フーリエ解析入門 参考書 「物理現象のフーリエ解析」小出昭一郎(東大出版会) 「スペクトル解析」日野幹雄(朝倉書店) 「なっとくするフーリエ変換」小暮陽三(講談社) 「キーポイント フーリエ解析」船越満明(岩波書店) 「工学を学ぶ人のためのフーリエ解析(演習書)」スピーゲル(マグロウヒル) 「ビギナーズ デジタルフーリエ変換」中村尚五(東京電機大学出版局) 「特殊関数」戸田盛和(朝倉書店) 「岩波 数学公式II 級数・フーリエ解析」森口・宇田川・一松(岩波書店) 良書多数 目次 • • • • 関数の展開 フーリエ級数 関数の直交性 フーリエ変換 • • • • 畳み込み 物理的な例 確率過程 高速フーリエ変換 関数の展開・フーリエ級数 関数の展開を、馴染み深いテイラー級数を例に とって説明し、続けて周期関数のフーリエ級数展 開を説明する。任意の周期関数を三角関数の和 で表現する(できる)ことがフーリエ級数展開であ る。特に展開係数の性質に注目する。 テイラー級数(マクローリン級数) • 任意の関数f(x)をxの多項式(x1、x2、x3、x4、・・・の和)で表 f(x) す(ことが出来る) f x a0 a1 x1 a2 x 2 a3 x 3 x an x n n 0 + x x 問題はanの決め方。これは定理によって 1 (n ) an f 0 n! f(x)を微分できれば計算できる + x + x + ・ ・ ・ テイラー級数(マクローリン級数)の例 f x a0 a1 x1 a2 x 2 a3 x 3 an x n 1 n 1 x x 2 x 3 1 x n x 1 1 x x 2 x3 x 4 xn x e 1 x x 2 6 24 n! x3 x5 x 2 n 1 n sin x x 1 x 2n 1! 6 120 2n x2 x4 n x cos x 1 1 2n ! 2 24 x n x 2 x3 n 1 x log1 x x 1 1 x 1 2 3 n フーリエ級数 • [-L、L]のパターンを繰り返す周期関数を、sin(x)、cos(x) f(x) の和で表す(ことが出来る) a0 x 2x 3x a1 cos a2 cos a3 cos 2 L L L x 2x 3x b1 sin b2 sin b3 sin L L L a0 nx nx an cos bn sin 2 n 1 L L f x 1 L nx dx 問題はanとbnの決め方。 an L f x cos L L f(x)にcos、sinをかけて L 1 nx dx 積分すれば計算できる。 bn L f x sin L L 上のf(x)を代入して、an,bnが得られることを確認せよ x L -L x + x + ・ ・ ・ フーリエ級数展開の例 1 矩形関数 定義域 [-π,π] square-func 矩形関数のフーリエ級数による近似 1.5 1 -π 0 -1 π 1 2 x 2 f x 1 x 2 , 2 x x 1 0.5 0 -0.5 この関数をフーリエ級数展開すると -1 f x 4 4 4 cos3 x cos5 x 3 5 4 n 1 cos2n 1x 2 n 1 n 1 cos x cos関数だけで表すことができる 無限項の和 6項の和 5項の和 4項の和 2項の和 3項の和 1項のみ -1.5 -3 -2 -1 0 x 偶関数 f x f x 1 2 3 フーリエ級数展開の例 2 矩形関数 定義域 [-π,π] 1.5 1 -π 0 -1 1項のみ 2項の和 3項の和 4項の和 5項の和 6項の和 無限項の和 π 1 0 x f x 1 x 0 この関数をフーリエ級数展開すると f x 4 sin x 4 4 sin 3x sin 5 x 3 5 4 sin 2n 1x 2 n 1 n 1 sin関数だけで表すことができる x 1 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 -3 -2 -1 0 x 奇関数 f x f x 1 2 3 フーリエ級数展開の例 3 鋸歯状波 定義域 [-π,π] 例1: 1 f x x 2 1 2 sin x sin 2 x sin 3x sin 4 x 3 2 n 1 2 1 sin nx n n 1 -π 0 -1 例2: 定義域 [-π,π] f x cos π x 2 2 x 2 4 cos x cos 2 x cos3x cos 4 x 3 15 35 63 4 n 1 1 cos nx 2 n 1 2 n 1 n 1 1 -π 0 -1 π x 演習問題 次の関数を図示し、フーリエ級数展開せよ。 またnを横軸、係数an,bnを縦軸にとって図示せよ。 0. f x cos2 x [-π,π] 1. f x x [-π,π] 2. 3. f x cos x 2 4. [-π,π] [-π,π] 2x 1 L f x 2x 1 L L x 0 b a 5. f x x 2 [-π,π] 6. 1 f x 0 2 x 2 other パルス関数 [-L,L] 0 x L 4 2 2 4 f x x 2 x 7. [-L,L] 部分積分の公式を活用 x 0 0 f x sin x 0 x [-π,π] f x g x dx f x g x a f x g x dx f(x)をxなど、微分して定数になるよう選ぶと良い a b b パルス関数のフーリエ級数 • パルス関数 – 短い区間εだけ有限の値を持 ち、その他は0 • パルス関数のフーリエ級数 – sinc関数形となる • nに対してanを図示 – εが小さいほど、nが大きい級 数anまで値がある – εが大きい場合、nが少し大き くなると級数anはすぐに0に 近づく 狭いパルスを級数展開すると 大きなnの級数が現れる 1 f x 0 2 , x 2 other 1/ε -L 0 x L 1 2 n nx f x sin cos 2 L n 1 n 2L L 2 n an sin n 2L 1 sin z n zn n / 2 L L z n an これをsinc関数という n nε/2L=1 nε/2L=2 フーリエ級数展開の例:高調波 周期的な時間の関数f(t)のフーリエ級数 • ひずんだ波 • 単振動の波=正弦波 周期2π/ω 周期2π/ω t f t A cost t f t a1 cost a2 cos2t b1 sin t b2 sin 2t c1eit c2e 2it フーリエ級数 a0=0、a1=A、a2=0、a3=0・・・ 基準振動ωの係数a1だけ特定の値A、他は0 音波の場合は「純音」、電磁波の場合は「CW」という 基準振動ωの係数a1,b1の他に、2倍の周波数、3倍の 周波数、・・・の係数も0でない値をとる。これを基準振動 =基本波に対して高調波と呼ぶ。 音波の場合、高調波の混合の程度で「音色」が変化する。 ひずみが激しい=尖った波ほど、高い高調波が現れる。 複素関数を使ったフーリエ級数 • [-L、L]のパターンを繰り返す周期関数を、exp(ix)の和で 表す(ことが出来る) f x cne i n x L 和が-∞からとなって いる点に注意 n n i x 1 L L cn c f x e dx L 2L 1 an ibn 2 * n 係数の求め方 これはsin、cosを使った展開と同じ。式変形で確かめられる。 2個の係数(an,bn)を1個の係数cnで表せる。ただしcnは一 般に複素数なので、実数2個の組を含んでいる。 オイラーの式 • 任意の複素数a+ibはオイラーの公式によって「振幅A と位相θ」に変換できる。 Im Aei A cos iA sin a ib • これを使ってフーリエ係数を表現 cn Anein f x c e n n cn An i n x L An an2 bn2 θn 0 A e n bn n i x n L n 関数f(x)を指数関数exp(ix)の和で表している。 ただし、振幅Anで重みをつけ、また足し合わせる ときにθnの位相回転を加えている。 an Re 関数の直交性 ベクトルの直交の概念を拡張し、関数の内積と 直交を定義する。それぞれが直交する関数の一 群を直交関数列と呼ぶ。その代表例が三角関数 である。直交間数列を用いて任意の関数を展開 できる。 ベクトルの直交 • 直交する2つのベクトル • やや抽象的な、大きな次 は、内積が0である 元(n次元)のベクトル – 高校数学の復習 2つのベクトルx,y x1 x x2 x 3 y1 y y2 y 3 x y x1 y1 x2 y2 x3 y3 0 内積が0なのでxとyは直交している x1 x x 2 x 3 y1 y y 2 y 3 • 内積 x, y x1 y1 x2 y2 x3 y3 n xi yi i 1 =0なら2つのベクトルは直交している 関数の直交性 • 関数の内積 ベクトルの内積 n – 2つの関数f(x)とg(x)の内積の定義 f , g x f xg * xdx x y i 1 i i x2 1 *は複素共役 – 内積が0なら「関数f(x)とg(x)は直交する」という • 例:sin(x)とsin(2x)は直交する 定義域は[-π,π] f , g sin x sin 2 x dx 1 cos x cos3x dx 2 1 1 sin x sin 3x 0 2 3 sin(nx)は、nが異なれば直交する cos(nx)とも直交する 直交しないのは自分自身だけ 直交関数列 一群の系列をなす関数群 互いに直交する このような性質を持つ関数の 系列を直交関数列un(x)という 直交関数列un(x)の例 • 三角関数 [-π,π] • ルジャンドル関数列 Pn(x) [-1,1]・・・直交性を確認せよ P0 x 1, P1 x x, P2 x eix , e 2ix , e3ix , e 4ix 1 1 3x 2 2 1 1 P3 x 3 x 2 5 x 4 , P4 x 3 30x 2 35x 4 2 8 sin x, sin 2 x, sin 3x, sin 4 x cos x, cos2 x, cos3x, cos4 x • エルミート関数列 Hn(x)※ [-∞,∞] ※エルミート関数列は内積を 2 作るために重み e x が必要 H 0 x 1, H1 x 2 x, H 2 x 4 x 2 1 H 3 x 8 x 3 12x, H 4 x 16x 4 48x 2 12 直交関数列による関数の展開 • たいていの関数f(x)は、直交関数列un(x)の和とし て表せる。フーリエ級数展開も、この一種 f x C0u0 x C1u1 x C2u2 x C3u3 x Cnun x n • 係数Cnは内積の計算で得られる Cn f , un ※フーリエ級数展開が上の式に当てはまることを確認せよ スツルム・リウビル定理 スツルム・リウビルの微分方程式 d dy px qx y r x y 0 dx dx • どんな関数列が直交関 数列un(x)となるか 微分演算子Lを導入すると L d d p x q x dx dx 同一の境界条件でスツルム・リウビルの 微分方程式を満たす(固有関数となる) 関数群は、直交関数列をなす 固有値方程式としてかける Ly ry 三角関数はこの最も簡単な場合 (p=r=1、q=0) この方程式を満たす関数群yn (固有値はλn)は r xy xy xdx 0 b a n m n m 互いに直交する(r(x)は重み関数という) フーリエ変換 フーリエ級数は周期的な関数にのみ適用される。 この方法を拡張したものがフーリエ変換であり、 周期性のない、任意の関数でもフーリエの方法 =正弦波への分解、を使うことができる。 フーリエ級数の復習 周期[-L,L]の関数f(x)は、直交関数列(の ひとつ、三角関数)un(x)を用いて展開できる。 直交関数列 n 1 iLx un x e 2L 1 2L は規格化の係数。 級数展開 1 f x Cnun x 2L n 展開係数 1 Cn f , un 2L C e n f xe L L i i n x L n n x L dx パルス関数のフーリエ級数 1 f x 0 2 x 2 other -L • Lを2倍にすると an 1/ε 0 x L 1 2 n nx f x sin cos 2 L n 1 n 2L L 2 n an sin n 2L 1 sin z n zn n / 2 L L z n an n nε/2L=1 nε/2L=2 • Lを4倍にすると an n nε/2L=1 n nε/2L=1 nε/2L=2 nε/2L=2 周期Lが長いほど、係数の間隔は狭まる 周期的関数の周期Lを伸ばす • 周期Lを伸ばすと、係数の間隔は狭まる • 無限の周期では、係数の間隔は0 • 係数自体が「関数」をなす フーリエ変換 もとの関数f(x)から、別の関数F(k)への変換 フーリエ変換 1 f x 2 1 F k 2 F k e dk ikx f x e ikxdx 2組の式でフーリエ変換 対をなす。フーリエ変換・ 逆変換という用語を使う こともある。 フーリエ変換をf→F→fと 2回行えば、元の関数に 戻る。 フーリエ変換の性質 f x g x F k Gk , • • • • af x aFk ある関数f(x)をF(k)の積分(~和)で表す F(k)はf(x)から積分によって計算できる f(x)とF(k)の式は対称 f(x)が実数の関数でも、F(k)は一般に複素関数 – f(x)が偶関数の場合にはF(k)は実関数(cosのみ) 1 2 は規格化係数なので、 あまり気にしなくて良い フーリエ級数とフーリエ変換 n i x 1 L f x Cn e 2 L n n i x L 1 L C f x e dx n 2L L • フーリエ級数展開 – 周期関数 1 f x 2 1 F k 2 F k e ikxdk f x e ikxdx • フーリエ変換 – フーリエ級数展開を無 限長の周期関数=任意 の関数に適用する フーリエ級数とフーリエ変換 • フーリエ級数展開 – 周期関数f(x)を、三角関数 sin、cosの和として展開 – 「任意の周期関数は、sin、 cosの和で表せる。つまり 関数f(x)は係数an、bnで表 せる」 • フーリエ級数の係数 – 整数nによって指標付け – 元の関数f(x)に含まれる三 角関数の割合の程度を表 す • 例:sin3xが多く含まれると きは、b3が大きな値になる – f(x)の偶関数部と奇関数部 がそれぞれan,bnに現れる • フーリエ変換 – 任意関数f(x)を、三角関数 exp(ik)の積分(~和)とし て展開 – 「任意の関数は、三角関数 の積分で表せる。つまり関 数f(x)はフーリエ変換した 関数F(k)で表せる」 • フーリエ変換した関数 – 連続関数、変数はk – 元の関数f(x)に含まれる三 角関数の割合の程度を表 す。kに対するグラフに表せ ば、その「波数」kの成分が 多い・少ないを図示できる – 複素関数なので振幅と位相 の2つの情報を持つ フーリエ変換の例 例1:x>0で指数関数的に減少する関数 e x x 0 f x x0 0 1 ikx F k f x e dx 2 1 1 2 ik 1 ik 2 2 2 k 例3:長さLが有限な正弦波 L L cos k x x 0 2 2 f x L 0 x 2 k k0 L k k0 L sin sin 1 2 2 F k k k0 2 k k0 x 例2:ガウス関数 f x e F k x 2 L 0 1 k 2 4 e 2 ガウス関数のフーリエ変換はガウス関数 (計算が容易なので、逆フーリエ変換して元に戻ることを確認せよ) -k0 0 k0 k 長さLが無限なら、2個のδ関数になる。Lが有限だ と、すこし幅を持った関数になる。 パルス関数のフーリエ変換 1 f x 0 2 x 2 other フーリエ変換 フーリエ級数展開(周期2L) 1/ε -L 0 1/ε L 1 2 n nx f x sin cos 2 L n 1 n 2L L 2 n an sin n 2L 1 sin z n zn n / 2 L L zn x x 0 F k 1 2 sin k 2 k 2 0 k パルス関数のフーリエ変換はsinc関数。 εが小さくなる(鋭くなる)と、F(k)はどんどん 広がった関数になる。εが0、つまりf(x)がδ 関数になると、F(k)は定数になる δ関数にはあらゆる周波数の波が等しく含まれている 演習問題 (既出だが、自分で計算。F(k)を図示せよ) 3.有限長の正弦波 1.減少する指数関数 e x f x 0 x0 x0 f x e L L x 2 2 L x 2 4.有限長のパルス 2.ガウス関数 x2 cosk0 x f x 0 0 1 f x 0 2 x 2 other ※パラメータα、L、εを変化させた場合(特に∞と0)について考察せよ δ関数と正弦波 長さLが有限な正弦波 パルス関数のフーリエ変換 1 f x 0 2 x 2 other cosk0 x f x 0 1/ε L L x 2 2 L x 2 x 0 x L k sin 1 2 F k 2 k 2 ε→0とすると、 0 f x x となる このとき、 F k 1 2 定数である k F k 1 sink k0 L 2 sink k0 L 2 k k0 k k0 2 -k0 k0 0 k L→∞とすると、 f x cosk0 x となる このとき、 F k k k0 k k0 2 δ関数のフーリエ変換は定数 正弦関数のフーリエ変換はδ関数 周期無限大の正弦波=定数のフーリエ変換もδ関数 δ関数と正弦波 sin k0 x の場合を自分で考えよ δ関数のフーリエ変換は定数 f x x F k 1 2 定数のフーリエ変換はδ関数 f x 1 F k 2 k 正弦関数のフーリエ変換はδ関数 f x cos k0 x F k k k k k 0 0 2 k0 0 2 k 0以外の位置にあるδ関数の フーリエ変換は正弦関数 f x x x0 F k 1 e ix0 k 2 δ関数列 • δ関数が周期Lで無限に並んだ周期関数 • そのフーリエ変換もδ関数列 f x 2 F k L x nL n 0 x k n' n ' k 0 L 2 L 2π/L cosnx n 2 2 x n ' n' を使う 周期関数のフーリエ変換 単パルス関数のフーリエ変換 周期2Lのパルス列 1 2nL 2 , 2nL 2 f x other 0 1/ε 1/ε -2L -L 0 L 2L x F k k sin 2 2 F k k n' k n ' 2L L 2 単パルスによる 2 , 2 other 1 f x 0 1 2 sin k 2 k 2 k 0 δ関数列のフーリエ変換(周期2L) f x δ関数列による x 2nL n 0 π/L x 0 k 周期関数のフーリエ変換は周期の逆数のδ関数列 列の分布(振幅と位相)は、1周期分の関数で決まる F k 2 2L 0 2L k n' L n ' 0 π/L x k 変数の対 1 f x 2 1 F k 2 • xとk F k e ikxdk f x e ikxdx • tとω – x:空間の位置[m] – k=2π/λ:波数[m-1] – t:時間[s] – ω= 2π/T:周波数[s-1] = 2πν 他にもいろいろあるが、この2つをよく理解すれば応用できる。 例:量子力学における位置(x)と運動量(p) スペクトル • 時系列関数f(t)のフーリエ変換=スペクトルF(ω) – 時間とともに変動する値に、特定の周波数成分がどれほど含まれて いるかを示す – F(ω)の絶対値の2乗|F()|2をパワースペクトルという • スペクトルの例 – – – – – – 音声信号f(t)と音声スペクトルF(ω) 受信電波信号f(t)と電波スペクトルF(ω) 風速の時間変化f(t)と風速スペクトルF(ω) 海面波の時間変化f(t)と海面波スペクトルF(ω) 株価の時間変化f(t)と株価スペクトルF(ω) 太陽が放射する電磁波f(t)と太陽の放射スペクトルF(ω) どんな時系列関数でもスペクトルを考えられる 時系列関数以外にもスペクトルの定義を拡張できる - 空間分布関数のフーリエ変換は空間周波数スペクトル フーリエ変換の重要性 • 様々な物理の問題にフーリエ変換が現れる – 特に波・振動を扱う現象 • 波動現象、光回折、X線回折、電波・・・ • スペクトルを知ることが出来る – 信号・関数だけではわからない性質が見える – 薄く広がった信号を集められる • 正弦波がδ関数になるので測定しやすい • 様々な解法・演算に使える – 偏微分方程式を解く • 最初にフーリエが適用したのは熱伝導の問題の解法 – 画像処理をする • 次の畳み込みにも関係が深い – データ解析をする • ・・・ 多次元のフーリエ変換 • 直交座標(x,y,z) – 平面状に分布する値を表す関数f(x,y) • 例:四角い膜の振動、温度分布、密度分布・・・ – 立体的に分布する値を表す関数f(x,y,z) • 例:直方体空間中の電磁場、電子密度分布、・・・ • 一次元のフーリエ変換を、そのまま多次元に拡張 1 f x, y, z 2 1 f x 2 1 F k 2 F k e dk ikx f x e ikxdx 3 F k x , k y , k z e i kx xk y ykz z dkx dky dkz 1 ik x f r F k e dk k r k x x k y y k z z 3 8 ik x F k 1 f r e dr 3 8 x,y,zを別々に、順番に計算すればよい 多次元の級数展開 • 原点からの距離rで表すのが好都合な場合 (1)2次元平面の例:円形の膜の振動 v(r,θ) (2)角度(方向)のみの関数:アンテナの指向性 D(θ,φ) (3)3次元球の例:太陽の質量密度分布 ρ(r,θ,φ) よく性質のわかった直交関数列、三角関数やベッセル関数などで展開 • 極座標(r,θ、φ) – 2次元極座標上の関数は、ベッセル関数と三角関数で展開できる • 簡単に言えば、円盤形の問題ではベッセル関数を使う • ケース(1) rとθに分離、半径r方向はベッセル関数Jn(r)を使って表現、θ方 向は三角関数で表現できる=これらの関数の和としてもとの関数 v(r,θ)を 表すことができる – 角度のみの関数は、球面関数(ルジャンドル関数+三角関数)で展開 • ケース(2) θとφに分離、球面関数Ynm(θ,φ)で表現 • 例:量子力学における波動関数の「角度成分」 – 3次元極座標上の関数は、球ベッセル関数と球面関数で展開 • 球対称の場合や、3次元で半径と角度を分離すれば球ベッセル関数と球面 関数 • ケース(3) rとθ・φに分離、半径r方向は球ベッセル関数jn(r)、角度部分は球 面関数Ynm(θ,φ)で表現 畳み込み 2つの関数の合成法の1種が畳み込み演算である。その 基本的な意味は、2つの関数で互いに平滑化することであ る。実験・観測データは真の値と測定装置の特性関数の 畳み込みであるなど、この考え方は極めて応用範囲が広 い。相関関数やグリーン関数の考え方も共通する。またδ 関数列との畳み込みは、周期的構造を作り出すこと、デジ タル信号処理の基礎であることから重要である。 畳み込み演算(Convolution) • 2つの関数f1(t)とf2(t)を合成したg(t) – 畳み込み、接合積、合成積、Convolution g t f1 t f 2 t f1 f 2 t d – 畳み込み演算の性質 f1 t f 2 t f 2 t f1 t , f g h f g h, f g h f g f h • 畳み込み演算の意味: – 2つの関数は、畳み込によって互いに平滑化する。 • 最も重要な応用: – 実験装置から得られる値は、真の値f(x)と実験装置の特性関数 h(x)の畳み込みになっている。真の値を知るために畳み込みを 解く操作をデコンボリューション(deconvolution)という。 畳み込み演算の例 1 (場合分けに注意が必要) 指数関数と一次関数 2つの矩形関数 1 f1 t 0 0 t T , other 1 0 1 f 2 t 0 t T t T g t f1 f 2 t T t 0 -T T t 0 other 1 0 t 0 0 x , x 0 T t 0 0 t T other x f 2 x 0 1 0 x 1 other 1 t 0 x 0 1 0 g x f1 f 2 x x 1 e x ex T -T e x f1 x 0 x 0 0 x 1 x 1 1 T t 0 1 x 畳み込み演算の例 2 2つのガウス関数 f1 x e ax 2 指数関数と矩形関数 f 2 x e , e x f1 x 0 bx 2 1 1 x 0 g x f1 f 2 x x 0 ab e ab 2 x a b 0 x X other 1 x 0 x X x 0 0 0 x X f g x 1 e x e X 1 ex x X 1 f 2 x 0 1 0 eX-1 ab 0 0 x , x 0 x 2つのガウス関数の畳み込みはガウス関数 ただし幅が少し大きくなる ※2つのガウス関数の畳み込みで、関数の幅がどのように 変化するか確かめよ 1 0 X x 畳み込み演算は、2つの関数を平滑化する 畳み込み演算の例 3 ガウス関数と十分長い矩形関数 f1 x e ax 2 1 f 2 x 0 , x X other 1 1 x 0 -X 0 x X g x 初等関数では表せないが、 平滑化効果から関数形は 容易に想像できる -X 0 X x 畳み込み演算は、2つの関数を平滑化する 畳み込み演算の例 4 δ関数と任意関数 f1 x x, 周期Lのδ関数列と任意関数 f 2 x f x f1 x x nL, f 2 x f x n 0 x x 0 0 0 x g x f x nL g x f1 f 2 x f x 0 x L n x δ関数との畳み込みは、元の関数と同じ 0 x L δ関数列との畳み込み演算は、 周期関数を作る 畳み込みの実例 • 画像処理 • 結晶構造の表現 – 例:ピンボケ写真は、真 の画像とぼやけ関数(P SF)の畳み込み – 結晶の構造は単位胞と δ関数列の畳み込み * * 単位胞 元画像 ピンボケ画像 PSF(Point Spread Function) 点のぼやけ具合を表す関数 結晶構造 δ関数列 畳み込み定理 f1 x f 2 x 2 F1 k F2 k F1 k F2 k 2 f1 x f 2 x 2つの関数f1(x)とf2(x)の畳み込み関数をフーリエ変換すると、 2つの関数のフーリエ変換F1(k)とF2(k)の単純な積となる この定理は応用上きわめて重要。様々な関数・測定値は複数の関数の畳 み込みや掛算として表されることが多い。それをフーリエ変換すると畳み込 みと掛算が入れ替わる。 この考え方は制御工学のラプラス変換、グリーン関数法、相関関数とウイ ナー・ヒンチンの定理などに通じる考え方である。 畳み込み定理の応用例 周期関数 周期2Lのパルス列=単パルス*δ関数列 1 2nL 2 , 2nL 2 f x other 0 1/ε -2L -L 0 L 2L 単パルス関数のフーリエ変換 1/ε x 畳み込み定理を使えば k sin 2 2 F k k n' 2 F1 k F2 k k n ' 2L L 2 F1 k k 周期関数は単位構造関数f1(x)とδ関数列f2(x)の畳み 込み。そのフーリエ変換は、単位構造関数のフーリエ変 換F1(k)とδ関数列のフーリエ変換F2(k) (別のδ関数 列)の単純な積。それぞれ別に計算すれば簡単。 1 2 sin x 0 k 2 k 2 k 0 δ関数列のフーリエ変換(周期2L) f 2 x 0 π/L 2 , 2 other 1 f1 x 0 F2 k x 2nL n 2 2L 0 2L k n' L n ' 0 π/L x k 畳み込み定理の応用例 有限長の正弦関数 有限長Lの正弦波は、正弦波と矩形関数の掛け算 f x f1 x f 2 x cosk0 x f x 0 L L x 2 2 L x 2 x L f1 x cosk0 x F1 k 2 k k0 k k0 畳み込み定理により 1 F k F1 k F2 k 2 k k0 L k k0 L sin sin 1 2 2 k k k k0 2 0 x 1 f 2 x 0 L L x 2 2 L x 2 -L/2 F2 k 1 -k0 kL sin 2 2 k 2 L/2 x 0 k0 k 有限長の正弦関数は、無限長の正弦関数と矩形関数 の単純な積。そのフーリエ変換は、正弦関数のフーリ エ変換(2個のδ関数)とsinc関数の畳み込み。 それぞれ別に計算すれば簡単。 有限長の任意の周期関数 f x f1 x f 2 x f3 x 例:有限の大きさを持った結晶構造 基本構造とδ関数列の畳み込みに 矩形関数をかけたもの f1 x x 0 f 3 x f 2 x δ関数列 基本構造 矩形関数 1 0 x * 0 F k F1 k F2 k F3 k x × F1 k x F2 k F3 k 基本構造のフーリエ変換とδ関数列の掛け算に sinc関数を畳み込んだもの k 0 sinc関数列となる。「列」となるのは周期関数の性質(f2)から。 個々のsinc関数の形状・幅は構造全体の長さ(f3)で決まり、全体が長いほどsincは細くなる。 列の振幅・位相分布は、基本構造(f1)によって決まる。 物理的な例 物理現象や物理の問題に現れるフーリエ級数・ 変換の例について述べる。ここに示したのはほ んの一例である。また、任意の関数をフーリエ級 数展開・フーリエ変換できる、という性質を使うと、 様々な問題の解法が得られることにも注意する。 光回折 x ξ 平行光線 波長λ x1と原点の光路長の差=x1sinθ 同 位相の差=2πx1sinθ/λ L x1 0 θ R スクリーン -L マスク 原点から角度θの方向の光の強度は、x軸上 の各点に到達した入射光を、光路長の差(位 相差)を考慮しながら足し合わせて得られる。 u ae S i 2x sin dx ae 位相差を考慮 した入射光 i S 2x dx θは小さい マスクの範囲で足し合わせ 波長λの平行光線が入射、x軸上のマ スクに開いた穴を通過して回折を起こ す。十分長い距離R(>>L)離れたス クリーン上の光の強度を考える。 ただしθは十分小さい。 角度θの方向の光の強度は、マスクパターンの フーリエ変換になっている。この例では、マスクは 長さ2Lの矩形関数。したがって回折強度はsinc 関数になる。 マスクが十分小さい点なら、回折光強度は定数に 近づく。2つの穴が開いていれば正弦波、周期的 に穴が開いていれば周期的な回折光。 結晶構造とX線回折 偏微分方程式の解法 次の微分方程式を解き、解の関数x(t)を求める x 02 x 単振動の方程式 (解) 関数x(t)はフーリエ変換できる。x(t)をX(ω)で表す。 このX(ω)がわかれば、x(t)は逆フーリエ変換で得られる。 1 xt X eit d 2 これを元の方程式に代入し、左辺の時間微分を実行すると 1 1 2 it 2 X e d X eit d 0 2 2 左右が等しいので、つまりX(ω)はδ関数である X A 0 B 0 ・・・X(ω)がわかった xt Aei0t Bei0t 単振動の式 普通の物理数学の解き 方は xt et として、λの方程式に変 換する。得られたλを 使ってx(t)を表す。 問題を解くにはどちら の方法でも良く、いろい ろ試して最適な方法を 使えばよい。 拡散方程式・熱伝導方程式 1 u au t u 2u a 2 t x 3次元の一般的な場合 1次元の場合 a:拡散係数、熱伝導係数 ux, t ある点xでの物体の温度uの時間変化(du/dt)は、 その点の温度の空間2階微分(d2u/dx2)に比例。 流体中を別の流体が拡散する場合の濃度分布も同じ 方程式で表される 拡散方程式・熱伝導方程式 2 x 0 問題 十分細く長い棒(熱伝導係数a)を考える。t<0では温度は全て0だった。t=0の瞬 間だけ原点部分に熱を加えた。つまり初期条件はu(x,0)=u0δ(x)。その後の温度 分布がどのように変化するか考える。 (解) u(x,t)をxについてフーリエ変換してF(k,t) とし、熱伝導方程式に代入してxで微分 t=0でのF(k,0)はδ関数のフーリエ 変換だから定数 F k , t ak 2 F k , t t u0 F k ,0 2 これはtで積分できて よってF(k,t)は F k , t F k ,0eak t 2 u0 ak 2t F k , t e 2 拡散方程式・熱伝導方程式 3 u0 ak 2t F k , t e 2 t1 をkで逆フーリエ変換して u0 ux, t 2 1 e 2at x2 4 at となる。 この関数はxに対してガウス型であり、t に対して最初増加やがて減少となる関 数である(右図)。 原点に加えられた熱が時間とともに拡 散していく様子を示している。広がりの 幅(ピークの半分になる幅)の時間変化 はtの1/2乗に比例し、広がる速さは 次第にゆっくりとなる。xで積分すれば、 最初に与えたu0に一致する。 t2 t3 0 x1 x 全体として温度分布は広がってゆく x1の温度変化は最初上昇、やがて減少 シュレディンガー方程式 1 時刻t=0においてガウス関数型の波束 (wave packet)を考え、それがどのように 時間変化するか考える。ただしik0xという 位相因子をかけておく。 波束 2 2 i 2 t 2m x 2 x 2 ik0 x f x e e 14 1次元、自由空間のシュレディンガー方程式 波動関数をxについてフーリエ変換で表す 1 x, t 2 位相因子 k , t eikxdk シュレディンガー方程式に代入してxで微分 x 波束は遠くから見れば一つの粒子のよ うに振舞う。ik0xという位相因子は、波 束内の振動を表す。これは運動量に相 当することが後でわかる。 k , t 2 k 2 i k , t t 2m これはtで積分できて k , t k ,0e k 2 i t 2m シュレディンガー方程式 2 2 x 2 ik0 x f x e e 14 k , t k ,0e 2 k i t 2m t=0の場合は、初期条件として与えられ た波束のフーリエ変換 1 k ,0 F k 2 f x e ikxdx これらの結果を使って波動関数を表すと k i kx t 2 m 2 x, t 1 2 F k e dk 波動関数を書き表せた。次に初期条件の f(x)を使って、具体的にF(k)を計算する 14 1 F k e これを k k0 2 2 に代入すると 14 1 x, t 3 4 e k k0 2 i kx k 2 t 2 2 m dk 2 x i k x t 0 0 2 exp 1 i t 14 x, t 1 it 積分すると ・・・解けた シュレディンガー方程式 3 2 x i k x t 0 0 2 exp 1 i t 14 x, t 1 it ただし m , 0 2 0 k 2m 粒子の存在確率はψの絶対値の2乗に比例 xのガウス関数。ただしピーク位置は原点 から時間とともに離れていく。その速度は v k0 p0 m m ガウス関数の幅は時間とともに広がる。 幅Δxは 1 2t 2 x 2 v x, t 2 e 2 2 1 t 規格化係数 k x 0 t m 1 2t 2 関数形 ・・・古典的な粒子の運動と同じ (エーレンフェストの定理) k0 m 2 x x t 2 シュレディンガー方程式 4 kで表した波動関数(kについてガウス型) 14 1 k , t e k k0 2 2 e k 2 i t 2m 波数は運動量と等価 k0 p0 量子力学における運動量pと位置xは フーリエ変換の関係になっている 分布の幅 k フーリエ変換 xで表した波動関数(xについてガウス型) x, t 14 e x 2 i k0 x 0t 2 1it 1 it 1 2t 2 分布の幅 x 2 運動量の幅Δpと位置の幅Δxの積 1 2t 2 px 2 運動量と位置は同時に正確には決まらない 量子力学の不確定性原理 ※この関係は、フーリエ変換の対の変数において、一般 的に成り立つ。パルス関数・有限長の正弦波を再考せよ。 画像処理 確率過程 時系列信号 相互相関関数 ウィナー・ヒンチンの定理 高速フーリエ変換FFT 三角関数の式変形:メモ sin A B sin A cos B cos A sin B cos A B cos A cos B sin A sin B sin 2 A 2 sin A cos A cos 2 A cos2 A sin 2 A A B A B sin A sin B 2 sin cos 2 2 A B A B sin A sin B 2 cos sin 2 2 A B A B cos A cos B 2 cos cos 2 2 A B A B cos A cos B 2 sin sin 2 2 sin 3 A 3 sin A 4 sin 3 A cos3 A 4 cos3 A 3 cos A sin A 1 1 cos A 2 2 A 1 1 cos A cos 2 2
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