強震動予測手法に関する ベンチマークテスト (その6:理論的手法) ○久田嘉章・松本俊明(工学院大学) 永野正行(東京理科大学) 野津 厚(港湾空港技術研究所) 宮腰 研(地域地盤環境研究所) 中川太郎(株式会社フジタ) 浅野公之(京都大学防災研究所) 背景:強震動予測結果のばらつき 想定南海地震による長周期地震動評価例 永野・吉村「長周期地震動と建築物の耐震性」日本建築学会(2007) 最大速度(cm/s) 大阪:KiK-Net 此花 60.8 釜江波2 37.9 鶴来波 28.4 関口波1 22.5 関口波8 27.6 関口波18 速度波形(NS成分) 釜江波2 鶴来波 関口波1 関口波18 関口波8 疑似速度応答スペクトル(NS成分) → レシピに準拠しているが、異なる震源・伝播・サイト地盤モデル・手法 2009~2011年度ベンチマークテスト (代表的な3手法、6段階ステップ) ○3つの代表的な強震動計算手法: ・理論的手法(波数積分法、離散化波数法、薄層法など) ・数値解析手法(差分法、有限要素法など) ・統計的グリーン関数法に代表される統計的手法 ○単純なモデルによる6段階ステップ: ・点震源と単純地盤:ステップ1(2009年度終了) ・面震源と単純地盤:ステップ2( 2009年度終了) ・点震源と複雑地盤:ステップ3(締切:2010年度終了) ・面震源と複雑地盤:ステップ4(締切:2010年度終了) ・実際の小地震と関東平野: ステップ5(締切:2011/10/1) ・1923年関東地震と関東平野: ステップ6(締切:2011/11/1) ○HPによる公開・参加募集: http://kouzou.cc.kogakuin.ac.jp/benchmark/index.htm ○結果比較の例を紹介 理論的手法:ステップ3(点震源) 有効振動数 出力点 X ( North) UD 観測点の測線( + 2 kmから+ 1 0 0 km) Radial 0 .2 km 3 6 .9 ° Transverse 0 .6 km 震源( 0 ,0 ,0 ) km Layer 1 Y ( East) Layer 2 震源( 0 ,0 ,2 ) km Layer 3 Layer 4 Z ( Down) ( Half- Space) 1 .6 km 2 .0 km 4層地盤モデル 2.5 t 2 1 M (t ) M 0 exp 2 2 2 2 1.5 1 0.5 0 0 0.5 表 4層地盤の物性値 Layer Vp(m / s) Vs(m / s) Density(kg/ m 3 ) 1 1 ,6 0 0 400 2 ,0 0 0 2 2 ,6 0 0 1 ,0 0 0 2 ,4 0 0 3 4 ,0 0 0 2 ,0 0 0 2 ,6 0 0 4 6 ,0 0 0 3 ,4 6 4 2 ,7 0 0 • • • Moment-Rate Function モデル名 地盤 減衰 震源 ステップ3(締切:2 0 1 0 / 9 / 1 ) T3 1 T3 2 T3 3 4層地盤 2層地盤 あり なし 点震源 点震源 (深さ 2 km:ガウス型関数) (深さ 0 km:ガウス型関数) 0 ~5 Hz + 0 0 2 , + 0 0 6 , + 0 1 0 , + 0 3 0 , + 0 5 0 , + 1 0 0 km(計6点) Qp 20f 30f 40f 70f Qs 20f 30f 40f 70f 1 time (s) 1.5 2 ガウス型モーメントレイト時間関数 (σ=0.2秒、μ=0.8秒) Thickness (m ) Depth (m ) 200 200 400 600 1 ,0 0 0 1600 ∞ ∞ 2層地盤モデル では上部2層無し 工学的基盤までの4層地盤も考慮(ステップ1・2は上部2層なし) 震源時間関数をガウス型関数(ステップ1・2は指数型関数) 地表震源も考慮(ステップ1・2は地中震源のみ) 理論的手法:ステップ4(面震源) 震源 破壊伝播 有効振動数 出力点 提出波形 X (North) UD NS 観測点の測線(-100kmから+100km) 36.9° 1 km EW 2 km 4 km Y (East) 6 km Layer 1 Layer 2 震源(0,1,4) km (Half-Space) 地中断層モデル • • • • 地盤は2層地盤を考慮(ステップ1・2と同じ) 震源時間関数は中村・宮武関数 破壊伝播の揺らぎも考慮 横ずれ断層による地表・地表断層を考慮 T42の破壊過程のゆらぎ は入倉(1994)による 破壊開始時間へのランダム 性導入法による tij ij ij :破壊開始時間 Vr w / 2Vr ij w / 2Vr ランダム数 X (North) 観測点の測線(-100kmから+100km) 0 km Y (East) 2 km 4 km Layer 1 Layer 2 震源 (Half-Space) (0,1,2) km 地表断層モデル 6 slip velocity (m/s) モデル名 地盤 減衰 ステップ4(締切:2 0 1 0 / 1 1 / 1 ) T4 1 T4 2 T4 3 T4 4 2層地盤 あり なし 横ずれ断層(上端深さ 2 km: 横ずれ断層(上端深さ 0 中村- 宮武関数) km:中村- 宮武関数) 2 2 1km 間隔 1km 間隔 連続 一定 ゆらぎ 0 ~5 Hz ±0 0 2 , ±0 0 6 , ±0 1 0 , ±0 3 0 , ±0 5 0 , ±1 0 0 km (計 1 2 点) 1波形 3波形 1波形 中村・宮武型すべり速度関数 (fc=6 Hz、tr=0.667秒 Td=0.053秒、ts=1秒) 5 4 3 2 1 0 0 0.2 0.4 0.6 time (s) 0.8 1 理論的手法:参加チーム・手法 ・ステップ3(2010年9月1日)、ステップ4(同年11月1日) ・参加チームと手法(ステップ3・4:参加5チーム): ・久田(工学院大):波数積分法(久田)、理論震源 ・中川(フジタ):波数積分法(久田) 、震源関数は三角形関数の重ね合わせ ・永野(東京理科大):薄層法(永野・渡辺) 、理論震源 ・野津(港湾航空技研):離散化波数法(野津) 、理論震源、ステップ3(T31,T32)のみ参加 ・宮腰(地域地環境研)・浅野(京大):離散化波数法 (O.Coutant: Bouchon+Kennett、一定Q値のみ) 、理論震源、ステップ3のみ参加 ステップ3 (T31+010:地中点震源、減衰4層地盤) 0.05 0.4 HISADA NAGANO 0.2 NAKAGAWA NOZU 0 0 5 10 15 20 25 30 -0.2 0.04 0.04 0.03 0.03 0.02 0.02 0.01 0 -0.01 0 1 -0.02 -0.4 -0.04 (全て振動数比例Q) -0.8 2 3 4 5 time (s) HISADA NAGANO NAKAGAWA NOZU -0.03 time (s) -0.6 0.05 T31+010(Radial) velocity (m/s) T31+010 (Radial) velocity (m/s) velocity (m/s) 0.6 T31+010(Radial) HISADA NAGANO NAKAGAWA NOZU 0.01 0 -0.01 25 26 27 28 -0.02 29 30 time (s) -0.03 -0.04 -0.05 -0.05 ・Radial成分の初動部・尾部に小さな差異 速度波形(Radial成分) 左:全体、右:初動・尾部拡大) →振動数依存Qが因果性を満足しないため 0.05 0.05 T31+010(Radial) T31+010(Radial) 0.8 Qf T31+010 (Radial) Const-Q 0.04 0.04 Qf 0.4 No-Q 0.03 0.03 Const-Q 0.02 0.02 No-Q 0 -0.2 0 5 10 15 20 25 30 -0.4 -0.6 -0.8 -1 -1.2 time (s) Qf:振動数比例Q Const-Q:一定Q No-Q:大きな一定Q velocity (m/s) velocity (m/s) 0.2 0.01 0 -0.01 0 1 2 3 4 5 velocity (m/s) 0.6 0.01 0 -0.01 30 -0.02 Qf -0.03 Const-Q -0.03 -0.04 No-Q -0.04 -0.05 time (s) -0.02 31 32 33 34 35 time (s) -0.05 久田による速度波形(Radial成分) 左:全体、右:初動・尾部拡大) 地表震源(T33)・地表断層(T44)の評価法 ○薄層法:地表震源はそのまま定式化 ○波数積分法・離散化波数法:波数積分の被積分関数が波数 とともに発散するため、特別な処理が必要 ・浅い震源で近似→宮腰・中川(深さ50m) ・漸近解法(大きな波数での理論近似解を導入: Apsel and Luco, 1983; Hisada, 1993, 1995): →久田(静的理論解を導入) ・積分路変換法(波数積分を複素平面に拡張し、虚軸上で積 分: Greenfield, 1995):久田(静的理論解の計算) ・その他:繰り返し平均法(Chang, 1988)などmaru ステップ3 (T33+100:地表点震源、非減衰2層地盤) 10 9 T33+100(Radial) 4 3.5 HISADA 3 2.5 2 MIYAKOSHI 1.5 1 NAGANO 0.5 0 NAKAGAWA Velocities(m/s) Velocities(m/s) 5 4.5 T33+100(Transverse) 8 7 HISADA 6 5 MIYAKOSHI 4 3 2 NAGANO NAKAGAWA 1 0 ・久田・永野はほぼ一致 0 20 40 0 20 40 60 80 time(s) 100 ・宮腰・中川はやや振幅が小さい(深さ50mで近似) 速度波形(水平2成分) ・中川はさらにQ=1000 1 0.01 0.1 1 0.1 0.01 0.001 HISADA 10 1 0.01 1 0.01 0.001 NAKAGAWA 0.0001 0.1 time(s) 100 frequency (Hz) 0.1 MIYAKOSHI NAGANO 80 T33+100 (Transverse) frequency (Hz) velocity amplitude (m) velocity amplitude (m) T33+100 (Radial) 60 HISADA MIYAKOSHI NAGANO NAKAGAWA 0.0001 速度フーリエ振幅スペクトル(水平2成分) 10 ステップ4 (T44+002:地表・連続断層、減衰無2層地盤) 4 6 T44+002(NS) 3.5 5 3 Hisada Velocities(m/s) Velocities(m/s) T44+002(EW) 2.5 Hisada 4 ・全員ほぼ一致 3 2 Nagano ・中川は減衰有で計算、高振動数のノイズは断層面の分割が荒いため Nagano 1.5 2 →Vr=3 km/sで5 Hzで、波長0.6 km 1 1 Nakagawa Nakagawa 0.5 久田:小断層0.5 km2に6x6点のガウス積分点 0 0 永野:小断層1.0 km2に6x6点のガウス積分点 0 2 4 6 8 time(s) 10 0 2 4 6 8 time(s) 10 永野:0.05 km間隔に積分点 速度波形(水平2成分) T44+002 (NS) 0.6 Hisasda Nagano T44+002 (EW) 0.5 ・減衰:永野・久田は無減衰(大きな一定Q値)、 0.05 Nakagawa Static 0.4 中川は振動数比例Q→因果性を満足せず 0 0 2 4 6 8 10 -0.05 -0.1 -0.15 velocity (m/s) velocity (m/s) 0.1 0.3 0.2 0.1 time (s) Nagano Nakagawa Static 0 0 -0.2 Hisasda 2 4 6 -0.1 変位波形(水平2成分、フリングステップの計算) 8 time (s) 10 理論的手法:ステップ5・6 (関東平野、実際の震源モデル、強震観測点) モデル名 対象地震 震源 (文献) 地盤 減衰 有効振動数 出力点 ステップ 5 (締切:2 0 1 1 / 1 0 / 1 )( T5 2 ,T5 3 は任意) ステップ 6 (締切:2 0 1 1 / 1 1 / 1 ) T5 1 (必須) T5 2 (任意) T5 3 (任意) T6 1 (必須) 1 9 9 0 年神奈川 1 9 9 0 年伊豆 1 9 9 2 年東京 県西部の地震 大島近海の 湾の地震 1 9 2 3 年関東地震( Mj7 .9 ) ( Mj5 .1 ) 地震( Mj6 .5 ) ( Mj5 .7 ) 面震源(多重 点震源 点震源 点震源) 面震源(多重点震源) (Sato, T.ほか, (山田・ 山中, (山田・ 山中, (Sato, H.ほか, 2 0 0 5 ) 1998) 2003) 2003) 関東平野の3次元深部地盤モデル(長周期地震動予測モデル、2 0 0 9 試作版) を用い、観測点直下の平行成層地盤を使用 あり(振動数比例型Q) 0 ~0 .3 3 Hz( 3 .0 秒以上) 。但し計算は 0 .4 Hz まで行う 1 9 地点(日本建築学会・ディジタル強震データ集(1 9 9 6 )による観測記録) 理論的手法:ステップ 5・6 (地盤モデル:関東堆積盆地) • 地盤モデル:想定東海 地震用の関東平野モデ ル(2009年度試作版: 地震調査研究推進本部 、20層地盤) • 観測点直下の平行成層 地盤を使用 • 数値計算手法と地盤層 構造は統一 • 最上層の Vs=350→500 m/s • 最下層のVs=3940 m/s とし、それ以深層は無 視 理論的手法:ステップ T51(必須) 1990年神奈川県西部の地震(Mj5.1) • 震源モデル(点震源:Sato et al., 1998) 北緯(°) 東経(°) 深さ( km) Strike(°) Dip(°) Rake(°) 地震モーメント( Nm) 3 5 .2 1 3 3 1 3 9 .0 9 9 8 1 5 .3 215 35 40 3 .3 ×1 0 1 6 モーメントレイト関数 震源と計算点(強震観測点) 理論的手法:ステップ T52(任意) 1990年伊豆大島近海の地震(Mj6.5) 1992年東京湾の地震(Mj5.7) • 震源モデル(山田・山中, 2003) ・1990年伊豆大島近海地震 横ずれ断層(dip=90°, rake=0°) 10x7個の点震源モデル 16 x 14 km2, 深さ5.8~17.8 km ・M0=1.97x1019(Nm、合計) ・破壊開始時間・モーメントレイト関数 (三角形関数:τ=1~17秒)が規定 ・1992年東京湾地震 逆断層( dip=74°, rake=93° ) 点震源モデル、深さ92.3 km ・M0=8.0x1017(Nm) ・三角形モーメントレイト関数(τ=2秒) 1992年東京湾北部 の地震 1990年伊豆大島近海の地震 震源と計算点(強震観測点) 理論的手法:ステップ T61 1923年関東地震(Mj7.9) • 震源モデル(Sato, H.ほか, 2005) ・Sato他(2005)によるプレート 境界上(深さ5.1~21.7 km) ・M0=9.94x1020(Nm) ・10x7個の点震源モデル (130 x 70 km2) ・各震源で10個のタイムウィン ドウ(1.5秒間隔。矩形関数) Miyake他(2006)より × すべり速度(m/s) × 1 0. 9 0. 8 0. 7 0. 6 r ake1 r ake2 0. 5 0. 4 0. 3 0. 2 0. 1 0 0 5 10 15 20 25 すべり速度関数の例 30 35 40 時間(秒) 注:×は理論的手法では使用、数値解析 手法では堆積層内のため使用せず 理論的手法:参加チーム・手法 ・ステップ5(2011年10月1日)の参加チームと手法: ・久田・松本(工学院大):波数積分法(久田・自作)、 Q値(虚数のみ) ・永野(東京理科大):薄層法(永野・渡辺・自作) 、 Q値(虚数のみ) ・野津(港湾航空技研):離散化波数法(野津・自作) 、Q値(虚数のみ、0.01Hz以下ではQをコンスタント) ・浅野・宮腰(京大):離散化波数法(O.Coutant氏作成: Bouchon+Kennettを改良) Müller (1983)の周波数依存のQ値 理論的手法:ステップ T51(必須) 1990年神奈川県西部の地震(Mj5.1) 1.8 1.6 Velocity (m/s) 1.4 obs obs 0.25 1.2 HISADA 1 0.8 NAGANO 0.6 NOZU 0.4 0.2 0.2 HISADA 0.15 NAGANO 0.1 NOZU 0.05 ASANO 0 ASANO 0 0 0.25 20 40 60 80 100 120 time (s) 0 0.35 T51-JSK-NS 20 40 60 80 100 120 time (s) T51-JSK-EW 0.3 obs 0.15 HISADA 0.1 NAGANO Velocity (m/s) 0.2 Velocity (m/s) T51-KNO-EW 0.3 Velocity (m/s) • 結果比較 0.35 T51-KNO-NS obs 0.25 0.2 HISADA 0.15 NAGANO 0.1 NOZU NOZU 0.05 0.05 ASANO 0 0 20 40 60 80 100 120 time (s) ASANO 0 0 20 40 60 80 100 120 time (s) おわりに(理論的手法) • 参加者の結果は実用的には、ほぼ一致(ステップ3~5)。 • ステップ3・4:因果性を満足しないQ値により、波形の立ち上が り・表面波の位相ずれ(昨年度)に加え、基線のずれ・フリング ステップによる永久変位の評価などに誤差を生じる場合がある • 地表震源・断層の評価法に注意が必要(表面波に影響) • 面震源のモデル化(離散・連続、一様・ランダム破壊過程)によ り結果に大きな差異が生じる • 今後の予定:ステップ5(結果確認中)、ステップ6(募集中) ステップ5:関東平野における小地震による観測波形 ステップ6:1923年関東地震による関東平野の強震波形 結果のばらつきと、建物応答への影響の評価 結果・ソフトなど公開: http://kouzou.cc.kogakuin.ac.jp/benchmark/index.htm 謝辞:本研究は日本建築学会・地盤震動小委員会と連携し、また文部科学省科学研究 費補助金・基盤研究Bによる助成を頂いています。
© Copyright 2025 ExpyDoc