ソーシャルワーク実践研究概論 一般社団法人岐阜県社会福祉士会 会長 宮嶋 淳 博士(ソーシャルワーク) 実践研究の学びのポイント 1. 2. 3. 4. 実践事例を通して、実践理論を学ぶ。 記録の方法を習得し、言語化の意義を学ぶ。 実践を検証する事例研究法を学ぶ。 効果的な実践評価法を学ぶ。 5. 実践研究を客観化するスーパービジョン 6. ソーシャルワーク実践の調査研究法を学ぶ。 7. 成果のまとめ方、発表の仕方を学ぶ。 これからの実践に求められること 1. 専門性を明らかにする • どのような理論に基づく知識・技術・姿勢による 利用者並びに地域支援であるのかを説明する 2. 活用されている理論の有効性を蓄積し、他 の専門職と共有化する • エビデンス・ベースド・プラクティスの蓄積 3. 実践知(経験知)と理論知の乖離の克服 • 社会が求める「実践力のある社会福祉士」へ 実践研究の視点と方法 1. 視 点 • • ・・・EBPによる、以下の実践 利用者へのインフォームド・コンセント 社会へのアカウンタビリティ 2. 方 法 – 実践的課題への最適な対応が不可欠 – 最適なサービス提供のための質的向上 そのために – 研究の場や研究者との連携を行い、 – サービス提供の担い手(専門職)の力量向上に資する 研修等を受講する 実践研究とは何か 日本社会福祉士会の定義 理論の具現化としての社会福祉実践の担い手である社会 福祉専門職が、自らの実践に学ぶことを前提として、言語化 することを通して実践課題を明らかにし、日々のその実践を 客観的に検証し、課題解決に臨み、知見を積み上げるなか で専門的知識と実践方法の統合と普遍化をめざす一連の又 は循環する取り組みである。 * 如何に「利用者のニーズ」に即して、根拠のある適切な「実 践」が提供できたのか、を研究すること 社会福祉士の力量形成と実践研究 社会的 ⇒ 問題の生起 ←実践= 知識や技術・価値を用いて行為・行動する 要 因 ↓ ←どのように活用するのか、どのような方法で対応するのか 思 考 ↓ ←得られるべき成果(目標・ねらい・到達点)は何か 検 証 ↓ ←如何にそれを測定し、評価するのか 蓄積・形成 ↓ 再 実 践 ←そこにどのような法則性(一般性、普遍性)があるのか 社会福祉士にとっての実践研究の意義は、 実践力の向上 である。 1. 自分の実践は、客観的だろうか。 • どのような尺度に基づいて客観的か。 • • • ソーシャルワーカーの倫理綱領≒価値と原則 国際標準≒IFSWの標準的実践ガイドライン データに基づく 2. 客観性をどのように他者に伝えているのか。 • 客観的であることの意味づけができているか。 • • • 最適性 公平性 妥当性 実践研究の方法と関係性 1. 活動の記録 • 2. 3. 4. 5. 6. メモ→記録→明確化→精緻化→理論化 事例検討・研究の方法 評価の方法 スーパービジョンの方法 調査の方法 発表の方法 * これらの循環で「理論と実践」相互の向上をめざし、 実践を「共有できる形」にする 「実践の言語化」の方法 • • • • • • 記録化 事例化 プロセス・レポート 研究レポート ・・・資料、調査報告、実践記録、研究ノート 口述発表 論文 * 実践研究は、システムである。 ソーシャルワークは、価値・理論・実践が相互に 関連しあうシステムである(IFSW) 記録はどう活かされるのか • 専門職としてのアカウンタビリティ – 学生であれば、実習中に「何ができたのか」「残さ れた課題は何か」を説明し、点検・評価する • 記録の用途 – 専門的援助契約の締結 – 同上 の継続性の確保 – 所属機関・組織のサービスの質の「証明書」 – スーパービジョンの素材 SWr=反省的実践者 • 反省≒行為の中の省察(ふりかえり) ≒状況と行為とを考慮した対話 • 研究に基づいた理論と技術の使用を意識しているときでも、有能な実践家は暗黙 の認知と判断、そして熟練した振る舞いに依存している。 • 現在では、「暗黙知」を脱皮する必要がある。 • 実践行為の中で、瞬時に形成された理解や意味を問い、実践行為の構造 や問題を捉える自らの「枠組み」を発見する • 自己覚知 (自身の「癖」「傾向」、得意・苦手なこと、自身の認識の仕方を把握する) 先達の英知 • 坪上 宏: 自己覚知は、それまで気づかなかった 自身の姿に気づくことであり、その由来に気づくこと である。その為には、自分自身を対象化して眺めて みることを必要とする。そして記録化とは対象化に 他ならないので自己対象化の方法の1つが、自らの 実践の記録化であるということになってくる。そこで は第1に記録すること自体を通して、自分自身であ る程度まで自己覚知に至りうるだろうし、第2に、記 録化したものを媒介に、他者の目を通して更に自己 覚知に至ることが可能であろう。 先達の英知 • 小林良二: 実践研究とは、自らの実践を理論化 する試みである。 社会福祉の現場で「研究」が必 要であるとされる場合、自分のためであれ、部下の 指導のためであれ、組織の将来のためであれ、現 場における経験やデータの収集だけでなく、それら をある観点から整理して一般化し、課題の意義を問 い直すことが求められており、そのためには、毎日 の「実務」から距離をとり、体系的・理論的な考察を 行うことで、その「意味」を明確にするということが求 められている。 先達の英知 • 根本博司: 社会福祉実践に関する研究における、質的データの収集 による事例研究法を推奨。 「事例」とは、実践を記録化し、文章化した研究資料のこと。 • 現場で働くソーシャルワーカーは、ある特定の理論モデルを 現場に適応して活用した結果、どのような効果が合ったのか を整理する演繹的方法、とともに現場実践の中から蓄積した データから、普遍性を明らかにして理論を形成する機能的方 法を展開できる強みもある。 実践記録に盛り込むべき8条件 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. ワーカーは問題状況をどのように捉えたか 相手にそれをどのように伝えたか 伝えられたことを相手はどう捉えたか その捉え方とそれに基づく相手の動きを、ワー カーはどう捉えて次の段階に進もうとしたか 実践者に記録化を促す問題意識 所属機関・職員との都合 社会・制度・医療等状況と所属機関・職員との 関係 ソーシャルワーク、社会福祉に関する、理論に ついての自覚 記録化する3状況 • 小状況: 生活の主体(クライエント)と援助実践の 主体(ワーカー)とに関する状況 ミクロ • 中状況: 小状況の背景となるものであり、小状 況の展開する病院や施設など、運営の主体に関す る状況。身近な地域の状況 メゾ • 大状況: 中状況の背景となる地方公共団体や 国など、政策の主体に関する状況。援助に関する制 度のあり方などを通して捉えることが可能 マクロ 良い記録をとるための留意点 観察する技術 →感受性や直感に磨きをかける。「ソーシャルワーカー感覚」 →利用者の多様な側面を観察 →関与しながらの観察を行う →援助対象となる人を「生活者」と見る 情報収集する技術 →主観的情報と客観的情報を区分して盛り込む →「情報収集」と「利用者の気持ちの理解」のバランス 文章を書く技術 →何回も読み直し、推敲する。「一読明快」 実践研究 と SV 共通点と相違点 • 日本社会福祉士会の「スーパービジョン研究」における、 スーパービジョンの要点は、「視点の獲得」である。バイザー のスーパービジョンによって、バイジーが新たな視点を獲得 し、自己覚知することに焦点があてられている。 • 日本社会福祉士会のスーパービジョンという実践の研究は、 バイジーが新たな視点を獲得するという「変化(成長)」を、バ イザーが促せたかどうか、に焦点が当たる。 • 実践研究 と スーパービジョン研究 は、 実践対象が異なることになる。 実践をどう研究(論文)に落とし込む のか(発展させるのか) • こういう条件・状態のもとで、こうしたら、こう なった。=実践 • 「こういう条件・状態のもとで、こうしたら、こう なる。」という見込みに対して、 専門的な見地から「見込み違い(の可能 性)」を指摘し、部分的あるいは全般的に 修正させる=SV 事例を書き留めるために必要なこと • 概要とは何か • 5W1H(定点的記述)+時間の経過の記録 • 的確な記録とは、どのような状態か・・・時系 列、逐語録、文脈(コンテキスト)、意味 • バックグラウンド、ライフ・ヒストリー、ナラティブ • 的確な記録では、記録者による「価値づけ (断定・憶測・推論)」を排除する 実践研究上の記録の展開(例) 実践対象 ↓ 見立て(アセスメント) ↓ ニーズ(求められていること:仮説) ↓ 「適切だ」と考えられるアプローチの選択(←この選択にも「根拠」が必要) ↓ 基準点(起点≒変数)を明らかにする。 ↓ 介入(アプローチ)する ↓ 実践対象の変化 ↓ 対象のニーズを満たすことができた≒選択したアプローチが適切であった 実践上の仮説・・精度を上げていく • 利用者は「○○ニーズ」を充たしたい(解消したい)≒仮説 • 実践者は「ニーズ」を充たすために、選択した「△△アプロー チ」を用いた。 ↓ • 利用者の「○○ニーズ」を充たすために、実践者が「△△ア プローチ」を用いることが有効である。(有効であった。) ≒実践者が想定した仮説は正しかった。 ↓ • ここでいう「アプローチ」とは、医療でいえば「治療法」のこと。 • つまり、「治療法」にも適応があるように、「アプローチ」にも標 準化された適応がある。 なければ明らかにしていく必要がある。 SW実践研究自己チェックシート(案) 1. フェイスシート 2. チェック項目 3. 研究方法チェックリスト 事例を用いた研究例~児相のワーカー • 東海北陸ブロック社会福祉実習教育研究協議会(2012)『ソーシャ ルワーク・スキルの言語化 事例に学ぶソー シャルワーカーのスキル』より 参考文献 : ワークシート含 • 日本社会福祉士会(2013)『社会福祉士のスーパー ビジョン体制の確立等に関する調査研究事業報告 書』 • 東海北陸ブロック社会福祉実習教育研究協議会 (2012)『事例に学ぶソーシャルワーカーのスキル』 • ソーシャルワーク研究所監修(2010)『ソーシャル ワークの研究方法』相川書房 • 日本社会福祉士会編(2010)『新社会福祉援助の共 通基盤(下)第2版』中央法規 • 社会福祉士養成講座編集委員会編(2009)『社会 調査の基礎第2版』中央法規 • 平山尚ほか(2003)『ソーシャルワーカーのための 社会福祉調査法』ミネルヴァ書房 • 佐藤郁哉(1992)『フィールドワーク』新曜社
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