主体的に学び、考えを表現する生徒の育成 ~課題解決的な

実践のまとめ(第1学年
数学科)
長岡市立東北中学校 教諭
1
中里 幸太
研究テーマ
主体的に学び、考えを表現する生徒の育成
~課題解決的な学習を通して~
2
研究テーマについて
(1) テーマ設定の意図
当校の生徒は、与えられた学習課題や漢字や計算、英単語などの基礎力テストに意欲的に取り組む。また、
定期テスト前には家庭学習に時間をかける生徒が多い。NRTの結果に関しては、全国平均を上回り、良好
であるといえる。授業の様子や定期テストの結果から、繰り返し学んで理解する習得型の学力は高く、計算
問題などは意欲的に取り組む。しかし、活用の問題になると、自分なりの解決法や考えをノートに書けず、
発言も少なくなるなど、活用型の学力にまだまだ課題が見られる。そこで、現実に即した課題解決の場を通
して主体的に学び、自らの考えを表現する力を身に付けさせたいと考え、研究主題を設定した。
(2) 研究テーマに迫るために
① 目的意識をもって主体的に取り組むための課題設定と提示の工夫
主体的に学ぶためには、生徒が「自分自身の問題」として学習課題をとらえ、
「やってみたい」
「解決し
たい」
「はっきりさせたい」と自ら動き出す学習が展開される授業をつくっていくことが大切であると考
える。
そこで、生徒との対話を通して徐々に課題を完成させたり、誰もが解ける問題から発展させていく課題
提示をしたり、誰も解けない条件不足の課題を提示したりすることで、課題に積極的に働きかける姿を引
き出す。
② 自分の考えを表現しやすくするための学習形態の工夫
まず、自分の考えや見通しをたてるための個人で考える時間を確保する。さらに、ペアや小グループで
の話合いを取り入れ、考えるためのヒントを得たり、自分の考えが相手に分かっている説明になっている
か確認したりする。その際、
「とらえた事実やそのように判断した根拠」
「解決の方向や方法、そのように
判断した理由」
「過程や結果において、正しいと判断した内容や根拠」を入れて説明するよう発表の方を
示し、表現する力を高めていきたい。
(3) 研究テーマにかかわる評価
①「解決したい」という意欲の生まれる課題と感じた生徒が 100%(振り返り記述)
②ペアやグループでの活動で、分かりやすく相手に説明できた生徒が 70%以上(振り返り記述・観察)
3
単元と指導計画
(1) 単元名
比例と反比例 「比例と反比例の活用」
(2) 単元の目標
具体的な事象の中から2つの数量を取り出し、それらの変化や対応を調べることを通して、比例、反比例
の関係についての理解を深めるとともに、関数関係を見いだし表現し考察することができる。
(3) 単元の評価基準
【関】表・式・グラフなどで表現しようとするなど、数学的に考え表現しようとしている。
【考】比例、反比例などについての基礎的・基本的な知識及び技能を活用しながら、事象を見通しをもって
論理的に考察したり、その過程を振り返って考えを深めたりしている。
【技】表、式、グラフなどを用いて的確に表現したり、数学的に処理したりしている。
【知】比例や反比例の関係を表す表や式、グラフの特徴などを理解し、知識を身に付けている。
(4) 単元の指導計画(全18時間)
項
関数関係の意味
時数
学習内容
1
○ともなって変わる各変数 x 、 y について、 y が x の変数であることの意味
を理解する。
○いろいろな数量の関係から、関数関係にある2つの数量を取り出すことが
できる。
比例
4
○具体的な事象の中から、比例関係にある2つの数量を見出し、比例の式に
ついて理解する。
○変数と変域の意味を理解する。
○比例は変域を負の数の範囲まで考える場合や、比例定数が負の数の場合も
あることを理解する。
○対応する1組の x 、 y の値から、比例の式を求める。
座標と比例のグラフ
3
○座標の意味を理解するとともに、点の集合として比例のグラフの意味を理
解する。
○比例の式から表をつくり、比例のグラフをかく。
○比例の変化や対応と関連付けて比例のグラフの特徴を調べ、比例関係の理
解を深める。
比例の活用
1
○具体的な事象から比例の関係にある2つの数量を見出し、問題を解決する。
(本時)
反比例
3
○具体的事象の考察を通して、反比例の意味を理解する。
○反比例のグラフの特徴について理解する。
反比例のグラフ
2
○反比例の式から表を作り、反比例のグラフをかく。
○反比例のグラフの特徴について理解する。
反比例の活用
2
○具体的な事象から反比例の関係にある2つの数量を見出し、問題を解決す
る。
まとめの問題
4
2
単元と生徒
(1) 単元について
教材の特性をふまえ、本単元では学習指導要領の以下の事項に重点を置いて指導する。
第1学年「C 関数」 オ
比例、反比例を用いて具体的な事象をとらえ説明すること。
単元の導入場面では、伴って変わる量の気付かせ方を意識して指導する。変化する量や変化しない量を考
えるときの数学的な視点(長さ、面積…)を与え、生徒から多様な視点を育てたい。また、具体的な事象を
通して学習を進め、表・式・グラフを関連付けて指導していく。
(2) 生徒の実態 (男子 18 人、女子 16 人 計 34 人)
全体的には落ち着いて授業に臨んでいる。授業では、生徒のつぶやきをつなぐことを意識して進めている。
文字式の活用では、碁石を正三角形にならべた事象を取り上げた。授業者が問いを出すのではなく、生徒に
碁石の総数に着目させ、課題を設定した。解決の過程で、どのような点に注目して考え、数えたかを生徒に
発表させたり、生徒から出ない考えを授業者が紹介したりなどして、多様な考え方を深めた。しかし、定期
テストや Web 配信集計システムでの同様の問題では正答数が半数以下にとどまり、
定着に課題が見られた。
生徒がより意欲的に取り組み、数学的な活動を取り入れることで、改善をしていきたい。
5
本時の展開
(1) ねらい
問題場面において、比例の見方や考え方を活用しながら解決方法を考察し、表現することができる。
(2) 展開の構想
① 教師が提示した事柄から、生徒との対話を通して徐々に課題を完成させ、意欲や興味・関心を高める。
② ある数量を求めるためには何を調べればよいのかを考え、数量やその関係などの「用いるもの」とそ
の「用い方」を視点として、解決の方法を伝え合う活動を取り入れ、求め方を表現する力を高める。
(3)展開
○教師のはたらきかけ
時間
学習活動
5分
1.回収したエコキャッ
□評価 ◇留意点
・予想される生徒の反応
プを見て、本時の事柄
を確認する。
(全体)
○大量のエコキャップが入った袋を
見せる。
○エコキャップがリサイクルされる
ことで、CO2の削減につながった
り、ワクチンの費用になったりして
いることにふれる。
2.キャップの数を予想
する。
(全体)
<答の見通しをたてる>
○生徒のつぶやきの中から、キャップ ◇10 個のキャップを見
の数に着目させ、数を予想させるよ
せ、概量をつかませ
う促す。
る。
・1000 個、2000 個など予想する。
◇予想した数を板書し
ておく。
3.課題の提示。
課題
エコキャップの個数を求める方法を考えよう。
○様々な方法を考えるよう伝える。
4.個人で求め方を考え
る。
(個人)
40
分
<考える時間の確保>
○机間支援し、つまずいている生徒に
□身近な事象に興味・
は、個数の代わりに何かを調べ、個
関心を持ち,問題の
数を予想できないか助言する。
解決に意欲的に取り
○状況に応じて、ペアや周囲の生徒と
組もうとしている。
相談させる。
・個数と重さの関係が比例になってい
【個人活動・グループ
活動】〈関心・意欲・
ることから、計算する。
態度〉
・個数と体積が比例になっていること
から、計算する。
5.全体で求め方を確認
○全体で求め方を出させる。
する。
6.小グループになり、
求め方を決める。
(4~
○全体で出た求め方などから、自分達 ◇進んでいないグルー
の班で求め方を決める。
5人班の小グループ)
○求め方を決める際に、どのような理
<小グループでの話し合
由でその求め方にしたのかを発表
い>
できるように考えさせる。
・正確に数えるために一つずつ数え
る。
プには表をかかせ、
比例の関係を利用す
るよう助言する。
◇キャップをグループ
ごとに袋に分け、配
布する。
・能率的に数えるために、個数と重さ □ 比例の見方や考え
が比例関係になっていることから
方を利用して,問題
個数を求める。
を解決することが
できる。【ワークシ
ート】
〈見方・考え方〉〈技
7.各班で出た個数を求
める説明を確認し、そ
の内容を比較検討する
活動を通して、数学的
○各班の説明を紙に書かせ、全て黒板
能〉
にはりだす。
○各班の説明の共通点や、良いところ
を全体で確認する。
な表現力を深める。
(全
体)
5分
8.本時のまとめをする。 ○個数と重さの関係が比例関係にな
っていることから求めるとおよそ
のキャップの数を求めることがで
きることをまとめとし、次時に実際
に数えて検証する。
(4) 評価
具体的な事象において、ともなって変わる2つの数量の関係を比例の関係としてとらえられたか。
関心・意欲・態度
A
数学的な見方・考え方
技能
キャップの重さと個数が比例
根拠をもって、キャップの重さ キャップ1個あたりの重さを
関係であるという仮説を少な
と個数が比例関係にあるとい
求め、全体の個数を推測し、そ
い場合で検証し、全体の数を推 う仮説を立てることができる。 の方法を説明することができ
測しようとする。
る。
キャップ1個あたりの重さを キャップの重さと個数が比例 キャップ1個あたりの重さを
B
求め、全体の個数を推測しよう 関係にあるという仮説を立て 求め、全体の個数を推測するこ
とする。
ることができる。
とができる。
6
実践を振り返って
(1) 授業の実際
① 目的意識を持って主体的に取り組むための課題設定と提示の工夫
今回は、委員会活動で行っているエコキャップ
回収を取り扱った。身の回りにある事象であるこ
とと、実際に大量のキャップを見ることで、課題
をより身近に感じている生徒が多かった。教科書
にあるような針金の重さと長さを例にした課題よ
りもスムーズに導入することができたと考える。
また、教師側から一方的に課題を与えるのでは
なく、生徒との対話を通して徐々に課題を完成さ
せていった。今回の場合は、キャップ 860 個でワ
クチン1つになるので、実際に自分達が集めたキ
ャップがどのくらいの数になるのか、あるいは委
員会が1つ1つ数える他に、違う方法で数える方法がないか等の生徒の意見から、課題を設定した。その
ため、解決のための活動では、ほとんどの生徒が意欲的に活動していた。
② 自分の考えを表現しやすくするための学習形態の工夫について
自分の考えや見通しをたてるための個人で考える時間をしっかりと確保することができた。また、今回
は生徒の活動の様子から、小グループ活動の前にペアでお互いの考えを確認させ、各自が考えを持つこと
ができた。また小グループ活動では、協力して課題解決をしようとする姿が見られた。しかし、小グルー
プ活動の前に、エコキャップの重さのばらつきから、
「キャップの個数と重さに比例関係があるとみなす」
ところで生徒の理解に時間がかかってしまい、小グループ活動後のまとめをうまく設定できなかった。
(2) 研究テーマに関わって
今回の研究テーマが達成できたかどうかを、本時における生徒のワークシートの記述内容や生徒の振り返
りをもとに考察する。
① 「解決したい」という意欲の生まれる課題と感じた生徒について
授業後の生徒の振り返りから、「「解決したい」という意欲の生まれる課題と感じた。」という質問内
容に対して肯定的評価は97%であった。「個数を求めなさい。
」という一問一答の課題を最初に投げかけ
るのではなく、生徒の対話を通して徐々に課題を完成させることで、積極的に課題に取り組もうとする生
徒の姿が見られた。
② ペアやグループでの活動で、分かりやすく相手に説明できた生徒について
単元導入前に行った生徒の振り返りでは、
「調べたことや分かったことを分かりやすく相手に伝えるこ
とができる。
」という質問内容では、肯定的評価が 61.7%であった。単元後に同じ内容の振り返りを行っ
たところ、肯定的評価は 76.4%であった。本時だけでなく単元全体で、適宜ペアや小グループの活動を取
り入れたことは、一定の効果があったと考えられる。ペアや小グループで教え合い、説明し合うという学
び合いの活動により、課題を理解・解決し、学習意欲が上がるという効果が確認できた。しかし、他の人
の考えをそのまま自分の考えとして発表する生徒もおり、なぜそうなるのかを理解した上で自分の考えを
説明することができた生徒は必ずしも多くはなかった。
生徒のワークシート
また、授業では、
「キャップの個数と重さの関係は
比例関係とみなせるのか」という場面で生徒の理解に
引っかかりがあった。グラフに表してみることによっ
て、大体比例関係とみなせると気付くことができ、グ
ラフの有用性を感じられたように思う。ワークシート
からは、1個あたりの重さから全体の個数を求める方
法を記述する生徒が多かったが、文字を使った式を使
う生徒はいなかった。
生徒がかいたグラフ
(3) 今後の課題
授業では、比例の関係とみなすとして、班で協力しながら課題解決を図った。しかし、解決方法で文字を
使った式を活用する生徒がいなかった。数学的活動の中に「数学的な表現を用いて、根拠を明らかにし筋道
を立てて説明し伝え合う活動」がある。課題を解決する際、答えが出ればそれでよいと考えている生徒が多
い。なぜそのような答えになったのかと理由を考えることや、思考過程を数学的な表現を用いて記述したり
説明したりすることが思考力・判断力・表現力等を育成するためには重要であると考える。公式を暗記し、
それに当てはめて答えを出すのでは本質的な理解ができたとはいえないし、新しく直面する問題を解決する
ことは難しい。
比例の関係を説明するために、式・表・グラフを使って、工夫して伝えあう場面を設けることが今後の課
題である。図や表、式などをかくことで思考を整理し、そう考えた根拠や解法を説明したり、友達と考えを
練り合ったりすることにより、見方や考え方を育てる場面を設定していきたい。