Suprime-Camによる 太陽系小天体の研究

Suprime-Camによる
太陽系小天体の観測
吉田二美
より大口径で見ていけば、いろんなものが浮かんでいるのが見えてくる、そういう世界が太陽系です。
太陽系の歴史

星間分子雲の収縮



原始太陽系星雲の形成

星間分子雲が収縮
原始太陽系円盤形成
ガスとダストの分離
ダストから微惑星へ
微惑星の衝突合体で原
始惑星→惑星へ
ここまではシナリオができているが、この後現在
までの40億年間の歴史はほぼわかっていない。

塵の集積、微惑星の形成

惑星系へ
現在の太陽系に残る小天体
は惑星形成に使われなかっ
た微惑星の生き残りであり、
小天体の軌道進化・衝突進
化は惑星の振る舞いを反映
する
小天体の観測を通して惑星
形成後の太陽系の歴史を探
ることが可能
月
地球に一番近い天体
太陽系は天体同士の衝突の繰り返し
によって作られて来た。そのような
衝突史は大気を持たず、地質活動の
ない天体の表面に残っている。
代表的なのは月
太陽系の生き字引
クレーター=天体衝突痕
風化・浸食作用ほぼなし、
地質活動停止
過去にできた地形がそのまま保存
過去の天体衝突史を探る上で非常に重要
アポロ10号の月着陸船からみた月面
の様子
アポロ11号の月着陸船が上昇するとき
に撮った月面の様子
クレーターは月面に一様に分布しているわけではない。
光条
クレーター
形成年代が
比較的新しい
http://spaceflight.nasa.gov/gallery
/images/apollo/index.html
クレーター形成時に飛び散った岩の破片は、最初は反射率が高くて明るく白っぽく見えるが、時間の経過ともに暗くなる。
白い投射物をともなったクレーターは一目で新しいと判断可。
月のクレーター
古い時代と新しい時代ではクレーター
の数(天体衝突率)が全然違う
月の高地古い 月の海新しい
38-39億年前
赤はアポロの着陸地点
アポロが持ち帰った月の岩・
砂の年代測定のおかげで月
面の形成年代がわかった。
同じ面積の比較。高地には多数の大小様々なサイ
ズのクレーター、海ではクレーターの数は少なく、
大きさは小さい。
高地のクレーターの数は海に比べて約100倍多い
32-38億年前
月の裏側
月の表側
海と高地
月の裏側
ほぼ高地
クレーターの大きさと個数の
違いを科学的に分析するには、
ある大きさのクレーターが何
こあるかを数えてサイズ分布
調べます。
D
「サイズ分布」
D
D/2
D/2
D/3
D/3
個数が
直径に
反比例
個数が
直径の2乗に
反比例
D
ある大きさ以上のクレーターの
数を足しあわせた累積度数は良
くベキ状分布で近似される。
N(>D) ∝ D-b
D/2
D/3
個数が
直径の3乗に反比例
サイズ分布の表現 : R プロット
クレーターや小惑星のサイズ分布
大概は直径(D)の3乗に反比例
直径-3のデータを水平(基準)にする
惑星科学業界ではよく使わ
れるRプロット
サイズ分布を累積度数分布
で書くより、ベキの傾きの
違いを確認しやすい
直径 -3
R
直径 -4
直径 -2
直径 [D]
高地は波打った形、新しい海の上や、形状から最近の
衝突でできたと思われるクラスIと呼ばれる新しいク
レーター群のサイズ分布は平。しかも直径100km以上
の大きなクレーターはない。
月
二種類のサイズ分布
クレーターの数
高地(40-38億)
高地
"Class I"
「海」の上
クレーターの直径 [km]
海
水星のクレーター
まだ全面を見ていない
月だけではなく他の固体惑星のクレーターのサイズ分布も調べる。
水星の全体的なクレーターのサイズ分布
は月の高地のサイズ分布の形と似ている。
他の表面より新しいと考えられているカ
ロリス盆地内のクレーターのサイズ分布
はちょっと平らな感じ。
水星
古い高地
相当部分
R
Caloris盆地
(比較的新しい)
D [km]
火星のクレーター
火星のクレーターは南半球に多い。
塁壁状クレーター
火星
北半球の平原と、南半球の高地とでク
レーターのサイズ分布が異なる。
月や水星の表面で見られたサイズ分布
の傾向と良く似ている。
ほぼ二種類のサイズ分布
R
古い高地相当地域
北半球の
若い平原
D [km]
地球型惑星のクレーターに
見られる二種類のサイズ分布
(1) 古くて高密度、波打つ サイズ分布
明らかに古い時代と新
しい時代では天体衝突
の性質が変わった。
原因についてはクレー
ターを作る衝突天体の
データが少なかったた
め、長いこと謎のまま
になっていた。
古い時代(38億年前以前)には波打つサイズ分布を持つ
天体グループの天体がたくさん衝突した
(2) 新しくて低密度、
平らなサイズ分布
新しい時代(38億年〜現
在)には平らなサイズ分布
を持つ天体グループの天
体が衝突したが、衝突頻
度はそれほど高くない
月の高地
火星の高地
水星の高地
火星の新しい平原
月の海
月の新しい
クレーター
小惑星の系統的観測
Spacewatch
LINEAR
最近の太陽
系小天体の
サーベイ観
測で太陽系
内の小天体
の空間分布、
数、大きさ
などが詳し
くわかって
きた。
SDSS
Subaru
小惑星
太陽系内の小天体群(内側の方)
メインベルト
Mathilde
火星
地球
~60 km
近地球
Itokawa
木星
~0.5 km
トロヤ群
ケンタウルス族
太陽系内の小天体群(外側の方)
太陽系の内側の方ではある程度大きな天体はもう見
つけ尽くした感があるが、外縁部の天体については
これからまだまだ発見の時代が続くと思われる。
土星
彗星
天王星
木星
海王星
冥王星
TNO天体
トランス・ネプチュニアン・オブジェクト
太陽系小天体は原始太
陽系円盤の中で生まれ
たものなので、今も相
変わらず黄道面付近に
いる。暗くて肉眼では
見えないが、もし見え
たとすれば、空には二
つの天の川が見えるは
ず。
北
銀河の星の川と、太陽
系の石の川。
東
西
天の川
天王星 海王星
黄道
南
(満月くらい大きい)
Suprime-Camで
見た太陽系小天体
1晩同じ視野を2分露出で撮り続けた
各天体の移動速度が太陽からの距離の違いに相当する。
近い天体は速く、遠い天体はあまり動かない。
Suprime-Camの画像に小天体を探す
各研究者のアイディアの見せ所
移動天体の検出方法
同一視野を異なる時間に撮った複
数枚の画像が必要
(1)ブリンク法
(2)ネガポジ法
スカイレベルを合わせた画像
を足したり引いたりして合成画
像を作る
(3)投網法
7分露出の場合
のメインベルト小
惑星
(5) AND/OR法(仮称)
2枚の画像を使う。動かない
天体を消して、移動天体だけ
残す
背景の星を消して残った天体
の位置を測り、2枚目、3枚目
の画像での予想位置に天体が
あるかどうかを探す方法
(4)スタック法
画像を1〜数ピクセルずつずら
して足し合わせ、動かない天
体を見つける
ネガポジ法
スカイレベルを合わせた画像を足したり引いたりし
て合成画像を作る
1枚目-2枚目+3枚目-4枚目+5枚目-...

2時間
連続露出した11枚で作った合成画像
2時間
1時間の間隔
を置いて撮っ
た3枚で作っ
た合成画像
トランスネ
プチュニア
ン天体
小惑星の明るさと太陽からの距離から
小惑星の大きさを推定
(1) 見かけ等級と太陽-小惑星-地球
間の距離→絶対等級H
H=V-5log{a(a-1)}
a AU
1 AU
太陽
地球 小惑星
衝の位置
V:見かけ等級、a:軌道長半径
(2) アルベドを仮定して絶対等級から
直径Dを算出
logD=3.1295-0.5logA-0.2H
A:アルベド
サイズ分布が推定できる
小天体のサイズ
分布



メインベルト小惑星
近地球小惑星
木星のトロヤ群小惑星
すばる望遠鏡のサーベイだけで全体のサイズ分布を決める
ことはできない。大きいものは明るすぎてサチってしまうし、
そもそも全天サーベイするには膨大な観測時間を要する。し
かし、すばるでフェイントエンドを決めたのは重要なポイント。
8m級ではこれ以上小さいところは見えない。
すばる望遠鏡で見つ
けたメインベルト小
惑星のサイズ分布
Spacewatch
SDSS
R
数密度に相当する量
小天体のサイズ
分布をクレーター
のサイズ分布か
ら推定できる、ク
レーターを作った
衝突体のサイズ
分布に重ねて見
るた。
月面の古いク
レーターを作っ
た衝突体
火星の新しいクレー
ターを作った衝突体
近地球小惑星
月面の新しいクレー
ターを作った衝突体
直径(km)
月面には約38億年前以前に大量の小惑星がメインベルトから落下、衝突した。それ以後
は衝突頻度は激減し、主に近地球小惑星によってクレーターが作られている
この結果は2005年にサイエンス誌上で我々が発表したもの
どうして38億年前を境に衝突天体の供給源が変わったのか?衝突頻度が激減した理由は何か?小天体の内惑星領域への流入量が一桁落ちるほど
の大変化なので、かなり大掛かりなことがこの時太陽系で起こったはず。メインベルト小惑星の流入が止まったのでメインベルトの領域で何か
起こったと考えるのが自然。メインベルト小惑星に重力的影響を最も強く及ぼすのは木星なので木星が怪しい!

メインベルトから大量の小惑星をサイズによらず運
び出すメカニズムはただ一つ
巨大惑星の動径方向の移動による共鳴帯の移動
メインベルト小惑星と月面の古いクレーターを作った衝突天体のサイズ分布は大きいサイズから小さいサイズま
でまで全く一致していた。現在の知見では、メインベルトから大量の小惑星をサイズによらず運び出すメカニズムはた
だ一つ:共鳴帯の移動
公転周期の共鳴
天体の公転周期が簡単な整数比になる
例.木星が1周する間に小惑星は2周する
→ 2:1の「平均運動共鳴」
→ 同じ配置の繰り返し
→ 天体の軌道が楕円形になる
地球型惑星や木星に接近する軌道へ
小惑星の軌道半長径の分布
10000
空隙(小惑星が無い)
8000
共鳴帯
個 6000
数
地
球
4000
火
星
木
星
トロヤ群
2000
0
メインベルト領域
0
1
2
3
4
軌道半長径 [天文単位]
5
6
共鳴帯の移動
10000
もし木星がこのように
内側へ動けば、メイン
ベルトの中を共鳴帯が
横切り、小惑星が次々
に共鳴帯に飲み込まれ、
メインベルトから放出
され、多くが月面とか
内惑星上に落ちる。そ
のうち、木星が現在の
位置に落ち着けば、小
惑星シャワーは止み、
定常状態になり、衝突
頻度低下する。このよ
うにサイズ分布の時代
による変化をかなり合
理的に説明できる。
8000
小
惑 6000
星
の
個 4000
数
共鳴帯
木
星
2000
0
0
1
2
3
4
5
6
軌道半長径 [天文単位]
現在惑星形成論の分野では多くの理論家は、天王星や海王星が現在の場所でできたのではなく、形成後に外側に移動したと信じていて、木星の内側への移動
が天王星や海王星を外側へ飛ばす原動力だと思っている。もしかしたらこの木星の動きを現在まで記憶しているかもしれない小天体群がある:トロヤ群
火星
地球
木星
トロヤ群は木星ができた
頃から木星軌道付近にい
た天体たちなので、この
天体群の空間分布には木
星移動の痕跡が残ってい
るかもしれない。理論的
には木星が内側に動くと、
木星の後方に分布してい
る天体群の方が軌道不安
定になりやすいという数
値実験の結果がある。私
たちの研究グループは2つ
のグループに分かれてい
るトロヤ群で別々に空間
分布やサイズ分布を調べ、
木星移動の証拠をつかみ
たい。
また最近はガリレオやカッ
シーニなどの探査機のおか
げで、外惑星の衛星表面の
画像が手に入るので、外惑
星の衛星のクレーターのサ
イズ分布と太陽系外縁部の
小天体群のサイズ分布と比
べてみれば、木星より外側
での天体衝突の歴史が解明
できるかもしれない。
トロヤ群