JACSES「持続可能な開発」のための「国際資金」シリー

JACSES「持続可能な開発」のための「国際資金」シリーズ
『国際協力資金<ODA>と貧困削減・平和構築』
平和構築に求められる原則と
その限界
広島大学平和科学研究センター
篠田英朗
「平和構築(peace-building)」の概念
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
国連での定着
- ブトロス=ガリ『平和への課題』(1992)
- 『ブラヒミ・レポート』(2000)
- 事務局を中心とする実務層による使用
カナダなどの諸国による使用
- アメリカ政府内では未定着
研究者層での普及
定義
「紛争の再発を避けるために平和を強化し堅固にす
る構造を見つけ、支えるための活動」(ガリ)
- 「紛争後」、「社会・経済」、「非平和専門機関」
 「単なる戦争の欠如以上の平和の基盤を再確立する
ための道具を提供する諸活動」(ブラヒミ・レポート)
- 時間軸、問題領域、連携機関に関して包括的
 「紛争の勃(再)発を防いで永続的な平和を作り出す
活動」(篠田)
*狭義の「紛争後平和構築」と広義の「平和構築」

⇒
曖昧
現実の要請
• 拡大する「国際平和活動」の説明
- 平和「維持」活動ミッションの質量の拡大
- 「第二世代」PKO、「複合的」PKO
- 暫定統治の例
• 経済・社会的機関の再位置付け、活用
• 国連、地域組織、軍事組織などの連携
• NGOの再位置付け、活用
なぜ必要になったのか
 頻発する地域紛争
 冷戦後の時代の国際的コンセンサス
⇒紛争問題を解決するためには、その
背景にある構造的な政治、経済、社
会的要因に対応しなければならず、
包括的なアプローチが求められると
いう認識
平和構築活動の実際
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政治・・・行政機構の支援、民主化支援
法・・・国家制度・法体系整備、司法機関支援
経済・・・インフラ整備、雇用創出
社会・・・生活水準の拡充、草の根支援
文化・・・和解促進、人権規範の普及
⇒包括的視点と、個別的事情に応じた視点
平和構築の性質
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多様な活動を「平和の構築」という目的に応じ
て体系的に位置づける
「平和の構築」は本質的に政治的な意味を
持っており、平和構築は非政治的活動に政
治的な意味を帯びさせる
しかしその「政治化」は、あくまでも「平和の構
築」という目的にしたがった政治化であり、し
かも他の目的とのバランスが必要
平和構築に求められる原則
• 政治化の不可避性の認識
=明確な目的意識
• 望ましい適切な政治化
=多様な組織の機能・目的と
現地社会の実情を十分に把握し
た上でのバランス感覚
平和構築の限界
• 包括的アプローチが必要とされるが、全体を
統括することは困難
• 政治化が不可避であるが、政治状況を変え
るのは紛争当事者のみに可能
• バランスのとれた政治化が必要だが、実際に
は錯綜する利益・原則・目的を円滑に調整す
ることは困難
• 現地の実情を把握することが不可欠だが、究
極的には外部アクターが永続的な平和を作
ることはできない
日本政府(外務省)の平和構築への関心
紛争問題に対応することが世界大の問題関
心を持つ国であることを示すために必要
 紛争問題に無関心であることは、日本の開発
援助への内外の批判につながりかねない
 紛争問題などの安全保障分野での取り組み
は、常任理事国入りへのアピールになる
 平和構築という問題領域は、「平和執行」、
「平和維持」などと比べて日本の相対的優位
を示しやすい
 別に「人間の安全保障」でも良い

日本が持つツール
自衛隊・・・国際的な活動の拡張目指す。ただ
し政治的・法的・組織的現状としては、国際的
に先進的であることは望めない。
 文民警察・・・政府は拡充望むが、地方自治
体は懐疑的。部隊展開は不可能。
 国際機関やNGOなどへの人的・資金的援助
 二国間関係での支援の拡充
⇒ 既存のODAの「戦略的」活用

日本がODAを活用する領域
DDR(Disarmament, Demobilization,
Reintegration)
 一般的な意味での、紛争(後)地域での人道
的支援、インフラ整備、雇用創出
 紛争地域への資金投入による和平誘引?

*「戦略的」とは日本外交における「戦略性」で
ある次元にとどまっており、平和構築の戦略
性は見えない
日本がODAを活用していない領域
(他国が取り組んでいる領域)
=政治・治安維持部門
 警察機構改革・支援
 国軍改革・支援
 司法改革・支援
 民主化改革・支援
 人権擁護活動支援
全体的特徴
*「政治化」の不可避性の認識は薄い。バ
ランスのとれた「政治化」の模索ではなく、
政治色を回避した「平和構築」政策の整
理
=既存のODAに新しい標題あるいは説
明文を挿入した「作文」上の問題ではな
いかとの印象を与える
危惧すべき点
 外交的な動機による安易な「戦略的」な
資源投入の恐れ
例:日米同盟維持のためのアフガン、
イラクへの「平和構築」支援
 平和構築それ自体の戦略を発展させる
問題関心の希薄さ
 政策立案能力を持つ専門家集団を育て
る社会的環境の欠如