5・変化する文化を守る 2011.10.26. 成蹊・文化人類学Ⅱ 5・変化する文化を守る 2011/10/26 - [2] [再確認]1950-60年代の変化 日本史では1868年・1945年が日本の政治制度の大変革 期として挙げられるが、ふつうのひとびとの生活に注目 すると、1890-1900年代と、1950-60年代が大きな変 化の時代にあたるといえる 1890-1900年代は、国民国家を支える諸制度(学校教育、 新聞/郵便メディア、鉄道交通、地方制度、軍事制度な ど)がほぼ国の隅々まで行き渡った時期 1950-60年代は、生活の自給自足的な部分の比率と購買 消費的な部分の比率が逆転し、大量生産・大量消費型社 会へと転換した時期 5・変化する文化を守る 自給自足と大量消費 2011/10/26 - [3] 5・変化する文化を守る 2011/10/26 - [4] 自給自足生活とその崩壊 自給自足の生活とはどんなものだろうか? 100%の自給自足は、原始人まで遡らなければいけない 参考資料:映像資料「水窪」 つまるところ、自分の食べるものを作るために、ほとんどすべて の労働と時間を費やすのが自給自足型生活……cf. 前期の最初に見 た民族誌フィルムの各民族の暮らし 自給自足を崩す要因はなんだろうか? 大きなインパクトの一つは、明治初年の地租改正によって起こる 貨幣経済の浸透=1890-1900年代の社会変化 もう一つは「便利さ/効率性」への欲求=余暇の追求……cf. 囲炉 裏に対する価値観の変化=1950-60年代の社会変化 5・変化する文化を守る 2011/10/26 - [5] 大量消費とは? 大量消費型生活の特徴はなんだろうか? 「手間暇かけても、お金をかけず自分でやる」から「できあいの ものを買って済ませ、時間を浮かせる=余暇を作り出す」へ 余暇を得るために働く、もしくは、あくせく働かないために働く cf. 自分たちの生活で必要となるものを自分たちで作るために、ほ とんどすべての労働と時間を費やすのが自給自足型生活 さらにメディアの浸透によって、全国どこでも同じようなものを 欲しがり、流通の発達によって、またそれが手に入れられるよう になった →画一化の進行(概ね1980年ごろに完成) 5・変化する文化を守る 2011/10/26 - [6] 授業内課題 映像資料「ふるさとの伝承15・水窪」をもとに次の4点 について考え、インプレッションペーパーに書きなさい。 1. 2. 3. 4. 通常わたしたちであれば「買って済ませる・捨ててしまう」よ うなものを「自給自足する=自分で作ったり工夫したりリサイ クルしたりする」ものがたくさん出てきます。どういうものが そうか、映像を見ながら気づく限りリストアップしてください。 逆に、「これはどこかで買ったものだ」と思われるものは、ど んなものでしょう? やはりリストアップしてください。 この映像にでてくるひとびとにとって、生活の中のどういう点 が「喜び・楽しみ」だろうと推測できますか? いまの自分だったら、この映像のような村で、この映像に登場 するようなひとびとと一緒に同じような生活をするとして、ど れくらいの期間生活をともにできる気がしますか? 1日? 1 週間? 3ヶ月? 一生? また季節にも拠る? 5・変化する文化を守る 2011/10/26 - [7] 変化する文化を「守る」(1) 映像資料でみられたのは、ある意味典型的な「古くから の日本の農業風景」 自給自足度が比較的に高い ものを大事にして暮らしている 山の神・ハタの神・カナヤマサマなどさまざまな神様に祈り、月 見や成木責めといった行事をていねいに行なう 先祖代々の土地を受け継ぎ、自分もそこに骨を埋めるつもりで生 きている 「あなたにもそれができますか?」と訊かれて、せいぜ い1日ないし1週間、と答えるひとは多分多いだろう では「こうした映像にみられる〈文化〉は、変えずに残 して守ってゆくべきか?」と訊かれたら? 5・変化する文化を守る 2011/10/26 - [8] 変化する文化を「守る」(2) 前回までの講義で確認したのは、物質文化であれ精神文 化であれ、「文化は変化する」ということだった おそらく日本全国に広がっていたであろう「水窪のよう な暮らし(自給自足生活)」は、大量消費生活への移行 が雪崩をうって起こった1950-60年代以降、変化し消え ゆこうとしていることは確かである この事実をまえにして、少なからぬひとびとは「それは 惜しいことだ、なんとかして守らなくては」という気分 にさせられる 伝統的な暮らしが消え去ることは、ちょうどトキが絶滅するよう なもので、かけがえのないものをなくしてしまうことになるので はないか? 5・変化する文化を守る 2011/10/26 - [9] 変化する文化を「守る」(3) では、いったい「だれが」守る役をするのだろうか? 現状を冷静に分析すれば、従事者比率が激減し、かつ、急激に高 齢化がすすむ「農業従事者」がそれを守らざるを得ない そもそもキツイうえにもうからない農業に従事するひとびとに、 さらに「文化を守る役割まで負わせる」ことは問題ではないだろ うか? なんのために「守る」のだろうか? どんな犠牲を払わ なければならないのだろうか?
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