最終講義 2010年3月6日 55号館N棟大会議室 早大応物・物理における 素粒子論事始め 物理学科 大場一郎 1.物理学科誕生まで 創立者 大隈重信、長崎でフルベッキと出会う 鍋島藩 医学寮中の蘭学寮で蘭学を学ぶ 大庭雪斎訳『民間格致問答』で物理を学ぶ 蘭学から洋学へ フルベッキ:1859年 アメリカから派遣の伝道師 移民前の蘭、後の米で土木技師として活躍 1860年頃 フルベッキと会う 1863年頃 長崎奉行、洋学所を設立、フルベッキ校長 1865年 鍋島藩、長崎に致遠館設立、フルベッキ校長 大隈、設立を主導 このような背景で理学科を設立 1923年 基礎工学実験室の開設・・・基礎科学研究の母体 ●理工の基礎科学部門の教育・研究機関 教員用実験設備・文献、共同利用管理運営 基礎物理実験指導、数学・力学等の教育 1949年 新制大学への移行 基礎工実験室を母体に応用物理学科設立 教授 :宮部宏、小泉四郎 助教授 :中野 稔、広田晴男、上田隆三 専任講師:飯野理一 特研生 :並木美喜雄、矢野泰 技術職員:2 事務職員:2 理論物理学と物性物理学を中心 1958年 計測工学コース発足 応物としての体制が整う! 発足当時のカリキュラム ○教養科目 ○専門必修科目 数学(4)、物理数学(10)、力学(4)、理論物理学(8) 原子物理学(4)、応用物理学(8)、化学物理(4) 物性論(4)、図学及製図(2)、演習(6) 実験:物理(2)、化学(2)、化学物理(2)、応用物理学(4) 卒業研究(10) ○専門選択科目 物理数学特論(2)、電磁気学特論(2)、量子論(2) 連続体の力学(2)、振動特論(2)、光学特論(2) 分子構造論(2)、放射線学(2)、応用物理学特論(2) 真空技術(2)、高圧技術(2)、写真技術(2)、自然科学史(2) 理学系科目に重心を置き、物理学科志向 2.高エネルギー物理学(HEP)研究室の誕生 1954年 理工学研究所のあり方と将来計画 新たな柱 ⇒ 「自動制御」と「原子力工学」 原子力工学:基礎的研究? より広汎な研究(原子炉を含む)? 1958年 所長:小泉四郎教授 幹事:並木美喜雄助教授 研究部会「核物理および核工学」を設ける 最高顧問 朝永振一郎教授のもとで理論核物理人事選考 1959年 山田勝美(核理)、大沼昭六(核理) 小林澈郎(素)着任 高エネルギー物理学研究室(喜久井町)の誕生 並木美喜雄助教授、小林澈郎助手 1969年 小林教授、都立大へ転出 1970年 大場、理工学部専任講師となり、並木教授とHEPを運営 電気通信から素粒子論へ(並木先生) 1948年 早大電気通信学科卒業 文部省特別研究生となる(1948~53年) 1948年~51年 東大 小谷研で電磁波現象論を研究 この間 教育大学光学研究所の朝永ゼミに参加 素粒子論研究に関心を持つ 1951年~53年 阪大 内山研で素粒子論を研究、以降専攻分野 1953年 早大応物助手 早大での未開の分野、素粒子論研究を開始 1954年 専任講師 1957年 助教授 1959年 HEP研究室の立ち上げ ○ブラウン運動の量子力学的定式化 散逸過程の量子化(斎藤) ○多重発生流体模型の場の理論的基礎付け 高エネルギー宇宙線による中間子多重発生 強い相互作用の構造が同定? 火の玉模型(フェルミ)、流体モデル(ランダウ) 中間子場の相互作用 ⇒ 物理量(E、p、・・・) 場の理論 ⇒ 流体模型の適用限界評価 現在のRHIC、LHCなどの加速器実験 クォーク・グルーオン・プラズマの基礎理論 ○波束を用いた量子力学の定式化(飯野) ○グリーン関数の数学的定式化 応物若手として孤軍奮闘! 3.ICEF(国際共同原子核乾板飛行計画) データ解析(並木、小林(澈)、大場、折戸、 大沢、小林(庸)、柴田) シカゴ大学 Schein → 小柴 宇宙線による中間子多重発生事例(原子核乾板) 高エネルギー核衝突 ⇒ 複数のクラスター生成 ⇒ その崩壊、パイ中間子発生 クラスター間の 運動量移行量の多寡 → 多重発生現象の分類 クォークのカスケード的ハドロン化模型の魁 4.クォーク模型と素粒子反応 1964年 クォーク模型の提唱 M. Gell-mann, A. Zweig 実験的質量準位を見事に説明 重粒子(p,n,Λ,Σ0,±,Ξ0,-) 8重項, ・・・・10重項 中間子(π0,±,, K0,+, K0,-,η) 8重項 (坂田模型・・・重粒子10重項の説明不可) 奇妙な基本粒子: 電荷:1/3, 2/3 重粒子数:1/3 当時の主流 8重項を導く単なる“数学的道具” 1965年 町田-並木 クォークは物理的実体 ⇒ 核力の“固い芯” の説明に成功 4-A.弱相互作用 1966年 並木、中川、大場、小林(庸) クォーク実体模型で中性子β崩壊を解析 素過程:d → u + e- + ν(bar) GA/GV ⇒ 核子波動関数の主要成分: SU(2)×SU(3)対称 (SU(6)の56次元既約表現 大魚を逸す!!) 南部のカラー量子数導入へとつながる 1967年 大場 非レプトン崩壊へ拡張 Σ, Λ → N + π 「Lee-菅原の関係式」をクォークモデルから導く “弱相互作用の素過程はクォークレベル” 4-B.電磁相互作用 (60’s後半~80’s前半) (並木、小林(澈)、藤村、小林(庸)、織田、斎藤、 岡野、松田、木造、大下) 少数核子原子核(p, n, D, He,…) 物理的実体である 3n (n=1,2,…)個クォークの多体系 相対論的な束縛状態 時空的な広がり ⇔ 相対論的波動関数 電磁的相互作用(光子で触る) ⇒ 電磁形状因子 大運動量移行量領域(より内部領域) 形状因子の負ベキ的振る舞い ⇒ 相対論的効果 弱相互作用にも適用 … 岡野ら 弱形状因子 現在のクォーク原子核物理学の魁 4-C.強い相互作用と双対性 高エネルギー素粒子反応に現れる ハドロンの複合粒子性 並木、大場 πN後方散乱のピーク ← クォーク組み換え散乱 分子型模型と原子型模型の区別が可能? 1968年 G. Veneziano 双対振幅(4体)の提唱 Veneziano振幅の拡張と新たな可能性(並木、大場) ○off-mass-shell振幅 ○電磁相互作用の導入 ○ボソン電磁形状因子 ○Pomeranchuk項への寄与 特に包含反応に適用 ⇒ 6体振幅の和則に現れる双対性の確認 4-D.ループを通しての未知クォークの寄与 Glashow-Iliopoulos-Maiani(GIM)機構 ΔS≠0 中性流の抑制 ⇒ c-クォークの予言 1981年 木造、岡野、山中、大場 標準模型の枠内 axial vector neutral current,γ5量子異常 ⇒敷居値以上の重クォークの寄与 木造(東海大)が引き継ぐ 4-E. 高エネルギー素粒子反応、多重発生 (並木、大場、鈴木、金井(中野)、中村(純)、伊達) 5.量子力学における観測問題 (並木、S. Pascazio, 中里、大竹、・・・) 1980年 町田-並木 ‘波束の収縮’⇒ 多ヒルベルト空間に おける動力学過程 □中性子散乱でのデコヒーレンス □量子系の短時間発展過程、量子ゼノン効果 ・・・ 6.クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP) (並木、水谷、室谷、赤瀬、伊達、安田、 中村(博)、平野、野中、森田) 1988年 水谷-室谷-並木 QGPの第一原理 … 量子色力学 半現象論的取り扱い □多体量子系の代表的モードの存在 ⇒ 量子Langevin方程式 ⇒ 物質定数 □時空発展 ⇒ 相対論的流体方程式 QGP時空発展のシミュレーション・スキーム QGP流体模型のプロトタイプ RHIC、LHCデータの有力な解析手段 7.確率過程量子化法 (並木、大場、岡野、山中、中里、田中、金長、 菰池、水谷、湯浅) 1981年 Parisi-Wu 確率過程量子化 物理系(時空(1+3)+‘仮想時間τ’) 確率的時間発展⇒平衡 ⇒時空(1+3)の分布関数:Feynman積分表示 (物性:物理系(空間(2)+t 確率過程 分布関数) Langevin方程式(F-P方程式): ドリフト力 ∝ (古典的運動方程式からのズレ) 乱雑力 ∝ Planck定数 特徴: (×) L, (×) H, (○) 運動方程式 □ □ □ □ 非アベル・ゲージ場のunitarityとFPゴースト ゲージ固定と初期条件 演算子形式と繰り込み 数値シミュレーション NLσモデル、φ4モデル、φ3 モデル □ フェルミ場 □ 第2種拘束系 □ BRST不変性 □ 量子異常項の導出 □ 下方非有界作用を持つ系 □ チャーン・サイモン場 ・・・・・・ 場の量子化:多種多彩な観点からの有効な再評価 実用上はファインマン図の方法がより簡単で便利 8.Nelsonの量子力学---実時間確率過程量子化 法 current velocity v(x,t): kinematical eq. と osmotic velocity u(x,t): Nelson-Newton方程式に従う 力学変数x(t) ⇒ 確率変数 ⇒ 上記2つのeqs.の解v,uを ドリフト力とするLangevin eq. に従う とある (ノイズ列)i ⇒ とある 粒子軌跡 xi(t) アンサンブル{xi(t)} ≡ Sch.振幅のコペンハーゲン解釈 □一見 古典的軌跡 xi(t) の存在、 event by event!! □ しかも波動関数の位相情報を含む 8-A.トンネル時間(大場、山中、今福、原) マイクロエレクトロニクス 微細化、集積化 要素間のプロセスで電子のトンネル過程 作用速度 ⇒ “トンネル時間”の知識 正準形式・・・時間は単なるパラメータ 量子力学では規定する手段なし Nelsonの量子力学 ⇒‘軌道’の存在 とある‘領域通過時間’の規定可能 □ □ □ □ トンネル時間の‘定義’ 非弾性チャンネル効果 ヴィジビリティによるトンネル時間測定法 トンネル時間分布の統計性と粒子-波動二重性 8-B.多種/多体系への拡張(黒川、大場) Langevin方程式の拡散定数 ∝ h/mi Nelson の方法 そのものでは多体化が困難 問題とする物理量を current velocity ⇒ current momentum osmotic velocity ⇒ osmotic momentum 多体系への拡張が成功 1体分布だけでなく 高次相関粒子分布(2次、3次、・・・) HBT効果:イベントごとの時間発展 フェルミ粒子、ボース粒子の統計の効果、・・・ 9.電界電子放出 大島研究室:高品質電子線の開発、 基礎物理学的諸実験の実行 □ナノサイズ・プローブからの高品質電子線 (湯浅、下井(湯浅)、大場、大島) Fowler-Nordheim公式の改良 □超伝導体からのCooper対の電界放出 (湯浅、中里、大場、田崎、Facchi, Fazio, Pascazio) エンタングル電子対の創出 ⇒ 量子情報のリソース 高次相関関係の追求 10.量子カオスにおける古典~量子 (太田、大場) 開いた系の量子化における 古典-量子対応のモデル化 モデル:Duffing振動子 方法:確率的Schreodinger方程式 有効プランク定数を変化: 古典⇔量子 Lyapunov数の存否 ⇒ 古典~量子のクロスオーバー 10.量子コンピュータへ向けての基礎的研究 (太田、三神、吉田、大場) □ 半導体核スピン量子コンピュータ(Kane) アルゴリズムの物理的検証 □ 熱平衡液体状NMR系からのエンタングルメント 状態生成とその評価 新しい体制 □ 中里弘道 教授 □ 安倍博之 准教授 □ 湯浅一哉 准教授(高等研究所) 皆さまのご支援、ご協力を!! 早稲田大学創立125周年記念事業募金 理工学部創設100周年記念事業募金 ■団体募金 「大場研究室」 1999年の集まり参加者一同 ■団体募金 「並木・大場・中里研究室」 ご協力、ありがとうございました。 □多くの卒業生の皆さん、学生 のみなさん 長年に渡る研究を支えてくだ さり、ありごとうございます。 皆さんの一層の活躍を期待 します。 □物理学教室、応用物理学教室 スタッフの皆様 □理工学部の関係者の皆様 長い間のご支援、ご協力、ありがとう ございました。 理工アカデミアのさらなる発展を期待 します。
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