Treatment of Anemia in Patients With Heart Disease: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians 心疾患患者における貧血の治療: アメリカの医科大学からの臨床診療ガイドライン Ann Intern Med. 2013;159:770-779. For author affiliations, see end of text. Journal Club,2014/09/16 聖マリアンナ医科大学 救急医学(総合診療内科) 増井 健太朗 背景1 • 循環器疾患において、貧血はよく認められる 合併症である。 – うっ血性心不全の約1/3に、貧血を認める。 – 冠動脈性心疾患の10-20%に、貧血を認める。 • 循環器疾患で貧血が認められる理由は、十 分には解明されていない。 以下の諸説がある。 – 鉄欠乏,慢性腎不全,エリスロポエチンの減弱, 血液希釈,アスピリンによる消化管出血, RAA系の関与,炎症性サイトカインなど。 背景2 • 貧血により、心機能の悪化,入院と死亡リスクの 増加,運動認容能の低下,QOLの低下がもたらされる が、十分には解明されていない。 • 心疾患患者における貧血の治療は、 赤血球輸血, ESAs(erythropoiesis-stimulating agents: 赤血球造血刺激因子製剤),鉄補充を含むが、 これらの治療効果は、十分には解明されていない。 方法1 ・方法:収集した文献の解析 (システマチック・レビュー) ・解析時期: 2013年4月 ・対象患者:「うっ血性心不全もしくは冠動脈性心疾 患」および「貧血もしくは鉄欠乏」を合併 している成人。 ・対象論文: ・検索方法:MEDLINEまたはCochrane Libraryを 用いて検索 ・言語:英語文献のみ。 ・対象期間:1947年~2012年7月に発表された文献 方法2 うっ血性心不全もしくは冠動脈性心疾患の患者について、 以下の項目について、個別に検討されている。 各項目で、エビデンスレベルは、High,Moderate,Lowの 3段階で評価されている。 ① 赤血球輸血の、有益性および有害性について。 ② ESAs(赤血球造血刺激因子製剤)投与の、有益性および 有害性について。 ③ (貧血の有無に分けた上で)鉄剤投与の、有益性および 有害性について。 解析結果 赤血球輸血について1 薬物治療例および外科手術症例を合わせて • エビデンスレベルの低い6つの論文で、心疾患患者 における貧血で、Hb>10g/dlを目標とする輸血と、 Hb<10g/dlを目標とする輸血では有意差を認めな かった(RR,0.94[95% CI,0.61 to 1.42];I2=16.8%)。 • QOLについては、 十分なエビデンスがない。 赤血球輸血について2 非外科手術症例について • エビデンスレベルの低い3つのトライアルで、心筋梗 塞もしくは既知の虚血性心疾患の非外科手術症例 で、赤血球輸血の閾値を高くすることによる死亡の 増加はみられなかった。 • ある研究では、Hb値 7-9g/dl群と10-12g/dl群では、 院内および治療後30日以内の死亡率に、有意差は みられなかった。 • QOLについては、十分なエビデンスがない。 赤血球輸血について3 外科手術症例について • エビデンスレベルの低い3つの研究では、短期間の 治療において、Hb値 8-9g/dlを目標に輸血した群と 10g/dlを目標に輸血した群では、死亡率に有意差 はみられなかった。 • ある1つの研究の解析では、 Hb値 7-9g/dl群では、 Hb値 9g/dl以上群と比較して、心血管イベントの出 現が高くなるという結果が出ている。しかし、別の2 つの研究では、有意差がない。 • QOLについては、十分なエビデンスがない。 赤血球輸血について4 冠動脈インターベンション施行例について • 冠動脈インターベンション施行例について評価した9 つの観察研究では、Hbの最低値を8-9g/dlとしてい る。ほとんどの研究では、輸血は冠動脈インターベ ンション施行例の死亡リスクを増大させるかもしれな いことが示されている。 赤血球輸血について5 急性冠動脈疾患または心筋梗塞例について • 急性冠動脈疾患または心筋梗塞について評価した 12の観察研究では、Hb値 10g/dl以上では、輸血の 有益性は認められず、有害かもしれないことが示さ れている。 • 一方で、非ST上昇性の心筋梗塞で、Hb値 8-9g/dl では、十分な評価が得られていない。 赤血球輸血について6 心不全例について • 2つの観察研究において、非代償性急性心不全に 対する輸血による死亡リスクの変化について、相反 した結果が出ている。 ESAsについて1 • 心疾患患者に対するESAs(赤血球造血刺激因子製剤) の効果について扱った16の無作為比較対照試験で、 ESAsによる治療効果はみられなかった。 これらの研究では、Hb値のベースラインは、9-10g/dl であった。 ESAsについて2 死亡数について • 高いエビデンスレベルで、ESAsは、病状の安定した うっ血性心不全の死亡率の改善に寄与しないことが 分かっている。 • Hb値 12-15g/dlのうっ血性心不全もしくは冠動脈性 心疾患を対象にした11の研究の蓄積データからは 、ESA投与群はコントロール群と比較して、死亡リス クが高くなるかもしれないことが示されている(RR, 1.07 [CI, 0.98 to 1.16];I2=0.0%) 。 ESAについて3 心血管イベントについて • 高いエビデンスレベルで、ESAsは、安定したうっ血性 心不全において、心血管イベントの出現に作用しな いことが示されている。 入院期間について • 高いエビデンスレベルで、ESAsは、入院期間の短縮 に寄与しないことが示されている。 ESAsについて4 ESAsの有害性について ①高血圧 • 中等度のエビデンスレベルで、 ESAsは、うっ血性心 不全に対して、高血圧リスクの増加に関与しないこ とが示されている。 ②脳血管性イベント • 中等度のエビデンスレベルで、 ESAsは、うっ血性心 不全に対して、脳血管性イベントの増加に関与しな いことが示されている ESAsについて5 ESAsの有害性について ③静脈血栓症 • 中等度のエビデンスレベルで、 Hb値 12.5-15.0g/dlを対象にした、う っ血性心不全についての4つの研究と、慢性腎不全と糖尿病の合併 例についての1つのトライアルで、ESAsにより静脈血栓症の発症リス クの増加が示されている(RR, 1.36 [CI, 1.17 to 1.58])。 • 最新の2重盲検無作為化比較試験において、収縮性心疾患と貧血 の合併例で、Hb 13g/dlを治療目標としたdarbepoetin-αを用いた治療 によって血栓症の発症リスクが増加することが示されている。 • 2つの研究で、Hbが正常範囲内の症例に対してESAsを使用した場合 に、静脈血栓症イベントと死亡率が高くなることが示されている。 鉄剤について1 貧血あり/なしの症例への鉄剤静注についての利益 と有害性について扱った1つの大型試験(FAIR-HF: Ferinject Assessment in Patients With Iron Deficiency and Chronic Heart Failure)を主なデータと する3つの研究がある。 鉄剤について2 FAIR-HFの結果について • 死亡率は、鉄剤投与による有意差を認めなかった。 • 1つの研究からの低いエビデンスで、鉄剤投与によ り心血管イベントが減少することが示されているが、 エンドポイントや成果の定義が不明瞭である。 • 中等度のエビデンスで、安定したうっ血性心不全も しくはstage 3以下の慢性腎臓病を合併した、Hb 12g/dl以下の貧血もしくは鉄欠乏症例で、鉄剤静注 によるQOL改善が示されている。 鉄剤について3 FAIR-HFの結果について • 中等度のエビデンスで、鉄剤静注群とコントロール 群で、重大な有害事象の発生に有意差は認められ なかった。 • 一方で、長期間経過後の十分なエビデンスがないも のの、有害性についての散発的な報告がある。 ガイドライン内での勧告 • 冠動脈性心疾患で入院中の患者に対して、 Hb値 7~8g/dLを輸血開始の閾値とする限定 的な赤血球輸血を勧める(Grade:低いエビデ ンスに基づく、弱い勧告)。 • 中軽度の貧血と、うっ血心不全または冠動脈 性心疾患患者に対する、ESAs投与を推奨しな い(Grade:中等度のエビデンスに基づく、強い 勧告)。 考察1 本ガイドラインのバイアス • 治療介入前/後のHb値が、論文ごとに異なる。 • 対象期間が、1947年~2012年7月と長く、 時代ごとに医療環境,標準治療,適切とされるHb値 が異なっている可能性がある。 • 個々の論文は、「貧血の改善により循環器疾患の 改善がもたらされるか」という検討目的で組まれて いないものも含む。 • 解析結果の多くがネガティブスタディになっている。 →ネガティブスタディは投稿バイアスがかかりやすい。 考察2 本ガイドライン上の問題点 • Hbの適切な管理目標値の解析が、不十分である。 私見 • 医療資源の観点からも、Hb値を必要以上に高く保とう とする輸血,その他の治療は、行うべきではない。 • 特に救命においては、個々の症例ごとに、疾患全体と しての治療目標,治療過程での目標Hb値などを、診療 チーム内,他科とも方針を共有する必要がある。
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