8・文化の文脈化

8・文化の文脈化
2012.11.09. 青山・文化人類学II/B
8・文化の文脈化
2012/11/09 - [2]
[前回]変化する文化を「守る」(2)



1950-60年代の映像を見ながら確認したのは「文化は変
化する」ということ
おそらく日本全国に広がっていたであろう「水窪のよう
な暮らし(自給自足生活)」は、大量消費生活への移行
が雪崩をうって起こった1950-60年代以降、変化し消え
ゆこうとしていることは確かである
この事実をまえにして、少なからぬひとびとは「それは
惜しいことだ、なんとかして守らなくては」という気分
にさせられる

伝統的な暮らしが消え去ることは、ちょうどトキが絶滅するよう
なもので、かけがえのないものをなくしてしまうことになるので
はないか?
8・文化の文脈化
2012/11/09 - [3]
[前回]変化する文化を「守る」(3)

では、いったい「だれが」守る役をするのだろうか?



現状を冷静に分析すれば、従事者比率が激減し、かつ、急激に高
齢化がすすむ「農業従事者」がそれを守らざるを得ない
そもそもキツイうえにもうからない農業に従事するひとびとに、
さらに「文化を守る役割まで負わせる」ことは問題ではないだろ
うか?
なんのために「守る」のだろうか? どんな犠牲を払わ
なければならないのだろうか?
8・文化の文脈化
2012/11/09 - [4]
[前回]映像資料「姨捨の棚田」



棚田の「美しい風景」とその背後にある「ひとびとの地
道な営み」は、単純にすばらしいし、できれば残したい、
と考えるのもおかしなことではない
しかし同時に、単純な経済原理から言えば、生産性が低
い棚田は淘汰されてもおかしくない
放っておけばなくなりそうなものを、敢えて残そうとす
るための手段として、そのものに「別な価値」を付与す
るやり方がある


たとえば「観光資源」にして観光客を呼び込もうとする
「日本人の心のふるさと」などと位置づけて、「わたしたち皆で
守るべきもの」としての意味づけを明確にする……姨捨の棚田は
1999年に国指定の文化財のひとつである「名勝」に選ばれた
8・文化の文脈化
2012/11/09 - [5]
[前回]映像資料「桜紀行」(後半)


先祖の代から受け継いできたさくらの大樹を持つ地域の
ひとびとが、観光客に振り回されている、というだけの
話ではない
さくらを「祭り」や「伝統文化」に置き換えてみると、
現在の地域社会が置かれている深刻な状況を理解するこ
とができる



もともと自分たちの先祖が自分たちのものとして守り、受け継い
できた、日々の生活に密着した存在であったはず
ところがそこに、観光客や役場のひとなどの外部からの働きか
け・干渉が加えられ始めている……地域のひとびとを無視した勝
手な・容赦ないふるまい
しかし過疎化・産業の停滞に悩む地域のひとびとは、その外部を
事実上拒めず、受け身の立場に立たされつつある
8・文化の文脈化
2012/11/09 - [6]
[前回]伝統を守るための犠牲

外部からの観光客は、伝統を守るために手を貸そうとし
て訪れているのではなく、純粋な消費・余暇活動として
そこに来て帰っていくだけ


だからごみはそのへんに捨てて顧みないし、畑を踏み荒らしても
自分の写真が撮れさえすればいいし、駐車場がないと文句は言う
し、気に入らなければ二度と来なくなる
しかし、地元はそれから逃げるわけにはいかない


わがままで移り気な観光客に対応していたらキリはないし、対応
しなければジリ貧になる
もはや有効な産業を失っている地域は、伝統を守るためにどんな
に大きな犠牲を伴うとしても、どんなに気が進まなくても・先に
あるものがなにかわかっていても、観光に頼るしかない
8・文化の文脈化
2012/11/09 - [7]
なにげない文化・意識される文化

ごく自然に、それと意識もされず、ひとびとが共有する
文化というものもある



「なにげない」文化
たとえば、水窪で最年長の夫婦が、玄関先でわらじを編んだりし
ていた光景など
一方で、「これが《文化》なのだ」と、明確に意識され
る文化というものもある


「その意味について意識される」文化
たとえば、「棚田は日本人の心のふるさと・原風景である」とい
う考え方など
8・文化の文脈化
2012/11/09 - [8]
文脈化 contextualization




con(一緒にする)+text(テクスト≒意味・考え)
「あるもの」を、別の「意味・考え」と結びつけること
を「文脈化 contextualization」と呼ぶ
たとえば「棚田」を、単純に耕し稲を作る対象としてみ
るのではなく、「日本人の原風景」という意味・考えと
結びつけることが「棚田という文化の《文脈化》」
ほんとうは、「棚田」=「先祖から代々受け継いできた
もの」という意味づけ、つまり文脈化はずっと行なわれ
てきたので、「棚田」=「日本人の原風景」というのは
再文脈化ということになる
8・文化の文脈化
2012/11/09 - [9]
文化と(再)文脈化


文化が観光資源化する現象は、文化の再文脈化現象とと
らえることができる
注目すべきは、そこで文化にどんなtextが結びつけられ
ているのか、という点である




日本人の心のふるさと
国指定の名勝
代々受け継がれてきた大切な文化
なんとかして残していきたい遺産
などなど。
8・文化の文脈化
2012/11/09 - [10]
授業内課題

おせちについて、尋ねます。インプレッション・ペーパ
ーとは別に配る用紙に書いて下さい。
1.
2.
3.
4.
みなさんが「自分で」作ることができ、また作ろうと思うおせ
ち料理には、どんなものがありますか? レシピサイトは使っ
てかまいません(いまケータイ・スマホで検索しても可)。
自分で作ったり、パーツとして買ってきたりして、「はい、こ
れが私のおせちです」という盛りつけ例を、簡単に図にして下
さい。重箱に入れても入れなくてもかまいません。
みなさんの親・祖父母が「自分で」作っているおせち料理で、
自分自身はその作り方をちゃんと教わっているものはなんです
か? 逆に、そういうもので教わっていないものはなんです
か?
これから自分の子ども世代に対して、どんなおせちを教えよう
と思いますか?