6・変化する文化を「守る」

6・変化する文化を「守る」
2010.10.20. 成蹊・文化人類学Ⅱ
6・変化する文化を「守る」
2010/10/20 - [2]
自給自足生活とその崩壊
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自給自足の生活とはどんなものだろうか?
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100%の自給自足は、原始人まで遡らなければいけない
参考資料:前回映像資料5「水窪」
つまるところ、自分の食べるものを作るために、ほとんどすべて
の労働と時間を費やすのが自給自足型生活……cf. 前期の最初に見
た民族誌フィルムの各民族の暮らし
自給自足を崩す要因はなんだろうか?
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大きなインパクトの一つは、明治初年の地租改正によって起こる
貨幣経済の浸透=1890-1900年代の社会変化
もう一つは「便利さ/効率性」への欲求=余暇の追求……cf. 囲炉
裏に対する価値観の変化=1950-60年代の社会変化
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大量消費
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大量消費型生活の特徴はなんだろうか?
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「手間暇かけて自分でやる」から「できあいのものを買って済ま
せる」へ →余暇を得るために働く
メディアの浸透によって、全国どこでも同じようなものを欲しが
り、流通の発達によって、またそれが手に入れられるようになっ
た →画一化の進行(概ね1980年代に完成)
一方で、失われたものを惜しむ気持ちが芽生え始める →ノスタ
ルジア
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前回授業内課題
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映像資料5「ふるさとの伝承15・水窪」をもとに次の4点
について考え、インプレッションペーパーに書きなさい。
1.
2.
3.
4.
通常わたしたちであれば「買って済ませる・捨ててしまう」よ
うなものを「自給自足する=自分で作ったり工夫したりリサイ
クルしたりする」ものがたくさん出てきます。どういうものが
そうか、映像を見ながら気づく限りリストアップしてください。
逆に、「これはどこかで買ったものだ」と思われるものは、ど
んなものでしょう? やはりリストアップしてください。
この映像にでてくるひとびとにとって、生活の中のどういう点
が「喜び・楽しみ」だろうと推測できますか?
いまの自分だったら、この映像のような村で、この映像に登場
するようなひとびとと一緒に同じような生活をするとして、ど
れくらいの期間生活をともにできる気がしますか? 1日? 1
週間? 3ヶ月? 一生? また季節にも拠る?
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変化する文化を「守る」(1)
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映像資料5でみられたのは、ある意味典型的な「古くか
らの日本の農業風景」
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自給自足度が比較的に高い
ものを大事にして暮らしている
山の神・ハタの神・カナヤマサマなどさまざまな神様に祈り、月
見や成木責めといった行事をていねいに行なう
先祖代々の土地を受け継ぎ、自分もそこに骨を埋めるつもりで生
きている
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「あなたにもそれができますか?」と訊かれて、せいぜ
い1日ないし1週間、と答えたひとが多かった
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では「こうした映像にみられる〈文化〉は、変えずに残
して守ってゆくべきか?」と訊かれたら?
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変化する文化を「守る」(2)
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前回・前々回の講義で確認したのは、物質文化であれ精
神文化であれ、「文化は変化する」ということだった
おそらく日本全国に広がっていたであろう「映像資料4
のような暮らし(自給自足生活)」は、大量消費生活へ
の移行が雪崩をうって起こった1950-60年代以降、変化
し消えゆこうとしていることは確かである
この事実をまえにして、少なからぬひとびとは「それは
惜しいことだ、なんとかして守らなくては」という気分
にさせられる
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伝統的な暮らしが消え去ることは、ちょうどトキが絶滅するよう
なもので、かけがえのないものをなくしてしまうことになるので
はないか?
6・変化する文化を「守る」
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変化する文化を「守る」(3)
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では、いったい「だれが」守る役をするのだろうか?
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現状を冷静に分析すれば、従事者比率が激減し、かつ、急激に高
齢化がすすむ「農業従事者」がそれを守らざるを得ない
そもそもキツイうえにもうからない農業に従事するひとびとに、
さらに「文化を守る役割まで負わせる」ことは問題ではないだろ
うか?
なんのために「守る」のだろうか? どんな犠牲を払わ
なければならないのだろうか?
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映像資料6「姨捨の棚田」
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棚田の「美しい風景」とその背後にある「ひとびとの地
道な営み」は、単純にすばらしいし、できれば残したい、
と考えるのもおかしなことではない
しかし同時に、単純な経済原理から言えば、生産性が低
い棚田は淘汰されてもおかしくない
放っておけばなくなりそうなものを、敢えて残そうとす
るための手段として、そのものに「別な価値」を付与す
るやり方がある
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たとえば「観光資源」にして観光客を呼び込もうとする
あるいは「大事な文化財」として選び上げ、「守るべきもの」と
しての意味づけを明確にする……姨捨の棚田は1999年に国指定の
文化財のひとつである「名勝」に選ばれた
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映像資料7「桜紀行」(後半)
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先祖の代から受け継いできたさくらの大樹を持つ地域の
ひとびとが、観光客に振り回されている、というだけの
話ではない
さくらを「祭り」や「伝統文化」に置き換えてみると、
現在の地域社会が置かれている深刻な状況を理解するこ
とができる
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もともと自分たちの先祖が自分たちのものとして守り、受け継い
できた、日々の生活に密着した存在であったはず
ところがそこに、観光客や役場のひとなどの外部からの働きか
け・干渉が加えられ始めている……地域のひとびとを無視した勝
手な・容赦ないふるまい
しかし過疎化・産業の停滞に悩む地域のひとびとは、その外部を
事実上拒めず、受け身の立場に立たされつつある
6・変化する文化を「守る」
2010/10/20 - [10]
伝統を守るための犠牲
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外部からの観光客は、伝統を守るために手を貸そうとし
て訪れているのではなく、純粋な消費・余暇活動として
そこに来て帰っていくだけ
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だからごみはそのへんに捨てて顧みないし、畑を踏み荒らしても
自分の写真が撮れさえすればいいし、駐車場がないと文句は言う
し、気に入らなければ二度と来なくなる
しかし、地元はそれから逃げるわけにはいかない
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わがままで移り気な観光客に対応していたらキリはないし、対応
しなければジリ貧になる
もはや有効な産業を失っている地域は、伝統を守るためにどんな
に大きな犠牲を伴うとしても、どんなに気が進まなくても・先に
あるものがなにかわかっていても、観光に頼るしかない