職務発明に係る特許を受ける権利の承継の対価の準拠法

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職務発明に係る特許を受ける権利の承継
の対価の準拠法
北海道大学大学院法学研究科教授 田村善之
2005年9月16日
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1 準拠法に関する論点


第三者の発明の利用地に焦点を合わせ(属地主義),各
国毎に多元的に規律されるとするのか
(e.g. A 国での第三者の利用に対してはA 国特許法の職
務発明の規定により使用者が特許権者となり,B 国での
利用に対してはB 国法の規定により従業者が特許権者と
なる)
それとも, 使用者と従業者の労働関係の準拠法国の特許
法の職務発明の規定により一元的に処理すべきなのか
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2-1 裁判例~一元的な処理の例
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一元的な処理を追求する方向で一致
ただしいずれも傍論であったり, 直接, 相当の対価の請求を認めたも
のではなかった
東京高判平成6 ・7 ・20知裁集26巻2 号717 頁[FM信号復調装置Ⅰ2
審]
(最判平成7 ・1 ・24判例工業所有権法〔2 期版〕1278頁[同上告審]もこれを
維持 )
日本の企業内でなされた職務発明についての米国特許権の帰属を
定めるに際して,日本の特許法35条の趣旨解釈として,特許権の取
得後,使用者に譲渡する旨の黙示の合意の成立を否定
他には

大阪地判昭和59・4 ・26無体集16巻1 号282 頁

大阪地判昭和61・9 ・25判例工業所有権法2111の670 頁
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2-2 裁判例~多元的な処理の例
従来の裁判例の趨勢と異なり, 多元的に処理する例
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東京地判平成14・11・29判時1807号33頁[日立製作所]
職務発明に関し,外国における特許を受ける権利の帰属,
実施権の有無,権利譲渡の可否とその要件,対価の支払
義務等については,それぞれの国の特許法を準拠法とし
て定められるべきである旨を説き,外国の特許権の譲渡
に関する補償金の請求を退けた。
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2-3 近時の一元的な処理の裁判例
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
もっとも東京高判平成16・1 ・29判時1848号25頁[日立製
作所 2 審]は,「従業者と使用者の属する国の法律」によ
り一元的に処理すべきであるとして原判決を取消し,日
本の特許法35条を適用し補償金の請求を認容
その後の東京地判[味の素]も一元的処理
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2-4 裁判例~味の素事件(1)
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東京地判平成16・2・24判時1853号38頁[味の素]
・特許を受ける権利の「承継の効力発生要件や対抗要件の法律関係
の性質」
「承継の客体である特許を受ける権利」
これと最も密接な関係を有する「特許を受ける権利の準拠法」による
と解すべき
・承継についての「契約の成立や効力の法律関係の性質」
「契約」
これと最も密接な関係を有する「使用者と従業者の雇用契約の準拠
法」によると解すべき
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2-5 裁判例~味の素事件(2)
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そのうえで
「雇用契約の準拠法」は法例7 条によって決められる
本件では日本人である原告と日本法人である被告の意
思として日本法によるものと推認することができる
またかりに条理によるとしても,従業者である原告が労務
を供給し,使用者である被告が本社をおき,本件発明が
行われた日本である
しかも,いずれの準拠法選択をなしたとしても,絶対的強
行法規である労働法規に該当する特許法35条が適用さ
れる,と判示
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3ー1 裁判例の評価①
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職務発明に関する規律は各国で統一されているわけではない
前掲東京地判[日立製作所一審]に従えば,職務発明に関し出願し
た国毎に異なる法が適用されることになる
→ 当事者としては予測可能性を確保することが困難
日本の特許法35条のように,契約によることなく,発明規程など,使
用者の一方的な意思表示だけで特許を受ける権利や特許権の承継
を認める法理は,決して普遍的なものというわけではない
属地的な準拠法選択のほうが各国で普遍的なものとして通用してし
まうと, 特許法35条に従い,予告承継の定めを置いたにも拘わらず,
国によってはその効果が認められない
→ 使用者の期待を裏切る結果
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3-2 裁判例の評価②
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逆に,それを慮って,各国毎に異なる規律に合わせた手
続を用意するのは不相当に過大なコストを使用者に課す
ことになる
[日立製作所一審]のような見解が判例法理として確立し
てしまうと, 知財の実務に混乱を与えてしまうことになりか
ねない
使用者と従業者間の予測可能性に関する事情に配慮す
る必要がある
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3-3 結論
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使用者と従業者間の職務発明に関する法律関係につい
ては,外国における特許を受ける権利や特許権等に関す
るものを含めて,両者の労働関係に適用される準拠法国
の特許法により一元的に処理される,と解すべき
学説でも,( 理由付けの差異はともかく,結論として) 属地
的に理解せず,一元的に規律すべきであるとする考え方
が多数
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3-4 理論構成(1)
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法律関係からのアプローチ
労働関係に適用される準拠法一般の問題
職務発明に関する法律関係は労働契約に関わっているということを
理由に, 契約 (に関わる法律関係) であると性質決定
→法例7 条を適用
問題:労働契約において労働者を保護する法規を迂回するために準
拠法を指定することが許されかねない
これは職務発明をめぐる法律関係に限らず生じる事態であり,一般
的な射程を有する法理の下, 解決されるべき問題
判例や学説では,法例33条の公序則を活用したり, あるいは, 端的に
労務給付地の法を適用するなどの方策が主張される
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3-5 理論構成(2)
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法規からのアプローチ
個別の法律の適用範囲の解釈としてこの問題に対処しよ
うとする場合
特許法35条の趣旨解釈, すなわち, 同条が絶対的強行法
規たりうるのか という観点の吟味に委ねられることになる
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3-6 付随する問題
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以上の理が妥当する場面は
補償金請求権
予告承継
のほか・・・
使用者に発生する法定通常実施権
→本質は、特許権者からの権利行使を受けることがないと
いう債権
使用者と従業者間の債権債務関係の問題に過ぎない
→補償金請求権や予告承継に関する法律関係と同じく、
日本法を準拠法とすることに問題はない
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