佐臨技 新入会員研修会 データの見方・読み方

佐臨技 新入会員研修会
データの見かた・読みかた
凝固検査
○凝固検査の意義
○凝固線溶系の病態の把握
止血機能の確認(術前検査など)、DICなど
○血栓症や出血の原因を調べる
○血栓症治療効果(抗凝固剤使用)のモニタリング
ワーファリン、ヘパリンなど
○先天性凝固因子欠損の診断
血友病、von Willebrand病など
○その他
ビタミンK欠乏症、肝機能障害
・緊急性を要する場合もあり、迅速性かつ正確性が求められる重要な検査である
・多くの検査がin-vitro。ヒトや動物の組織を用いて体内と同様の環境を人工的に作り
薬物の反応(酵素反応)を検出する検査である
○検査値に影響を与える要因
非常に繊細な検査であるため、
①体内や試薬の状態がデータに影響を与えやすい
②標準化が難しい検査分野である
●注射針を1回で血管内に刺入し、組織液の混入を防ぐ
真空採血管の場合、第1番目の採血管には凝固検査用を用いず、
第2番目またはできるだけ最後に凝固検査用を採取する。
●点滴ラインでの採血は避ける(点滴薬による希釈の影響を避けるため)
採血
シリコン処理ガラス採血管またはプラスチック採血管を使用
採血管
抗凝固剤の濃度
採血比
遠心分離
CLSIによるガイドラインでは血液とほぼ等張である3.2%(0.105~0.109mmol/L)クエン酸
塩を推奨
●抗凝固剤:全血=1:9 を出来るだけ正確に守る
●1分以内に3~6回転倒混和を行う
●HCT55%以上は抗凝固剤の量を調節する
●3000rpmで15分間
*凝固因子は非常にデリケートなため、採血後1時間以内に遠心分離を行う
*血小板血漿は第Ⅲ因子や第Ⅳ因子、それ以外の凝固因子を含んでいるため、
通常の凝固検査には欠乏血小板血漿を用いる。
保存
室温であれば4時間以内 *密閉せずに放置するとCO2を失ってphが変化するので注意!!
凍結
-70℃→約6ヶ月,-20℃→約2週間
*血球成分を除去後凍結保存用プラスチック容器に移し替え、完全密封で急速冷凍
融解
37℃急速融解の後、2~4℃で保存して2時間以内で測定
検体性状
●溶血:採血不良の可能性あり
●乳び:強乳びは検体として不適
*融解は1回まで
凝固検査を理解するには・・まず
凝固カスケード
です。
内因系
外因系
陰性荷電面
Ⅻ
Ⅻa
Ⅺ
内因系:接触因子
Ⅺa
外因系:組織因子(TF)
Ca2+
Ⅸ
Ⅸa
PL
Ⅷa
Ca2+
Ⅹ
Ⅶa
Ⅶ
Ⅲ(TF)
Ca2+
Ⅹa
PL
Ⅴa
共通系
Ⅱ(プロトロンビン)
Ca2+
凝固検査では不安定フィブリンが
析出した時点を凝固点とみなす。
Ⅱa(トロンビン)
Ca2+
XⅢ
Ⅰ(フィブリノゲン)
不安定フィブリン
XⅢa
安定化フィブリン
内因系代表
APTT
Ⅻ
Ⅺ
Ⅸ
Ⅷ
Ⅹ
Ⅶ
Ⅹ
Ⅴ
Ⅱ
Ⅰ
外因系代表
PT
共通系代表
Fbg
Ⅰ
Ⅴ
Ⅱ
Ⅰ
内因系
外因系
陰性荷電面
Ⅻ
Ⅻa
Ⅺ
Ⅺa
Ca2+
Ⅸ
Ⅸa
PL
Ⅷ
a 2+
Ca
Ⅶa
Ⅶ
Ⅲ(TF)
Ca2+
Ⅹ
線溶系
Ⅹa
プラスミノゲン
PL
共通系
Ⅱ(プロトロンビン)
Ⅴa
Ca2+
プラスミノゲンアクチベーター
(tPA,uPA)
Ⅱa(トロンビン)
プラスミン
Ca2+
XⅢ
XⅢa
(フィブリン分解産物)
Ⅰ(フィブリノゲン)
フィブリン
FDP
*分解産物はどの段階でのフィブリンを分解
するかによってできるものが異なる
●FDP
フィブリノゲン、フィブリンモノマー、不安定
化フィブリンがプラスミンによって分解され
たもの
●Dダイマー
安定化フィブリンは架橋構造により安定化
しているため、分解されてもD分画2つとE
分画1つの組み合わさった単位は残る
→分解されたものがD分画を2つ必ず有す
るため「D-ダイマー」と名付けられている
*DDはFDPの一部
○検査フローチャート①
○検査フローチャート②
○検査フローチャート③
○検査フローチャート④
○基準値(佐賀大学病院)
項目
PT 秒
PT %
PT-INR
APTT 秒
APTT %
Fib mg/dL
FDP μg/dL
DD μg/dL
基準範囲
10.0~13.0
70~130
0.90~1.10
25.0~40.0
70~130
200.0~400.0
0.0~5.0
0.00~1.00
ざっくり言うと
PTは12秒くらい
APTTは33秒くらい
です。
※測定装置、測定法、試薬によって
異なります。
基本をふまえた上で・・
症例です。
症例①
32歳女性 循環器内科外来
入院前検査
5分後
前回値
初検値
再検値
PT 秒
16.3
>120
15.2
PT %
49.2
<5.0
56.5
PT INR
1.46
―
1.35
APTT 秒
34.1
27.3
27.1
APTT %
95.3
134.8
135.5
Fib mg/dL
281
219
198
延長?不安定・・
短縮?
採血のやり直し・再提出を依頼
凝固塊
症例①
5分後
30分後
再検値 とりなおし
前回値
初検値
再検値
PT 秒
16.3
>120
15.2
>120
16.0
PT %
49.2
<5.0
56.5
<5.0
51.6
PT INR
1.46
―
1.35
―
1.42
APTT 秒
34.1
27.3
27.1
>200
32.0
APTT %
95.3
134.8
135.5
<10.0 104.7
Fib mg/dL
281
219
198
未検出 325
DD μg/mL
16.25
FDP μg/mL
29.0
症例②
67歳男性
ICU入院中
前回値
今回値
とりなおし
PT 秒
13.4
15.5
PT %
71.3
54.5
PT INR
1.18
1.37
1.19
APTT 秒
45.3
>200
42.5
APTT %
64.2
<10.0
69.9
8.3
6.8
8.0
延長
特にAPTT
13.5
70.2
CBCを確認
Hb
ヘパリン使用の有無を確認
→輸液の混入が疑われる
→採血のやり直し・再提出を依頼
症例③
24歳男性 救急外来受診
今回値
とりなおし
PT 秒
10.3
PT %
137.3
88.9
PT INR
0.88
1.04
APTT 秒
28.2
39.8
APTT %
127.7
73.8
Fib mg/dL
191
全体的に短縮
やや低下
組織因子の混入などにより採血管
内で凝固反応が活性化
→過凝固状態が考えられる
12.1
264
WBC
7800
RBC(百万)
485
Hb
15.1
14.8
PLT
2.3
15.7
7600
478
★症例①~③のポイント
• 採血手技に起因するデータ異常の例
→とりなおしにより改善
• 遠心前・後の検体の観察が大事
検体が固まっていないかよく見ること、見る癖をつけること。
• 前回値、再検値との比較
• 他の検査項目にも注目
凝固塊
遠心すると・・
症例④
80歳男性 循環器内科外来定期受診時
8/22
8/23
9/12
9/12
9/13
PT 秒
15.6
21.7
89.7
24.7
17.7
PT %
53.2
31.3
5.6
26.1
42.9
PT INR
1.39
2.00
9.89
2.33
1.61
延長!
・慢性心不全、非閉塞性肥大型心筋症の既往あり
ICD(植込み型除細動器)植え込み後、ワーファリン使用中
・採血後の血がとまらない。
・ワーファリンのコントロール不良例
→ワーファリンを一旦中止し、ViK投与目的で緊急入院
★ワーファリン
• ビタミンKに類似した物質で、肝臓におけるビタミンK代謝に関与す
る酵素を競合的に阻害する。
• ビタミンK依存凝固因子(第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子)の生合成を抑制。
• 十分な効果は服用後36~48時間後に得られる。
• 服用中止後も作用は48~72時間持続する。
• PT(INR)によってモニタリングされる。
• 通常の服用量ではAPTTの延長度合いは軽度。
• 胎盤通過性がある(胎児への影響あり)。
• 薬剤や食品との相互作用が非常に多い。
納豆・青汁・クロレラなどなど
⇒ビタミンKを多く含み、ワーファリンの作用を減弱させる。
抗生剤・抗真菌剤などなど
⇒ワーファリン代謝酵素阻害、腸内細菌減少などで作用を増強。
●新しい経口抗凝固薬
定期モニタリングの不要な経口トロンビン阻害薬
プラザキサ(ダビガトランエテキシラート)
→気軽に処方された結果、発売後5ヶ月の間に出血性
副作用での死亡例が5例発生
★ヘパリン類
• 一般的に未分画ヘパリンが用いられている。
• ATの作用を触媒する。
ATの作用:抗トロンビン、抗Ⅹa、抗Ⅸa、抗Ⅺa
• 即時的に作用する。
• 作用は投与中止後、2~4時間持続する。
• 硫酸プロタミンにより急速にヘパリンの作用を抑制することが
できる。
• コントロールが比較的容易である。
• APTTでモニタリングされる(通常1.5~2倍)。ベッドサイドでは
ACTでモニタリングすることが多い。
• ATが低下すると目標とする効果が得られない。
• HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)が発症する場合がある。
●APTT試薬のヘパリン感受性の違い
山崎 哲ら:APTTの現状と標準化に向けた課題.生物試料分析 Vol. 32, No 5 (2009)
症例⑤
73歳女性 交通外傷にて救急搬送
9/15
9/16
9/16
PT 秒
12.6
16.2
15.3
PT %
81.4
50.5
55.8
PT INR
1.09
1.44
1.35
APTT 秒
32.2
83.3
156.5
APTT %
101.5
29.4
14.6
178
90
117
FDPμg/mL
151.5
106.4
DD μg/mL
86.83
55.36
7.5
5.4
Fib mg/dL
PLT
18.5
PT・APTT延長
凝固塊の有無 なし
輸液等の混入 なし
薬剤(ワーファリン
・ヘパリン等)
なし
PLT低下、FDP・DD増加
DIC
★DIC(播種性血管内凝固症候群)
敗血症、白血病、固形癌
外傷、熱傷、肝炎、ショック・・
PT・APTT延長
Fib低下
AT低下
FDP・DD増加
症例⑥
70歳男性 呼吸器内科入院中
間質性肺炎 慢性腎不全 肺水腫
10/31
11/1
11/19
11/20
PT 秒
11.2
12.1
55.6
61.0
PT %
132.1
109.7
10.1
9.5
PT INR
0.89
0.96
5.20
5.79
APTT 秒
32.8
35.9
126.6
140.9
APTT %
110.3
97.0
35.2
18.4
Fib mg/dL
534
671
605
567
DD μg/mL
1.85
1.77
1.73
1.52
PLT 万/μL
16.8
17.3
22.7
23.5
PT・APTT
が共に延長
凝固塊の有無 なし
輸液等の混入 なし
薬剤(ワーファリン
・ヘパリン等)
なし
DIC(Fib↓・PLT↓
・DD↑・FDP↑) なし
肝臓での蛋白合成能の低下
CBC・生化学データ
共通系の異常??
症例⑥ 追加検査
•
•
•
•
•
ATⅢ
TAT
SFMC
A2PI
PIC
凝固亢進を反映
DICの検査マーカー
線溶亢進を反映
• PIVKA-Ⅱ・・・ビタミンK依存性凝固因子(Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ,PS,PC)
• クロスミキシングテスト
・・・患者血漿と正常血漿を混合(0:10、2:8、5:5、8:2、10:0の割合)
し各凝固時間を測定
治療等によるもの以外で、凝固時間が延長する理由
・凝固因子の欠乏
・ループスアンチコアグラントや凝固因子に対する抗体
(循環抗凝血素・インヒビター)の存在
症例⑥ 追加検査の結果
クロスミキシングテスト(APTT)
ATⅢ(%)
A2PI
67.0
250
混和直後
94
2H後
PIVKA-Ⅱ
2.0
PIC
1.74
TAT
1.1
SFMC
8.6
APTT(sec)
200
150
100
50
因子欠乏パターン・・・?
0
100
Vi K欠乏
75
患者血漿%
50
25
0
Vi Kを投与するも改善はみられず。
症例⑥ 追加検査②
各凝固因子活性
クロスミキシングテスト(PT)
44
80
F-5(%)
1.5
70
F-7(%)
111.3
60
F-8(%)
>200.0
F-9(%)
20.1
混和直後
2H後
PT(sec)
F-2(%)
50
40
30
F-10(%)
56.3
インヒビターパターン
20
10
100
75
50
患者血漿(%)
後天性第5因子インヒビター
25
0
症例⑦
WBC
/μL
6歳男性
頭痛と前額部腫脹で救急外来受診
10700
PT 秒
>120
PT %
<5.0
RBC 百万/μL
4.68
Hb
g/dL
14.0
Ht
%
36.4
PT INR
MCV
77.8
APTT 秒
>200
MCH
29.9
MCHC
38.5
APTT %
<10.0
PLT
万/μL
Neut
%
---
24.8
Fib mg/dL
---
56.1
FDP μg/mL
---
DD μg/mL
---
Lympho %
32.5
Mono %
5.4
Eosino %
5.4
Baso %
0.6
本当に延長???
強いにゅうび
症例⑦
凝固反応曲線を確認してみると・・
実際には凝固反応は起こっているが、
にゅうびによる干渉を受け凝固点を検出できていない。
★延長しているのではなく、
強いにゅうびによる測定不能であることを臨床に伝える!
症例⑦
WBC
/μL
10700
1時間後に
とりなおし
10700
RBC 百万/μL 4.68
4.68
PT 秒
>120
11.2
PT %
<5.0
108.2
---
0.96
Hb
g/dL
14.0
11.4
Ht
%
36.4
36.4
PT INR
MCV
77.8
77.8
APTT 秒
>200
34.5
MCH
29.9
24.4
MCHC
38.5
APTT %
31.4
<10.0
93.6
24.8
24.8
Fib mg/dL
---
250
56.1
56.1
FDP μg/mL
---
2.8
Lympho %
32.5
32.5
Mono %
5.4
DD μg/mL
5.4
---
0.82
Eosino %
5.4
5.4
Baso %
0.6
0.6
PLT
万/μL
Neut
%
※Fib、FDP、DDは希釈をして測定可能
★パニック値
•
•
•
•
PT-INR:3.0以上
APTT:50 秒以上
Fib:100 mg/dL以下
FDP:40 μg/mL以上
○まとめ
• 遠心前後の検体をよく観察すること
• 前回値・再検値との比較をすること
• 異常データの時には患者の状態を把握すること
(臨床への問い合わせ・カルテの確認)
(主に凝固検査を担当される方)
• 凝固反応曲線を見ること
• 自施設での検査法・試薬の特徴を把握すること
以上です。おつかれさまでした。