1』講套脚」. 6.宇宙プラズマのMHD現象を理解するには 草 野完 也 (広島大学大学院先端物質科学研究科) MHD Phenomenain Astronomical andSpace Plasmas KUSANO Kanya G7α4照言8SchoolげA4vαnc645c∫6n66s6ゾ〃απ6ろHケosh加αUn’v6君s妙,E’8αsh∫hかosh顔α739−8526,/αpαn (Received2April2001) Abstract Magnetohydrodynamics(MHD)provideaverylmportantmodelforourunderstandingofthestructureand evolution of space and astronomical plasmas,such as the Sun,solar corona,and planetary magnetosphere. This paper outlines two key concepts,reconnection and(lynamo,those playanessentialrole inthe energetic activity of a variety of astronomical an(i space plasmas. Keywords= astronomical plasma,space plasma,MHD,reconnection,dynamo,solar flare 6.1 はじめに 空間に衝撃波と太陽風の激しい乱れが生じ,それらが地 本講座で学んできたように,電磁流体力学(MHD)はプ 球磁気圏に衝突することで磁気嵐やオーロラのようなエ ラズマの集団現象を記述する最も成功を納めた理論モデ ネルギー解放現象が発生します. ルの一つです.ここで,宇宙に目を向けてみましょう. こうした一連の現象をMHDの立場から理解するなら 興味深い宇宙プラズマ現象は,すべて大規模なエネル ば,それらはすべて4つの形態のエネルギーにおける変 ギー変換過程であると考えることができます.太陽内部 換過程であると捉えられます.4つのエネルギー形態と の核融合反応で加熱されたプラズマの熱エネルギーは, は,磁気エネルギー,運動エネルギー,熱エネルギー,お 星内部の対流を通して運動エネルギーに変換されます. よび重力エネルギーです.例えば,ダイナモは運動エネ プラズマの対流運動はダイナモを通して磁場を再生成し ルギーから磁気エネルギーへの変換過程ですが,太陽フ 磁気エネルギーに変換されます.こうして形成された太 レア,コロナ質量放出,およびオーロラ粒子の加速原因 陽磁場は磁気浮力を生み出し,再び重力エネルギーを解 を作り出す磁力線のつなぎ変え(リコネクション)は,磁 放しながら太陽外部のコロナに放出され,太陽黒点を生 気エネルギーから運動および熱エネルギーへの効果的な み出します.さらに,太陽磁場はそのエネルギーを熱化 変換過程です. することで太陽コロナを数百万度にまで加熱するととも 本章では,こうした宇宙プラズマ現象を理解するため に,しばしば爆発的なフレア現象やコロナ質量放出を引 に必要な基礎的知識としてリコネクションとダイナモを き起こすと考えられています.その結果として,惑星間 取り上げ,その原理と研究の現状を整理することで,宇 側∫ho〆s8一〃2αiZ液泥sαno@hかosh〃nα一砿αご」17 691 プラズマ・核融合学会誌 第77巻第7号 2001年7月 宙プラズマにおけるMHDを考察します.特に,ここで u out A’ D’ は太陽プラズマを中心として研究の現状と間題点を紹介 笑ΨノD します.なお,リコネクションとダイナモの詳細につい ては教科書[1,2]および教科書[3−5]などをそれぞれ参考 にしてください.また,その他の宇宙物理学的現象と MHDのかかわりについても最後に触れられています. 唱.B 々 diffusionregion out,δ B 6.2磁気リコネクション ln 本講座第2章(プラズマ・核融合学会誌77,457(2001)) で述べられたように,MHDシステムにおける電気抵抗 u in の大きさは無次元量である磁気レイノルズ数R、。あるい 2△ ● u in ○ はランキスト数Sによって評価されます.宇宙プラズマ B, では多くの場合,これらの値は1に比べて十分大きいの In で,抵抗の影響は無視できると思えます.しかし,系の 特徴的なスケールが局所的に小さな領域があるとその限 タ 、々2δ ノ りではありません.たとえば,Figほのように方向の異な 4聡 る磁場をもつプラズマが,速度循、1で相互に衝突する場 合を考えます.すると,2つのプラズマの接触点(O)は流 体のよどみ点となり,流速が失われるため,オームの法 B C uout 則(第2章(5)式)における誘導電場B×αは消失しま す.それゆえこの部分では,電気抵抗がどれほど小さく ても,抵抗電場η」が誘導電場に比べて優勢となり, Fig.1 111ustration of magnetic structure in the reconnection re− R、・<1である領域が接触面上に層状に現れます.この領 gion. 域を拡散領域(diffusion region)と呼び,その内部では磁 ばM《1となり,%i,1《%、、、,吐, B、、、、t《Bi,,であると考えら 力線の凍り付き(frozen−in)が破れ,そのトポロジカルな 構造は不可逆的な変化を受けます.その結果,磁力線 れます.一方このとき,拡散領域のまわりにおける力の ABとCDは拡散領域を通過後,磁力線AIDlとCIB!に「再 釣り合い条件は,Bil/μ〇二餌、凱,、と書けるので, 結合(リコネクション)」されます. 6.2.1Sweet−Parkerモデル %()u〔=B1,、/痴δニレλ (2) 拡散領域の性質を簡単に考えてみましょう.その幅と 長さをそれぞれ2δと2刀,上流の速度と磁場をκi,、と となります.すなわち,リコネクションの結果としてプ βi、、,下流のそれを麗、、,、tとB。、,tとします.定常的にリコネ ラズマの流速は上流におけるアルヴェン速度まで加速さ クションが生じる場合,2章の(5)および(6)式より電 れます.それゆえ,〃『=(η/μoレ♂)1/2となり,リコネク 場E一η」一乙‘×Bが一様に分布する必要があります.拡 ションの効率は拡散領域の長さ』と電気抵抗ηの比から 散領域の外部では誘導電場が,内部では抵抗電場が優勢 決まることがわかります.ただし,この関係式から∠ であることを考えると,循,1Bi、,=η(βi、,/δμo)=κ。、,、tB、、、,t, を決めることはできません. が満たされなければなりません.また,質量保存の関係 MHD方程式を数値的に解くことにより,定常リコネ から拡散領域を出入りするフラックスは釣り合わなけれ クション過程の数値解を求める数多くの研究がありま ばならないため,刀%i,、=枷、、、、t,となります.流速の比 す.その結果は,抵抗ηが一様一定のスカラ量である限 %i,,伽、、、、乳をリコネクションの効率Mとして定義すると, り,∠はSの増加とともにシステム長ゐ程度まで大きく なることを示しています[6].それゆえ,S》1のとき 蝶鑑音鉦一(鵡∠)璽 (1) M一(畝L)泥一s一毘 と書けます.それゆえ,もし電気抵抗ηが十分小さけれ 692 (3) 講 座 6.宇宙プラズマのMHD現象を理解するには 草野 となります.これをリコネクションにおけるSweet− が十分小さな場合にも電子慣性項の効果によって電気抵 Parkerスケーリングと呼びます. 抗に依存しない早いリコネクションが実現されることが 前述したように,宇宙プラズマでは一般にS》1であ 示されています[10]. るため,Sweet−Parkerスケーリングはリコネクションの リコネクションにおいてはさらに複雑なショックも形 時間スケールを非現実的に長いものにしてしまいます. 成されます.(2)はリコネクションの流出流が流入側の たとえば,太陽コロナではS∼1014程度であるため, アルヴェン速度であることを意味します.しかし, SweeむParkerスケーリングに従うとリコネクションの B、、、,乳《Bi、,であるため,β《1である限り流出流%、、、、1は局 時間スケールはS1/2L/レA∼107secにも達し,太陽フレア 所的な磁気音速を超えます.それゆえ,流出流の先端に の観測時間(∼103sec)を説明することができません. 磁気音波(MHDファストモード)ショックが形成される 6.2.2MHDショックと異常抵抗 中性流体において向かい合った超音速流が衝突する と考えられます.数値シミュレーションの結果はファス トモードショックによって下流域に複雑な磁場構造が形 と,よどみ点のある衝突面の手前で流れは超音速から亜 成されるとともに,効果的なショック加熱が生じること 音速へ遷移するため衝撃波(ショック)が形成されます. を示しています.太陽フレアの際に,フレアループの頂 一方,リコネクションは磁力線に直交する流れ(%i、,)が 上付近に発生する実効温度数億度に達する高温領域は, 衝突する現象です.この流れが磁気音波(ファストモー ファストモードショックの結果であると考えられてお り,太陽フレアのリコネクションモデルを支持する証拠 ド)より十分遅い場合でも,スローモードは磁力線に直 交する方向には伝搬しないので,スローモードに対する のひとつとなっています[11]. “超音速流”ととらえられます.それゆえ,リコネクショ 6.2.3太陽フレア ン点の近傍にスローモードのショックが形成される可能 宇宙プラズマでは様々な規模の爆発的エネルギー解放 性があります.Petschekは電流と渦度がスローモード 現象が磁気エネルギーを駆動源として生じています.太 ショックに集中すると仮定した定常リコネクションの近 陽フレアはそうした典型的なMHD爆発現象として,詳 似解を求めました[7].その結果によれば,リコネクショ しく研究されてきました.太陽フレアとは太陽表面の上 ン効率の最大値はハ4、n、篭x∼1/1nSと与えられます.さら 空で突発的に大量の熱および運動エネルギーが発生する に,Petschekモデルを拡張し,より一般的な定常リコネ 現象です.これは太陽系内で最も激しいMHD現象であ り,1025」に至るエネルギーが数十秒から数時問以内に クション解を求める多くの研究もなされています[8]. Petschekモデルはセルフコンシステントな理論では ありませんが,太陽コロナのようにSが大きな場合で 宇宙空間に放出されます.現在では太陽フレアは太陽表 も,十分早いリコネクションが実現し得ることを現象論 よって解放される現象であると広く考えられています 的に説明しています.Sweet−ParkerスケーリングとPet− [12]. 面磁場に蓄積された自由エネルギーがリコネクションに schekモデルの本質的違いは,前者が拡散領域の構造を 太陽フレアがリコネクションによって生じるとする証 はじめに決めた場合のリコネクションを考えるのに対 し,後者ではショック構造の結果として拡散領域の形状 拠として,必ず磁気中性線(太陽表面を貫く磁場の極性 が反転する線状領域)の上空で発生することがあげられ が受動的に決まると考える点にあります.どちらのモデ ます.その結果,フレアをX線で観測するとフレァルー ルが実現するのかを調べるためには,境界条件を設定 プとよばれる磁気中性線をまたぐ先端の尖ったアーケー し,MHD方程式を解く必要があります.抵抗MHD方程 ド形状のイメージが得られます.また,フレアループの 式に基づく数値シミュレーションは,ηが一様一定であ 足の間隔が時間とともに拡大することも知られていま るかぎり,S》1の場合にSweet.Parkerスケーリングが す.さらに詳しい解析の結果,最も温度の高い領域はX 実現されることを示しています[6].一方,リコネクショ 線で輝くフレアループの上空(太陽から遠い部分)にあ ン点近傍に局所的に大きな異常抵抗がある場合,Pet− ることも明らかにされています[13,14]. schekモデルに近い数値解が得られます[9].異常抵抗の こうした観測結果を総合的に説明するモデルとして 起源に関しては統一した理解に達していませんが,乱流 Fig。2のような磁場構造が考えられています.すなわち, 輸送やミクロスコピックな不安定性によるモデルが提案 極性の異なる磁力線が接触するX点においてリコネク されています[1].また,電荷中性条件を緩和した2流体 ションが発生し,その結果生み出された高温プラズマの モデルに基づく数値シミュレーションの結果,電気抵抗 熱エネルギーが太陽表面にある高密度のプラズマを加熱 693 プラズマ・核融合学会誌 第77巻第7号 2001年7月 6.3 ダイナモ 〉 6.3.1磁場の起源 太陽や地球をはじめとして惑星,恒星,そして銀河な 篭l l l ど,多くの天体は固有の磁場を有しており,それらは宇 ll ll Vin ゆ H ハ MHD fast mode shock Jn reCOnneCtiOn Site 宙MHD現象のエネルギー源としての役割を果たしてい ← ます.こうした天体磁場の生成機構そのものも「ダイナ モ」と呼ばれるMHD現象です.ダイナモとは流体運動と MHD sbw mode shock 磁場との相互作用によって,運動エネルギーが磁気エネ ’恥 ルギーに変換される過程を意味します. Ioop top hard X−ray source ノ Teff∼2x1(βK 例えば地球や木星などの惑星磁場は,惑星深部にある 液体金属の運動にその源があります.太陽フレアを引き X−ray narc looP hO近rcgioa 起こす太陽表面磁場は,太陽外層部における熱対流運動 7 T∼2x10 K によって生み出されます.銀河磁場の生成機構に関して は多くの論争がありますが,星間ガスの乱流運動に起因 したダイナモ説は有力なモデルの一つです[17]. 6.3.2 ダイナモと反ダイナモ定理 ダイナモ(dynamo)は「発電器」を意味する一般名詞 photOsphcrc Fig.2 Coronal magneticstructure in solarflare. であるため,明確な定義なしに使われる場合がありま した結果として,フレアループを形成するというもので す.そこで,誤解を避けるためMHDにおけるダイナモ の定義を再確認しておきましょう.ダイナモとは有限領 す.このモデルによれば,高温領域がフレアループの上 域Vの内部のみに速度場乱と電流」が閉じ込められてお 空にあること,フレアループが外側に広がることを的確 り,Vの外部に磁場Bを生み出す源は存在しないときに, に説明できます.モデルによれば,X点の上空には高温 電気抵抗による散逸に抗して磁気エネルギーを維持する プラズマ流が上向きにも流れ出すはずですが,その存在 機構です[3].それゆえ,無限空間に一様磁場を初期条件 もX線観測によって最近捉えられています. として与えるような問題は,(境界条件に磁場の源があ リコネクションモデルは太陽フレアの多くの観測事実 るため)厳密な意味でダイナモ間題ではないことに注意 する必要があります. を説明することができますが,リコネクションの発生原 因に関しては明確な説明が与えられていません.太陽磁 ダイナモ研究ではどのような速度場がダイナモ作用を 場の自由エネルギーは太陽表面の運動に起因するポイン 持つのかという間題が主たる興味の中心です.それゆ ティングフラックスによってコロナ磁場に注入されま え,速度場郡を固定したときのダイナモ作用を調べる運 す.しかし,太陽表面運動の速度はコロナにおけるアル 動学的(kinematic)ダイナモモデルがしばしば用いられ ヴェン速度に比べて約103倍以上遅いので,太陽フレア ます.運動学的ダイナモモデルでは誘導方程式 で解放される自由エネルギーを蓄積するためには100時 誓一▽・(μ・B一煮▽・B) 間以上が必要です.すなわち,太陽フレアは地震のよう (4) にゆっくり蓄積されたエネルギーを短時間に解放するカ タストロフ型現象です.それでは,蓄積から解放へ転じ をBに対する線形方程式として取扱い,その固有値の実 る契機は何によって与えられるのでしょう? この「太 部をダイナモ成長率と呼びます. 陽フレアのトリガ間題」は未だに未解決です.磁気アー ダイナモが不可能である条件のいくつかが理論的に証 ケードに太陽面境界からヘリシティを注入することでコ 明されており,反ダイナモ定理(anti−dynamo theorem) ロナ磁場が不安定化するというヘリシティ駆動モデル として定式化されています.例えば,Bが撹と同一の対 [14,15],太陽面境界の変化によってコロナ中に流れる 象軸を持つ二次元場である場合,ダイナモは不可能です 電流と太陽磁場の平衡構造が失われる結果として磁場の (Cowlingの定理[18]).また,ベクトル郡が常にポロイ 構造変化が発生するとする平衡消失モデル[16],など多 ダル面(子午面)上にある場合,ベクトルμがトロイダ くのモデルが提唱されています[12]. ル成分(回転方向成分)のみを持つ場合などはそれぞれ 694 講 座 6.宇宙プラズマのMHD現象を理解するには 草野 ダイナモ作用がありません.これらの反ダイナモ定理 6.3.4 平均場理論 は,ポロイダル磁場成分とトロイダル磁場成分の相互変 宇宙プラズマでは磁気レイノルズ数のみならずレイノ 換がダイナモにとって不可欠であり,ダイナモが本質的 ルズ数も非常に大きな値をとるため,乱流が十分発達し に三次元問題であることを意味しています.それゆえ, ていることが考えられます.一方,太陽でも銀河でも主 解析的な取り扱いは容易でなく,多くの場合数値計算が たる磁場は天体サイズの大規模な構造を持っています. 重要な役割を果たします. これは,波長の小さな乱流場が大きなスケールの磁場を 6.3.3ヘリシティとカオス 生成することを意味します。そこで,2つのスケールの ポロイダル成分とトロイダル成分の磁場の相互変換 場を考え,小さなスケールの場が生み出すダイナモ項を は,磁力線を捻じることで実現できます.それゆえ,速 平均化することで大きなスケールのダイナモを考える平 均場ダイナモ理論が広く用いられています. 度場のねじれを表すヘリシティ (第5章参照) 場を乱コ〈麗〉+廊,B=〈B〉+わ,と書きましょう.第1 H一∫郡・▽×麗dV, 項の〈〉は平均場であることを意味します.すると平均 (5) 場の誘導方程式は がダイナモにとって重要な量です.実際,エネルギー E罵∫砂麗d7を一定とし,Eを最大とするような流れで ∂〈B〉可×(く巴‘〉×くB〉一ηくB〉)+▽×¢, ∂渉 (6) あるベルトラミ流(▽×μ=λ那)は効果的なダイナモ作 用を持つことが知られています.最低次のベルトラミ流 と書けます.ただし,(5二伽×わ〉です.6はπと〈B〉 であるABC流μ=(。4sinz+Ccosy,Bsi11κ+、4cos2, との結合から生まれるので,δが〈B〉と線形関係をもつ C sillッ+B co肱)はダイナモ研究のモデルとしてしばし と考え,展開 ば用いられます. ¢一殉〈Bノ〉+β罐∂綴〉+・・ 磁気レイノルズ数が比較的小さい場合 (7) (R、n=0(10)),ロバーッ流(A:B:C=玉:1:0) がABC流として最も大きなダイナモ成長率を与えるこ によって¢を表現します.ここで,ダイナモ効果はその とが知られています[19].しかし,磁気レイノルズ数が 展開係数に取込まれています.右辺第!項の係数殉は流 大きくなると,その成長率はRmの増加とともに減少し 体のヘリシティと関係しており,α効果と呼ばれる乱流 始めます[4].これは抵抗の減少と共に磁場構造が局所 のねじれに起因するダイナモ効果を意味し,第2項はβ 化するため,拡散効果が支配的になる結果として生じま 効果と呼ばれる乱流拡散効果を表します. す.太陽対流層や星間プラズマは非常に大きな磁気レイ 一方ダイナモによって磁場が十分成長すると,ダイナ ノルズ数をもつため,1∼m→○○において,ダイナモ成長 モの結果としてつくられた磁場から流速場へのフィード 率が1∼mに依存しない正値にとどまるか,1∼mの増加とと バック効果が現れるため,運動学的ダイナモモデルはも もに減少し続けるかは興味ある問題です.前者をfast はや良い近似ではあり得ません.特に,Rm》1の時,平 ダイナモ,後者をslOWダイナモと呼びます. 均磁場〈B〉が十分成長すると,乱流磁場わのエネルギー が乱流場のエネルギーより小さな段階でもα効果が急速 Fastダイナモを実現するには,磁力線のねじれととも にその折り畳みが必要であることが指摘されています. に弱められる現象(αquenching)が生じることが指摘さ そうした変換は流れの軌道がLagrangianカオスの性質 れています[22].ただし,非線型ダイナモの統一的な理 を持つときに実現できるため,流れのカオス性とダイナ 論は未だに確立されておらず,フィードバック効果の定 モの関係に関して多数の研究が行われています[4,20]. 式化はダイナモ研究の中心課題でもあります. 例えば,ロバーッ流は流線が閉じた平面にとどまる可積 6.3.5 太陽ダイナモ 分の流れですが,その位相に時間変動を与えると軌道を 太陽磁場活動の指標でもある黒点磁場は11年の周期で カオス化することができます.カオス化したロバーッ流 その強度と極性を周期的に変化させていることが古くか は1∼、、、=0(103)程度でもR、,,とともにダイナモ成長率が ら知られています(ただし,1600年代後半には黒点が約 増加することが数値的に確かめられています[21].ま 50年間ほとんど現れなかった時期「マウンダー極小期」が た,カオス軌道を示すA:B:C=!:1:1流れも 例外的にあったと考えられています).太陽黒点が対と fastダイナモとして作用すると考えられています. して現れる場合,それぞれ異なる磁極を持ちます.また, 695 プラズマ・核融合学会誌 第77巻第7号 2001年7月 ターンを再現するようなα係数の分布を探る試みも行わ れています. convectlve 一方,三次元MHDシミュレーションによって回転球 zone 殻中の熱対流とダイナモ過程を直接数値的に求める試み magneticloOP も続けられています[251.直接シミュレーションは近 radlatlve zone㌧ 年,地磁気ダイナモの研究を大きく推進しましたが,太 sunspo童 ム 陽ダイナモに関しては黒点活動周期や蝶々図のパターン ma netic fIUX 謁 をセルフコンシステントに再現できた例はまだありませ ん.観測から示唆される微分回転や運動学的ダイナモモ デルから予想される流れのヘリシティ分布さえもその形 成機構の解明は課題として残されています[26]. magneticloop 6.4 宇宙とMHD Fig.3 Schematic iIlustration of the magnetic flux creating the 本章では宇宙プラズマにおけるMHD現象を理解する sunspotpairs. ために必要な概念としてリコネクションとダイナモに焦 点をあて,その基礎と研究の現状を紹介しました.宇宙 東西方向の磁極の並びは北半球と南半球で反転していま 空間はプラズマの海であり,そこで生じる多くの現象が す.黒点の緯度と時間との関係を描いたいわゆる「蝶々 MHDに関係しています.例えば,太陽コロナからの大 図」のパターンより,黒点が主に現れる緯度は各活動期 規模なプラズマ噴出現象であるコロナ質量放出 の初期から後期にかけて高緯度域から低緯度域に規則的 (CME)や,その結果として生じる衝撃波の伝搬過程に に変化することも知られています. 関してもMHDモデルに基づく詳細な研究が進められて これらの事実からFig.3のように太陽の北半球と南半 います[27].さらに,太陽系内の電磁環境の乱れを予測 球の深部には互いに極性が反転した磁束管が太陽の自転 しようとする試み(宇宙天気予報)においてもMHDは重 軸を取り巻いており,黒点はそれらの磁束管が磁気浮力. 要なモデルとなっています.また,太陽風との相互作用 不安定性(パーカー不安定性[23])などの効果で太陽表 面に浮上する結果として作られると考えられています. による地球磁気圏の大規模なダイナミクスは複雑な MHD過程に強く支配されており,数多くの研究が行わ こうした観測結果すべてを自己矛盾なく説明する理論は れています[28,29]. まだ確立していませんが,代表的なモデルとしてαωダ さらに最近では太陽系外の多くの宇宙物理学的現象が イナモモデルがあります.これは乱流場に起因するα MHDに深く関係しているという認識が広がりつつあり 効果がトロイダル磁場をポロイダル磁場へ変換し,太陽 ます[30].特に,降着円盤における磁気回転不安定性 内部における微分回転の効果(の効果)がポロイダル磁場 [31]や,宇宙ジェット[32]の生成機構としての磁場の役 をトロイダル磁場へ引き延ばすというものです. 割は非常に注目されており,今やMHDは星形成過程を 近年,太陽表面振動から音波の内部伝搬を計算するこ 考える上で不可欠の枠組みとなっています.また,銀河 とで,太陽内部の物理量を観測する日震学が急速に進歩 や銀河団の構造とプラズマの関わりを探る試みも行われ したため,太陽対流層の深さのみならず平均回転速度の ています[33]. 内部分布も明らかにされています[24].それによると, MHDは極めて応用性の広い強力なモデルです.宇宙 太陽対流層では深さよりも緯度に強く依存した微分回転 プラズマと実験室プラズマの全く異なると思える現象 が存在し,低緯度ほどはやく回転しています.また,対 が,MHDの立場から同一の物理によって説明されるこ 流層の下にある輻射層はほとんど剛体回転しているた ともあります[14].天体現象研究におけるMHDの重要 め,対流層と輻射層の境界には流れのシアが集中した部 性は現在急速に拡大しており,プラズマ物理学と宇宙物 分(tachocline)があります.これらの事実はの効果が対 理学の交流は今後の研究にとって極めて重要な役割を果 流層底部に局在していることを示唆しています.日震学 たすことでしょう. で得られた微分回転分布を用いて運動学的ダイナモモデ ルに従う方程式を数値的に解くことにより,蝶々図のパ 696 * ・--・,j i= r 6 ^, F 1'ii77; : )MHD1 : :Ifrj ; iCl *F --- i :-.p : C : [17] R. 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