Clinical Case Study Evaluation of a Prolonged Prothrombin Time

Clinical Case Study
Evaluation of a Prolonged Prothrombin Time
Joshua L. Hood and Charles S. Ebya
Department of Pathology and Immunology, Washington University School of Medicine, St. Louis, MO.
a
Address correspondence to this author at: Department of Pathology and Immunology, Washington University School
of Medicine, St. Louis, MO 63110. E-mail [email protected].
臨床症例研究
プロトロンビン時間延長例の評価
症例
47 歳アフリカン・アメリカンの女性は、右全股関節形成術の前に行われたプロトロンビン時間(PT)が延長し
ている事が分かり、詳しい検討が行われた。患者は消化器や頭蓋内出血、鼻出血や関節出血の既往はない。し
かし、患者は四肢に内出血をしやすい傾向があること、鉄剤補給を要するほどの月経過多を報告した。異常出
血の家族歴なし。最初の検査結果にて、正常の血球数(CBC)と活性化部分トロンビン時間(aPTT) (30.8 秒、
正常値 23-36 秒)、延長した PT(20.3 秒、 正常値 11.0-15.0) と国際標準比(INR) (1.78, 正常値 0.9-1.2)を認め
た。分析前のアーティファクトは認めず、再険でも PT は延長していた。
検討
スクリーニングの凝固テストで異常値を見た時の検査の評価
PT と aPTT は一般的にオーダーされるスクリーニングテストである。生体内では、凝固系の活性化開始は、組
織因子を介した因子Ⅶ(FⅦ)に依存し、安定したトロンビン産生には第Ⅺ、Ⅸ、Ⅷ、Ⅹ、そしてⅤ因子の活
性化が必要である。しかしながら PT と aPTT の結果は、フィブリン凝集が内因子、外因子ならびに共通の反応
系で、凝固因子の活性化が最高点に達した中で行われたものである(Fig. 1)。aPTT の延長は、一つあるいは
複数の内因子系(プレカリクレイン、高分子キニノーゲン、第Ⅻ、Ⅺ、Ⅸ、Ⅷ因子)の欠損、あるいは阻害物
質がある事をしめしている。PT の延長は、外因子系(FⅦ)の欠損あるいは阻害されている事を示すが、軽度
の第Ⅹ、Ⅴ、Ⅱ因子欠損の可能性もある。 aPTT と PT 両方の延長は、共通系凝固因子(第Ⅹ、Ⅴ、Ⅱ因子)
の欠損や阻害、あるいはフィブリノーゲンの量的、質的欠損を示している。
1
図 1.フィブリン隗形成における凝固因子活性
HMWK,高分子キニノーゲン; PK, プレカリクレイン; TF,組織因子.
予期しない aPTT または PT の延長を見た時の評価の最初のステップは、分析前の不正確さを引き起こす原因を
除去する事である(1)。 血液採取時の静脈、動脈から血液が飛び散る際、ヘパリンなどの抗凝固因子の混入は
よくあるアーティファクトで、最も多くつかわれる市販の PT 試薬には、約 2U/ml のヘパリンを中和できる物
質が入っているが、ヘパリン入りのカテからの採血では、この容量を超えるヘパリンが混入する。他の分析前
の要因は、クエン酸抗凝固因子濃度の高い採血チューブの使用(3.2%の代わりに 3.8%)、光学的な凝結隗検
出法に干渉をあたえる溶血したサンプル、採血とアッセイまでの時間差(aPTT 4 時間以上、PT24 時間以上)
などがある。クエン酸対血漿比の上昇は、イオン化カルシウム濃度を低下させ(例えば、55%以上の高いヘマ
トクリットを持つ患者のサンプルや採血チューブに決められた容量を満たしていないサンプル)間違った PT
と aPTT の延長につながる可能性がある。
予期しない aPTT または PT の延長を見た時の評価における二番目のステップは、可能性のある分析前アーティ
ファクトを除外するために、測定を繰り返すことである。もしスクリーニング凝固検査が引き続き延長してい
れば、第三のステップは 50 対 50 の割合で、患者血漿とプールされている正常血漿を混ぜ合わせて行うミキシ
ング検査を行う事である。正常範囲内に是正されば、一つあるいは複数の因子の欠損と考えられ、もし是正さ
れなければ抗凝固因子、因子特異的中和抗体、あるいは非特異的ループス抗凝固因子による阻害活動が考えら
れる。
患者の追加データ
2
我々はミキシング検査を行い、PT は 14.5 秒に是正され、結果は FⅦ因子の欠損と推測された。なぜなら、ル
ープス抗凝固因子、共通系と、フィブリノーゲン欠損はたいてい aPTT 延長も伴うからである。ウサギトロン
ボプラスティン活性因子を用いた機械的凝固隗検出機を用いて、FⅦ活性測定が行われた結果、5%(正常値
60%−150%)であった。追加の検査で同時に存在する可能性のある共通系因子の欠損(第Ⅴ因子 144%、第Ⅹ
因子 86%、第Ⅱ因子施行されず)、フィブリノーゲンの欠損(フィブリノーゲン 3700mg/L、正常値 18004000mg/L)、直接トロンビンインヒビター(トロンビン時間 18.4 秒、正常値 16-22 秒)と非特異的阻害因子
(ループス抗凝固スクリーン陰性)の測定が行われた 。
単独 FⅦ欠損の鑑別診断は限られる。なぜなら潜在的に凝固因子産生を減少させる条件は、aPTT も延長させる
からである。肝機能やビタミン K 代謝のわずかな変化が、このケースに見られるような深刻な FⅦ単独の低下
を引き起こす事は稀である。この患者には食事制限はなく、アルコール摂取はなく、過去二年の医療記録では
正常肝機能、正常 aPTT と、延長した PT 結果がしるされている。これらの所見は、FⅦ欠損の診断を支持して
いる。
診断
FVII 欠損
FⅦ欠損の概論
単独 FⅦ欠損は、後天的または先天的のどちらもあり得る。後天的 FⅦ欠損の報告は稀で、ほとんどの症例は
悪性疾患、敗血症または、骨髄移植に関連している(2)。いくつかの症例では、 FⅦ活性を中和し、またその
クリアランスも加速させる自己抗体の産生を裏付ける in vitro の証拠がある。手術に関連した一過性後天性 F
Ⅶ欠損の症例は、リコンビナント活性化 FⅦ (rFⅦa, Novo Seven)により治療が成功した(2)。
先天的 FⅦ欠損は 50 万人に一人の罹患率とされ、しばしば偶然に発見される。患者は無症状または偶発的な、
関節、小脳出血を呈することがある。出血の合併症は大抵、ホモ接合あるいは複合ヘテロ接合で見られ、第Ⅷ、
Ⅸ因子欠損(それぞれ血友病 A と B の男性に見られる)とは異なり、FⅦ欠損の程度は出血傾向とはあまり相関
しない。
公的なデータベースに(europium.csc.mrc.ac.uk)、凝固 FⅦ(F7)遺伝子上の 136 の特異的な変異が、相関す
る FⅦ活性、抗体濃度と、出血の重篤度とともに記載されている。最も多い F7 変異はミスセンスで触媒領域
に起こるが、F7 遺伝子上のいろいろな場所に、様々な変異が同定されている。 稀な F7 変異は生命にかかわる
重篤な出血を新生児に引き起こす。このような変異は典型的には蛋白発現を押さえ、2%未満の FⅦ活性しか
呈さない。 軽度から中等度の出血の既往と関連した F7 変異は、大抵血中 FⅦと関連するミスセンス変異で、
1%−50%の活性範囲をもつ。無症候性 FⅦ欠損患者は、4-61% の FⅦ活性を持ち、これらの症例ではすべて F7
変異はミスセンスである。
市販の PT 試薬に使用されるウサギ組織因子の存在下で 、いくつかの F7 変異はほとんど FⅦ活性を示さないが、
ヒト組織因子の存在かでは約 30%の活性を示す可能性がある(4)。組織因子の有無に作用される、異なる FⅦ
3
活性を示す最初の変異形は、FⅦパドウアと名付けられた。この変異体は 304 位(R304Q)のアルギニンがグ
ルタミンに置換された事によるもので、これは FⅦa−組織因子—FⅩ複合体の形成を妨げ、無症候性から中等度
出血までの範囲の発現形態をとる。不正確な低活性の報告を避けるために、 FⅦ欠損の患者の評価の時には、
検査室はいつもリコンビナント・ヒト・トロンボプラスチンを使用している。
患者の管理
我々の患者は PT 延長と 5%の FⅦ活性を有し、その所見は彼女の軽度の出血傾向の既往とは完全には一致しな
かった。それゆえ我々は、FⅦ活性検査をリコンビナント・ヒト・トロンボプラスチンを用いて繰り返し行い、
31%の活性の結果を得た。手術時間と複雑性から、術中輸血量を約 4-6 単位と見積もっていた患者の整形外科
医と相談して、我々は 5 単位の新鮮凍結血漿(患者の血漿量の約 20%)、を術中に輸血する事を推奨した。リ
コンビナント FⅦah が、重度の出血が起こった時のために用意された。患者は 2 単位の赤血球輸血を術中に受
け、外科医は正常の循環動態を維持した。術後、6 日間にわたって 5 単位の追加赤血球輸血を行ったにもかか
わらず、持続する貧血のために手術チームは深部血腫の形成を疑った。しかし患者のヘモグロビンは安定し、
創傷部のドレナージも止まり、追加の輸血の必要も無くなり、患者は術後 12 日で退院した。一ヶ月後の外来
受診では、患者の切開創は出血の後なく治癒しており、彼女の運動レベルは改善した。
覚えておくべきポイント
・多血症、ヘパリン、そして直接トロンビン阻害抗凝固因子、および採血後の検査までの時間の遅れが、aPTT
と PT 延長の結果をもたらす重要な分析前要因である。
・aPTT 正常範囲、 PT 延長を示す患者は、本人の既往歴、家族歴に関わらず、先天性 FⅦ欠損の可能性がある。
・いくつかの F7遺伝子変異では、ヒト以外のトロンボプラスチンを用いて検査されると、FⅦ活性結果がず
いぶん低くでる可能性がある。この状況は FⅦ置換療法に関して、間違った治療法の選択につながる。
・FⅦ置換が欠損患者に必要な時、新鮮凍結血漿、プロトロンビン複合体、リコンビナント FⅦa がオプション
となる。
要約と推奨
重篤な出血の既往がなければ、ほとんどの FⅦ欠損患者は大きな手術や外傷以外には出血のリスクは無い(8)。
F7 変異、FⅦ活性とその発現には相関が乏しいため、それぞれの症例に応じた管理が必要である。患者の出血
既往歴、現在の臨床症状と、リコンビナント・ヒト・トロンボプラスチンを用いた FⅦ活性 測定が、FⅦ欠損
症の最初の管理のガイドになるだろう(8)(9) (Fig 2)。新鮮凍結血漿、血漿由来の第Ⅹ、Ⅸ、Ⅶ、およびⅡ因
子を含むプロトロンビン複合体、リコンビナント FⅦa(Novo Seven)静注で、FⅦは一時的に補える。新鮮凍結
血漿静注は容量負荷を生む可能性があり、プロトロンビン複合体と Novo Seven 療法は、血栓の副作用が起こ
る可能性がある。
4
図 2.FⅦ欠損症管理のアルゴリズム
*軽度出血の既往には、軽度の鼻出血、月経過多、消化管出血、外傷による関節および軟組織出血または術中、
術後の出血が含まれる。
重度出血には生命に関わる粘膜、消化管出血、自発的軟組織、関節の出血または、中枢神経系と眼出血が含
まれる。
謝辞
Grant/Funding Support: None declared.
Financial Disclosures: None declared.
5
参考文献
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論説
Sandra C. Hollensead
Department of Pathology and Laboratory Medicine, University of Louisville Hospital, Louisville, Kentucky.
a
Address correspondence to the author at: Department of Pathology and Laboratory Medicine, University of Louisville
Hospital, Louisville, Kentucky, 40292. e-mail [email protected].
生体内のトロンビン形成の理解のために、細胞ベースの凝固モデルの開発に重点が置かれてきた。このモデル
では、すべての凝固は組織因子と活性化凝固因子Ⅶ(FⅦa)の複合により開始される。組織因子の源は、血管外、
血管内どちらもあり得る。一度最初のトロンビンが形成されると、活性化凝固因子ⅦとⅨがその過程をさらに
加速させ、「トロンビンバースト」を起こす。このメカニズムは第ⅧとⅨ因子欠損が問題となる臨床上の出血
を引き起こし、一方、第Ⅶ、Ⅺ因子欠損は出血を起こさない事を説明する。
凝固の細胞ベースのモデルは、リコンビナント FⅦa の治療的使用を支持する根底にある理論を提供する。こ
の製品の使用はしばしばプロトコールや FⅦ活性レベルの管理に使われる。そのため、この Hood と Eby の症
例報告は、タイムリーである。なぜならリコンビナント FⅦa の使用増加に伴って、FⅦ活性の測定の要求が増
加しているからである。報告された症例は最良の FⅦ活性の測定結果を得るために、PT 試薬としてリコンビナ
ント・ヒト・トロンボプラスチンの使用を強調している。アルゴリズムは患者の状況に合わせて、リコンビナ
6
ント FⅦa の静注をする必要性を反映している。先天性 FⅦ欠損で、出血の既往の無い患者は、クマディン関
連頭蓋内出血の患者が必要とするような因子は必要としないだろう。 正確な医学的理論と知識が、良い医学
的診断と治療に結びつく。凝固形の理解を深める事で、検査室で明らかになった特別な凝固因子欠損を対象と
した治療の開発が可能になる。検査技師は検査結果を解釈する手段として、さらに内因子と外因子凝固のモデ
ルをマスターする必要があるが、新しい細胞ベースモデルから得られた凝固系の理解は、確かに歓迎される変
化である。
謝辞
Grant/Funding Support: None declared.
Financial Disclosures: None declared.
論説
Elizabeth M. Van Cott
Department of Pathology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA.
Address correspondence to the author at: Department of Pathology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA 02114.
この症例は、PT 延長の検査室の評価に有益な情報を提供する。ほとんどの PT 延長は、遺伝的原因よりも後天
的な要素により起こるが、遺伝的欠損の診断はそれらが存在したときには、適切な患者のケアのために重要で
ある。ありふれた PT 延長の後天的な原因は、ワーファリン治療、ビタミン K 欠損、肝臓による凝固因子産生
低下と、播種性血管内凝固異常(DIC)である。後天性 PT 延長のそれぞれのシナリオで、典型的には複数の因
子が欠損している。ミキシング検査が PT 延長の評価に有用であるが、複数の因子欠損が存在すると、ミキシ
ング検査は必ずしも検査結果を正常値に是正しない。ミキシング検査は単一の因子欠損が存在するときに、よ
り信頼性のあるものになる。是正が不完全な原因はおそらく混合の結果、 正常範囲の下限に複数の要素が存
在するので、どの因子も欠損していなくても、PT 延長と間違う状況になっているからである(1)。
PT 延長の評価において、ヘパリン分解酵素の有用性の限界を考えておくのも重要である。ヘパリン分解酵素
は aPTT 延長の評価でも役に立つ。なぜなら、もし部分トロンボプラスチン時間(PTT)が試料のヘパリン分解
酵素処理の後で正常であれば、PTT 延長はヘパリンのせいであるからである。それゆえヘパリン分解酵素は、
ヘパリンが PT 延長の原因かどうか決定するために使用したくなる。 Hood と Eby が示したように、高容量の
ヘパリンは、PT 検査試薬のもつヘパリン中和能力を上回り、PT 延長の結果となる。しかしながら私の経験で
は、ヘパリン分解酵素は PT 延長の評価には有用ではない、なぜなら、PT 延長がヘパリンのためだと分かって
いる時でさえ、おそらくヘパリン治療に伴って起こる組織因子系阻害物質の増加のために、ヘパリン分解酵素
は PT を正常範囲内に是正する事が出来ない(2)。
(訳者:北村
7
則子)
謝辞
Grant/Funding Support: None declared.
Financial Disclosures: None declared.
参考文献
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