感染 • 那覇の小学校で結核67人感染(2013/5/25) – 男子児童1人が2月25日医療機関で肺結核と診断 – 昨年6月、9~10月発熱と咳で複数の医療機関を受診し たが結核とは診断されなかった – 家族・親族5人、児童55人、教職員1人が感染 – 家族・親族3人、児童2人が発病 • 教諭の結核感染(2013/5) – 東京都葛飾区立小学校の男性教諭(27)が5月結核発症 – 児童・教職員・卒業生ら計約300人を対象に健康診断 – 教諭は3月中旬からせきがあり、症状が重くなったため5 月15日に医療機関を受診。17日に入院し、20日に確定 診断を受けた。「風邪だと思っていた」 38 三重大病院劇症肝炎事件 昭和62年7月(1987年) 4月から同病院で勤務 針刺し事故の報告はない HBV pre-core領域の変異 小児科に同じ変異型HBVを保 有する患児 Kosaka Y, et al. Gastroenterology. 1991;100(4):1087-94. 針刺し・切創による感染のリスク 感染リスク B型肝炎ウイルス C型肝炎ウイルス HIV 30% 3% 0.3% B型肝炎ウイルス • 血液だけでなく体液にもウイルスがいる • 傷のある皮膚や眼への暴露 • 性行為感染症-20歳代の発症 B型肝炎で性的接触を感染経路とする者の割合 尿 涙 唾液 汗 Komatsu H, et al. J Infect Dis. 2012; 206(4):478-85. B型肝炎ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版) 国立感染症研究所 41 感染と感染症 病原体 感染症 感 染 潜伏期 症状(程度はさまざま) 病原体の排泄期間 感染力の強い期間 =出席停止期間 42 感染症の流行の予防 環境 感染経路 発症者 曝露者 遮断 隔離 ワクチン 清掃 消毒 手洗い 予防具 距離 ワクチン 感染経路 空気感染 麻疹・水痘・結核 飛沫感染 接触感染 直接・間接 血液媒介感染 動物媒介感染 (B型・C型肝炎ウイルス、HIV) 44 学校における感染対策の基本 • 生徒・職員ともにワクチンによる免疫獲得 • 生徒・職員は食前とトイレでの手洗いを励行 • 処置の前後には、養護教諭は手指衛生(手洗い・手指 消毒)を行う • すべての人の血液・体液は病原体で汚染していると考 える • 血液・体液・粘膜・傷に触れるおそれのあるときには手 袋、マスク、エプロンを用いる • 咳エチケットを守る • 発熱、嘔吐、頻回の下痢、ひどい咳がある場合は登 校・出勤しない 45 職員の感染予防 • 結核 – 空気感染 – 年1回の胸部エックス線検査 • 麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜ – ワクチン2回接種または抗体の確認 • インフルエンザワクチン • B型肝炎ワクチン 学校管理者は職員の免疫状態を確認する責任がある 抗体検査・ワクチン費用の公的負担が必要
© Copyright 2024 ExpyDoc