電磁気学C

電磁気学C
Electromagnetics C
6/25講義分
電磁ポテンシャルとゲージ変換
山田 博仁
再びMaxwell方程式
Maxwellの方程式
4つの式から成っている
B ( x, t )
rot E ( x, t ) 
0
 (1)
t
div B ( x, t )  0
 (2)
D( x, t )
rot H ( x, t ) 
 ie ( x , t )
 (3)
t
div D( x, t )   e ( x, t )
 (4)
構成方程式(物質中)
D( x , t )   E ( x , t )
B( x, t )   H ( x, t )
 (5)
 (6)
真空中では、
  0
  0
 (7)
 (8)
磁場(磁束密度)B(x, t)を
B( x, t )  rotA( x, t )
 (9)
と表すと、式(2)は恒等的に満たされる。
これを式(1)に代入すると、
A( x, t ) 

rot E ( x, t ) 
 0
t 

(  ベクトル恒等より、   (  A)  0 )
 (10)
電磁ポテンシャル
さらに式(10)は、
A( x, t )
E ( x, t ) 
 grad  ( x, t )
t
 (11)
とおくことにより、恒等的に満たされる。 (  ベクトル恒等式より、 rot(grad )  0 )
つまり、Maxwellの方程式の式(1)と式(2)は、
A( x, t )
 grad ( x, t )
t
B( x, t )  rot A( x, t )
E ( x, t )  
 (12)
 (13)
とおくことにより、自動的に満たされることになる。従って、電磁気学の基本法則は、
残り2つの式で表せることになる。
この A と  を、電磁ポテンシャルという。
以下では、残りのMaxwell方程式(3)と(4)を、E, B, H, Dではなく、電磁ポテンシャル
A と  を用いた式として書き直してみる。
まず、式(5), 式(6)の関係を用いると、式(3)は、
rot B( x, t )  
E ( x, t )
  ie ( x , t )
t
 (14)
となる。
電磁ポテンシャル
これに式(12), 式(13)を代入し、 rot (rotA)  grad (divA)   A のベクトル恒等式を
用いると、

2 
 ( x, t ) 

    2  A( x, t )  grad divA( x, t )  
    ie ( x, t )  (15) となる。
t 
t 


また、式(4)に式(12)を代入すれば、
1
 A( x, t ) 
divE ( x, t )  div
   ( x, t )  e ( x, t )

 t 
 (16)
従ってMaxwellの方程式(1)~(4)は、以下の方程式系で置き換えられる。
A( x , t )
 grad ( x , t )
t
B ( x , t )  rot A( x , t )
E ( x, t )  

2 
 ( x , t ) 

    2  A( x , t )  grad divA( x , t )  
    ie ( x , t )

t

t




1
 A( x , t ) 
 ( x , t )  div
    e ( x, t )

 t 
 (12)
 (13)
 (15)
 (17)
新しいMaxwell方程式系
A( x , t )
 grad ( x , t )
t
B ( x , t )  rot A( x , t )
E ( x, t )  

2 
 ( x , t ) 

    2  A( x , t )  grad divA( x , t )  
    ie ( x , t )

t

t




1
 A( x , t ) 
 ( x , t )  div
    e ( x, t )

 t 
 (12)
 (13)
 (15)
 (17)
上の新しいMaxwell方程式系による解法は、電荷密度分布e(x, t)および伝導電流
密度の分布 ie(x, t)が与えられていれば、まず式(15), (17) による連立方程式を解い
て電磁ポテンシャルA(x, t)および(x, t)を決める。次にこれを式(12), (13) に代入す
ることにより、電場 E(x, t)および磁場 B(x, t)が求まる。
しかし、この新しいMaxwell方程式系では、最初に式(15), (17) による連立方程式
を解かなければならないので解法が煩雑。 もっと簡単にできないか?
そこで、上の式(12), (13), (15), (17)の方程式系の次の性質に注目する。
新しいMaxwell方程式系
今、任意の微分可能な関数をu(x, t)とし、先の電磁ポテンシャルAおよびの代わりに
A' ( x, t )  A( x, t )  grad u( x, t )
' ( x, t )   ( x, t ) 
u ( x, t )
t
 (18)
 (19)
として、新しくA’(x, t)および’(x, t)を定義する。
このとき、
A

u 

 grad   ( A'  grad u )  grad '  
t
t
t 

A'

 grad'
t
E
また、
B  rot A  rot( A'  grad u)  rot A'  rot(grad u)  rot A'
即ち、式(18), (19)によって与えられた A’と ’は、式(12), (13) により、元の電磁ポ
テンシャル A,  と全く同じ電磁場 E, B を与え、これらも新しい電磁ポテンシャルと
見ることができる。つまり、式(12), (13)で与えられた電磁ポテンシャルには、任意
関数 u(x, t)だけの不定性がある。
新しいMaxwell方程式系
今、式(15) に式(18), (19) を代入すると、

2 
' 

    2  A'  grad div A'  


t

t






2 

u 
     2 ( A  grad u )  graddiv ( A  grad u )      
t 
t 
t 




2 
2 
 
2 

 A      2 grad u  grad div A  
  grad    2 u
2 
t 
t 
t 
t 



2 
 
2

(

div
(
grad
u
)



(

u
)


u  u)

A

grad
div
A





i


e
2 
t 
t 

( また、 (grad u)  grad(u) )
また式(17) に式(18), (19) を代入すると、
u 

 A' 

'  div





div
( A  grad u )



t 
t
 t 


    


    

u
u
 A 
   div   

t
t
 t 
1
 A 
   div     e

 t 
ゲージ変換
従って、A’と’は、 A と と全く同じ方程式を満たしている。
即ち、式(18), (19)の新しい電磁ポテンシャルA’と ’は、 A と  の組と同じ電磁場
E, B をもたらすだけではなく、これらの満たす方程式も全く同じである。つまり、
電磁ポテンシャルA および には、任意関数 u の不定性がある。
式(18), (19)をゲージ変換と言う。また、関数 u(x, t) をゲージ関数と言う。
新しいMaxwell方程式系(12), (13), (15), (17)は、ゲージ変換(18), (19)のもとで不変
次に、任意関数として次式を満足するような関数  を仮定する。

2 
 ( x, t ) 

    2   ( x, t )   div A( x, t )  


t

t




 (20)
下記のゲージ変換による新しい電磁ポテンシャルALと Lは、勿論もとの A と と
同じ電磁場 E, B を導き、またそれは式(15), (17) と同じ形の方程式を満足する。
AL ( x, t )  A( x, t )  grad  ( x, t )
L ( x, t )   ( x, t ) 
 ( x, t )
t
 (21)
 (22)
ゲージ変換
ALと Lは関数  として式(20) を満たすようにとったため、以下の条件式を満足する。
L ( x, t )

2
div AL ( x, t )  
 div A  
    2  0
t
t
t
 (23)
この条件式を用いて、 ALと Lの満たす、 (15), (17)の方程式を書き換えると、

2 
    2  AL ( x, t )    ie ( x, t )
t 

 (24)

2 
1
    2 L ( x, t )    e ( x, t )
t 


 (25)
となる。
上の式(24), (25) を、ダランベール(d’Alembert)の方程式と言う。
ローレンス(ツ)・ゲージにおけるMaxwell方程式
従って、ゲージ変換により、Maxwellの方程式は、以下の一連の方程式系で置き
換えられたことになる。
AL ( x, t )
 gradL ( x, t )
t
B ( x, t )  rot AL ( x, t )
E ( x, t )  

   


   

 (12)
 (13)
2 
 AL ( x , t )    ie ( x , t )
t 2 
 (24)
2 
1


(
x
,
t
)


 e ( x, t )
L
2 
t 

 (25)
L ( x , t )
0
 (23)
t
この新しいMaxwell方程式系では、式(24), (25) を見ると式(15), (17) とは異なり、
ALと Lとはそれぞれ独立な方程式を満たしており、連立方程式にはなっておらず、
AL, L, ie, e の4個の成分に関して極めて対称性の良い形をしている。
div AL ( x , t )  
式(23) の条件をローレンス(ツ)(Lorenz)条件と言い、この条件を満足する電磁ポ
テンシャルAL(x, t), L(x, t)を、ローレンス(ツ)・ゲージにおける電磁ポテンシャルと
言う。
ローレンス・ゲージにおけるMaxwell方程式
AL ( x, t )
 gradL ( x, t )
t
B ( x, t )  rot AL ( x, t )
E ( x, t )  

   


   

 (12)
 (13)
2 
 AL ( x , t )    ie ( x , t )
t 2 
 (24)
2 
1


(
x
,
t
)


 e ( x, t )
2  L
t 

 (25)
div AL ( x , t )  
L ( x , t )
0
t
 (23)
このローレンス・ゲージにおけるMaxwell方程式による解法は極めて見通しが良く、
電流密度分布 ie(x, t)および電荷密度分布e(x, t) が与えられていれば、まず式(24)
および式(25) を各々独立に解いて、電磁ポテンシャルAL(x, t)およびL(x, t) を求め
る。その求まった AL(x, t) と L(x, t)が式(23) を満たしているかどうか確認し、次にこ
れを式(12), (13) に代入することにより、電場E(x, t)および磁場B(x, t)が求まる。
2人のローレンツ
ローレンツ力、ローレンツ変換 → ヘンドリック・ローレンツ(Hendrik Antoon Lorentz 1853-1928) オランダ
ローレンツ(ス)・ゲージ → ルードヴィヒ・ローレンツ(ス)(Ludvig Valentin Lorenz 1829-1891) デンマーク
ローレンス・ゲージにおけるMaxwell方程式
ところで、このローレンス・ゲージにおける電磁ポテンシャルAL(x, t), L(x, t) も、
一義的な値を持たない。何故なら、

2 
    2   0 ( x, t )  0
t 

 (26)
を満たすような 0 を用いて、ゲージ変換
AL' ( x, t )  AL ( x, t )  grad 0 ( x, t )
L' ( x, t )  L ( x , t ) 
 0 ( x, t )
t
 (27)
 (28)
を行うと、この新しいローレンス・ゲージの電磁ポテンシャルAL’(x, t), L’(x, t) も
また、(12), (13), (23), (24), (25)と全く同形の方程式系を満たす。
即ち、 (12), (13), (23), (24), (25)の方程式系は、式(27), (28) の条件に基づいて
規定されたゲージ変換のもとで不変である。
静電場、静磁場の式
さて、 (12), (13), (23), (24), (25)の方程式系において、全ての物理量が時間 t に
依存しないとき、
静電場の基本法則
E ( x )  gradL ( x )
 (29)
1
L ( x )    e ( x )
 (30)

静磁場の基本法則
B( x)  rotAL ( x )
 (31)
AL ( x )   ie ( x)
 (32)
div AL ( x )  0
 (33)
が得られる。
相対論における扱い
以下のローレンス・ゲージにおけるMaxwell方程式は、

1
   2
v


1
   2
v

2 
 A   i
2 
t 
 (24)
2 
1





2 
t 

 (25)
相対論においては、4次元ベクトルとしての電磁ポテンシャル A   v , Ax , Ay , Az 
および4次元電流密度 i   v, ix , i y , iz  を用いて

1 2 
   2 2  A    i
v t 

 v は、電流密度の次元を持つ
 (34)
と表される。
さらに、ダランベルシアン□を用いて(34)式は、
□A   i
 (35)

1 2 
 □     2 2 
v t 

と表される。
クーロン・ゲージ
このように、ゲージ変換を行っても、 E や B の物理量の値に変化がなければ(ゲージ
不変性と呼ぶ)、計算の都合のいいように自由にゲージを選ぶことができる。
ローレンス・ゲージ以外にも、ベクトルポテンシャルを発散のないように選び、   A  0
の条件式を満たす電磁ポテンシャルを用いてマクスウェル方程式を書き換えると、
  



2 

    2  A      i
t 
t

となり、第一式が静電場の場合のポアソン方程式の形になっており、クーロン・ゲージ
(Coulomb gauge)と呼ばれる。
放射ゲージ
自由空間中のように電荷密度、電流密度が共にゼロの場合、式(28)の右辺がゼロと
なるように関数 χ0 を選び、スカラーポテンシャル ϕ をゼロとするようなゲージを選ぶこ
ともできる。このゲージはローレンス・ゲージであり、かつ   A  0 でもあるのでクーロ
ン・ゲージでもあるが、放射ゲージと呼ばれており、以下の基本方程式で与えられる。
  0,   A  0

2 
    2  A □A  0
t 
