低温科学の魅力 ー 今年度ノーベル物理学賞:超伝導と超流動 ー 国際融合創造センター・理学研究科物理学第一専攻 前野悦輝 低温科学に関するノーベル物理学賞 年表1 1910 「気体と液体の状態方程式」 ファン‐デル‐ワールス 1913 液体ヘリウムの製造に関連する低温現象の研究:超伝導の発見 カマリング‐オネス (オランダ) 1920 (化学賞) 「熱化学の研究」 ネルンスト 1949(化学賞) 「化学熱力学への貢献、 特に物質の極低温での振る舞いについて」 ジォーク 固体の中の電子 伝導電子 イオン 金属:原子から外側の電子 が離れ、全体にひろがって 運動する(伝導電子)。 残った原子は正イオンになっ ている。 温度が高いほどイオンの熱 振動は激しく、電子はぴんぱ んに衝突する。 金属を冷やすと 電気抵抗はどうなる? 超伝導の発見 水銀を冷やすと電気抵抗 はだんだん小さくなるが、 ある温度以下で突然 ゼロ抵抗になる! 電 気 抵 抗 1911年に発見 カメリン・オネス (オランダ) 1913年に ノーベル賞 絶対温度(ケルビン) 超伝導体の特徴 次の2つの現象が観測されることが超伝導であることに必要。 2. マイスナー効果 電気抵抗 1. 電気抵抗がゼロ T > Tc:常伝導 温度 臨界温度Tc (転移温度) T < Tc:超伝導 磁場中の超伝導体は、 磁束をはねのける 低温科学に関するノーベル物理学賞 年表2 1962 液体ヘリウムの理論的研究 ランダウ 1972 超伝導現象の理論的解明 (BCS理論) バーディーン ・クーパー ・シュリーファー 1973 (半導体における)トンネル効果と超伝導体での実験的発見 (江崎 玲於奈)・ジエーヴァー ・ジョセフソン 1978 低温物理学における基礎的な発見と発明:ヘリウムの超流動の発見 カピッツァ 超伝導体の中の電子 玉 ⇔ 電子 マット ⇔ イオン(原子) 玉をマットの上にのせると、 マットが沈んで二つの玉は 引き合う。 電子が走り去った後、 正イオンが僅かに引かれて、 正に帯電した領域ができる。 そこに別の電子(-)が 引き寄せられる。 電子が対(クーパー対)を作ったとたん、ボーズ・アイン シュタイン凝縮が起こって超流動状態になる。 BCS理論のあらまし Bardeen, Cooper, Schrieffer (1957) 電子-格子相互作用を媒介とした 金属中の電子: フェルミ凝縮状態 電子間引力によって、 合成運動量 P = 0, 合成スピン S = 0 の 電子対が形成される Fermi凝縮状態は不安定化し、 BCS状態(超伝導)になる. 電子対の“ボーズ・アインシュタイン凝縮” 電子対(クーパー対)の大きさ: 1~100 nm 準粒子励起スペクトルにはエネルギー ギャップ Δ が生じる. “BCS基底状態” 超伝導になる元素 冷やすだけで超伝導になる元素 高圧をかけて初めて超伝導になる元素 その多くは最近、大阪大学のグループが発見 超伝導に関するノーベル物理学賞 年表3 1987 酸化物高温超伝導体の発見 K.A.ミュラー ・J.G.ベドノルツ 1996 超流動ヘリウム3の発見 リー・オシェロフ・リチャードソン 103年間 19名 / 171名 (11%) +10名 2001 アルカリ元素気体のボーズ・アインシュタイン凝縮の発見 コーネル・ ケターレ・ヴィーマン 2003 超伝導体・超流動体の理論における先駆的貢献 A.A.アブリコソフ (ロシア)・ V.L. ギンツブルグ (ロシア) ・ A.J. レゲット (イギリス) 高温超伝導の 発見(1986年) ミューラーとベドノルツ 1987年にノーベル賞 スピン一重項だが、 d波の超伝導 超伝導体の臨界温度の変遷 アルカリ気体のボーズ・アインシュタイン凝縮 BEC of alkaline gases by laser cooling M.H. Anderson et al., Science 269, 198 (1995). 87Rb (Z = 37), T 12 cm-3 BEC = 170 mK, n = 2.5 x 10 also in 7Li, 23Na, 85Rb The Nobel Prize in Physics 2003 "for pioneering contributions to the theory of superconductors and superfluids" Alexei A. Abrikosov USA and Russia Argonne National Laboratory USA 渦糸理論 Vitaly L. Ginzburg Anthony J. Leggett Russia P.N. Lebedev Physical Institute Moscow, Russia 超伝導理論 United Kingdom and USA University of Illinois Urbana, USA スピン三重項 超流動理論 2種類の超伝導体 Type-I superconductors repel a magnetic field (the Meissner effect). If the strength of the magnetic field increases, they lose their superconductivity. This does not happen with type-II superconductors, which accomodate strong magnetic fields by letting the magnetic field in. Ginzburg-Landau方程式 アブリコソフ磁束格子 This image is of an Abrikosov lattice of vortices in the electron fluid in a type-II superconductor. The magnetic field passes through these vortices. 超流動ヘリウム4の量子化渦糸 量子化渦糸の芯に 沿って移動するイオ ンをとった写真 E.J. Yarmchuck, and R.E. Packard 超流動ヘリウムを 入れた回転容器 スピン三重項超流動体 The pair formation that occurs in superfluid 3He differs from that which occurs between electrons in a superconductor (Cooper pairs). 超伝導にスピン三重項はあるのか? 電子はスピン(, )をもつ: クーパー対の合成スピンとして2種類が可能 スピン一重項 (singlet) S=0 従来のすべての超伝導 (高温超伝導も) スピン三重項 (triplet) S=1 スピンも超流動状態 新奇現象期待できる スピン三重項の可能性が指摘される超流体 S = 1 Cooper pairing (0) 原子の超流動体 3He p-wave (1) 重い電子系超伝導体 UPt3 UNi2Al3:UPd2Al3 は明らかに一重項 (2) ルテニウム酸化物超伝導体 Sr2RuO4 (3) 強磁性と共存する超伝導体 UGe2, URhGe, ZrZn2? (4) 有機超伝導体 (5) その他 (TMTSF)2PF6 ?? PrOs4Sb12? , NaxCoO2・yH2O? スピン三重項超伝導の存在が、実際の物質で詳細にわたって 確立できたのは、Sr2RuO4がはじめて! 層状ルテニウム酸化物 Sr2RuO4のスピン三重項超伝導 超伝導転移温度 Tc = 1.5 K 小矢印: 平行スピン対 (Sz = 0) 大矢印: 軌道角運動量 (Lz = 1) 超伝導研究の将来 (1) より高いTcの実現 室温超伝導体の発見 (2) 高温超伝導メカニズムの解明 BCS理論よりも包括的な超伝導理論の構築 (3) 新奇な超伝導状態の発見 電子-格子以外のメカニズム、 非s波超伝導、 “FFLO” (4) 新超伝導現象の発見 マイスナー効果やジョゼフソン効果に比肩しうる効果 超伝導対称性 Cooper対の状態ベクトル 1,2 2,1 State Vector Spin part Spin singlet (一重項) Sz = 0 r1 ,r2 S=1 Sz = -1 0, 2, ... 反対称 s波, d波 対称 (even parity) Sz = +1 Sz = 0 1 2 S=0 Spin triplet (三重項) Orbital part 1, 2 1 2 : Fermions 対称 1, 3, ... p波, f波 反対称 (odd parity) 非従来型(非s波)超伝導性の起源 電子間クーロン斥力の重要な系(強相関電子系): 電子間距離ゼロに波動関数の振幅を持つs波は不利 Cu酸化物:反強磁性揺らぎ ⇒ 反平行スピン対 ⇒ スピン一重項d波超伝導 Ru酸化物: 強磁性揺らぎは それほど 強くない ⇒ 電子相関によって スピン三重項 電子・格子相互作用ではなく、 電子間のクーロン斥力が 対形成をうむ s波 d波 p波
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