[はじめに] 術中から術後にかけて、ST上昇、Q波出現、R波 減高、QT延長、対称性陰性T波出現(時に巨大陰 性T波出現)といった心筋梗塞発症を疑わせる 心電図変化のうちのいくつかを呈しながら、 それらの変化が陰性T波を除き数日から1ヵ月 程度の短期間のうちに正常化し、胸痛等の自覚 症状に乏しく、血中CKMB値も正常値の2倍程度の 上昇にとどまる症例を「心筋梗塞様心電図変化 を呈する心筋障害(含たこつぼ型心筋障害)」 とした。この障害に関与する因子と病態につい て調べた。 [方法] 「心筋梗塞様心電図変化を呈する心筋障害」発症 の11例(case)と、手術前後で心電図の変化しな かった102例(control)を比較した。 研究デザインは case-control study であり、 術前項目31項目、術中項目7項目、術後項目11項 目の合計49項目について比較した。 次頁は Caseの一覧で自験例16例中の11例を使用 8年間約2000例の開腹術中の11例 Controlは122例中、心電図無変化の102例を使用 <頻拍定義:151-0.7x年齢(yrs)>J Anesth 2001;15:11-16 表は49項目の詳細 齢 性 科 診断 術式 赤字は89-96外科開腹術 73 76 55 89 86 92 60 81 46 76 80 70 76 64 85 75 女 女 女 女 男 女 女 女 男 女 男 女 女 女 男 女 外 外 婦 外 外 整 外 外 外 外 外 外 外 整 外 外 直腸癌 胃癌 子宮筋腫 胃癌 胃癌 右足壊死 結腸癌 結腸癌 外傷性腸狭窄 回盲部癌 結腸癌 胆嚢炎 結腸癌 右大腿骨骨折 膵尾部癌 S状結腸癌 前方切除 胃切除 子宮単摘 胃切除 胃切除 足部切断 右半切除 右半切除 S状結腸切除 回盲部切除 右半切除 胆嚢摘出,T-tube 回盲部切除 横止め髄内釘 膵尾部切除 S状結腸切除 術後心筋障害1 術後心筋障害2 術後心筋障害 術後心筋障害3 術後心筋障害4 術後心筋障害 術後心筋障害5 術後心筋障害6 術後心筋障害7 術後心筋障害8 術後心筋障害9 術後心筋障害10 術後心筋障害11 術後心筋障害 術後心筋障害 術後心筋障害 表 術前因子 -31項目- 入院時赤血球数、入院時ヘモグロビン(Hb)値、入院時ヘマトクリット(Ht)値、 入院時Ht/Hb値、術前赤血球数、術前Hb値、術前Ht値、術前Ht/Hb値、 血小板数、Na、K、Cl、Ca値、総蛋白値、アルブミン値、コリンエステラ-ゼ値、 CK値、空腹時血糖値、プロトロンビン時間、総コレステロ-ル値、高血圧有無、 喫煙有無、年令、糖尿病有無、肥満度(body mass index:BMI)、心電図でミネソタ コ-ド第一文字の1、4、5が付いたときを異常ありとして術前心電図異常の有無、 術前心電図補正QT時間(QTc)、性別、手術部位が下部消化管であるか否か、 悪性新生物であるか否か、心胸郭比(CTR) 術中因子 -7項目- 術中収縮期血圧180mmHg以上の有無、術中収縮期血圧80mmHg以下の有無、 術中 rate pressure product(RPP)15000以上の合計時間(単位分)、 術中頻拍の定義を「151-0.7x年令 以上の心拍」として術中の合計頻拍時間 (total tachycardia duration、単位分)、術中尿量(ml・kg-1・hr-1)、 術中出血量、麻酔時間 術後因子 -11項目- 手術翌日(postoperative day 1, POD1;手術当日はPOD0)のHb値、Ht値、 Ht/Hb値、血小板数、Na、K、Cl、Ca値、心電図QTc、入院から第2術後 病日(POD2)までの輸血有無、手術から退院までの日数 [結果] 49項目中、次の20項目で有意差があった 術前因子:入院時赤血球数、入院時Hb値、入院時Ht値、 入院時Ht/Hb値、術前Ht/Hb値、 術前Na値、Ca値、Alb値、ChE値、年齢、BMI、 術前心電図異常、術前心電図QTc、 下部消化管手術。 14 術中因子:術中頻拍、術中尿量、出血量、麻酔時間。 4 術後因子:手術翌日のNa値、翌日の心電図QTc。 2 計 20 術前・術中因子18項目から、(1例心電図紛失のため)術前QTc を除いた17項目に対し、ステップワイズ判別分析を行 うと、2群を判別する判別式Dは D= -0.04607x(術中合計頻拍時間:分) -19.89736x(入院時Ht/Hb値) -5.03602x(術前心電図異常:有1、無0) +1.69111x(術中尿量:ml・kg-1・hr-1) -2.04540x(下部消化管手術:はい1、いいえ0) +64.16945 (マハラノビスの汎距離 3.10614、 理論的誤分類率 0.06020) となった。判別式が負の値をとる症例ほど心筋梗塞様 心電図変化をおこす可能性が高い。 2群の判別値分布 例数 35 30 心筋梗塞様群 (n=11) コントロール群 (n=102) 25 20 15 10 5 1 5 3 11 7 8 9 4 6 10 2 D値 0 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10 12 [結論]仮説 ①この心筋障害は全身状態の悪い患者で発生 し易い。悪性腫瘍、女性は今回は関係する因子 とならなかった。 ②Ht/Hb値は心筋のレオロジー rheologyと関係 している可能性が高い。Ht/Hb>3.0 は危険? ③この病気の本態は、心筋梗塞や気絶心筋 ではなく、「急激に放出されたカテコラミン により血液潅流不良部(心尖部・心内膜下) 心筋に生じた散在性壊死」であろう。 1年間 594症例 の Ht/Hb値 分布 160 140 2.90 2.95 120 100 3.00以上 14.5% 80 60 3.05 40 20 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 (2002年 1月~12月) 心尖部・心内膜下散在性心筋壊死 概念図 http://www.lcv.ne.jp/~nobuo96/
© Copyright 2024 ExpyDoc