第2章 費用・便益分析の考え方の基礎 後半 2.意思決定ルールの実際 個人の消費者余剰 =個人の支払意思額-個人の負担額 消費者余剰(消費活動を通じた純便益) =各個人の消費者余剰の和 生産者余剰(生産活動を通じた純便益) =各企業の利潤(+固定費用)の和 政府の純歳入(政府活動を通じた純便益) =(その政策に関連した)「歳入ー歳出」 便益B=消費者余剰+生産者余剰 費用C=純歳出(=-純歳入) 純便益NSB =BーC =消費者余剰+生産者余剰+純歳入 N =選択候補のプロジェクトの数 Bi =プロジェクト i の便益( i 1, 2,, N ) Ci =プロジェクト i の費用( i 1, 2,, N ) NBi Bi Ci :プロジェクト i の純便益 Bi / Ci =プロジェクト i の便益・費用比 意思決定ルールの実際の2つのケース ① 予算制約が無い場合 ② 予算制約がある場合 ① 予算制約が無い場合の採否の基準 <プロジェクトの独立性と排他性> プロジェクト i j =プロジェクト i とプロジェクト j を組み合わせたプロジェクト プロジェクト i とプロジェクト j が互いに独立である。 = Bi j Bi B j かつ Ci j Ci C j = Bi と Ci がプロジェクト j を実施するかどうかに影響されない。また、 B j と C j が プロジェクト i を実施するかどうかに影響されない。 プロジェクト i とプロジェクト j が互いに排他的である。 =プロジェクト i とプロジェクト j を同時に実施することが技術的に不可能である。 =純便益の和 NBi j ( Bi j Ci j ) がマイナス(無限大)になる。 (問題2-1) 1. 排他的プロジェクトの例を挙げなさい。 2. 相互に独立なプロジェクトの例を挙げなさい。 3. 独立でないプロジェクトの例を挙げなさい。 <全てのプロジェクトが独立である場合の採否基準> 純便益を用いてプロジェクトを評価する場合は、 Bi Ci >(<)0 ⇒ プロジェクト i を採択(却下) という基準で採択する 便益・費用比を用いてプロジェクトを評価する場合は、 Bi / Ci >(<)1 ⇒ プロジェクト i を採択(却下) とすればよい。 <独立でないプロジェクトが存在する場合の採否基準> 純便益の和を最大にするように実施するプロジェクトを選択 するためには、 1. 独立でないプロジェクトを集めたグループを作成して、それぞれのグ ループのなかのプロジェクトを組み合わせたプロジェクト全てを別々 のプロジェクトと考える。 2. そして、グループごとに作成されたプロジェクトの中から、純便益が 最大になるものを1つ残す。 3. 1.でどのグループにも入らなかったプロジェクトと2.で残されたプロ ジェクトのなかから純便益がプラスのものを全て採択する。 という基準で選択すればよい。 <独立でないプロジェクトが存在する場合の採否基準> 純便益の和を最大にするように実施するプロジェクトを選択 するためには、 1. 全てのプロジェクトを組み合わせたプロジェクトを、独立でないプロ ジェクトを集めたグループを作成する。 2. グループ内のプロジェクトを組み合わせることで作成されたプロジェ クトの中から、純便益が最大になるものを1つ残す。 3. 1.でどのグループにも入らなかったプロジェクトと2.で残されたプロ ジェクトのなかから純便益がプラスのものを全て採択する。 という基準で選択すればよい。 (問題2-2) 1. 2. 3. 4. ⇒ 1. 4つのプロジェクトの候補 プロジェクト1とプロジェクト2は排他的 プロジェクト2とプロジェクト3も排他的 プロジェクト4はどのプロジェクトからも独立 純便益の和を最大にするためにはどのプロ ジェクトを採択すればよいだろうか。 2. そのときの純便益の和は? (問題2-2)のイメージ図 プロジェクト1 プロジェクト3 プロジェクト2 プロジェクト4 i Bi Ci 1 2 3 4 3 5 2 4 2 3 3 1 NBi i Bi Ci NBi 1 2 3 4 3 5 2 4 2 3 3 1 1 i Bi Ci NBi 1 2 3 4 3 5 2 4 2 3 3 1 1 2 i Bi Ci NBi 1 2 3 4 3 5 2 4 2 3 3 1 1 2 i Bi Ci NBi 1 2 3 4 3 5 2 4 2 3 3 1 1 2 -1 i Bi Ci NBi 1 2 3 4 3 5 2 4 2 3 3 1 1 2 -1 3 i Bi Ci NBi 1 2 3 4 3 5 2 4 2 3 3 1 1 2 -1 3 選択するプロジェクト=プロジェクト2とプロジェクト4 i Bi Ci NBi 1 2 3 4 3 5 2 4 2 3 3 1 1 2 -1 3 選択するプロジェクト=プロジェクト2とプロジェクト4 純便益の和=2+3=5 (問題2-3) 1. 2. 3. 4. ⇒ 1. 4つのプロジェクトの候補 プロジェクト1とプロジェクト2は排他的 プロジェクト1と3は独立でない。 プロジェクト2と3も独立ではない。 純便益の和を最大にするためにはどのプロ ジェクトを採択すればよいだろうか。 2. そのときの純便益の和を求めなさい。 (問題2-3)のイメージ図 プロジェクト3 プロジェクト1 プロジェクト2 プロジェクト4 i 1 2 3 4 1+3 2+3 Bi Ci 3 5 2 4 8 8 2 3 3 1 5 6 NBi i 1 2 3 4 1+3 2+3 Bi Ci NBi 3 5 2 4 8 8 2 3 3 1 5 6 1 2 -1 3 3 2 i 1 2 3 4 1+3 2+3 Bi Ci NBi 3 5 2 4 8 8 2 3 3 1 5 6 1 2 -1 3 3 2 選択するプロジェクト=プロジェクト1+3とプロジェクト4 i 1 2 3 4 1+3 2+3 Bi Ci NBi 3 5 2 4 8 8 2 3 3 1 5 6 1 2 -1 3 3 2 選択するプロジェクト=プロジェクト1+3とプロジェクト4 純便益の和=3+3=6 ② 予算制約が存在する場合の採否の基準 予算額=M & プロジェクトは全て非排他的かつ独立 純便益の和を最大にするようにプロジェクトを選択するため には、次のようにすればよい。 ① プロジェクトの中から純便益がプラスのプロジェクトだけを 残す。 ② ①で残ったプロジェクトの中から費用合計がM以下になる 組合せを全て考える。 ③ ②の組合せの中から純便益の合計が最大になるプロジェク トの組合せを選択する。 便益・費用比基準 = B/Cの大きいプロジェクトから順番にその費 用合計がMを越える直前まで採択する。 「選択したプロジェクトの費用合計=予算額M」 ⇒ 選択されたプロジェクトは、①、②、③のプロ セスで選択された組合せと一致 問題2-4 i 1 2 3 4 5 Bi Ci 70 52 50 48 20 30 20 20 20 30 Bi Ci Bi / Ci 問題2-4 i 1 2 3 4 5 Bi Ci Bi Ci 70 52 50 48 20 30 20 20 20 30 40 32 30 28 -10 Bi / Ci 問題2-4 i 1 2 3 4 5 Bi Ci Bi Ci Bi / Ci 70 52 50 48 20 30 20 20 20 30 40 32 30 28 -10 70/30 78/30 75/30 72/30 -20/30 B2 / C2 B3 / C3 B4 / C4 B1 / C1 1 B5 / C5 問題2-4 i 1 2 3 4 5 Bi Ci Bi Ci Bi / Ci 70 52 50 48 20 30 20 20 20 30 40 32 30 28 -10 70/30 78/30 75/30 72/30 -20/30 B2 / C2 B3 / C3 B4 / C4 B1 / C1 1 B5 / C5 M 60 プロジェクト2 、3 、4 を選択 M 50 プロジェクト1 、2 を選択 3.支払い意思に関する基本的な問題点 ① アローの一般(不)可能性定理 ② 支払意思額の富の分配への依存 ③ 当事者適格性(standing)について ① アローの一般(不)可能性定理 <Arrow’s (im)possibility theorem> – 次の条件全てを満たす「社会的選択ルール(social choice rule)」 は論理的に存在しない。 1)広範性(unrestricted domain) 2)無関連な選択対象からの独立性 (independence of irrelevant alternatives) 3)パレート原理(Pareto principle) 4)非独裁制(non-dictatorship) <「不可能性」から逃れる試み> 1) 広範性 ⇒ 単峰性 2) パレート原理 ⇒ 補償原理(潜在的パレート改善) ② 支払意思額の富の分配への依存 分配基準に関する主観的な価値観の明示: 1. 政策を効率性と分配基準の両方の観点から比較 する。 (例)多目的分析(multi-goal analysis) 分配加重平均(distributionally weighted)CBA 2. 政策の結果生じる純便益の変化を、経済全体だ けでなく、資産や所得グループごとに報告する。 ③ 当事者適格性(standing)について 1. 社会の管轄権的定義(jurisdictional definition of society) CBAでは「社会=国」とすることが多い。 2. 管轄権のある構成員(jurisdictional membership) 当事者適格性を持つ主体 =海外に居住する自国民、合法的に滞在している外国人 3. 社会的に受け入れられない選好の排除 当事者適格性を持たない選好 =それに基づく行動が法的制裁を伴うような選好 4. 将来世代の選好の考慮 CBAで将来世代の選好を考慮する方法 ⇒ ① 現在の世代の行動から将来世代の選好を予測 ② 現在世代の個人は将来世代の利害を多少は考慮 4.政治プロセスにおけるCBAの役割 ① CBAは公的対話の関係を悪化させるか 非市場財にどのように貨幣価値を付けるか を正しく説明することにより、CBAが公的対 話の中身を低下させるという非難に答えるこ とができる。 (例)生命の価値vs.確率的生命の価値 ② CBA⇒民主主義を徐々に弱体化? 1. 現実の公共政策決定プロセスは「理想的な民主 主義」とは程遠いものである。 2. CBAは公共政策決定に対して控えめな影響しか 持っていない。 3. 現実には、声の小さい選挙民は通常その利害を あまり代表してもらえない。 4. CBAは声の小さい選挙民の利害をより良く反映す る場合が多い。 5.CBAの限界: 他の分析方法 ① 技術的限界 ② 効率性以外の目標が重要である場合 ① CBAにとっての技術的限界 <定性的なCBA(Qualitative CBA)> 1. 可能な限り多くの影響を貨幣価値に換算 2. 貨幣換算できない他の費用・便益の相対的な重 要性を定性的に評価 貨幣換算するためにどの程度の努力水準を選択 するかは、その努力で得られる精度向上の価値と そのコストとを比較することで、判断する。 <費用対効果分析(Cost-Effective Analysis)> 商業的漁業手法規制の例 : c=イルカの死亡数を減少させる以外の純費用 nd=規制で回避できるイルカの死亡数 nd / c=規制の費用対効果比率 (cost-effectiveness ratio) アナリストに依頼する顧客は、助けられる人命など への影響を貨幣価値に換算することを望まないこと が多い。 ② 効率性以外の目標が重要な場合のCBA <多目的分析(multi-goals analysis) > <分配加重平均(distributionally weighted)CB> (第18章参照) 1. 分配面で重要な特性(所得や富など)で分類されたグ ループごとに純便益を評価 2. アナリストがグループごとの加重ウェイトを選択 3. グループごとの純便益に選択した加重ウェイを用いて 加重平均CBAを計算
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